●日本玩具博物館学芸室から(過去の記録ページ)  

    
NO8
『世界のクリスマス物語』へのお誘い    (2005.12.11 学芸員・尾崎織女) 
 
 現在、6号館では、冬恒例の特別展『世界のクリスマス物語』を開催中です。昨年度は「クリスマスの造形」をテーマに、世界各地のキリスト降誕人形(イエスの誕生シーンを箱庭風に表現したもの)、キャンドルとキャンドルスタンド、クリスマスツリーと自然素材のオーナメント、クリスマスの贈り物配達人の4項目に分けて、造形の中に表現されるクリスマス行事の意味を探りました。本年度は、クリスマス飾りの地域的な特色をご覧いただくため、「北ヨーロッパ」「東ヨーロッパ」「南ヨーロッパ」「ドイツと中央ヨーロッパ」に、「中近東・アフリカ」「アジア・オセアニア」「北アメリカ」「中南アメリカ」を加えた構成になっています。
ジンバブエのキリスト降誕人形
ジンバブエのキリスト降誕人形

 中でも、イスラエル、エジプト、ケニア、タンザニア、カメルーン、ナイジェリア、ジンバブエ、マダガスカル、南アフリカなど、中近東やアフリカ大陸の国々で作られたキリスト降誕人形が目を引いています。土、オリーブやローズウッド、バナナの皮、きびがら、真鍮、布やガラスビーズ・・・と作られる素材も様々、各国の民芸的手法が織り込まれてそれぞれに風格があります。幼子イエスもマリアもヨゼフも三人の博士も羊飼いも、民族の色と形を身にまとって素朴ながらに厳かです。それぞれの箱庭の世界では、一つの健やかな生命が、立派なお城の中の黄金のベッドではなく、世界の片隅ともいえるつつましい場所に誕生し、裕福ではない人々と賢い人々と物言えぬ動物たちに祝福されています。それでも、小さな人形の表情には、光がその場所を照らしていることに対する喜びがあふれ、これからを生きていく希望のようなものが漂っています。
 
 ヨーロッパのクリスマスオーナメントの中から、麦わら細工や切り紙細工を取り上げ、一つ一つ手作りするワークショップも恒例となりました。また、毎年、11月から12月にかけての日曜日と祝日には、展示
展示解説会風景
中のクリスマス飾りの中から、コーナーごとに代表的な作品を取り出して、それらが誕生した背景や造形的な意味についての解説を行なっています。解説会の中で、ドイツやスウェーデンのキャンドルスタンドに点火し、オルゴールの愛らしい音色がクリスマスキャロルを奏でると、20〜30名ほどの聴講者は、小さな子どももお母さんもおじいさんも、皆、静かに澄んだ表情で、同じ一つのキャンドルの火を見つめます。―――クリスマス行事の意味について理解が深まったし、とても温かい気持ちになりました。――来館者は、それぞれの言葉でそんな嬉しい感想を残して下さいますが、皆がとり囲む穏やかな空間で展示物について話しながら、たくさんの方々と共に過ごす待降節(クリスマスを待つ時節)は、解説する私にとっても本当に幸せな季節です。
 12月18日、23日、24日、25日には、午後2時から展示解説会を行なう他、午前11時からは、‘朗読のお姉さん’をお招きして、クリスマスの絵本朗読会を開催します。展示ケースの中に鎮座するクルミ割り人形(ドイツ)、キリスト降誕人形(イギリス)、ピニャータ(メキシコ)などが生き生きと活躍する物語を楽しんでいただくことで、各地のクリスマス玩具についての文化的背景がより豊かに感じられることでしょう。ぜひこの季節、日本玩具博物館をお訪ねいただき、ご家族と一緒にクリスマスの一日を温かくお過ごしいただきたいと思います。



 関連企画展
世界のクリスマス物語




NO7
秋の庭に響く音色・・・・・♪
      (2005.11.15 学芸員・尾崎織女) 

 日本玩具博物館には「ランプの家」と名付けた古民家風の建物があり、館長が好きな草木を集めて造った里山のような中庭に面しています。普段は来館される方々に、桜湯など飲みながらくつろいでいただく場所なのですが、時には玩具作りや伝承会の教室になり、ギャラリーにもなり、海外からのお客さまをお迎えする折には囲炉裏のあるゲストハウスになり、また季節ごとの企画展に関連した演奏会やワークショップを開く会場にもなるのです。
 この秋は、1号館で行った企画展『アフリカのおもちゃと造形』に、アフリカ各地の民族楽器を数多く展示したことから、特徴ある打楽器や弦楽器を選んで、その音色とリズムを楽しむ演奏会を開きました。
 1回目は「親指ピアノ・ムビラの音色」。ムビラはジンバブエに住むショナ族が14世紀の頃から伝承する民族楽器です。祭礼の時に祖先の霊や精霊と交信するために演奏される神聖なもので、日本では「親指ピアノ」の名前で知られています。10月30日は爽やかな快晴。篠山市在住の陶芸家・中村由紀子さんが本場で学んでこられた伝統楽曲を、仲間の皆さんと5台のムビラを使って演奏して下さいました。60名ほどの鑑賞者は皆、建具を取り払ったランプの家から、舞台となった庭を見つめ、色づき始めた木々と秋風の中、ムビラのやさしく涼やかな音色に心を解き放たれたような表情でした。
 2回目は「西アフリカの太鼓・ジャンベとドゥンドゥンの響き」。ジャンベは、マリ・ギニア・ブルキナファソ・セネガル・コートジボアールなどの西アフリカ地域特有のゴブレット型片面太鼓で、マディング族が伝えてきたものといわれています。木をくり貫いた胴に山羊皮を張って作り、紐で首、肩あるいは腰からぶら下げ、両手で叩きます。子どものためのリズム、求愛のリズム、勇敢な戦士を讃えるリズムなど、様々なバリエーションをもっているそうです。一方、ドゥンドゥンは、ジャンベと一緒に叩かれ、ベースを担当する両面太鼓。くり貫いた木の胴に牛の皮を張って作られますが、大・中・小いろんな大きさがあります。11月6日、播磨地域を中心に活動する民族音楽グループ・ティーダTeedaの皆さんにお越しいただき、ジャンベ、ドゥンドゥン、バラフォン(木琴)による5人のアンサンブルで、西アフリカの躍動感ある楽曲をご披露いただきました。この日はあいにくの雨模様。秋雨に沈んだランプの家にはランプを点し、その灯りの下、熱く訴えるような演奏が始まると、眠っていた建物が目を覚ますかのようです。小さな子どもも地元の古老も、来場者は、愉しそうに身体をゆらし、心を躍らせます。やがて、人も建物も庭の木々も同じ音楽に身をゆだね、全体を包む空気が一つに解け合って・・・・・・。
 雨の日も晴れの日も、ランプの家は、いつも用途にふさわしい佇まいで、集う人たちの気持ちを自然にくつろがせてくれる、おもしろい空間です。
 紅葉の季節、日本玩具博物館をお訪ねいただいたら、ランプの家の縁側にゆったりと腰を下ろしてみていただきたいと思います。


NO6
サスキア・フランケ・イシカワさんと東ヨーロッパの玩具  (2005.11.8 学芸員・尾崎織女)

 
 先週土曜日の午後、サスキア・フランケ・イシカワさんご夫妻の訪問を受けました。サスキアさんは、1992年以来の日本玩具博物館の友人です。久しぶりの再会に手を取り合った私たちは、ドイツの郷土玩具のこと、クリスマス展のこと、ヨーロッパの玩具博物館のこと、ここ数年、私たちが力を入れてきたワークショップのことなどを話しながら、館内を巡りました。

 サスキアさんはドイツ人で言語学の研究者、現在は滋賀県在住です。来日された1978年頃、長野県野沢の「鳩車」と出あったサスキアさんは、シンプルでありながら卓抜したアイディアと繊細な感覚をもった日本の郷土玩具に惹かれ、一生懸命に収集を始め
ハンガリー・ケチキメート玩具博物館全景
ハンガリー・ケチキメート玩具博物館全景
られました。そうして手元に集った数百点の郷土玩具コレクションを、1984年頃からルーマニアのクルージやハンガリーのケチキメートなど、東ヨーロッパの玩具博物館へ寄贈しておられます。サスキアさんによれば、ヨーロッパの玩具博物館は、日本の生活民芸に対して非常に興味をもっているというのです。

 かの地の民芸玩具の情報や資料収集を熱望していた当館は、サスキアさんからのアドバイスを受けて1992年夏、民族博物館や玩具博物館宛に手紙を送り、互いの国に伝わる郷土玩具の交換収集を申し出ました。ハンガリーのケチキメート玩具博物館、ルーマニアのシビウ民族博物館から相次いで私たちの申し出に同意する返信をいただき、その秋から資料交換が始まりました。地域ごとに約30点ほどの郷土玩具を1パックとして、資料の詳しい情報を記したディスクリプションカード付きで送り出すと、交換資料として相手国の資料が同じほどのボリュームで届けられます。1990年代前半は、まだ東ヨーロッパの郵便事情が悪く、荷物の到着に3ヶ月以上がかかったり、打てば響くような意思疎通は難しかったりで、なかなかスムーズに進みませんでしたが、やがて、ケチキメート博物館からは素朴な風俗人形や土笛、仕掛け玩具、シビウ民族博物館からは春祭の玩具や新年祭の仮面人形など、貴重な資料が順番に入ってくるようになりました。商業主義が入り込んでいない東ヨーロッパの国々は、貧しいけれども、郷土色の濃い、近世的な民芸玩具がまだまだ多く残されているのです。

 日本玩具博物館の海外玩具収集には様々な人達がご協力下さっていますが、この頃から博物館同士の資料(情報)の交換収集という方法に私たちは大きな意義を感じ、その後も様々な国の博物館と積極的に関係をとり結んでいます。

 さて、昨夏と今秋、サスキアさんは、彼女の手元に残っていた百数十点の日本の郷土玩具(昭和40〜50年代製)を「ヨーロッパの玩具博物館との交流に役立てて」と寄贈して下さいました。その日本の玩具が詰まったボックスの中から、素晴らしいハンガリーの郷
キビガラ 木の枝と木綿はぎれ トウモロコシと木綿はぎれ
キビガラ/木の枝と木綿はぎれ/トウモロコシと木綿はぎれ
ケチキメートの手作り人形
土玩具の一群が出てきたのです! 中でも、トウモロコシの茎や木の枝で十字のボディーを組み、それに木綿のはぎれをまとっただけの素朴な抱き人形群が子ども心に溢れておもしろく、それらは1980年代、ケチキメート玩具博物館が郷土人形の伝承会(ワークショップ)を開いた折に作られたものでした。
 ハンガリーのケチキメートは中世以降、技術者として招聘されたドイツ人が中心になって街づくりを行った美しい都市です。しばらくご無沙汰しておりますが、久しぶりにケチキメート玩具博物館に連絡をとり、ハンガリーのクリスマスに登場する玩具やオーナメントについてお尋ねしてみたいと思っているところです。

 「玩具は文化をうつす鏡。玩具を大切にすることは子どもと平和を愛すること」とは、サスキアさんが強調される言葉です。ドイツ人でありながら、民間レベルで日本の文化紹介に努め、私たちには同好の士として温かいアドバイスを下さるサスキアさん、彼女のような存在は、日本玩具博物館にとって大切な宝物だと思うのです。
   




NO5
どんぐりゴマを回そう! (2005.10.9 学芸員・尾崎織女)


 今日は、「どんぐりゴマ大会」の日でした。兵庫県下の博物館施設などで同時開催する大会で、会場となる施設は、クヌギ、アベマキ、カシなど、たくさんの種類のどんぐりを用意して参加者を待ちます。参加者は、どんぐりのお尻に錐で孔をあけ、爪楊枝をさしてコマを自作した後、子どもも大人も一緒になって回る時間の長さを競います。
どんぐりゴマの回転を見つめる

 「ヨーイ、ドン!」  私たちスタッフも、ストップウォッチをもって、小さなどんぐりゴマの回転を見つめます。最初、あちこちに動いて暴れまわっていたコマがやがて一点に落ち着きます。まるで止まっているかのような静かな回転、「コマが澄む」といわれる美しい時です。「15秒経過……20秒経過…………30秒経過……」  再び中心軸が揺れ始めるといよいよ終盤。コマは踊りながら転び、名残惜しそうに静止します。「39秒12!」
 「30秒がこんなにたっぷり長いとは、今まで気付きもしませんでした。何だか幸せな気分ですね。」 そんなふうに明るい笑顔で話すお父さんがありました。普段の慌ただしい暮らしの中で、「30秒」とは無いに等しいぐらいの時間です。けれども、コマの回転を見つめ続ける30秒は、ゆっくりと豊かに流れます。どんぐりゴマは、そんなふうに、たった30秒で人の心を開放し、気分を変える力があるのですから、まるで魔法の道具です。

 コマは有史以来、人間とともにあり、何千年の時を生き抜いて今日に伝わっています。古代エジプトやインダス川流域、古代ギリシャの遺跡などから様々な形のコマが出土しているのです。そして、今も世界中の国々で、骨、土、木、竹、木の実、種、貝殻など、身近にある素材からコマが作られ続けています。アジアやオセアニア、南米のような湿潤な地域でコマの原型をたどれば、どんぐりをはじめとする木の実のコマにいきつくでしょう。落ちた木の実が風に吹かれてクルクル回転する、そんな不思議な動きに霊感を得て、我々の祖先はコマを創造したのでしょうか?
パプアニューギニア(左2点)とブラジル・アクレ州(右2点)
左2点はパプアニューギニア
右2点はブラジル・アクレ州
 
パプアニューギニアに伝承されるどんぐりコマは、日本のものよりずいぶん大きいのですが、中身が削りとられ、小さな孔が開けられているため、回転を与えると、ウーンと小さな唸りをたてます。かつて、人々はこの音を自然界のメッセージ、あるいは、自然神の心音と受けとめていたのだといいます。
 自然素材のコマは、放置すればほとんどの場合、土に還って跡形もなくなりますが、原始のコマのカタチと意味は遊びと伝承の中に保存され続けます。
 実りの季節、人間が何千年の時を経てコマを淘汰しなかった理由に思いを巡らせつつ、古代の人たちと同じ眼差しでどんぐりコマを回してみるのはいかがでしょうか?

 ちなみに、本日の「どんぐりゴマ大会」、県下での優勝者タイムは1分25秒00でした。驚異的な長さです!!

 
  

第18回兵庫県どんぐりごま大会



NO4
『アフリカのおもちゃと造形展』  (2005.9.11 学芸員・尾崎織女)


 秋の企画展『アフリカのおもちゃと造形展』が始まりました。当館では、これまでに『アジアの国のおもちゃ』『ヨーロッパおもちゃ紀行』『ラテンアメリカのおもちゃ』など、地域をテーマに当館の「世界の玩具コレクション」を総覧する企画展を催してきましたが、アフリカ州をテーマにするのは初めてのことです。

バナナの皮細工の動物(ケニア)
バナナの皮細工の動物(ケニア)
 今回の展示で当館が取り上げるのは、宗教儀礼に登場する部族芸術的な作品ばかりではなく、抱き人形や乗り物玩具、動物玩具、ヤジロベエやコマ、遊戯盤や楽器など、人々の暮らしの様子がより身近に感じられる品々です。
 ただ、その中には、アフリカ各国の子ども達の玩具に加え、世界の民芸愛好者向け商品としての性格をもった作品が数多く含まれます。たとえば、バナナ皮細工の動物(ケニア)、グザと呼ばれる木の皮の繊維を編んだ人形(ジンバブエ)、サイザル麻細工の人形や動物(ケニア)、ビーズ細工の人形(南アフリカ・スワジランド)、ラフィア椰子細工の動物(マダガスカル)、針金や空き缶利用の乗り物や動物玩具(ブルキナファソ・マリ)などです。それらは、1980年代頃から、その地その地の伝統的な手工芸をベースに、ヨーロッパや日本のNGO、また民芸輸入業者などが、貧しい地域に定収入をもたらし、人々の生活の向上を図るため、女性たちを指導して村々の授産所で作らせ始めたものです。このように、その地の人々のものであった民芸を他者の視点でリメイクすることに対して、文化保存の立場から好ましくないととらえる向きもあるでしょうが、当館では、これを20世紀末期に起こったアフリカ造形の一つのトレンドと考え、意味ある資料群として紹介しています。他者の視点を得たとはいえ、その地にしかない手法で一点一点手作りされた玩具には風格と生命感があり、手にとって眺めてみると、商業主義に流されない作り手の誠実さが伝わってきます。
ビーズワークの人形(南アフリカ)
ビーズワークの人形(南アフリカ)

 私たちは他国の風俗について、中国の北京はこんな感じ、インドネシアのバリ島はこんな感じ、ドイツのミュンヘンなら、フランスのアルザスなら・・・・・・と、アジア州やヨーロッパ州のことであれば、かなり具体的なイメージをもち、地図上の場所を思い浮かべることもできるのに、アフリカ州の国々のこととなると、頼りない知識しかもっていないようです。それで、今回はアフリカ大陸を北部、西部、東部、中南部にわけて地域の特徴を紹介する構成に致しました。地域ごとに玩具や人形をみていくと、この大陸の文化がいかにバラエティに富み、豊かであるかということに気付かされます。1970年代終わり頃から、日本ばかりか、アフリカ在住の方のご協力も得て、当館が精力的に収集してきたアフリカ玩具の数々をこの機会にぜひ、ご覧いただき、遠い国々を身近に感じていただけたら、と思っています。






NO3
草花あそび伝承会のこと
  (2005.8.30 学芸員・尾崎織女)


 当館では、玩具作り教室とならんで、播州地方の伝承遊びを紹介する講座を繰り返し開催しています。特に最近では、麦わらを使った遊びを取り上げることが多く、手提げかごや踊り子人形、虫かご(ホタルかご)などを親子で手作りしています。
真剣な表情の女の子。サナダ編みの持ち柄をつけて完成です。
真剣な表情の女の子。サナダ編みの持ち柄をつけて完成です。


 今夏は、地元・香寺町で実った小麦わらを使って、20組ほどの親子が虫かご作りに挑戦しました。麦わらは皮を剥いて、節になった部分を取り除き、また、乾いたままではポキポキと折れるので、ひと晩ほど水に浸して軟らかくしておきます。10cmほどに切った2本の麦わらを十字に組み合わせ、十字の先にあたる4ヶ所それぞれに麦わらを差し入れて、編み上げていきます。小学生はもちろん、親の世代(20代後半〜40代前半)にとっても初めての体験です。参加者は、最初は自然物の扱いにくさに四苦八苦の様子でしたが、徐々に手が慣れてくると、真剣な表情で一本一本の麦わらを積み上げ、1時間経つ頃には、細かく渦を巻く綺麗なかごが編めました。大きさも渦巻く様子も、作り手の個性があふれています。「将来、麦わらを編むのがお仕事のオジサンになりたい。」とお父さんに話す小学生や、「規格化された素材ではないから扱いにくい分、自然の物には作り手の気持ちを穏やかにする力があるんですね。」と優しい顔で話されるお母さんをはじめ、皆、出来あがった作品に満足げでした。

 さて、この麦わらの虫かごは、播州地方だけではなく、瀬戸内海を取り巻く広い範囲に伝承されてきたものです。6月の夜、十字に開いた底の部分から草を詰め、子ども達はホタル狩りに出かけました。たくさんのホタルを入れた小さなかごは、夜の闇の中で、さながら手作り提灯のようです。夏休みがやってくると、コガネムシやカナブンなど小さな虫を束の間、楽しむための虫かごにもなっていたようです。

 6年前の夏、来館者の中から約1400人を対象に四季の『草花遊びのアンケート調査』を行いました。その中で、夏の草花遊びとして「笹舟、麦わらのかご、麦わらの動物、麦わらのおどりこ、葉っぱのお面、虫のいたずら、野菜の動物、野菜の提灯、カヤツリグサ遊び、草の葉の風車、カンゾウの水車、メヒシバのかさ、オナモミのひっつき虫、オシロイバナ遊び、ホオズキ遊び、きびがら姉さま、ソテツの虫かご」をあげて、子ども時代に体験したもの全てに、〇印をつけてもらいました。世代をこえて遊ばれ、人気があったものを順に示すと、@笹舟、Aホオズキ遊び、Bオナモミのひっつき虫、C野菜の動物、D麦わらのかご……となります。「麦わらのかご」は、年齢が高くなるほどよく知られており、50代から70代にかけては全体の40〜70%が懐かしいと回答されました。ところが、40代以下の年齢層になると、体験者は急に少なくなります。麦わら遊びの伝承が途絶えた一番の要因については、1960年代頃から麦作を行う農家が激減したことがあげられますが、どのような種類の草花遊びにおいても、高度経済成長時代が境目となって、その前後で遊び自体が質的に変化していることが、この時のアンケート調査によっても導き出されました。幸い、香寺町では、10年ほど前から麦作がよみがえり、5月中旬になると黄金に輝く麦畑が見られます。「麦わらのかご」はもちろん、まだまだ自然環境が豊かな地域的な特色を生かし、一度途絶えた伝承の糸を次の世代につないでいけるような講座を今後も充実させていきたいと思っています。



NO2
七夕紙衣(七夕に飾る紙製の着物)のこと     (
2005.7.23 学芸員・尾崎織女)


 兵庫県姫路市の妻鹿(めが)、白浜町、八家(やか)、東山、的形(まとがた)町、大塩町を経て、高砂市の曽根町に至る播磨灘沿岸域に「七夕さんの着物」と呼ばれる紙衣が伝承されているのはご存じでしょうか。長方形の色紙や千代紙を二つ折にして袖や身ごろを切り出し、襟元はV字に切り込んで形を整えると、色を違えた帯を結んで完成させます。家庭によって着物の大きさや作り方の細部は異なりますが、着物の色、袖の長さ、帯の結び方などに男女の違いを意識したものが目立ちます。8月6日、子どもの居る家では、軒下に立てた2本の笹竹飾りの間に竹を渡すと、そこに数枚の「七夕さんの着物」を吊るして飾り、下に小机を置いて初物の野菜や七夕のご馳走を供えます。これらの飾りは7日の朝には外され、昭和30年頃までは川や澪に流されていました。「七夕さんの着物」をたくさん飾ると、祝われた子どもが一生、着るものに不自由しないと言い伝えられています。
播磨灘沿岸域の七夕飾りの様子
播磨灘沿岸域の七夕飾りの様子
 


 この「七夕さんの着物」を全国に広く知らせたのは、当館の井上館長です。昭和42年8月6日の夕刻、館長は当時、車掌として勤務していた山陽電車の車窓から、八家駅周辺の家々で行われている七夕飾りの中に紙人形のようなものを見つけました。そこで、翌日から周辺地域を調査し、市川が播磨灘に注ぐ東岸地域(昔から塩田で栄えた町々です)に伝承されてきた「七夕さんの着物」を数多く収集したのです。


 また、日本玩具博物館は、昭和63年夏、銀山の町として有名な朝来郡生野町(現在は朝来市)の旧家の土蔵に眠っていた明治時代製と思われる6対と4枚の七夕紙衣を入手し、これらによって市川が水源を発する町にも「七夕さん」と呼ばれる紙衣が存在したことが明らかになりました。生野町では、2本の笹飾りの間に苧がら(皮をむいた麻の茎)を通し、そこに2対ほどの「七夕さん」を吊るし飾るという、播磨灘沿岸域とほぼ同じ構図の七夕飾りが行われていました。

生野町口銀谷の旧家の蔵で見つかった「七夕さん」
生野町口銀谷の旧家の蔵で見つかった「七夕さん」
  
 3年ほど前、市川の上流と下流に伝承される七夕紙衣をあらためて見直してみたいと思い立ち、昭和60年代に行われた先行調査を基盤にして、流域に暮らす多くの伝承者への聞き取りを始めました。その中で、市川水系の町々、つまり神崎郡大河内町、市川町、神崎町、福崎町などにも七夕紙衣が存在し、かつて、播州一帯の農村部に見られた「初物の野菜を吊るす飾り」に、播磨灘東岸域や生野町に見られた「紙衣を吊るす飾り」が合体したような七夕飾りを行う地区が点在していたことが徐々にわかってきました。地域の古老が語る昔の七夕は、家族や地域社会の連帯の中で丁寧に祝われ、飾りは季節感に満ちて合理性があり、美意識がとても繊細なことに驚かされます。お菓子をもらいながら、嬉しそうに家々の七夕飾りの前を走りまわる昔の子ども達の様子も浮かび上がってきます。ただ、戦前の七夕飾りをよく知る方々のほとんどは大正生まれ。既に80代後半から90代になっておられることから、聞き取り調査は急がれます。

 さて、七夕に紙衣を飾る民間の風習は、江戸時代前期から行われていた七夕様に「着物をお貸しする習俗」に起源があるようです。これは、天の二星(特に織姫)のために、袖を通していない着物を飾り、将来にわたって衣装に恵まれることを願うものです。布製の着物は、やがて紙製の着物に代替されるようになり、七夕紙衣は、大都市部から地方へと広まっていったようです。実際に、松本をはじめ、仙台や山梨、鹿児島などにも紙衣や着物を着せた人形が伝わっています。こうした七夕の習俗を全国的な視野で眺めてみようと、この夏、松本市立博物館では、『七夕と人形』と題する特別展が開かれます。長野県松本市は七夕人形や七夕紙衣のメッカともいえる町で、流し雛形式、ひとがた形式、着物掛け形式、紙雛形式など、様々な様式の七夕飾りが残されています。この展覧会は、同館が何年もかけて調査した内容を集約し、また全国各地の七夕の人形や紙衣を飾る習俗が紹介されますが、日本玩具博物館も、市川流域に伝承される資料について出品協力しています。今夏は、松本市立博物館だけでなく、松本城周辺の博物館、商店街筋でも昔ながらの七夕飾りを数多く拝見できますので、ぜひお訪ね下さい。

 それから、今、お住いの地域で、また子ども時代に暮らされた地域で、七夕に人形や紙衣を飾る習俗があったと記憶されている方がいらっしゃいましたら、当館までお知らせ下さいますようお願い致します。


                                 関連企画展 

七夕人形紙衣
(2006)



NO1
日本玩具博物館のミュージアム・フレンド<ヒラ・シュッツさん>のこと
                                                  
(2005.6.27 学芸員・尾崎織女)


エルツゲビルゲ地方ザイフェンを訪ねたヒラ・シュッツさん
エルツゲビルゲ地方ザイフェンを訪ねたヒラ・シュッツェさん
 本年度は「日本におけるドイツ年」にからめて、当館では、特別展『ドイツおもちゃ紀行』を催しています。黒のクロスを敷き詰めた展示ケースの中で、ドイツ各地のカラフルな玩具は輝いているようです。

 日本玩具博物館の「世界の玩具コレクション」を国別に見渡すとき、最も大きなボリュームを形成しているのがドイツの木製玩具群です。ドイツは美しく堅牢な玩具の生産地として、近世以前からヨーロッパ全域に知られ、エルツゲビルゲ地方の「ノアの方舟」などは、1800年代初頭には新大陸・アメリカの子ども達にも人気のある玩具となっていました。ドイツの人々は、歴史の中で、また現在の生活の中でも、自国が生産する玩具に対して愛着と誇りを持っています。ニュールンベルグ玩具博物館、ゾンネベルグの国立玩具博物館、エルツゲビルゲ玩具博物館、ミュンヘン玩具博物館、ローテンブルグ玩具博物館をはじめ、ドイツ各地に点在する玩具博物館の多さや位置づけの高さがそれを物語っています。

 当館は、こうしたドイツ各地の玩具博物館との交流を続けています。一方、ドイツ玩具の収集家や研究者との情報や資料交換なども積極的に行い、ドイツの玩具史について、また子ども観や物作りの精神、生活の中の美意識などについても少しずつ理解を深めてきました。中でも、バードキッシンゲン(Bad Kissingen)在住のヒラ・シュッツ(Hilla Schutze)さんとは、1994年以来、10年以上の親交があります。シュッツさんは、ドイツをはじめ世界中の人形や玩具を収集して、在野で玩具史研究を行い、また博物館や市庁舎のギャラリーでコレクション展示を催したりもしておられる方です。1993年、当館がスイスのチューリッヒ玩具博物館で『日本の郷土玩具』を開催した折、彼女は、初めて数多くの日本の郷土玩具に触れられたそうで、日本が伝える繊細な郷土玩具の色と形に感動したとお便りをいただきました。

 1994年冬、当館からは資料をつけて30点ほどの東北の郷土玩具を送り、それと交換に、ゾンネベルグを中心とするチューリンゲン地方の郷土玩具が届けられました。1995年春、阪神淡路大震災で行き場を失った雛人形の引き取り活動の中で、被災地から当館に送られた雛人形の一組をシュッツさんに再寄贈すれば、その記事が現地の新聞に掲載されたりしたこともありました。毎年、お正月にはその年の干支玩具をプレゼントすることが習慣になっています。彼女からは、4月、復活祭(イースター)に飾られるオーナメントなどが届けられます。

 こうして、シュッツさんとの資料交換は年に2〜3回程度。今回、『ドイツおもちゃ紀行』の展示作業をしていく中で、シュッツさんから贈られた玩具や写真資料の素晴らしさを感じ、また10年に渡る私たちのやり取りを思い起こし、この交流の意味についてもあらためて感慨深く振り返っています。


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