●日本玩具博物館館長室から(過去の記録ページ)


NO37
『ちりめん細工』、2冊の本が出版されました          (2008年12月27日 井上 重義)


 今年も後数日になり、当館も明日28日から1月2日まで休館いたします。
 「学芸室からNo65」の『クリスマス2008』でも尾崎学芸員が書いていますが、特別展の「世界のクリスマス展」には毎日大勢がご来館下さいました。屋外は冬枯れの寒々とした気配が漂うのに館内は来館者の歓声や感動で暖かく、木造の建物もそんな雰囲気に合って、「心が癒されます」と喜ばれます。6号館前の休憩室に「来館者感想ノート」を置いていますが、そこには来館者の感動の言葉が記されています。

 
 『今日は孫と一緒に来ましたが、私も孫もそれぞれ楽しい時間を与えられたこと、感謝しています。子供たちを連れて来てから、早、32〜3年が経ち、この博物館がこんなに大きな働きをされるとは思いもよらないことでした。孫の感想ではまた来たいとのこと、春にも来ようと話しております。有難うございました。大阪市より』
 『非常に充実したレベルの高い展示に驚きました。本の読み聞かせも子供にとって良い取り組みですね。またときどき、足を運びたいと思います。』
 『館全体が日本が失いかけた何かを感じることができます。6号館から入り口の景色を見たところなんかは1枚の絵のようで良かったです。』

 そんな文章を読むと、博物館を造ってよかったと充足感で胸がいっぱいになります。


 さて前回の館長室から(36)でもお知らせしましたが、『ちりめん細工』の2冊の本が出版されました。発行日は、『ちりめん細工 お手玉とお祝物』日本ヴォーグ社刊が1月7日、『江戸・明治のちりめん細工』雄鷄社刊が1月1日ですが、いずれも既に書店に並んでおり、売れ行きも順調と聞きました。とりわけ『江戸・明治のちりめん細工』は当館が30年かけて収集した資料を集大成した本であり、当館の仕事を大勢の皆さまに知っていただく機会にもなると思います。
 この本のあとがきにも書きましたが、、これらの資料は当館が集めていなければ、その多くが価値評価されることもなく、散逸し消えていたでしょう。
 博物館本来の使命は、そんな消えゆく資料を収集し、展示を通して評価を高めるとともに後世に伝えることにある筈です。『江戸・明治のちりめん細工』の出版は、博物館が本来果たすべき使命を実践したとして高く評価されるのではないでしょうか。
 さらに特筆されるのは、このコレクション集が博物館の自費出版でなく、出版社から刊行された点です。全国の本屋で販売され、手芸書コーナーの他にこの本は美術書コーナーにも並べられますので、日本女性の手の技や美意識の素晴らしさを大勢の皆さまに認識いただけると思うのです。ぜひ書店で手にとってご覧ください。

 この1年も有難うございました。よき新年をお迎え下さい。来年もどうぞよろしくお願い申しあげます。



NO36
出版作業進む2冊の『ちりめん細工』の本               (2008年11月20日 井上 重義)


美男蔓の実 当館の庭もすっかり晩秋の装いにつつまれました。モミジやアメリカハナミズキが紅葉し、ノジギクや山茶花が咲き、美男蔓の実が色付きました。来館者の皆さまからは「展示もよかったけれど、庭にも心が洗われますね」と、再三嬉しいお言葉をいただきます。ドウダンツツジの紅葉
 しかし、晩秋の静かな季節とは裏腹に、いま、学芸室は熱いです。実は12月に2冊のちりめん細工の本が出版されることになり、その作業が同時進行しているからです。
 一冊は『ちりめん細工 お手玉とお祝物』(定価1500円+税)日本ヴォーグ社刊。もう1冊は『伝承の裁縫お細工物 江戸・明治のちりめん細工』(定価2800円+税)雄鷄社刊です。
 この12月13日から来春の3月8日まで、北九州の小倉城庭園で当館出品協力による『ちりめん細工・春の寿ぎ展』が開催されますので、それに出版が間に合うよう編集作業が急ピッチで進み、最終段階を迎えました。
 『お手玉とお祝飾り』は私の担当で、花のお手玉や達磨のお手玉、それに7人の小人のお手玉と、お正月、雛祭り、端午の節句、七五三詣でに因んだ作品など、「四季折々、作って楽しく、贈って喜ばれる」をコンセプトに、楽しいちりめん細工の数々をまとめました。
撮影風景 『伝承の裁縫お細工物 江戸・明治のちりめん細工』は尾崎学芸員が担当し、当館がこれまでに収蔵した江戸期と明治期のちりめん細工の中から代表的な作品を選び、彼女の解説でまとめたものです。約200ページ・総カラーの豪華本です。東京から雄鷄社編集担当者と共に山本正樹カメラマンが来館され、3日間に亘り撮影された写真は格調高く美しいです。写真に付けられた解説文も分かりやすくすばらしいです。ちりめん細工の愛好家だけでなく、日本文化に関心を持たれる大勢の皆さまからも、日本女性の美意識や優れた手の技を知る貴重な文献として喜ばれると考えています。というのも、これまでアメリカやヨーロッパのパッチワークキルトや韓国のポジャギ等、海外の資料が脚光を浴びるのに対し、国内の資料が一冊の本に纏められ、脚光を浴びることがなかったからです。
 忘れられ消えゆくものを後世にと、30年かけて集めた資料がいま、光り輝こうとしています。大勢の皆様に感動を与え、大きな反響を呼ぶと確信しています。まもなく出版される2冊の本に、どうぞご期待下さい。




NO35
世界のクリスマスマーケット展から                   (2008年10月28日 井上 重義)

 去る25日から恒例の特別展「世界のクリスマス」が始りました。今年のテーマはクリスマスマーケット。来館者の皆さまは会
ボヘミヤグラスのオーナメント(チェコ)
ボヘミヤグラスのオーナメント(チェコ)
場に入られると、「ワー。すばらしい」とその雰囲気に感嘆の声をあげられ、一足早いクリスマスの訪れを楽しまれています。
 この世界のクリスマス展が始ったのは今から23年前の1985年。同年夏、私は北海道教育大学故伊藤隆一教授のお誘いを受けて北欧のおもちゃ事情調査に出かけ、ヘルシンキやストックホルムのオールドタウンなどで、麦わらのオーナメントやヤギなど、クリスマス関連の作品を数多く入手しました。それまでにも中南米やヨーロッパ各地のクリスマス資料を収集していましたので、その冬に1号館で約350点の資料を展示して、「世界のクリスマス展」を開催しました。それが物珍しさもあってか大ヒットしたのです。
 翌年の冬は違った展示でしたが、大勢の皆さまから「今年も楽しみにしていたのに」とのお言葉をいただき、以来、1987年から毎年、世界のクリスマス展を開催するようになったのです。
ガラス玉に鶏の羽根・羽根で作られたツリー(ポルトガル)
ガラス玉に鶏の羽根・羽根で作られたツリー
(ポルトガル)


 心がけてきたのは資料の充実です。1994年2月、私はドイツ在住の古本清子さんの仲介でニュールンベルグ玩具博物館から招聘を受け、有名な玩具見本市やその頃はわが国では知る人もなかった旧東独領の伝統玩具の産地エルツゲビルゲを訪ね、貴重な資料を入手しました。そしてその冬。当館の開館20周年の記念行事として12月11〜20日まで、日本旅行にお世話を願い、「ドイツのクリスマスマーケットを訪ねる旅」を実施したのです。尾崎織女学芸員を団長に13名が古本さんの案内でドイツ各地のマーケットを訪れました。恐らく日本からのドイツのクリスマスを訪ねるツアーの第一歩を記録したと思います。
 私はその後、クリスマスシーズンに東欧、ポルトガル、スペインなどを訪ねました。驚いたのはポルトガルで、同国ではクリスマスマーケットが開かれていなく、有名な教会を訪ねても深閑としていました。幸いにも宿泊した古都ポルトで、商店の奥まった部屋でクリスマス商品が売られているのを知り、ガラス玉に鶏の羽根や鋼線が入った資料や羽根で作られたツリーなど、貴重な資料が入手できたのです。
素焼きの手捻りの降誕人形(メキシコ)
素焼きの手捻りの降誕人形(メキシコ)
 エジプトやブラジルの降誕人形は、当館学芸員が現地で収集したものです。

 海外ではなく、国内でも貴重な資料を幾つも入手しました。1997年に東京で国際見本市が開催され、訪れるとチェコのブースにボヘミヤグラスのオーナメントが輝いていました。聞くと処分できるとの話に最終日にスタッフが出かけて引き取りました。後に私はプラハを訪問しましたが貴重な資料であることが分かりました。メキシコで有名な人間国宝的存在の民芸作家テオドラ・ブランコ女史(1970年代当時70歳代)の素焼きの手捻りの降誕人形も国内で入手。こんなすばらしい作品が、どうして当館にと、私自身感動を覚えるのです。

 現在、当館のクリスマスコレクションは3000点。今年はクリスマスマーケットをテーマに、国内では見ることができない貴重な資料1000点が皆さまをお待ちしています。





NO34
関西文化の日について                   (2008年8月15日 井上 重義)


 「関西文化の日」は、関西2府7県内の美術館・博物館の文化施設において、11月の一定期間、入館料をを無料とするイベントです。広く美術作品や学術資料に接する機会を提供し、愛好者の増加を図り、文化が息づく関西をアピールし関西への集客を図ることを目的に平成15年度から始まりました。
 先般、当館にも趣旨を理解して参加するよう依頼がありました。しかし無料開放は当館の現状からも無理であり、その由を文書で伝えました。

 

 先般、貴機構より「関西文化の日」の参加依頼のご案内をいただきました。趣旨についてはよく理解できますが残念ながら当館は参加できません。
 理由についての最大の要因は、財政的な理由です。当館は一個人が消えゆく子供文化や女性の文化を後世に遺したいと、45年前から収集を始め、1974年に私財を注ぎ込んで博物館を設立し運営しています。経費に係わる主なる収入源は入館料です。
 現在までに国内資料5万点、海外は150ヶ国から3万点の計8万点もの資料を収集し、6棟の建物で公開しています。財団法人化には3億円が必要と分かり、また博物館は非営利の組織であることから営利法人化せずに今日まで個人経営できました。ただ個人経営ではありますが博物館相当施設として国から認定されています。公立館でも博物館類似施設が多く、個人立の館で相当施設に認定されているのは全国でも4館ほどしかありません。
 当館ほどの内容を持つ博物館は国内でも他に例がなく、来館者は全国各地から来られるまでになりました。HPで英語版も持っていますので日本語の話せない外国人もよく来館されます。そしてすばらしい博物館だと感動されます。しかしながら公的な支援や企業からの支援はなく、そのことを聞かれて話すと「日本は豊かな国ではないのか」と不思議がられるのです。
        
 関西でも博物館や美術館は民間人がその使命感から、散逸する文化遺産を後世に遺したいと、公立館に先駆けて立ち上げました。しかし、残念なのは1980年代後半から90年代にかけて、守るべき資料があるとはいえないのに自治体は巨費をかけて立派な箱物を続々と造りましたが、守るべき貴重な資料を持つ民間の館に対しての支援はありませんでした。建物は立派でもレプリカやジオラマ中心で見るべき資料がないと来館者の心が離れてゆくのは当然ではないでしょうか。全国平均で、1館あたりの入館者数はこの10年余で半減したのです。現在、博物館離れが起きている要因は、中身のない魅力のない博物館が数多く誕生したその反動でもあると考えています。
 兵庫県内でも、芦屋の滴翠美術館や篠山の丹波古陶館などは、個性的なコレクションを所蔵し関西が誇るべき文化遺産を展示する施設です。残念ながら滴翠美術館は日本博物館協会や兵庫県博物館協会からも退会されています。
 「関西文化の日」こそ、関西が誇るべき文化遺産を有する博物館や美術館を客観的に評価して広報することこそが大切なのではないのでしょうか。
 現在、公立博物館の多くが集客に躍起で大きな経費も使われていますが、肝心の資料の収集に関しては年間予算ゼロが半数、100万円以下が4分の1という現状をご存知でしょうか。
 いくら宣伝をしても、それらが期待に応えるものであり、来館者が来てよかったと感動するものでないと、再び訪れる人はいないでしょう。
 将来を見据えた文化振興を図られることを切に願っています。

 嬉しかったのは、早速に事務局の方から「趣旨はよく理解できます。声を聞かせていただきありがとうございました」と、電話が入ったことです。関西の文化が輝くには、単なる人集めでなく、関西が誇るべきコレクションを持つ博物館や美術館の情報を発信することこそが、関西の文化力を高めることに?がるのではないでしょうか。

NO33
夏休みおもちゃ作り教室                (2008年8月11日 井上 重義)


 夏休みとあって、当館も親子連れや、孫と一緒のご夫婦連れでにぎやかです。2号館の日本の伝統玩具で遊ぶコーナーや3号館の外国のおもちゃで遊ぶコーナーからは、子供たちの嬉しそうな歓声が聞こえてきます。それにこの夏は、6号館の特別展「音と遊ぶ」の会場でもアフリカとアジアと中南米の珍しい楽器を鳴らして遊べるとあって、会場からは太鼓やアンクルンなどの音色と共に子供の歓声が聞こえてきます。
サマースクールに講師として参加
 6号館前の休憩所に備え付けた感想ノートにも、「昔のおもちゃで楽しそうに遊ぶ子供の顔を見て、なんだか幸せな気分。楽しいです。」 「今日、娘と二人でここにやってきました。こわーい人形や、なつかしいおもちゃ、不思議な音がする楽器、いい体験ができました」 「おばちゃんとお母さんと妹とお腹の赤ちゃんと私とではじめて来ました。田舎のお家に来たみたいで、とても幸せな気分になりました。来年は産まれてきた子を連れてこようと思います。」 「今日、はじめてきました。むちゃ×2 オモローです」・・・と記されています。
 冷房が効いた部屋は3号館の遊びのコーナと6号館だけ。後は、決して涼しいとはいえない環境ですが、皆さん、「来てよかった」と喜んでくださいます。

 さて、恒例の夏休み面白おもちゃ作り教室ですが、申込み制と自由参加とがありますが、今年も申し込み制はどの教室も定員オーバー。今日の鯉の滝登りは希望者が多いために特別に午後の部を設け、40名もの子供たちが参加してくれました。U字型の竹の先を押さえると、紙製の鯉がスルスル上下する江戸時代に流行した楽しい仕掛けおもちゃですが、全員完成して夏休みの楽しい思い出を持ち帰ってくれました。
先生方が製作された手の動くストロー玩具

 今年も館内だけでなく、館外にも出かけておもちゃを教えています。牛乳パックの空き容器で、船尾に付けた水車の回転で進む船、糸を引くと羽根がくるくる回る風車小屋など、身近な材料で作れる楽しいおもちゃに子供たちは大喜びです。さらに8月7日には京都のウェスティン都ホテルで開催された日本幼年教育研究会のサマースクールに講師として参加。ストローで作るおもちゃや折り紙の凧、牛乳パックの独楽などを先生方に作っていただき好評でした。昨年に引き続いての参加でしたが、身近な材料で作れる伝承おもちゃの数々が、先生方の手で全国の子供たちに伝わることを願っています。
 明日は神戸新聞スキップサロンの催しで、但馬の八鹿で子供たちと風車小屋作りです。



毎年恒例の夏休みおもちゃ作り教室。
製作した「鯉の滝のぼり」玩具を手に持って記念撮影。

2008年夏休みおもちゃ作り教室


NO32
コレクションが輝くとき                (2008年7月4日 井上 重義)


 6号館への自然いっぱいの石畳の小道に、可憐な水引草の花が咲き始めました。黒い色をしたおはぐろトンボも姿を見せ、優雅に飛びかって、夏の到来を告げています。
 今年の夏の企画・特別展は、1号館では企画展『おもちゃの汽車』、6号館では特別展『音と遊ぶ』です。いずれも当館が約30年の歳月をかけて収集した世界の玩具コレクションからの出品です。『音と遊ぶ』は、去る6月21日から始まり、『おもちゃの汽車』も明日から始まります。

 6号館は会場も広く、展示数も多いので展示換えには5日間ほどかかりますが、学芸スタッフ5名が尾崎学芸員の企画構成のもと、連日夜の11時近くまで作業を続ける中身が濃い、ハードな内容でした。私の主な仕事は、展示資料を収蔵庫から運び出し、前回の展示資料を収蔵庫に運び入れる作業です。しかし収蔵庫がパンク状態で、通路にまで資料の収納箱が積み上げてあるため、まずは通路の資料を運び出す仕事から始まります。総ての資料が段ボール箱に収納してあるため、時としては目的の資料を探し出すために何時間も費やすことも再三です。それだけに目的の資料を出し終わったときの満足感は大きいです。

 当館の膨大なコレクションは、3号館と6号館2階の収蔵庫の他、展示ケースの下にも収蔵しており、ブリキの衣装缶が2段重ねでギッシリと詰まっています。世界の玩具コレクションは、4号館2階の展示ケースの下と6号館の2階です。6号館の収蔵庫(40u)は世界の玩具のほかに雛人形と五月人形も収蔵しています。世界の玩具は、クリスマス関係、音の関係、人形関係などと、各ジャンル毎に収蔵しているのですが、それだけに展示の切り口が変わると大変です。
 
 今回の展示は、どちらも世界の玩具をベースにしたものですが、展示を終えて、良くぞこれだけのものを集めることができたと感慨深いものがあります。世界の汽車のおもちゃは約30カ国から65組。現在も収集可能なものをと考えましたが、1割もあり
(上段)メキシコの土の列車
(下段)ブラジルクリチーバの日曜市で求めた列車
ません。13年前にブラジルのクリチバの日曜市で入手した汽車、廃絶したイタリア・セヴィの汽車、旧ユーゴスラビア・スペイン・タンザニアなど、どれもが手作りの温もりを持った木製の汽車ですが今となっては入手不可能です。
 「音と遊ぶ」も、世界各地のでんでん太鼓、ガラガラ、笛、ブンブンごまなどの音のするおもちゃは当館でないと見ることのできない個性的なコレクションです。先日、早速に浜松から楽器の専門家が来館され、感動して下さいました。

 資料の収集は私の大切な仕事です。評価されることなく今集めなければ失われる恐れのあるものを私なりに判断して集めてきたのが幸いにも時期を得て、今では収集不可能な膨大な資料の収集に成功しました。この10年間、わが国だけでなく世界中から手作りの民芸的なものが失われ、作り手も高齢化して後継者もなく、最後のチャンスでした。しかしいくら良質の材料があっても、それをどのように展示するかで資料が輝き、その館の評価につながると思います。当館は最新式設備の整った展示施設ではありませんが、学芸員に人を得て、資料が輝き、多くの皆さまの、感動の言葉が聞こえてきます。






NO31
全日本博物館学会第34回研究大会に参加して           (2008年6月20日 井上 重義)

紫陽花 当館の西側にある雑木林は一昨年、所有者のご好意で無償で貸していただき、駐車場として整備しました。周辺に紫陽花を植えたのが、梅雨の季節にふさわしく、咲き競っています。
 さて去る6月15日(日)、東京の明治大学駿河台校舎で全日本博物館学会の2008年度総会・第34回研究大会が開催され、フォーラム「博物館は社会のお荷物か?―博物館と文化政策―」にパネリストとして出席するよう要請があり参加しました。
 フォーラムは午後2時から3時間でしたが、午前9時30分からの研究発表に知人が発表するのを知り、それを聞くため自宅を早朝5時に出発しました。
 司会は文化環境研究所所長の高橋信裕氏、パネリストは私の他に浜口哲一(前平
塚市博物館館長)、藤野龍宏(埼玉県立歴史と民俗の博物館館長)、雪山行二(横浜美術館館長)の各氏でした。錚錚たる公立館館長と並んで、同じ館長でも、地方の個人立の館長がどのような話をすればよいのか心配でしたが、事前に「私設博物館のコレクションと地域のつながり」について話すよう連絡があり、別紙のような内容で話をしました。他のパネリストの話を聞いて痛感したのは博物館が厳しい環境下に置かれていることでした。1980〜90年代、「これからは文化の時代だ」と守るべき資料も充分ないままに自治体は競うようにハコを造りましたが、財政難になると一番に切り捨てられているのが博物館です。これでは博物館で働く人にとっても将来に明るさがみえず、わが国の博物館の未来に暗い影を落としていると思いました。何のために博物館美術館を造ったのか。本来の使命は文化遺産を収集公開し後世に伝えることにあり、それが町の品格を高め、未来への投資にも?がった筈です。
 心に残ったのは雪山館長の「博物館は本来、コレクションを充実し、いい展覧会をやること、そのために調査研究をする。
全日本博物館学会にて
それは間違っていないが、横浜美術館も指定管理者制度が導入され、収支を黒字にすることが困難で民間の企業と組んで収入増を図っている。美術館を取り巻く状況が変わり、改革や変身が迫られている」という話でした。市場主義の導入で入館者数や経済効率を追い求めることが最大の課題となり、博物館本来の使命や機能を果たすことが二次的になっている現状が、博物館の未来を暗くしているのではないでしょうか。
 出席者から私に対しての質問もあり、終了後も何人もの方から名刺をいただきました。個人立の当館が開館以来一貫して資料収集を継続し、個性的なコレクション群を形成すると共に館内外で展示活用を図り、かたくなに博物館の使命を追い求めてきたことが、こんな時代に新鮮に写ったのでしょうか。
 1号館の企画展「ちりめん細工とびん細工」はまもなく終了しますが、期間中この展覧会を見るために東北、関東、九州と全国からご来館下さいました。「来てよかった」とのお言葉も大勢から賜り、昨年のたばこと塩の博物館で当館を知り、当館のHPをお気に入りに入れているという方もご来館下さいました。博物館にとって大切なのは個性的なコレクションの構築にあり、 一朝一夕にはできない息の長い仕事ですが、それが結果として、大きく輝き始めました。



色とりどりの紫陽花が咲き競う


NO30
端午の節句飾り展                    (2008年5月1日 井上 重義)

オオデマリの花 当館を取り巻くように咲いていた遅咲きの桜も散り、新緑の季節がやってきました。みずみずしい緑の中に黄色い山吹や真っ白なオオデマリの花、地表には可憐なシャガの花が緑の風にそよいでいます。
 姫路城周辺で開催中の菓子博は予想を超える大勢の人出で、待ち時間が大変だとの声がでています。当館資料が展示されている昭和のおもちゃ館にも連日5000人を越える来場者があると聞きました。菓子博に行かれた方が当館にも来られていますが、もちろん待ち時間などはなく、みずみずしい新緑の中で存分に楽しい時間が過ごせ、「来てよかった」とのお言葉を大勢の方から頂いています。

 季節柄人気があるのが6号館で開催中の「端午の節句飾り」です。近年、3月
京人形師伊東庄五郎作の
太鼓胴型鎧櫃の甲冑飾り

(明治時代)
の女子に因む雛の展示は、町おこしとも連動して各地で盛んに開催されるようになりましたが、男子の行事である端午の節句飾りの展示は女性向ではなく、町おこしに利用するのも無理があるのか、聞いたことがありません。それだけに普段目にすることが少ない、江戸期からの武者人形や鎧兜などが数多く並ぶ当館の端午の節句飾り展は珍しい催しといえるでしょう。
 展示総数は35組ですが、点数にすれば約90点。中でも見応えがあるのが幕末から昭和初期までの13組の甲冑飾りです。甲冑飾りは現在、四角い鎧櫃(唐櫃)の上に飾られていますが、大正頃までの甲冑飾りは太鼓胴型の鎧櫃に収められ飾られました。現在では見ることができない珍しい太鼓胴型鎧櫃の甲冑飾りを今回は8組展示しています。実は私自身も10年ほど前までは太鼓胴型鎧櫃の存在に気が付きませんでした。その後、機会があれば収集してきた太鼓胴型鎧櫃が20組近くになり、太鼓胴型の鎧兜が京都や大阪でも作られていたこともわかりました。
モノが集まれば比較検討することができ、いろんなことが読み取れます。博物館にとって資料の充実は最大の課題です。これからも忘れられ行くモノを収集し、資料の充実を図り、来館者の感動を呼び起す展示を考えています。




四角い唐櫃に飾られた甲冑。手前は大木平蔵作。 大鼓胴型の鎧櫃に飾られた幕末期の甲冑



NO29
花と和の伝統美に、至福のひと時を              (2008年3月26日 井上 重義) 

花桃の蕾
花桃の蕾
 2年前の2006年3月に「花の季節を迎えて」として、当館の庭に咲く花や庭について書いたことがありますが、今年も当館の庭が一番美しい季節を迎えました。これから4月中旬にかけて、春の花たちが次々に花開きます。4号館の北の窓から見えるサクランボの花は盛りを過ぎましたが、アメリカ花水木のつぼみが膨らみました。4号館東の窓の前に広がるコブシの花も白いつぼみが膨らみ、咲き始めました。地上ではバイモ百合に紫の匂いスミレが春風に揺れています。椿の花も豪華な岩根絞り、名花とされる月光や玉の浦も咲き始めました。館の前の空き地にある数本の花桃の蕾も大きく膨らんで、いよいよ春本番の季節を迎えます。
 ちょうど特別展も1号館が「ちりめん細工とびん細工」、6号館は「御殿飾り雛」と、女性に人気のある催しです。連日のように、栃木から、静岡から、浜松からと、関東や中部、四国などの遠方からわざわざ来館になり、「来てよかった」と嬉しい言葉を残して館を後にされます。花を愛で、雛人形やちりめん細工で和の伝統美を楽しみ。心ゆくまで至福の時間が過ごせるのが当館です。皆さまのご来館をお待ちしています。
 杏子とアセビ   トサミズキ   玉の浦 
杏子とアセビ トサミズキ 玉の浦
                                             
 さて先日、嬉しいことがありました。文部科学省社会教育課地域学習活動推進室長の栗原裕司氏がご来館くださったのです。氏はライフワークとして博物館学を研究し、国内約4,000館、全米約1,600館のミュージアムを訪問されている文部科学省きっての博物館通です。私が所属する日本ミュージアム・マネージメント学会の大会(東京)で氏の講演を聴き、ぜひ一度当館をご覧いただきたいと願っていたのです。それが実現しました。神戸で兵庫県博物館協会の講演があり、そのあと今月2日に来館くださいました。早速、その見聞記をウェルエイジウーマン3月号に「決して交通の便が良いわけでもないにも関わらず、日本国中から来館者が集まる個人経営の博物館を紹介しましょう。ここには世界的にも第一級の玩具コレクションがあり、自前のコレクションだけで多種多様な企画展や特別展を開催しているため、リピーターも多いとのこと。決して派手な展示ではありませんが、ここには人を惹きつける何かがあります。」とご紹介くださいました。

 ウェルエイジウーマンhttp://www.wellage.jp/tano/event/ws/51.html ぜひご訪問下さい。





NO28
来館者に「感動を与えるふたつの特別展」
                                      (2008年2月23日 井上 重義)
   

 蝋梅に続いて、万作や椿の花が咲き、当館の庭にも春が駆け足でやってきました。
 本日から1号館では「ちりめん細工とびん細工展」が始まりました。いずれも長年に亘り築いてきた、日本女性の美意識を表現する当館が誇るコレクションの公開展です。
 びん細工は口の狭い瓶の中に大きな手まりや糸巻き、人形、ちりめん細工が入っており、どうしてこんなに大きなものが入れられたのか、誰もが不思議がられます。びん細工は現在約80点を所蔵していますが普段は収蔵しており、約8年ぶりの公開になります。
 ちりめん細工も当館での展示は2年ぶりです。昨春出版した『四季の傘飾りと雛飾り』(日本ヴォーグ社)に掲載された作品や新収蔵の古作品など450点を公開し、見ごたえのある展示になりました。1号館では通常350点ほどを展示するのですが、あれもこれもと展示するうちに総数では約500点。スタッフからも展示しすぎではとの声が上がるほど、本当に賑やかな展示になりました。一昨日から来館者にご覧頂いていますが、「素晴らしい。楽しいです」と来館者の感嘆の声が聞こえてきます。6号館の「御殿飾り雛」の会場も同様です。このような展示ができるのも、ちりめん細工は約3000点、雛人形は約500組を超える膨大な資料に裏付けられた結果です。それらを切り口を変えて展示をしていますが、資料は現在も増え続けて、初公開のものもたくさんあります。御殿飾り雛は、幕末から昭和30年代までの歴史を追った展示ですが、御殿飾りの変遷が分かると好評です。

 さて私がびん細工の手まりと出合ったのは今から40年も前です。織物の町として知られた西脇市で90歳になられる老婦人が手まりを作られていると聞いて訪ねたところ、瓶入りの手まりを作られていました。作り方を気安く教えていただき、私も手ほどきを受けて手まり入りびん細工を作りました。その秘伝を「館長室から」を訪問くださっ
図1 図2
た皆様に特別にお教えします。そのポイントは手まりの芯作りにあります。太い毛糸を丸めてまりを作るのですが、その毛糸の巻き初めを図1のように外に出してまりを作り、まりの上を薄い和紙で包み、さらに糸を巻いて下地を作ります。そのうえに色糸で模様をかがって完成させます。完成後、まりの外に出ている毛糸を引き抜くと毛糸が次々に外に出て、中が空洞になります。それを瓶の中にいれ、毛糸を抜いたまりの穴に細長い筒を差しこみ(図2)、少しずつ綿を詰めてまりを元通りに丸くします。最後にピンセットで糸を動かて穴が分からないようにして完成です。しかし糸巻きや人形などのびん細工は、どのようにして瓶の中に入れたのか。糸巻きなどは長い専用のピンセットを使って組み立てたようですが、確かなことは私自身も分かりません。
 びん細工の不思議との出合いにぜひご来館ください。




NO27
「地域文化功労者文部科学大臣表彰」祝賀会が開かれました
                                      (2008年2月11日 井上 重義)


 寒さ厳しい毎日ですが、当館の入り口の蝋梅の木に黄色の可憐な花が咲き、一足早く春の訪れを告げています。恒例の雛展も去る2日から始まりました。この連休も大勢ご来館くださり、皆さまに喜んでいただきました。今日も子どもが出口で、親に「楽しかった。また連れて来てね」と言っている姿を目にしました。私にとって、「来て良かった」といっていただけることは何よりの喜びであり、大きな励ましです。

 さて「館長室から」が、前回から2ヶ月ぶりになってしまい申し訳ありません。
 実はこの2ヶ月間、新年恒例の全国凧あげ祭り(1月6日)の開催や神戸そごうでの「私の針仕事展」(1月8日〜14日)への出品協力と大きな出来事が続きました。
 私が「地域文化功労者文部科学大臣表彰」を受賞したことは「館長室から・No25」でもお知らせしましたが、その祝賀会が先月19日に盛会裏に開催されました。二度とないことだと兵庫県歴史博物館端信行館長や大勢の皆さまが発起人になって下さり開催の運びとなりました。私もこれまでの活動や考えを知っていただくよい機会だと思い、現在、郷土玩具の会「雪だるま」の会報に連載中の原稿を纏める必要を感じて正月返上で取り組み、開催前日に『私の玩具遍歴』として42ページの小冊子が完成。皆さまにお渡しすることができました。収集を始めた頃、博物館を造った動機、郷土玩具の発掘、山陰の土人形の探求、世界の玩具と人形、ちりめん細工の復興、当館の今後について、私の考えを纏めました。
 祝賀会は姫路のキャッスルホテルで開催されましたが、兵庫県知事、姫路市副市長、姫路市市議会議長などの他、博物館
祝賀会の様子
関係者、文化人、地元経済界の皆さまなど120名もの方がお集まり下さいました。収集を始めた頃にご指導頂いた元灘高校教頭の橋本武先生も95歳という高齢をおしてご出席くださり、長崎県立博物館館長で日本ミュージアムマネージメント学会会長の大堀哲先生、東京大学大学院鈴木眞理准教授、文化環境研究所高橋信裕所長など、遠方からも多数ご出席を賜り、皆さまから示唆にとんだ身に余るお言葉をいただき、生涯忘れることのない記念すべき日になりました。
 私は24歳のときから45年間、評価されずに消えゆく子どもや女性の文化遺産を集め、光を当てる仕事に取り組んできました。幸いにも、博物館として成功したと高い評価をされるまでになりましたが、収蔵施設の問題や経営面での将来的な不安など、いくつもの課題が残されています。私もこの1月で69歳を迎えましたが、残る人生をそれら課題に取り組むことを心に誓いました。
 皆様のご指導とご支援を、今後ともどうぞよろしくお願い申しあげる次第です。








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