NO. 180
イスラエルの「ドレイドル(Dreidel)」                         (2015.6.9 学芸員・尾崎織女)

昨年の秋、イスラエルから玩具博物館へご来館されたお客様とちょっとしたふれあいがあったのですが、その方々から今日、特別な贈り物が届きまし
イスラエルの「ドレイドル(Dreidel)」
た。お手紙は井上館長宛てで、ご来館時の我々のもてなしに対するお礼と博物館の展示や佇まいに非常に感銘を受けたことが綴られ、イスラエル伝統の玩具をぜひコレクションに加えてほしいとありました。同封されていたのは、「ドレイドル(Dreidel)」という名のコマでした。

ユダヤ文化についての書物では見たことがあったのですが、初めて手にするドレイドル。贈り主からの解説によると・・・それは、「ハヌカー(Hanukah)」というユダヤ教の祭日、子ども達に与えられる木製のコマ。ハヌカーは、“宮清めの祭”とも“光の祭”とも呼ばれます。カットされた四面にはヘブライ語でנ(ヌン)、ג(ギーメル)、ה(ヘー)、ש(シン)の文字が描かれており、それぞれに、イデッシュの言葉の頭文字で“何もない”“全部”“半分”“置く”を表します。

ハヌカーの祭日、子ども達に贈られる
遊ぶためには、まず、チップ(コイン型のチョコレートなど)と、チップをいれるポットを用意しなければなりません。そして、遊ぶ子ども達は、コマを回して、ギーメルが出たらポットの中の全部のチップを獲得でき、へーが出たら半分をもらえます。ヌンだと何もせず、シンが出ると、自分のチップをポットに置かなくてはなりません。さらに、この四面の文字はヘブライ語の「そこで偉大な奇跡が起こった」の頭文字を表すものとされ、意味深長、イデッシュの文化に裏打ちされた玩具といえます。

あまりに美しいラッピングだったので、どうしたかことか?!と思ったのですが、ハヌカーの祭は、キリスト教のクリスマスの頃にあたり、伝統のハヌカー・プレゼントであることが表されていたのだとわかりました。
エマニュエルさんデザインのドレイドル


もうひとつのドレイドルは、Yair Emanuelさんというアーティストのデザインになるもので、エルサレムの街や風物が描き込まれ、とても愛らしい作品です。コマのレストにもなる円筒は、チップ入れとして使用されるのでしょうか。

ユダヤの人々の文化を担った玩具を私達のためにお送り下さったTatyana Prigozhina-Vaskevichさん、Alexander Vaskevichさんにこの場を借りてお礼申しあげます。イスラエルのドレイドルは、4号館2階の常設コーナーに展示しております。ご来館の皆さまにはぜひ、足をとめてご覧下さい。



NO. 179
初夏の香り                         (2015.5.5 学芸員・尾崎織女)


コラムとしてご紹介する草花遊びの原稿に載せたい画像があって、一昨日は故郷の広峰山まで出掛けました。山の蕗をとって「蕗の葉の柄杓(ひしゃく)」を作りたかったのです。姫路市街の北方に座す広峰山から増位山は、私の子ども時代の遊び場でしたから、クヌギのどんぐりはどこに落ちているか、シイの実ならどこか、クワガタムシはどこにいるか、クマザサはどこに生えているか、そして蕗はどこに群生しているか……、その地図が頭の中にあるのです。
まだ少し小ぶりでしたが、蕗の群生をみつけて、「蕗の葉の柄杓」を作りました。作り方は簡単です。葉先をたくるようにしてつぼめ、茎に結びとめるのですが、この時、茎の皮をすう~と薄く剥いて、その皮を使います。
山川の冷たい水をすくって飲めば、蕗のツンとして爽やかな香りがして美味しいのです。子どもの頃は、この柄杓でメダカやオタマジャクシをすくって遊びました。明治生まれの私の祖父母の世代は、山仕事の途中、蕗の柄杓を作ってわき水を飲み、その水飲み場には次に来て飲む人のために、そのまま柄杓を置いていったりしたそうです。優しさにあふれた手作りの柄杓です。
野山へのハイキングの途中、蕗に出合われたら、ぜひ作ってみて下さい。

さて、今日は新暦の端午節です。一昨日、広峰から増位山へ足をのばしたとき、沼に葉菖蒲の群生を見つけたのが嬉しく、数株をいただいてきました。その葉菖蒲と今朝摘んだ蓬と合わせて、玩具博物館の玄関口の屋根に「菖蒲葺き」をほどこしました。葉菖蒲と花菖蒲はまったく違う種類で、沼に生える葉菖蒲を根から抜くと、果物を切ったときのような香りが立ちます。最近読んだ『堤中納言物語』には、端午節の“根合わせ”として、二方に分かれて菖蒲の根の長さを競うという、雅なのか素朴なのかわからない、楽しいシーンが描かれています。葉菖蒲の形が剣にも似ていることから、またその根に薬効があることから、一千年以上前から、端午節の中心的な役割を担ってきたものと思われます。

………節は五月にしく月はなし 菖蒲 蓬などのかをりあひたる いみじうをかし 
九重御殿の上をはじめて 言ひ知らぬ民の住家まで いかでわがもとに繁く葺かむ
と葺きわたした 猶いとめづらし (『枕草子・36段』)

平安時代にはすでにこの「菖蒲葺き」が京都あたりでは庶民の間でも親しまれていたことがわかります。――屋根に菖蒲を葺く風習は今ではすっかり見られなくなりましたが、平安の昔から江戸時代を経て明治・大正の頃までは、どれぐらい多くの菖蒲を屋根に葺くかということに、私たちの祖先は上下貴賎を問わず、結構、情熱をもやしていたようです。

ご年配のご来館者には懐かしげに、お若い世代には端午の魔よけと知るととても珍しげにご覧になられ、お写真を撮っていかれます。風が吹くと、屋根のもと、ふっと初夏らしい香りが漂ってきます。古式ゆかしい風習―――古い町並を残す街々で復活が果たされると素晴しいと思います。


                    



NO. 178
展示室に響く鳥の声                (2015.5.1 学芸員・尾崎織女)
玩具博物館の周りでは今、鳥たちが子育ての真っ最中。スズメもツバメもカワラヒワもエナガもカラスも、親鳥は雛鳥たちのために生き餌を加えて忙しく飛びまわっています。愛鳥週間(5月10日~16日)のあるこの季節に合わせて、1号館では『世界の鳥の造形展』を開催中です。アジア・オセアニア、中近東・アフリカ、北米・中南米、ヨーロッパの四地域に分けて、それぞれの特徴的な鳥の造形を展示している他、ついばむ、つつく、はばたく、とびうつる、よちよち歩く……など、鳥の様子を真似て作られた玩具を集め、“動き”をテーマにグルーピングして紹介しています。

世界の鳥笛のコーナーでは、一音だけを鳴らす「単音笛」、鳥笛の胸や背中などに指穴がひとつあって、カッコウ♪と鳴る「二音のカッコウ笛」、指穴が二つ以上あって音階を奏でる「オカリナ」、鳥笛の胴部に水を入れて鳥のさえずりを表現する「水笛」に分けて展示しています。
ヨーロッパにもアジアにもアメリカにも土製の鳥笛がありますが、世界のものと比較しておもしろいのは、日本の郷土玩具の鳥笛には指穴が作られないことです。日本の郷土玩具の鳥は、フクロウや鳩、鶏を題材にしたものが各地で作られており、尾羽の部分から息を吹き込み、ホウホウ♪ポウポウ♪プウプウ♪と鳴かせるのが一般的です。それに対して、ドイツやフランス、ルーマニア、ハンガリー、ウクライナ、ロシアなど、ヨーロッパの国々では、もちろん単音笛も見られますが、指穴が二つ、三つ、四つと開けられたオカリナ型が多く作られ、それらは鳥の賑やかなさえずりを表現するばかりか、メロディーを奏でる楽器を志向していることがよくわかります。一方、日本の鳥笛の中には、ホーホケキョ!と鳴かせる竹製のウグイス笛を代表として、かつては、ヒバリやホトトギスの声をピーチクパーチク!とか、テッペンカケタカ!とか、言葉で“聴きなして”、それを音で真似る笛が作られていました。同じ鳥の声ですが、ヨーロッパの人たちは、音楽を司る右脳で聴き、日本人は言語を司る左脳で聴くと言われます。鳥笛における音楽性と言語性、この志向の違いは、このようなことと関係があるのかもしれません。
日本の郷土玩具の鳥笛(単音笛)
 左から佐賀県弓野の鳩笛・青森県弘前の鳩笛・
福岡県津屋崎のふくろう笛・ 福岡県古 博多の鶏笛
ヨーロッパの郷土玩具の鳥笛(二音笛・オカリナ)
 左からフランスの鳩の二音笛・フィンランドの鶏の二音笛・
 スウェーデンのアヒルのオカリナ・ドイツのアヒルの二音笛・ロシアの鶏のオカリナ


ドイツの鳥の水笛(カップに水を注いで吹きます)
左から、ヘッセン州の鳥の水笛・オーデンヴァルド
のフクロウの水笛・ディーブルクの鳥の水笛
ヨーロッパの鳥笛の中には、ドイツ在住の二人の土笛コレクター――Rolf G. MariさんとAlbertE.Jünglingさん――から贈られた貴重な鳥の水笛があります。中でも、ドイツはヘッセン州Marjossで作られたもの、フランクフルト近郊で作られたもの、ウェストファーレンで作られたフクロウ、オーデンヴァルドで作られたものなどは秀逸で、民芸としての美しさとカップに水を注いだときの音色の美しさは格別です。
先日は、盲目の方々に声のビデオレターを届けるボランティア活動をなさっておられるグループの方々の訪問を受け、世界各地の鳩や鶏、フクロウ、カッコウの土笛の音、また鳥を呼ぶバードコールの音、そしてドイツの鳥の水笛の美しいさえずりをお話とともにご紹介しました。グループの方々は、録音器材を前に、と
「世界の鳥笛の音色を聴く」展示解説会風景
てもわかりやすく鳥笛の形と色を紹介し、私が吹きならず音色を楽しみながら録っていかれました。子どもの手のひらに包めてしまうぐらいの小さな造形ですが、表現力に優れた鳥笛――形と色と音をもっています!――は、楽器演奏とのコラボレーションや自然の風景づくりなど、様々な場面でその力を発揮するものと思います。

5月5日(祝・火)、10日(日)、24日(日)の2時30分~、1号館展示室で、「世界の鳥笛の音色を聴く」展示解説会を開きますので、どうぞ皆さま、日時を合わせてご来館下さいませ。



NO. 177
展示室に響く若い人たちの音楽                (2015.4.7 学芸員・尾崎織女)


今春も企画展に合わせていくつかのワークショップを開催し、多くの方々に展示の世界に一歩踏み込んで楽しんでいただく機会をもちました。2月には
3月下旬に満開になった杏の花
人気のワークショップとして定着した「貝合わせを作って楽しむ」会を、3月には「イースターエッグを飾ろう」と題して、キリスト教世界の春の祝祭について体験的に知る会を開いてご好評をいただきました。

それから、今春、初めての試みとして、地元の高等学校の生徒さんたちにお越しいただき、「雛まつり」展開催中の6号館展示室で演奏会を開きました。兵庫県立福崎高等学校コーラス部と兵庫県立香寺高等学校箏曲部の顧問の先生方から相次いでお申し出をいただいたことがきっかけです。
お彼岸を迎えて庭の花々が一気に咲き始めた3月21日、1回目の「兵庫県立福崎高等学校コーラス部の皆さんの歌声」を開催しました。2年生と1年生の5名の女生徒さん達によるアカペラ五重唱。13時半からと15時からの2回、30分のプログラムを演奏していただきました。昭和時代中頃まで小学校で使われていた木の椅子を並べた会場には、小さな子ども達からご年輩の方々までが集い、「うれしいひなまつり」や「朧月夜」、「一番はじめは」などの歌声に耳を傾けました。譜面を開いて熱心に声を響かせる生徒さん達の様子は、小磯良平画伯の『斉唱』の女生徒を想わせる清純さがあり、歌声のやさしさと懐かしさに胸を打たれて、涙ぐまれるご来場者もありました。

2回目の「兵庫県立香寺高等学校箏曲部の皆さんの演奏」は、野にも山に も桜が満開となった4月5日の日曜日、新3年生と新2年生の4名の女生徒さん達にお越しいただき、春の童謡メドレーや「うれしいひなまつり」、「さくら」をはじめ、20分ほどの筝曲四重奏を、13時半からと15時からの2回、お届けいただきました。
その一生懸命に演奏される初々しい姿を間近に、若々しい音色に包まれて、ご来場者も展示室の雛人形たちも微笑み交わしながら、温かい気持ちに満たされました。演奏にいらして下さった皆さん、顧問の先生、またご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。

どのような分野の博物館においても、来場者の年齢層の中で、最も頻繁に来館いただきたい高校生、大学生の割合はとても低いのです。地元の若い人たちに親しまれる博物館であるためにも、このような交流を広げていけたら…と思います。




NO. 176
久しぶりの郷土玩具展~富山県こどもみらい館へ~    (2015.3.31 学芸員・尾崎織女)
ひと月遅れの雛まつりが近づき、今年も草のお雛さまを作りました。タンポポの花を頭に見立て、ギシギシの葉の衣装を着せた素朴な草雛です。かつて播州の農村部などでは、桃の節句になると、子どもたちはお弁当を提げて野山へ行き、小川のそばでタンポポや菜の花やスミレなどの花を摘み、何対もの草雛を作りました。古代、中国から桃の節句が伝来したころ、草人形(ひとがた)を作って 水辺で身の汚れをはらう儀式が行われていましたが、素朴な草花のひな人形は、そんな大昔の風習を今に伝えるものかもしれません。
作り方はとても簡単です。ギシギシなどの葉を葉脈にそって折り、襟がきれいに見えるように5枚ほどを重ねます。そこへタンポポンの花を置き、ギシギシの葉を一枚ずつ、左から右から花の茎の上に着せ掛けていきます。お花が十二単を着こんでいるようで愛らしい草雛です。ひと月遅れの雛まつりは、桃の花も開花して桃の節句本来の季節感にぴったりです。新暦3月3日が過ぎて、衣装雛を収納してしまわれたお家も多いと思いますが、今年は素朴な草のお雛さまで4月3日の雛まつりをなさってみてはいかがでしょうか。



 ①葉脈に沿って半分に折ったギシギシの葉を
少しずらして重ね置く。
タンポポの茎をその中央に置く。
 ②ギシギシの葉を一枚ずつ左から右から
花の茎の上に着せ掛ける。
  ③すべての葉を着せかけたら、草の下方を
小枝で縫うようにして留め、
葉や茎を切りそろえる。

さて、春のワークショップや春のライブなどが一段落しましたので、先週は富山県こどもみらい館(大型児童館)からご依頼を受けた「日本の郷土玩具展」の出品作業に没頭しておりました。ご依頼に沿う内容の玩具資料を先方の展示ケースに合わせて選定し、一点ずつ撮影してコンディションを記録した後、梱包してパッキングする作業です。
郷土玩具展の依頼は久しぶりのことです。ふり返れば、ここ数年、郷土玩具に対するまなざしが変化してきていることが感じられます。若い世代の人たちは、郷土玩具のまとまった世界が実生活から姿を消してしまった時代を経て、今、まるで異文化に出合うような新鮮さでもって郷土玩具の造形と対面されるのです。―――「とても愛くるしい」「斬新でポップなデザイン」「出合ったことのないかわいらしさ」――感想を伺うと、そんなふうにとても素直に表現されます。ある世代以上の方々が感じるような、お母さんが嫁入りの時に持ってきた飾り戸棚にぎっしり詰め込まれた土産物の土俗味ではなく、懐かしくも少し気恥ずかしさを覚える“昭和な世界”というわけでもないのです。


梱包して箱詰めした玩具
郷土玩具(当時は“手遊び”とか“手守り”などと呼ばれていました)が本当に生きていたのは、目に見えないものに対する人々の信仰心が篤く、いわゆる“まじない”とか“迷信”とかいった事柄が祖先の暮らしの中で大きな位置を占めていた近世的な時代においてのことです。そういう意味では、今、私達の手元に遺された郷土玩具はすでにその“こころ”の一部を失ってしまったものです。それでも、その造形が作り継がれていくというのには大きな大きな意味があることに鑑み、今回、ご依頼を受けた郷土玩具展を大切に用意致しました。郷土玩具の造形には、間違いなく、時を超えていく魅力があるのですから!

富山県こどもみらい館へ展示をお持ちするのは、①1996年冬の「駄菓子屋のおもちゃたち」、②1999年夏の「日本のお面たち」、③2000年夏の「子育ての祈りと願い~伝承玩具展~」、④2001年夏の「日本のままごと道具の変遷」、⑤2002年春の「世界をめぐる鉄道の旅」、⑥2002年夏の「世界の玩具展」、⑦2003年春の「世界の鳥の玩具展」、⑧2004年春の「世界のからくり玩具展」、⑨2004年夏の「世界の人形展」、⑩2005年春夏の「イタリア・セヴィ社のおもちゃ展」以来、なんと11回目になります。そのような歴史がありますので、主だったスタッフの方々とは気心も知れ、親しみと信頼を寄せるお付き合いをさせてもらっています。今回、久しぶりの郷土玩具展が、富山の若い親世代の方々に親しまれ、愛されますように…。展示会期は来る4月25日から7月12日までが予定されています。


                       


NO. 175
プレイコーナーの人気もの                     (2015.3.7 学芸員・尾崎織女)
新井三重子さんのお雛さま
新暦桃の節句、鳥取県日野町で活躍しておられたおもちゃ作家、新井三重子さんの小さな木彫雛を展示室のあちらこちら―――囲炉裏端、小さな喫茶コーナー、生きたお花の傍ら、船箪笥の上―――に飾りました。それらは、新井さんが長野県塩尻にアトリエをもっておられた1990年代のはじめ頃、コブシや椿の上に花の精のように咲くお雛様の愛らしさに打たれて、コレクションとして購入させていただいたものです。その新井さんが一昨年、62歳の若さで旅立たれたことを、岡山のおもちゃ作家の若林孝典さんから贈呈いただいた追悼作品集『もしも風になれるのならば』を通して知りました。久しぶりに梱包を解いたのは、その追悼作品集に胸を打たれ、小さな祈りの造形とも感じられる新井さんの作品を、またあらためて見つめてみたくなったからです。手のひらで包めるほどの小さな作品群ですが、ご来館者は、囲炉裏端などに小さなお雛さまを見つけて、笑みを浮かべていかれます。それは本当に、優しさがにじみ出してくるようなお雛さまです。ご来館の方々には、ぜひ、目にとめていただければと思います。

さて、2号館と3号館展示室のプレイコーナーには、それぞれ東北地方の木地玩具とヨーロッパの木製玩具を出しているのですが、来館する子ども達にいつも大人気。ドイツ、ベック社のクーゲルバーンも、スウェーデン、ブリオ社のレールセットも、歴代の子ども達に遊ばれてつやつや光っています。その中に昨年末、北九州のおもちゃ作家、湯元桂二さんの新作おもちゃが加わりました。

扉から流れ出してくる木の玉にビックリ仰天!
お家の煙突から27個の木の玉をひとつずつ、入れて、入れて、また入れて、全部入ったところで、お家の扉をコンコン♪コンコン♪とノックします。そして、そっと扉と開くと、27個の木の玉がダダダダダダダダッ~と流れ出てくるのです。子どもたちはビックリ仰天、大喜び!!何度も何度も何度も木の玉を入れてはドアを開け、その度にビックリ仰天して遊び続けています。流れ出してくる木の玉の
湯元桂二さんの木のおもちゃ
動きは、家の庭に見立てられた白いロープでせき止められ、遠くへ転がって行ったりしないのです。やがて、子ども達はお家のアプローチにエストニアの木の車を駐車させたり、庭でチェコのペンギン車を遊ばせたりして、遊びを広げていきます。これは素晴しいおもちゃです。
湯元さんからは、ペットボトルをつかったビー玉レースのおもちゃや、カタツムリの坂道下りのおもちゃなど、数々の寄贈をいただいておりますが、どの作品も子どもの遊び心を満足させる力があります。湯元さんご自身が子ども心にあふれた、とても優しい方なのです。

来館される子どもさんの中には、プレイコーナーの中で特にお気に入りとなるおもちゃに出合い、そこを離れられなくなって、閉館時間になっても帰れなくなるぐらい夢中で遊ぶ姿も見られます。親御さんに見守られて、自分の世界で遊び続けられるとき、小さな子たちは皆、幸せな笑みを浮かべています。精神的な安定はこのような時間の積み重ねの中で得られていくものなのでしょうね。ご来館の皆様には、プレイコーナーでお気に入りのおもちゃに出合っていただきたく思います。




NO. 174
雛まつり~まちの雛・ふるさとの雛~オープンします             (2015.2.5 学芸員・尾崎織女)
蝋梅に続いて万作が開花し、ひと雨ごとに春らしさを増す昨今です。インフルエンザが流行しているようですが、お元気でお過ごしでしょうか。私どもの館のスタッフは幸い風邪もひかずに元気で頑張っております。

おかげさまで東京目黒雅叙園の「百段雛まつり~瀬戸内ひな紀行~」は去る1月23日に無事オープンし、七つのお部屋の雛人形たちは、連日、何百人ものご来場者をお迎えしているようです。岡山県児島の野崎家の日本最大級の享保雛や広島県KIコレクションの立派な次郎左衛門雛、また兵庫県西宮の白鹿記念酒造博物館の小さな京雛の段飾りなどと並んで、当館の資料が雛まつりに参加させていただいていること、とても喜ばしく思います。美術装飾がほどこされた昭和初期の御座敷でご覧いただく雛の姿は、館の展示ケースの中でご覧いただくのとはまた違った情趣がありますので、ぜひ脚をお運び下さいませ。会期終了は3月8日。後半になると例年、ご来場者が倍増するようですので、冷たい風が吹く時期ですが、お早めにお出かけ下さい。また、展示会場は保存上の措置から暖房がとまっておりますので、脚元を暖かくしてご訪問いただければ幸いです。
「静水の間」の展示風景~江戸の雛・京阪の雛~ 「十畝の間」の展示風景~御殿飾り雛~

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雅叙園の展示に引き続き、学芸室では、先週から今週にかけて、館内の春の特別展「雛まつり~まちの雛・ふるさとの雛~」の準備を行いました。江戸時代の雛人形作りは、安永年間(1772-81)頃になるとやがて江戸へと飛び火し、大都市部の町衆たちの間に賑やかな雛まつりが営まれるようになります。京阪と江戸の好みは違っていましたが、都市部の雛人形は、それぞれの美意識によって意匠をこらし、技を尽くした美術工芸的なもので、町人たちが愛した人形であるため「まち雛」と呼ばれたりします。それは貴族社会で飾られる有職故実に忠実な雛人形とは異なり、庶民が胸に描く夢の世界の表現でもありました。大都市部の雛まつりはやがて地方の町々、農村や山村へも拡大し、それぞれの土地では、身近にある材料を使って非常に素朴な人形作りが盛んになりました。良質の粘土がとれる農村部では型抜きで土雛が作られ、反故の和紙などがたくさん出る城下町などでは張り子の雛が、また地方の町々では残り裂を利用して押絵で様々な人形が作られて初節句に贈答されました。江戸時代末期頃から昭和初期にかけて、日本という国には、土地ごとにユニークな雛飾りがあり、私達が想像する以上に豊かな雛まつりが行われていたと思われます。

本展では、そのような雛の世界を展示室に広げてみました。福島県三春張り子の雛飾り、兵庫県氷上町の天神人形を上段にすえる土雛飾り、兵庫県関宮町の土雛飾り、広島県三次の天神をずらりと並べる土雛飾り、大分県日田の歌舞伎の名場面を押絵人形に仕立てた雛飾り……などなど、「えっ?!これが雛飾りなの?!!」と意表をつかれるふるさとの雛人形が勢揃いしています。なつかしくご覧下さる方々がおられる一方、若い世代の方々の目には土俗的な人形表現の中に斬新なものを感じていただけるのではないかと思います。
兵庫県氷上町の土雛飾りと関宮町の土雛飾り 島根・鳥取の土雛・押絵雛/大分県日田の押絵雛飾り“おきあげ”
さらに、阪神淡路大震災から20年にあたり、「ランプの家」には、被災地から寄贈を受けた雛人形を数組、展示いたしました。
1995年、被災地の間近にあって、多くの博物館学芸員が文化財レスキューに動き始めた早春、玩具博物館にできることは何だろうと話し合い、新聞各社のご協力をいただいて、「家屋の倒壊や転居などで保管できなくなった節句飾りのひきとりをします」と呼びかけました。失われる人形たちの生命をなんとか次代へつなぎたいと考えたからです。トラックで運んで来られる方、段ボール箱に泥だらけの人形を詰めて送ってこられる方、お電話をいただいて私たちが引き取りにうかがった方―――年末までに、その数は200件に及びました。

「カタストロフィというにふさわしい状況の中でも、日本人は人形を救けようとするのか?!!なんて心優しい人たちなんだろう!!」――当時、ブラジルへ「日本の伝統玩具」の展覧会をおもちしていたのですが、サンパウロやクリチーバやリオの人たちは、被災地から引き取った雛飾りの前で目を真っ赤にして、そんなふうに日本の文化を評価して下さいました。

あれから20年――来る日も来る日も人形の泥を落とし、ひび割れを直し、衣装を筆で洗い、「ランプの家」に洋燈をともして、深夜まで館長と人形の整理に明け暮れた一年、あのときの気持ちを想い起こしています。寄贈者の了解を得て、ドイツやスイス、ブラジル、アメリカ、中国・・・などなど海外の玩具博物館へ再寄贈したり、近隣の幼稚園や介護施設などへも再寄贈をしたりしましたが、手元には雛飾りだけで100組ほどが残されました。武者飾りは50組ぐらい残りました。
ランプの家の雛飾り~被災地からきた雛人形~ 被災地から寄贈を受けた源氏枠飾り雛
毎春の雛人形展では、それらの中から、企画にあわせて、おでましいただいてきたのですが、20年の節目にあたる今春は、当時、整理作業を行ってい
20年前、激震地から泥だらけで届いた雛人形
たランプの家に特別に思い出深い人形たちを展示し、ご高齢になられた寄贈者の方々にお見せできたらと思っています。激震地から届いたひと組は、段ボールを開けたら土まみれでした。
亡きおばあさまの形見の人形だから、どうしても救けたくて、倒壊した家屋の下から掘り出したと伺いました。出来る限り綺麗にしたのですが、状態がよくないため、一度、展示したきり。19年ぶりのおでましです。こちらは4月3日までの展示とさせていただきます。

こうして、日本玩具博物館の雛まつりの準備が整いましたので、早春の情趣あふれる玩具博物館へお出かけ下さいませ。たくさんの雛たちとともにお待ち致しております。








NO. 173
雛まつりの準備             (2015.1.16 学芸員・尾崎織女)
小正月も過ぎ、皆さまには2015年の日々を順調に走りだされたことと存じます。本年もどうぞよろしくお願い申しあげます。

日本玩具博物館では、元旦から、神戸新聞の朝刊3面で「おもちゃの四季」と題する365日連載をもたせてもらっ
神戸新聞「おもちゃの四季」スクラップ帳
ています。お正月、節分、桃の節句、端午の節句、梅雨、七夕、夏休み、お盆、秋祭り、クリスマス……、めぐる季節の歩みに合わせるようにして作られた玩具や人形を、日々、一点ずつとりあげて写真とともにご紹介するものです。
地元兵庫の郷土玩具や郷土人形のことから始めて、その歴史に触れ、日本全国へ、さらに世界へと広げていく企画で、今のところ、主に井上館長が日本の郷土の玩具を、私が世界の民芸玩具を担当しています。神戸新聞を手にとられたら、小さな囲み記事ですが、「おもちゃの四季」をご覧いただければ幸いです。

ところで、私はこれまで存知あげなかったのですが、新聞社は、読者が連載を切り抜いてスクラップするための専用冊子を制作されているのですね! 試みに、掲載いただいた記事を順番にスクラップしてみたところ、例えば、日本のぶちゴマと中国の陀螺(=独楽)、伊勢の鳴りゴマとインドネシアの竹鳴りゴマ――それらの形の共通性は、スクラップ帳を開くと一目瞭然で、とても楽しいものだと知りました。スク
「百段雛まつり」チラシ
ラップ帳は日本玩具博物館のミュージアムショップでもお預かりしておりますので、ご希望の方はどうぞ(定価=216円)。

学芸室では、来る1月23日から3月8日までの会期で、東京目黒雅叙園の「百段階段」(東京都指定有形文化財)で開催される「百段雛まつり」に展示協力する準備を進めてきました。「百段雛まつり」は日本各地の雛人形を旅するシリーズで、第6弾目の今年は“瀬戸内ひな紀行”と題して、兵庫、岡山、広島の博物館や名家が保存する時代雛が一堂に
搬出準備完了!
会します。絢爛な花鳥画や歴史画などで彩られた特徴ある7つの部屋に緋毛せんが敷かれ、雛人形たちが居並ぶ風情は圧巻で、40日間の会期に6万人平均の入場者があると伺っています。毎年、蝋梅が咲き香る香寺町の展示室で、おっとりと過ごしてきたお雛さまは、「百段雛まつり」で、どのような出合いを果たすでしょうか。チラシがその雰囲気を伝えていますが、表を飾っているのは日本玩具博物館所蔵の江戸型古今雛。彼らは200年近くの時を超えて、生まれ故郷のお江戸へと里帰りすることになります。

その他、日本玩具博物館からは、“静水の間”に江戸後期の享保雛や古今雛を、“十畝の間”に明治・大正・昭和の御殿飾り雛を、“頂上の間”に段飾り雛とちりめん細工(古作品+新作品)を、そして正面玄関には、ちりめん細工のつるし飾り――姫路、静岡、横浜、東京、新潟、山形、秋田の日本玩具博物館ちりめん細工研究会のメンバーによる力作――を展示させていただきます。私どもの作業場では一週間ほどかけて最終的な展示シミュレーションなどを行い、一昨日、大掛かりな梱包作業を終えたところです。明日、すべての梱包物を搬出し、19日から4日間ほどかけて、井上館長と一緒に現地で展示作業に当たります。

新春から春への晴れ舞台―――雛人形にとっても、当館ちりめん細工研究会のメンバーにとっても、そして私どもにとっても―――を作るべく、心をこめて準備してまいります。1月23日(金)がオープンです。関東方面の方々にはぜひ、脚をお運び下さいませ。


学芸室2015後期 学芸室2014後期 学芸室2014前期 学芸室2013後期 学芸室2013前期 学芸室2012後期
学芸室2012前期 学芸室2011後期 学芸室2011前期 学芸室2010後期 学芸室2010前期 学芸室2009後期 学芸室2009前期
学芸室2008後期 学芸室2008前期 学芸室2007後期 学芸室2007前期 学芸室2006後期 学芸室2006前期 学芸室2005







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