NO.117

よいお歳を!
                             (2011年12月27日  学芸員・尾崎織女)  
たくさんの辛い出来事があった2011年も残りわずかとなりました。寒波がやってきて冷たい日々が続いていますが、お元気でお過ごしでしょうか。さて、今春、この度の大震災で危機的な状況にさらされている文化財の救援・修復活動が文化庁によって組織され、当館の窓口においてもそのための募金をお願いしましたところ、多くの方々からたくさんの志を頂戴いたしました。皆様からお届けいただきました志は、5月末日とこのクリスマスに、文化財保護芸術研究助成財団へ送金させていただきました。小さな募金箱でしたが、寄付金は、合計で7万円を超えました。趣旨に賛同くださいました皆さまに、この場を借りて、心より御礼申しあげます。引き続き、被災地、東北関東地方の文化財復旧のため、協力の輪を広げてまいりましょう。
『ひょうごミュージアム・フェア2011』ワークショップ風景

さて、前回の「学芸室から」でご紹介いたしました“ひょうごミュージアム・フェア2011”が、12月23日から25日まで、兵庫県民会館にて開催されました。クリスマス休暇の3日間、他の行事もたくさん開催されている時節でもあり、大入りの満員の賑やかさには至りませんでしたが、播磨地区の博物館施設が一堂に会し、情報を交換しながら、ともにひとつの催しをもてたことは非常に有意義でした。“たくさんのミュージアムをこの会場だけで楽しめて大満足!”とにこにこ笑顔で帰って行かれるご家族連も多く見られ、また日本玩具博物館のワークショップブースでは、“こんな催し、大好き!”とノリノリでご参加下さるご家族が相次ぎました。楽しいひとときをご一緒くださった皆さま、また、ミュージアム・フェア会場から、当館へと足を運んで下さいました皆さま、誠にありがとうございました。

先日来、博物館の近隣に住む子どもたちが“秘密基地を作りたいから、段ボールを頂戴”と館にやってくるようになりました。どこに作ったのかな、と思っていたら、駐車場の周辺に植えこまれたサザンカの垣根に屋根をかけて かわいいお家が立ち始めていました。強い風が吹いたら倒れてしまいそうな家ですが、ちびっこたちは、花の香りが立ち込める自分たちだけの素敵な空間を夢見ているのかな、と思ったら、その頼りない段ボールの屋根がいとおしく感じられました。小さい頃、公園の生垣に、お堀の堤に、橋の下に、大きな木の根元に・・・・様々な場所に自分たちの居場所をつくって遊んだ思い出をお持ちの方はたくさんいらっしゃることでしょう。今も昔も子どもの心は変わらないものだと思います。ちびっこたちが、サザンカの屋根の下から、のびのびと羽ばたいていける豊かで安全な世の中にしていかなくてはならないなと、しみじみ思う年末です。

本年も、私たちの活動に対し、陰に日なたにご協力ご支援を下さいまして、まことにありがとうございました。学芸室では、来年度も楽しい展覧会や行事を計画して、もっともっと皆さまから親しまれる日本玩具博物館になれるよう努めてまいりたいと思います。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。皆さま、どうぞよいお歳をお迎え下さいませ。


NO.116

クリスマスの過ごし方 
                            (2011年12月20日  学芸員・尾崎織女)  

今冬も、世界のクリスマス展が好評です。“うわぁ〜、きれい〜”と歓声をあげながら、6号館へ入って来られる方々、“くりちゅまちゅ〜!”と展示ケースに駆け寄ってくる小さな子どもたち。展示会場に居ると、そんな来館者の声が嬉しい12月です。今冬も恒例により、日曜日ごとに展示解説会を開いています。展示ケースの中から各地のクリスマス飾りを取り出し、それにまつわる地域独特の習俗をお話することで、クリスマスの意味を探っていくものですが、毎回、30名ほどの方々が熱心に聴講して下さっています。私がクリスマス展を担当するようになって20年、この展示解説会の中で、子どもたちも若いご夫婦もおじいちゃま、おばあちゃまも、みんな一緒に同じキャンドルの灯を囲むひとときは、私にとっても、なくてはならない大切な時間となっています。
また、世界のクリスマス飾りの中から、何かひとつ取り上げ、毎年、講座を行っています。麦わら細工や切り紙細工、木の実細工など、自然素材を使って手作りしながら、ヨーロッパのオーナメントを学んでいくワークショップです。今年はデンマークの“ハート型のオーナメント”を取り上げました。この講座も、毎年、楽しみにご参加下さる方があります。一人でも多くの方々に、誰かと一緒に物づくりをする楽しみを味わっていただきたいと思っています。
12月23日、25日には、倉主真奈さんをお迎えして、クリスマス絵本の朗読会を開催します。今年は新しく、クリスマス絵本のコレクションを増やしていますので、楽しみにご来場くださいませ。

展示解説会の様子 幼稚園児たちの来館…クリスマスの灯を囲んで

ワークショップ〜ハートのオーナメントづくり〜


さて、トップページでもご紹介しておりますように、12月23日からクリスマスにかけての3日間、兵庫県民会館「県民アートギャラリー」において、『ひょうごミュージアム・フェア2011』が開催されます。これは、兵庫県内のミュージアムの魅力を県内外に広く発信していこうと、“兵庫県博物館協会”に加盟する県下の博物館施設が一堂に集まるもので、第1回目は、播磨地区の加盟館47館が協力し合い、楽しい会場を作ります。 親子向けのワークショップも各館が多数企画し、播磨地区のミュージアムの個性ある活動の一端をひとところで味わっていただける催しです。
  
   日時  平成23年12月23日(金・祝)〜25日(日) 10:00〜17:00(最終日は16:00まで)
   会場  兵庫県民アートギャラリー・大展示室と中展示室(神戸市中央区下山手通4-16-3 兵庫県民会館2階)
          http://hyogo-arts.or.jp/arts/gyarari/top.htm
   入場無料

『ひょうごミュージアム・フェア2011』日本玩具博物館ブース(シミュレーション風景)
日本玩具博物館からは、クリスマスをテーマにした小さな展示コーナーをつくる他、12月24日と25日には、ワークショップを開催いたします。クリスマスのハート型のクリスマスオーナメント、イースターの鳴くニワトリ、それから、江戸時代の楽しいおもちゃを作ります。本日は、私たちのブースの展示シミュレーション作業を終え、出展の準備が完了いたしました。クリスマスの思い出に、ご家族揃ってご参加下さいますようお待ちいたしております。

NO.115

『世界のクリスマス飾り』展〜ロシアの雪娘〜 
                                 (2011年12月2日  学芸員・尾崎織女)  
すでに十数年前、当館が開館以来お世話になっていた旧ソ連の民芸品の輸入業者さんが会社をたたまれたあと、ずいぶん寂しく思っておりましたところ、ご縁があって、あらたにロシアの木製人形などを扱われる方と巡り合うことができました。先日も、クリスマスに関するものなどを入手することが出来、ありがたかったのですが、その中
マロースの中からスニェ二グーロ
チカが、さらにスニェグーロチカの
中からツリーが出てくる入れ子細工
に、かねてより入手したいと願っていた入れ子細工の人形が含まれていて、嬉しくなりました。
探していたものは、旧ザゴルスク(現在のセルギエフ・パサド)あたりで作られている “マロース爺さん”と“雪娘スニェグーロチカ”です。旧ザゴルスク(現在のセルギエフ・パサド)は、“マトリョーシカ(かつてロシア農村部で一般的だった女児の名前)” で有名ですが、入れ子細工の人形になった雪娘は、マトリョーシカと同じぐらい可憐で愛らしいものです。

地域や時代や政治体制などによって異なるのですが、現在、マロース爺さんは、ロシアにおいては、ヨーロッパの聖ニコラウスやアメリカのサンタクロースと同一視されるクリスマスの贈りもの配達人です。
マロースは、雪娘スニェグーロチカの協力を得て、子どもたちのもとへ贈りものを届けるのです。マロースとは、“冬将軍(クリスマス寒波)”のこと。ロシアの農村には「マロースが訪れて寒波に凍りついた翌年は大豊作に恵まれる」 というジンクスがあり、クリスマスにやってきてほしい“大寒波・マロース”を擬人化して、 “マロース爺さん”が誕生したといわれます。つまり、マロース爺さんが届けてくれる贈りものとは、新年の大豊作、あるいは豊かな暮らし、ということでしょうか。

では、ロシアの民話によく登場する雪娘スニェグーロチカとは どういうキャラクターでしょうか。民話の書籍などをあれこれ調べていたら、 リムスキー・コルサコフのオペラ『雪娘』にたどり着きました。
このオペラは、アレクサンドル=オストロフスキーの同名の戯曲が原作。物語はこうです。

・・・・・・・“霜の精”と“春の精”の間に生まれたスニェグーロチカは、 “恋”を知りたいと願ってベレンデイの国を訪れ、人間たちと暮らし始めます。美しい彼女の登場は人間世界にたくさんの波紋と騒動を巻き起こしますが、 やがて、スニェグーロチカは願っていたとおり本物の恋を知ります。
ただ……恋を知ったことで、スニェグーロチカは溶けて無くなってしまうのです。・・・・・・




クリスマスの絵本の中では、雪娘スニェグーロチカは、マロース爺さんと一緒にクリスマスの贈り物を運ぶのですが、この戯曲をはじめ、様々な民話に登場する様々な雪娘は、結末にはいつも溶けてしまう。冬を象徴する雪娘が消えて、春(夏=太陽の季節)がやってくる。死と再生の節目に立って、雪娘は、それぞれに愛らしくもユニークな存在感を放っています。 リムスキー・コルサコフのオペラ『雪娘』を聴いてみたくなり、仕事の帰り、いきつけのCD屋さんで取り寄せをお願いしてきました。 リムスキー・コルサコフといえば『シェラサード(Scheherazade)』ぐらいしか知りませんが、 『雪娘(The Snow Maiden)』はとても素晴らしい作品なのだそうで、 早く聴いてみたくて仕方ありません。

マロース爺さんと雪娘スニェグーロチカは、さっそく“クリスマスの贈りもの配達人”のコーナーに展示いたしましたので、ご来館の方はどうぞご覧下さい。




NO.114

『世界のクリスマス飾り』展〜描かれたクリスマス・その2〜 
                                     (2011年11月26日  学芸員・尾崎織女)  

ぐんと気温が下がって、玩具博物館の庭は紅葉黄葉の真っ盛り。6号館の特別展『世界のクリスマス飾り』は、地元からはもちろん、広島から、福岡から、横浜から、名古屋から……ご遠方からも、クリスマス好きのご来館者をお迎えして賑やかです。今冬は、当館のコレクションによるもうひとつのクリスマス展が小倉城庭園博物館で開催されています。『クリスマス〜喜びと祈りのかたち〜』と題して、ヨーロッパ(北欧・東欧・中欧・南欧)、アメリカ(北米・中南米)、アフリカ、アジア、日本…と地域ごとに、伝承のクリスマス飾りを展観する内容です。日本人が親しんできたサンタクロースが、明治末期から大正・昭和を経て、どんなふうに描かれてきたかを児童雑誌などによってご紹介するコーナーもあり、ご好評をいただいている模様です。
『コドモノクニ(第三巻十二月号)』
(大正13年)
『ニッポン一(第一巻十二月号)』  
(大正13年)  
『コドモノクニ(第六巻十二月号)』 
(昭和2年)
当館の今年のクリスマス展は、ヨーロッパのクリスマスオーナメントを中心に展示しています。前回の「学芸室から」ではチェコの絵本をとりあげましたが、今回も、展示会場に設置している北欧のクリスマス絵本の中から2作品をご紹介したいと思います。
1冊目は、スウェーデンの絵本で『ペッテルとロッタのクリスマス』(エルサ・ベスコフ作・絵/ひしきあきらこ訳/2001年・福音館刊)。1940年代頃、スウェーデンの家庭でどんなユール(北欧のクリスマスのこと)のお祝いが行われていたのかを垣間見ることができる作品です。
・・・・・・3人のおばさんの暮らす裕福な家庭にひきとられたペッテルとロッタは、素直で想像力豊かな子どもです。1年目のユール、ペッテルとロッタのもとへ、一人の“ヤギおじさん”がプレゼントをもって登場します。ヤギおじさんの本当に姿は森に住む王子様だと信じる子どもたち。2年目のユールには、なんと、ふたりのヤギおじさんがやってきました!!・・・・・
スウェーデンをはじめ、北欧のユールには、今も、大小の“ユーレボック(ユールのヤギ)”と呼ばれる麦わら細工のヤギが飾られます。ユーレボックは、大地に豊穣をもたらす自然神とも考えられ、小人のトムテと一緒に家々にクリスマスの贈り物を運んでくると信じられていますが、かつては、ヤギそのもの(=麦わらのヤギ仮面で仮装した人物)が贈り物をもって家庭を訪問していたことが、この絵本からよく理解できます。

『ペッテルとロッタのクリスマス』 
(エルサ・ベスコフ作・絵/ひしきあきらこ訳/
2001年・福音館刊)
子どもたちの元を“ヤギおじさん”が訪れる “ユーレボック”とトムテ
(スウェーデン)
もう1冊はノルウェーの絵本で、『スプーンおばさんのクリスマス』(アルプ・プリョイセン作/ビョーン・ベルイ絵/おおつかゆうぞう訳/1979年・偕成社刊)。主人公のスプーンおばさんは、時折、身体がティースプーンぐらい小さくなってしまい、小さくなった時には動物たちと自由に会話ができるという不思議な力をもっています。このおばさんのファンタジーに満ちた冒険を描くシリーズものは、1950年代に発刊され、ノルウェーだけでなく、広く北欧の国々で親しまれてきました。『スプーンおばさんのクリスマス』は、またしても突然に小さくなったおばさんとそのご亭主が、街へクリスマス飾りを買いに出かける物語です。
・・・・・スプーンおばさんの住むノルウェーでは、ユールには家の前に麦束を飾り、小鳥の巣箱を置いて、小鳥たちに麦穂をついばませる習慣があります。また、ヤドリギを円環状にまとめたリースをドアの上につけて、クリスマスを迎える風習もあります。口喧嘩をしながらも、街の屋台で、綺麗な麦束と立派な巣箱とヤドリギのリースを買ったスプーンおばさんとご亭主でしたが、小さくなったおばさんは、手にもった風船に乗って遠い空へとのぼってしまいました。おばさんの行方がつかめず、ひどく心配しながら、ひとり家へもどったご亭主を、カササギたちの協力で先に家に到着していたスプーンおばさんの熱烈キスが待っていました。ヤドリギ飾りの下に立った人には、キスをしてもいい(キスをしなければならない)という習慣があるのです。・・・・・・
ノルウェーをはじめ、北欧の国々では、穀物霊が宿るとされる麦穂の束や、生命力を象徴する常緑のヤドリギが、ユールを迎える儀礼には欠かせない素材となっています。ベッドの下に麦わらを敷いて眠ったり、麦わらを編んで窓飾りや壁飾り、またツリー飾りを作ったり…。先にご紹介した「ユーレボック」をはじめ、麦わらを使ったオーナメントの多様さは北欧のクリスマス飾りを暖かく、豊かなものにしていると思います。

『スプーンおばさんのクリスマス』 
(アルプ・プリョイセン作/ビョーン・ベルイ絵
/おおつかゆうぞう訳/1979年・偕成社刊)
家の前に飾り付ける麦束を買うご亭主 ユールの麦束
(スウェーデン) 
壁飾り・麦わら細工の太陽
(北欧)
いかがでしょうか。展示中のクリスマス飾りに絵本の世界を重ね合わせてご覧いただくと、オーナメントの背景に異国の人々の息吹が感じられるのではないでしょうか。

さて、1号館では冬の企画展『十二支の動物造形』も始まって、日本玩具博物館は冬支度が整いました。12月の風情を探して、クリスマスアドベント(待降節)の日本玩具博物館をぜひご訪問ください。


NO.113

『世界のクリスマス飾り』展〜描かれたクリスマス〜
        
                                    (2011年10月30日  学芸員・尾崎織女)

玩具博物館の庭ではサンザシやサンシュユが赤い実をつけ、いつの間にか秋も深まりを見せ始めました。雨降りの週末、恒例の世界のクリスマス展も始まったわが館へ、今日は多くの家族連れが入館下さり、笑い声の絶えない賑やかな一日となりました。今冬は、小倉城庭園博物館からのご依頼によって、もうひとつのクリスマス展を開催する予定で、学芸室ではしばらく、その準備に忙しくしていていました。準備完了! 北九州市立小倉城庭園企画展『クリスマス〜喜びと祈りのかたち〜』は、11月11日オープンです。

さて、わが6号館のクリスマス展、今回は、白のクロスを敷き詰めた展示ケースと黒のクロスを敷き詰めたケースをつくりました。白は、純白の雪をイメージし、黒は、太陽の力が弱くなる冬のさなか、しかも暗い夜をイメージしました。精純な白の中で祝われるクリスマスと、暗さゆえに光や幸福にあこがれるクリスマス。「ヨーロッパのクリスマス風景」は白い雪の上に、「キリスト降誕人形」「キャンドルスタンド」などの展示グループは黒い夜の中に展示しています。ドイツ・プラウエン地方の木綿レースによる“雪のオーナメント”は、展示ケースの天井枠に積り、やがてその雪は、クルミ割り人形やキャンドルスタンドの上にひらひら舞いおりています。経木細工の“光のオーナメント”が輝く空、夜の中で幼子イエスが誕生する場面がたくさん繰り広げられています。たとえば、そのようなイメージをもって展示していますので、ご覧下さる皆様には、玩具の世界へ入り込んでお楽しみいただければ幸いです。

↑夜の中のキリスト降誕
↑プラウナーレースのオーナメント・雪の結晶↓



毎年、展示室には、世界各地のクリスマス飾りの背景をより楽しく理解していただこうと、それぞれの展示コーナーに合わせて世界のクリスマス絵本を設置しています。今年は、あらたに5冊、楽しいものを入手いたしました。
ノルウェーからは、『スプーンおばさんのクリスマス』(アルプ・プリョイセン作/ビョーン・ベルイ絵/おおつかゆうぞう訳/1979年・偕成社刊)、
スウェーデンからは『きつねとトムテ』(フォーシュルンド詩/ウィーベリ絵/やまのうちきよこ訳/1981年・偕成社刊)、それから『ペッテルとロッタのクリスマス』(エルサ・ベスコフ作・絵/ひしきあきらこ訳/2001年・福音館刊)、
フィンランドからは『トントゥ』(マウリ・クンナス作/稲垣美晴訳/1982年・文化出版局刊)、
チェコからは『おじいちゃんとのクリスマス』(リタ・テーンクヴィスト文・マリット・テーンクヴィスト絵/大久保貞子訳/1995年・冨山房刊)、
パン細工のオーナメント(チェコ)

そして、ナイジェリアからは、『たのしいおまつり』(イフェオマ・オニェフル作・写真/
さくまゆみこ訳/2007年・偕成社刊)を。

絵本の世界を楽しんだ後に展示室のクリスマス飾りを見ると、その題材に込められた意味がよくわかります。たとえば、チェコのツリーに飾られるパン細工のオーナメント「ヴィゾ・ヴィーチェ」には、魚をデザインしたものが見られます。“魚”はキリスト教徒のシンボルだからツリー飾りのデザインに用いられている、ともいえますが、絵本『おじいちゃんとのクリスマス』を読むと、その魚が“鯉”であることがわかります。チェコではクリスマス料理に、七面鳥でもローストチキンでもなく、鯉を食べるのだそうです。フライにしたり、ゼリーで固めたり、ソテーしたものにプルーンのソースをかけたりして。だから、クリスマスのマーケットではたくさんの鯉が売られているのだといいます。絵本『おじいちゃんとのクリスマス』は、あるとき、作家の母と画家の娘(スウェーデン在住)がチェコの古都・プラハを訪ねた折、ふと耳にしたクリスマスの鯉料理にまつわるお話から誕生したそうです。クリスマスに食べる鯉をマーケットで買ってきたトマス少年は、その鯉に“ベッポ”と名前をつけて可愛がり始めます。おじいちゃんとふたりきりのクリスマス、トマスはその鯉を食べることができるのでしょうか? 繊細で美しい絵と暖かい文章によって、チェコの人々の心が伝わる素敵な絵本です。




『おじいちゃんとのクリスマス』(リタ・テーンクヴィスト文・マリット・テーンクヴィスト絵/大久保貞子訳/1995年・冨山房刊) 
展示室をお訪ねの皆様には、せひ、コーナーごとの絵本をご覧いただき、展示ケースの中に、絵本に登場するクリスマス人形やクリスマス飾りを探していただきたく思います。

NO.112

中南米のアルマジロ〜『世界の動物造形』展より〜 
        
                                   (2011年9月30日  学芸員・尾崎織女)


萩や彼岸花、紅白の水引草が揺れる館の庭には、爽やかな風にのって金木犀の香りが漂い始めました。玩具博物館では、地元周辺の小学校から校外学習の小学生たちをお迎えする季節です。子どもたちは、ややもすると、玩具に触れて遊べる二か所の“プレイコーナー”に集中してしまいがちになるので、展示物を観る視点をもってもらおうと、クイズ形式のワークシートをお渡したり、その答え合わせをしながら問題になった玩具や人形のお話をしたり、企画展や特別展の見どころを解説したり、好きな展示品をひとつだけスケッチしてもらったり、またご要望によっては玩具づくり教室などを行ったりもしています。

昨日は、訪問を受けた小学2年生の子どもたちに、6号館の特別展『世界の動物造形』をご案内し、いろいろ質問を投げかけてみました。たとえば……
  「どれぐらい昔から動物のおもちゃが作られていると思いますか?」
  「世界の国々では様々な動物がおもちゃのモデルになっていますが、一番人気のある動物は何でしょうか?」
 展示物をよくみると答えられることばかりだとわかると、質問を投げかける度に、みんな展示ケースにかじりついて熱心に観察し、「分かった!馬が多い。ロシアの馬、めっちゃかっこいい!」「馬が多いで!よその国の人も馬が好きなんや!」などと、嬉しそうに回答してくれるのです。

「さて、ここに4つの虎のおもちゃを取り出しました。一番右側の紙で出来た首ふりの虎、その次は華やかに飾りたてた布製の虎、三番目は台車の上にのった木彫りの虎、最後は背中に迷路みたいな模様のある土製の虎、さて、この中で日本の虎のおもちゃはどれでしょうか?」
  「一番右の虎です! おばあちゃんの家でそんな虎を見たように思う。きっとそうや。」
  「私も一番右と思う。顔が日本らしいもん。」
  「ぼくな、そのとなりは中国の虎やと思う。なんとなくそう思う…。」
当たりです!
小学校2年生にして、自分たちの民族の造形表現をぴったりと言い当てる子どもたちに出会う度に思います。小さな玩具だけれど、その色や形、製法のどこからか、“日本らしさ”というものが漂っていて、この環境で育つものには、それがわかるということなのですね。当たり前のようで、すごいことだと思います。

そんな小学2年生が口々に質問してきました。
「なんで、よその国にはアルマジロのおもちゃがたくさんあるんですか?!」
そうなのです。メキシコ、ペルー、ブラジル、パラグアイ、チリ……といった中南米の国々では、アルマジロを題材にした玩具や造形物がたくさん作られているのです。
アルマジロはもともと中南米の動物。メキシコやチリ、パラグアイなどでは「アルマディージョ」、ブラジルでは「タトゥー」、ペルーでは「キルキンチョ」と呼ばれて古くから親しまれています。アルマジロは、肉が食用にされる他、硬い甲羅の部分を共鳴器に使って弦楽器(チャランゴ)や打楽器(マトラカ)などが作られます。
1995年、ブラジルへ日本の郷土玩具の展覧会をもっていったことがありました。「動物園に行けばタトゥー(アルマジロ)がみられますか?」と地元の方に訊ねたところ、「あら、動物園に行かなくても、そこいらにいるわよ。ちょっと郊外に行けば、草むらや畑の隅っこからひょっこり顔を出すから…。」と言われました。確かに数週間の滞在中、私は2回、タトゥーを見かけました。それは野猫のようにそこいらにおり、リオデジャネイロ郊外の子どもたちはタトゥーをボールのようにまるめて転がしたり、頭を撫でたりして親しそうに遊んでいるです。
そのように身近に生息する動物だからでしょう。玩具や貯金箱や仮面や……造形物になったアルマジロは、デフォルメされ、ポップに彩色されても、アルマジロらしい特徴をそれぞれが供えていて、どれもこれも、なんとユニークで、なんと愛らしいのでしょうか。
中南米の人たちのアルマジロに注ぐ暖かいまなざしが感じられる作品、画像で少しお目にかけたいと思います。

▲アルマディージョの貯金箱
(メキシコ・ゲレロ州)
▲首ふりアルマディージョ
(メキシコ・オアハカ州)
▲トナラ焼のアルマディージョ
(メキシコ・ハリスコ州) 
▲木彫のアルマディージョ
(メキシコ・オアハカ州)
▲タピラぺ族の木彫のタトゥー
 (ブラジル・マットグロッソ州)
▲アルマディージョ車
 (チリ) 
▲カラジャ族の土のタトゥー
(ブラジル・トカンティンス州)
オリナラのタトゥー仮面 ▲
(メキシコ・ゲレロ州)
甲羅に目のための孔が空けられています。


『世界の動物造形』展(10月11日まで)では、「アジア」「オセアニア」「中近東・アフリカ」「北米」「中南米」「ヨーロッパ」の6地域にわけて、動物の玩具や造形物を展示しています。中南米のアルマジロのように、中国のパンダやオーストラリアのコアラのように、それぞれの地域で特に親しまれている動物があります。そのことを玩具の世界は如実に伝えてくれますので、展示室では、ぜひ、ご確認いただきながら、それらの造形表現の面白さをご堪能いただきたいと思います。「これはアートだ!」と感じられる作品にもたくさん出合っていただけることと思います。

NO.111

宮島の八朔行事「たのもさん」
        
                                 (2011年9月1日  学芸員・尾崎織女)


 皆様が住まわれる地域では「八朔(はっさく=八月朔日、つまり八月一日)」の節句を祝われますか? 日本各地、特に瀬戸内海沿岸地方では、“たのもの節句”と呼ばれる八朔行事が古くから行われてきました。“たのも”とは、「田の面」「田の実」とも綴り、旧暦八朔は、田に実りゆく稲の健やかなことに感謝を捧げる節句として知られています。
 郷土玩具の世界には、この節句に、子どもの誕生を祝い、元気な成長を祈って贈答される玩具や人形が数々残されており、広島県尾道の「田面船(たのもぶね)」、福岡県甘木の「八朔雛」、福岡県芦屋の「八朔馬と団子雛(だんごびーな)」、長崎県壱岐の「八朔雛」などが有名です。その他にも、明治時代から大正時代にかけての郷土玩具画集『うなゐのとも・全十編』(清水晴風・西沢笛畝著)には、八朔に登場する“シンコ(新粉)細工”の人形がいくつか描かれていますが、このような童心あふれる人形を通しても、かつて地方ごとに豊かな“たのもの節句”が祝われていたことが想われます。“シンコ(新粉)細工”とは、米の粉を蒸して餅状にしたものを細工することをいいます。田の実りに感謝する初秋の節句にふさわしい素材として、小麦粉でも粘土でもなく、新粉が使用されたのでしょう。
広島県松永地方で八朔に小児が持ち遊ぶ
シンコ細工の人形
〜『うなゐのとも・第三編』より

広島県福山地方で八朔に小児が持ち遊ぶ
 シンコ細工の顔に紙製の衣装を着せた人形
〜『うなゐのとも・第三編』より


 兵庫県では、たつの市の港町・室津に“八朔の雛”の風習が伝わっており、現在は街をあげて夏の雛まつりを行っておられますが、ここでも、雛人形には、シンコ細工の鯛が捧げられます。

 さて、そのような八朔の催しが広島県宮島で行われていることを、当館友の会の笹部いく子さんとそのご友人で菓子文化の研究者でいらっしゃる溝口政子さんから教えていただいたので、ぜひ、見学させていただこうと、2011年旧暦八朔(8月29日)に合わせて、宮島へ出かけてまいりました。予想以上に素晴らしい夜の行事、その一端をここでご紹介したいと思います。こちらは、社団法人宮島観光協会が案内しておられる「たのもさん」についてのページです。
↓ http://www.miyajima.or.jp/event/event_tanomosan.html

 厳島神社をいただく神さまの島・宮島では、遠い昔から田畑を耕せない土地柄ですが、それゆえ宮島に暮らす人々にとって、体を養ってくれる農作物への感謝の念は、どこよりも強かったと島の方々は語られます。旧暦八朔が近づくと、商工会によって配られた全長60cmほどの木船に、思い思いの帆を張り、提灯を吊るし、ユニークな飾り付けをほどこして「たのもさんの船」が準備されます。その船には、シンコ(新粉)で作られた家族分の“団子人形と犬”が乗せられます。
 夕方6時、四宮神社への上り口へ、あっちからこっちから「たのもさんの船」が集まってきます。誕生した赤ちゃんの名前が書かれたり、子どもたちが好きな絵を描いたりしてどれこれも賑やか。中には転覆防止の副船を両側につけた豪華なものも見られます。数え上げると今年は42艘ありました。日が落ちて、各船の提灯に火が灯されると、賑やかさの中に厳かさが加わりました。


紅葉谷公園の四宮神社の上り口にずら〜りと並べられた“たのもさんの船


 船の中をのぞき込むと……愛らしい団子人形と犬が、どの船にも乗せられているのがわかります。先にご案内したサイトによると、シンコ細工の団子人形について、「人形は、三角錐の団子(高さ2cm位)をつくり、頭部には正方形の色紙を折り曲げ、斜めに貼り、深編笠をかぶせます。また肩から腋下に細長い色紙を貼り“たすき”としたり、長方形の色紙を縦長に張って“前かけ”として、素朴でかわいい踊り子姿の人形とします。細長い板の上に並べる人形は、家族や親戚の数とし、その左右に団子の犬や胴長の太鼓を置いたり、大吉と書いた幟を立てたりします。」とありますが、そのスタンダードをくつがえし、布製や粘土製の現代的な人形たちも見られました。
“たのもさんの船”に乗せられた シンコ細工の人形と犬


 8時、四宮神社の神職さんのお祓いを済ませた「たのもさんの船」は、厳島神社の海を目指して坂を下りて行きます。9時、満潮に近い海へ小さな船を浮かべると、それぞれの船は、厳島神社の大鳥居に吸い寄せられるように、潮の流れを逆にたどって対岸を目指します。月のない朔の夜、真っ暗な海に人形を乗せて流れゆく「たのもさんの船」は、灯りを湛えて美しく、おとぎ話の国に迷い込んだような夢見心地で船の行方を見つめ続けて夜が更けていきます。
 かつて、“たのもさんの船”は対岸の大野町の漁船や農家の方々に拾い上げられ、五穀豊穣や大漁の縁起物として田畑の畦などに供え、農作物の豊作や大漁祈願が行われていたそうですが、現在は、翌朝にも漁協の船が回収するのだと聞きました。
厳島神社の舞台から大鳥居の傍を通り、対岸をめざす“たのもさんの船”



 日本各地には、まだまだ情緒豊かな節句の行事が残されています。シンコ細工の団子人形をどんなに楽しく一所懸命に作ったかを話してくれる女の子に接するにつけても、大切に守っていきたいものについて深く考えさせられました。



NO.110

プレイコーナー便り                     (2011年8月23日  学芸員・尾崎織女)

当館には2か所のプレイコーナーがあります。一つはコマやけん玉、輪抜き達磨やはしご達磨など、日本の伝承玩具に触れる場所、もう一つは
座布団のベットで眠るテントウムシの玩具
ドイツやフィンランド、チェコやスペインなど、ヨーロッパの木製玩具で遊べる部屋です。後者には、歩きはじめた子どものためのプルトーイや、3歳前後の小さな子を夢中にさせる玉ころがしなどを多く設置しています。学芸室と壁ひとつ隔てて、このプレイコーナーから、日々、楽しげな声が響いてきます。時には「帰りたくない」と言って大泣きする子の声が聞こえることも。

そんな中、幼い女の子の声が耳に届きました。―――おやすみなさい。テントウムシさん。起きたらご飯を食べてね。―――そのあまりに可愛らしい声に、そっとプレイコーナーをのぞくと………3歳ぐらいの女の子が、子ども用の座布団をベッドに、スウェーデンの「テントウムシ」の木製玩具を寝かしつけているところでした。テントウムシの枕もとには、お椀にいっぱい、玉ころがし用のビー玉が置かれていました。まぁ、なんて可愛らしいこと!と笑みがこぼれました。

虫をテーマにした玩具の中、ヨーロッパ各地で題材としてよく取り上げられるのがテントウムシです。中でも七星
BRIO社のテントウムシ(スウェーデン)
のテントウムシの玩具はとても親しまれているように感じられます。日本では、テントウムシのことを、天のお日さまを指して飛ぶから「天道虫」と綴ると聞きますが、英語では「Lady bird(レディー・バード)」、ドイツ語では「Marienkafer(マリエンクウェーファー)」と呼ばれるそうです。Ladyは聖母マリアのこと。キリスト教国には、テントウムシは、聖母マリアの使いとなって農作物を食い荒らす小さな害虫を食べ、豊作をもたらしてくれる、というような伝説もあり、古来、広く愛される虫のひとつです。そのような心情がもとになって、テントウムシの玩具はヨーロッパの国々で支持され、クリスマス飾りのモチーフにも、時に取り上げられるでしょう。オーストリアではテントウムシに行き合うと天候に恵まれるとか、スウェーデンではテントウムシが女性の手にとまると結婚が近いとか、国々に楽しい言い伝えがあるようです。

プレイコーナーの「テントウムシ」(スウェーデン/BRIO社製)は、紐を引くと、腹部の車が転がって前進する“プルトーイ”、脚をゆらゆら動かす仕組みが付けられています。20年以上の歳月、たくさんの子どもたちに遊ばれ、傷んではいますが、長く愛された玩具がもつ独特の輝きに満ちています。




NO.109

牛のおもちゃ、日本・スイス〜『世界の動物造形』展より〜

                                  (2011.8.14  学芸員・尾崎織女)

数年前の夏、日本海に浮かぶ隠岐島の久見地区に伝承される星まつりを見学に出かけたのですが、その折、隠岐郷土館で素朴な郷土玩具に出合いました。「ばっこ」と呼ばれる牛の玩具で、カエデやツバキやマツや…身近にある様々な木の枝分かれしている部分を切り取って作られます。隠岐の島では古くから闘牛の催しが盛んに行われてきましたが、この玩具は、角に見立てた枝の部分に紐をかけ、二頭をからみ合わせると、双方から引っ張り合って角を突き合わせます。「男の子が、大人が行う牛突きのまねごとをして遊ぶもの」と説明にありました。ああ、ここでもこんなに素朴で味わいのある玩具が作られていたか、と嬉しくなりました。
↑隠岐で行われている牛突き
←素朴な牛突きの玩具「ばっこ」(隠岐郷土館の展示)
                           2007年8月


枝分かれした木を角に見立てて作る闘牛の郷土玩具は、新潟県小千谷市の「木牛」が有名ですが、岩手県奥州市にある“牛の博物館”にも「べご」と呼ばれる素朴な牛の玩具が展示されています。12年前の夏、牛の博物館のご協力を得て、岩手郡葛巻町に住む伝承者・近藤清助さん(当時81歳)に「べご」を作っていただきました。葛巻や岩泉地方は、南部牛の産地で、「べご」は、小学校に入学する頃の男の子の遊び道具。現在70歳以上の方々には、みんなこの玩具で遊んだ思い出があるといいます。枝をつけたアカマツの木を削り、藁縄を鼻につけてひっぱりまわす単純な遊びですが、可愛がって大事に牛を飼う父親の姿を真似たものと伝わります。

↑「木牛(もくぎゅう)」/新潟県小千谷市の郷土玩具
平成16年の中越大地震によって闘牛行事は一時中断して
いたが、地元の方々の熱意によって再開している。

↑「べご」/岩手県南部地方の郷土玩具
アカマツの木を切り、藁縄をつけた素朴な玩具。牛を飼う
父親の姿を真似、縄を引っ張りまわして遊んだものという。

いかがでしょうか、隠岐の島の「ばっこ」、小千谷の「木牛」、南部の「べご」―――これらは、離れたところに暮らす三兄弟のように思われませんか?
↑木の牛(バーゼル玩具博物館) 1900年代


そして、この三兄弟は、海をわたり、遠くヨーロッパにも兄弟をもっているのです。スイスのバーゼル玩具博物館には、木の枝を角に見立てて作られる牛の玩具が展示されています。
1900年代初頭のもので、鼻縄を引っ張ったり、角を突き合わせたりして遊ぶそうです。展示室でこの玩具に初めて出合った時には、“うわぁっ、小千谷の「木牛」に似ている!“と驚きました。牛を生活の糧とし、大事に愛して共に暮らす日々の中で、子どもたちが工夫をこらして、これらの玩具を作り出したことが想われました。その心は、地域を越え、国境も越えてつながりあっているようです。


動物をテーマにした民芸的な玩具を一堂に集めてみると、国が遠く離れているのに造形的に瓜ふたつの玩具を発見して驚かされます。牛に限らず、馬や象、亀……、それが自然物の姿を生かして造形されるものであればあるほど、よく似ているのです。このことは、現在、開催中の『世界の動物造形』展の中でご案内しています。展示室では、動物玩具の“兄弟・姉妹探し”をしていただくのも楽しいことと思います。――玩具の世界は、豊かな民族色をたっぷりと見せてくれる一方で、共通性や普遍性をもっていることに気付いていただけるのではないかと思います。








NO.108
 ふぐ だいこ
河豚太鼓                  
(2011.8.5  学芸員・尾崎織女)

数年前まで兵庫県立淡路高等学校で校長先生を務めておられた安積秀幸氏から、先日、「尾崎さん、おもちゃの“河豚太鼓”が出て
淡路島沿岸で作られた蛸壺の河豚太鼓
     (日本玩具博物館所蔵)

くる小説みつけたよ」と電話をもらいました。

日本玩具博物館は、淡路島の古老にお願いして作ってもらった“河豚太鼓”をいくつか所蔵しています。蛸壺漁がさかんな淡路島沿岸に住む子どもたちは、古くなって捨て置かれた素焼きの蛸壺を利用しておもちゃの太鼓を作っていました。イイダコをとる蛸壺は、掌にのるほどの大きさですが、子どもたちは、蛸が出入りする壺の入口に、捕まえた河豚(フグ)の魚皮を張って、即席で小さな太鼓に仕立てました。そんな昔を思い出して淡路島の古老に作ってもらったイイダコ壺の河豚太鼓は、指を弾くように打つと、ポンポンと乾いたいい音が響きます。

安積先生は、淡路島に赴任しておられた当時、淡路島の自然や文化に興味を抱かれ、地元の資料館などをお訪ねになることもしばしば。淡路島らしい蛸壺の太鼓にも興味を抱かれた先生は、北淡町歴史民俗資料館の富永孝さんにお願いして、イイダコ壺の河豚太鼓や皮? (カワハギ) 太鼓などを作ってもらわれ、校長室に飾っておられました。何に惹かれたか、私も、先生と一緒に蛸壺の太鼓に妙に夢中になったこと懐かしく思い出します。

河豚の皮を張った子どもの太鼓が出てくる小説というのは、岡本綺堂(1872~1939)作『半七捕物帳』。さっそく、その五十七話目の「河豚太鼓」を読みました。文久の頃(1861-63)、江戸市中で流行した「河豚太鼓」がキーアイテムになる誘拐事件です。岡本綺堂氏は、どのようにしてそのような習俗を取材されたか、河豚太鼓をこのように描いています。「・・・・・・十年ほど前から、誰が考え出したか知らないが、江戸には河豚太鼓がはやった。素焼きの茶碗のような泥鉢の一方に河豚の皮を張った物で、竹を割った細い撥で叩くと、カンカラというような音がするので、俗にカンカラ太鼓とも云った。もとより子供の手遊びに過ぎないもので、普通の太鼓よりも遙かに値が廉いので流行り出したのである。・・・・・・」と。
泥鉢と蛸壺の違いはあれども、『半七捕物帳』の「河豚太鼓」は、淡路の子どもたちが手作りした蛸壺の太鼓に似ています。実際、江戸時代後期に江戸市中の子どもたちを喜ばせた手遊び(=玩具)が、地方の郷土玩具や伝承遊びの中にその姿を伝えている例は数多くあるのです。カンカラ太鼓、河豚太鼓―――他の文献を当たってみたいと思います。
『半七捕物帳』は読んだことがなかったのですが、「張子の虎」「人形つかい」「唐人飴」「菊人形の昔」……など、幕末から明治の庶民の暮らしの中に息づいていた人形や玩具が登場するお話がたくさんあり、興味をそそられます。暑い夜が続きますが、幕末の手遊び文化を求めて、岡本綺堂の世界にでかけてみようと思っています。


NO.107
ユニークな動物の色と形を楽しんで〜『世界の動物造形』展より〜
                              (2011.7.24 学芸員・尾崎織女)

 台風6号が暑気を運び去ってくれたおかげで過ごしやすく感じられますが、皆様、お元気でお過ごしでしょうか。
「知恵の輪の解き方、教えて!」
子どもたちと井上館長

 夏休みが始まり、館内にコロコロと子どもたちのいかにも楽しげな笑い声が聞かれる今日この頃です。館長室と学芸室は、プレイコーナーのお隣にあるので、世界の国々のおもちゃで遊ぶ子どもたちの様子は、一枚の壁を通して響いてきます。
 私たちの部屋の扉を開けて「おっちゃんっ、おもちゃ館のおっちゃんっ!」と井上館長を呼び出す馴染みの男の子がいたりします。「何のご用?」と出ていく館長を取り巻いて、子どもたちは“九連環”という中国の知恵の輪の解き方を教えてくれるようせがんだりするのです。

 そんな子どもたちにも、そして大人の皆さんにも必ず楽しんでいただける展示をと、この夏、当館では、『世界の動物造形』と題する特別展を開催しています。
 その特別展の中から、おもしろいと思うトピックスを数回にわたってご紹介したいと思います。

 私が日本玩具博物館にお世話になり始めた頃、館の書棚の中の洋書『Children’s Toys of Bygone Days(過ぎし日のおもちゃ)』のページをめくりながら、「うわぁ〜すごい!」と感嘆の声をあげたことを思い出します。その書籍は、古代から近代にいたる西洋社会の玩具の歴史を写真入りで紹介するもので、著者はKarl Grober、1928年にロンドンのB.T.Batsford社から出版されています。ヨーロッパ玩具史を学ぶ上での必読書。私は、辞書をひきながら、夢中になって読みました。
 さて、この書籍の何に感嘆したか、というと、そこに初めて、紀元前の動物玩具の写真を見たからです。それは、パリのルーブル美術館に所蔵されている紀元前1100年頃の「ヤマアラシ車」と「ライオン車」でした。白い石灰石製のヤマアラシやライオンが長方形の台車に乗せられており、高さは4.5cmほどの小さいものですが、非常に愛らしいのです。3000年前の大昔にも動物の玩具が作られていたことに、私はしみじみ感動を覚えたのです。二つはともに、ペルシャのスサに神殿が築かれた時、その礎石を据える穴に中に奉納されていたものと伝わります。

ペルシャ・スサの「ライオン車」と「ヤマアラシ車」 紀元前年1100年頃(ルーブル美術館所蔵)
                        〜『Children’s Toys of Bygone Days』より〜
 『Children’s Toys of Bygone Days』の写真版をみると、エジプトにあるアレクサンドリア博物館にも紀元前500年頃の馬の木製玩具が所蔵されています。馬のフォルムはデフォルメされて非常に美しいものです。一方、大英博物館には、紀元
古代エジプトの「ワニの木製玩具」紀元前1100年頃
(ベルリンのエジプト博物館所蔵)
        〜『Children’s Toys of Bygone Days』より〜
前1100年頃のエジプト新王国時代の虎の玩具があります。高さ5p。紐をひっぱると、青銅製の歯がつけられた顎が動く仕掛けが非常に精巧であることにも驚かされます。ベルリンのエジプト博物館には、やはり紀元前1100年頃のワニの木製玩具が残されています。こちらは高さ8pで、顎が動く仕掛けまで作られているのです。
 ほんの数例ですが、紀元前の動物玩具の存在は、太古の人々が動物に対して親しみを持っていたことを示しています。そして、これらの動物玩具には、台車や車輪が付けられていたり、口を動かす仕掛けが作られていたりして、いずれも「動く」ことに意味をもたせているように思えるのです。太古の人々は、小さな造形を動かすことによって、それらに生命の息吹が与えられると考えたのかもしれません。

旧セヴィ社のワニ車(イタリア/1980年代)
 興味深いことは、こうした古代の動物玩具の形が、現在、世界各地で作られている民芸玩具にも、また各国のトイ・メーカーがデザインする近代的な動物玩具にも、確実に受け継がれているという点です。たとえば、イタリアのセヴィ社(1999年に版権を譲渡してセヴィ社は無くなりました)がデザインしたワニ車やカバ車は、紐をひくと口をパクパク開閉しながら、前進する仕組みです。まるで、古代エジプトのリアルに彫刻されたワニの木製玩具が、20世紀風にモデルチェンジしたかのようです。アメリカ合衆国のライオン車、ロシアの馬車などもまた、現代的な愛らしさの中に古代の玩具の姿がほの見えるようです。

 古代と近代の玩具を見比べながら想いめぐらせます………人間は、なぜ、何千年の歳月、一定の玩具を淘汰せず、大切に作り伝えてきたのだろうか………と。

 『世界の動物造形』展では、「古代の動物玩具のかたち」にも焦点を当ててご紹介するコーナーがありますので、会場では、写真パネルと20世紀の玩具を比べながら、そのユニークな造形をお楽しみいただき、哲学的な問いを問う時間をもっていただくのもよいのではないかと思ったりいたします。



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