NO. 207
展示解説会
                                 (2016.12.22  学芸員・尾崎織女) 
クリスマス・アドベント(待降節)も第四週に入り、12月4日にお皿にまいた「バルバラの麦」が背を伸ばし始めました。世界のクリスマス展会場では、今年も土日などを中心に展示解説会を開いています。先日は、ルーマニア出身の若いご夫妻がご参加下さっていたので、ルーマニアのクリスマスの祝い方を時折、お訊ねしながらお話を進めました。12月6日、彼らの町にプレゼントを運ぶのは「聖ニコラエ」ですが、イブの夜にもサンタクロースに当たる人物「モシェ・クラウチン(=ミスター・クリスマス)」が子どもたちを訪問するそうです。ドイツでは聖ニコラウスと「ヴァイナッハマン(=ミスター・クリスマス)」、スウェーデンなどではトムテやユーレボックと「ユーレマン(=ミスター・クリスマス)」―――ヨーロッパの国々には、伝統の贈り物配達人に加えて、アメリカ合衆国型サンタクロースの影響を受けたミスター・クリスマスがやってくるというわけなのですね。各国のクリスマス飾りの中にもその両方の姿が見られます。

これまで、季節の特別展の会期には、平均5~6回、多い時には15回ほどの展示解説会を行ってきましたが、それぞれの会ごと、参加の皆さんにお話をしてもらいながら、その日、その時、たまたま参集された方々とともに、同じ展示品、同じ話題を囲んで、ともに楽しめる、その時限りのコミュニティのようなものが出来上がった時には本当にうれしく思います。学芸員にとって、展示解説会は来館者と一緒につくる小劇場にも似た楽しみがあると思うのです。

そんないつもの12月を過ごしながら、神戸開港150年を記念するデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)での企画展「TOY&DOLL COLLECTION」の準備も進めています。会場工事の方は、造作のご担当業者の皆さんが完成図のイメージに向かって、着々と内装を進めて下さっています。ギャラリー空間
会場イメージ図
をリノベーションして玩具たちが暮らすいくつかの部屋をつくっていくという感じでしょうか。

館内ではスタッフたちと展示ケース内の展示台作りに勤しんでいます。これらを使うことでケース内空間にリズムと立体感が生まれるし、展示物をケアする場合においても、私たちの玩具展示にはこれらのやわらかい台が必要です。展示コーナーごとに彩りを設定していますので、展示台もそれに合わせて、草色、黄緑色、水色、黒色、金茶色、灰梅色……と色を揃えて、オープン時だけで500個を作ります。実はこの展示台はすべて菓子箱を包んだもの。様々な大きさの菓子箱を整形しクロスを切って貼り付けていきます。こうした地道な作業にも心を籠めることで、展示空間は温かいものになると思うのです。
展示台作りの様子
KIITOでの展示は年明けて1月25日オープン。どうぞご期待下さいませ。http://www.kobeport150.jp/event/e170100.html


NO. 206
世界のクリスマス展へのお客さま
                                 (2016.11.27  学芸員・尾崎織女) 
井上館長が回した姫路の鉄輪独楽を
 手のひらに受けるコロンビアから来館者

先日、コロンビアの首都ボゴタからのご来館者が、「これを寄贈したいのです。」とボゴタの玩具店で求めたというけん玉(Balero) と投げコマ(Cumbre)を差し出されました。「まぁ、嬉しい!!コロンビアのBaleroは玩具博物
コロンビアの独楽とけん玉
館に1点もなかったんですよ。どうしてこのようなご親切を受けるのでしょうか?」―――先年、日本を旅行中に当館を訪ねた彼のお母様が「とても楽しくて、館の皆さんが親切なところだから、ぜひ訪問するように。」と勧めて下さったのだそうです。
日本を旅行することになった彼は、コロンビアからのギフトをもって訪ねて下さったのです。BaleroやCumbreの遊び方なども彼に披露してもらい、それはとても素敵な出会いとなりました。玩具博物館の資料は、このような日常的な交流の中で少しずつ増えていくのです。

さて、今年も「世界のクリスマス展」会場に、小さなお客さまをお迎えする頃となりました。近隣のキリスト教系の幼稚園な
右手にプレゼント、左手に
お仕置きのムチをもった
聖ニコラウスの煙出し人形
どから日々、3歳、4歳、5歳のかわいい子どもたちが目をきらきらさせてやってきます。「クリスマスは何をお祝いする日ですか?」――という質問からはじめて、キリスト降誕人形をみていただき、世界の国々のサンタクロースの人形とその伝承についてお話しします。12月6日の聖ニコラウス・デーには、今でもドイツ南部やオーストリア、スイスなどの古い町には鬼を連れた聖ニコラウスが訪れるのですが、「悪い子には鬼がお仕置きをします。聖ニコラウスが持っている木の枝はお尻を叩くムチなんですよ!」とお話ししたら、3歳の男の子が涙をぽろぽろこぼして泣き出してしまいました。なんと、ピュアな心なのでしょう…。言葉は、目の前の情景とともに胸に沁みていくものだから、小さな子たちの前では特に言葉を大事にしないとならないとあらためて思ったことです。
お話のあとは、煙だし人形にお香を仕込み、オルゴールの静かな音色を流し、「光のピラミッド」に火を点して人形台がくるくる動く様子を皆で見つめます。クリスマスを待つ季節の光と音と匂い……。その温かな情感がたくさんの小さな心へ沁みていくといいなと思います。



クリスマス展会場では、日々、「まぁ、なんと嬉しい!」と思う風景に出合います。老夫婦がお子さんたちとのクリスマスの思い出を語りながら、昭和30年代の日本のクリスマスツリーを見入っておられたり、展示室に設置しているクリスマスの絵本を4~5歳ぐらいの女の子がお母さんたちに読み聞かせをしていたり……。そうした様子をまた別のご家族が微笑みながら見ておられたりするのです。大切にしたいと思う玩具博物館の風景です。

ドイツ菓子のマイスター・曽根愛さん
から送られた「ヘクセンハウス」
そして昨日は、アウスリーベの曽根愛さんから日本玩具博物館の「世界のクリスマス展」へ、ステキな素敵な贈り物「ヘクセンハウス(Hexenhaus)が届きました。ヘクセンハウスは、グリム童話の『ヘンデルとグレーテル』に登場する菓子で出来た魔女の家のことで、小さな家を実際に食べられる菓子で作ったもの。レープクーヘンハウス(Lebkuchenhaus)とも呼ばれます。クリスマスの風物詩として、ドイツを中心に多くの人たちに愛されているクリスマス菓子です。2013年11月に、お菓子研究家の三久保美加さんから曽根愛さんのへクセンハウスをお贈りいただき、3年間、クリスマス展会場に展示させていただいたのですが、4年目の今年はさすがに飾れる状態ではなく、残念に思っていたところでした。曽根さんは長くドイツで修業されたドイツ菓子のマイスター。その技術によって、空調のない我が館でも3回もの冬が越せたと思います。クリスマスを彩る「お菓子のオーナメント」のコーナーに展示させていただきました。
小さな子どもたちは舌なめずりしながら、大人の皆さんは夢見るようなまなざしでヘクセンハウスを見つめておられます。


ヘクセンハウスを見入る子どもたち

NO. 205
神戸人形展から世界のクリスマス展へ
                                 (2016.11.4  学芸員・尾崎織女) 
しとしと雨の降り続く梅雨の最中にオープンした『神戸人形と世界のからくり玩具展』が先月末に終了し、一週間の深夜仕事を続けて『世界のクリスマス展』が出来上がりました。今年も、フィンランドの麦わら細工「ヒンメリ」がシャンデリアのごとく輝く展示室には、厳かで温かな空
 展示室の天井に「ヒンメリ」が輝く世界のクリスマス展2016オープン
気が漂っています。32年目の世界のクリスマス展オープンの日にお訪ね下さった来館者から「繰り返して開催されてきた風格のようなものが感じられますね」と嬉しいお言葉を頂戴いたしました。
当館のクリスマス展に展示するコレクションは、井上館長が玩具や民芸の輸入業者の方々のご協力を仰ぎながら、独自の視点で収集したものが基礎となっていますが、そこに、ドイツ在住のKiyoko&Herbert_Furumoto夫妻やHilla_Schutze女史のサポート、笹部いく子さんをはじめとする友の会の皆さんのご寄贈、さらに当館の“世界のクリスマス展ファン”とおっしゃる方々の有形無形のご協力があってこそ、少しずつ、その内容を充実させてこられたものと思います。本年は、「アジア」「北米」「中南米」「アフリカ」「南欧」「中欧」「東欧」「北欧」と地域にわけてクリスマス飾りを展示し、祝い方の違いをご覧いただく構成ですが、学芸スタッフの力を合わせ、細部まで心を込めて展示しておりますので、ご来館の皆様にはゆっくりと時間をかけてご堪能下さいませ。

さて、2003年、2012年に続いて、今夏、開催した神戸人形展は、この度、新たな神戸人形作家の誕生というニュースとも重なって佳き話題ともなり、好評裡に会期を終えることが出来ました。地元姫路の新聞社、テレビ局各社だけでなく、神戸、大阪の本社からも次々に本展を取材いただき、広範囲に神戸人形の100年以上の歴史とミナトマチ神戸独特のからくり玩具世界を知っていただく機会になったこと、とても嬉しく感じて
います。昨年より神戸市東灘区の工房で神戸人形作りを始められたウズモリ屋・吉田太郎さんの熱心な取り組みは今回の展示の中でもご紹介させていただきましたが、来年2017年1月20日から12月28日の会期で開催を予定しおります神戸開港150年記念展「TOY&DOLL_COLLECTION」でも、吉田さんの新作・神戸人形が大活躍をしてくれることになっています。素敵な企画を用意しておりますので、どうかご期待下さい。
「す・またん!ZIP」企画の神戸人形
2016年9月14日、読売テレビの「す・またん!ZIP」で“神戸人形”と吉田太郎氏のことが取り上げられ、当館の特別展についても紹介されました。「辛坊治郎」と「森たけし」の神戸人形は、メインキャスターを務めておられる辛坊氏と森氏をモデルに吉田太郎氏が特別製作したもので、番組の中で紹介されたあと、当館の神戸人形展の「ウズモリ屋の神戸人形」コーナーで展示させていただきました。
神戸人形展開催中にはその動きの愉しさと奇知あふれるからくりをご覧いただきたくて、実演付きの展示解説会を開いておりました。その
西宮市の小学3年生の力作・神戸人形「西瓜喰い」
解説会に参加された西宮市在住の小学3年生の男の子があり、夏休みの自由作品として神戸人形を作って提出したものが、9月の審査を経て、西宮市の作品展で展示されたとお母様からメールをいただきました。お母様自身、子ども時代には三宮の民芸店「神戸センター」で神戸人形と出合い、その面白さに魅了されたという体験をお持ちで、小学3年生の息子さんの神戸人形への取り組みを嬉しく応援なさっておられたそうです。実演した神戸人形や会場に設置していた“仕掛けの見える神戸人形”のからくりを観察される中で、動きの特徴を理解され、廃材と紙粘土によって、少し大きな神戸人形「西瓜喰い」を作り上げられました。メールにはその作品の写真が添えられていました。かつて“お化け人形”と呼ばれた頃の雰囲気もプラスされた力作です。こうして、少しずつでも兵庫県の小さな文化遺産“神戸人形”が様々な形で次の世代へと受け継がれていくことをとても嬉しく感じた次第です。



NO. 204
丸亀の八朔だんご馬
                                 (2016.9.23  学芸員・尾崎織女) 
瀬戸内海周辺の町々には、旧暦8月1日(今年は9月1日)に子どもの誕生を祝う様々な形の八朔の節句行事が伝わっています。丸亀や坂
JR丸亀駅構内の八朔節句飾り
出以西の西讃地方では、男の子の初節句に「だんご馬」を作って健やかな成長を願う風習が受け継がれ、今も生き生きと祝われていると聞きます。

去る9月3日、所用で出かけた丸亀。JR丸亀駅構内には、丸亀地方の「八朔だんご馬」飾りが行われていました。だんご馬を中心に武者人形や張り子の虎、鶴亀、だんごの鯛などを並べ飾る独特のしつらえは興味深いものです。この風習について詳しくお聴きできないものかと、観光協会のオフィスを訪ねました。そして、だんご馬を作る餅店をご紹介いただけたのですが、「八朔当日(9月1日)を過ぎているのでもう今日は見られないだろう」とのこと。けれど、せっかくだからお話だけでも伺えたら、と思い切って「中野餅屋」を訪ねました。幸運なことに、八朔は過ぎてしまったけれど、明くる日の日曜日、親戚縁者が揃ってお祝いするからと4軒のお家から「八朔だんご馬」や「だんごの鯛」の製作を受けておられ、作るところを見学させてもらえることになったのです。

中野餅屋がお受けになった注文によってだんご馬を作っておられるのは岡雅久さんご夫妻。だんご馬作り40年と伺いました。だんご(米粉:餅粉=9:1)をかぶせて、馬のお尻と脚を作ったあと、前脚と頭部を“木のへら”ひとつで細工していきます。たてがみや尻尾に麻の繊維を挿し、ガラスの目を入れたら奥様にバトンタッチ。絵付けと飾り仕上げは奥様のご担当です。目の前でみるみるうちに素晴らしいだんご馬が出来上がっていきました。一体を仕上げるのに20~30分。蒸したてのだんごのやわらかさが残る時間内に手早く着実に細工していかれる岡さんの手の技に感激しました。
その様子を少し画像でご紹介いたします。

だんご馬の台と骨組み。 蒸し上がったばかりの熱いだんごの半分を
馬のお尻と後ろ脚に。
半分残しておいただんごを使って
前脚と頭部を作る。
木べらを使って頭部を細工。この後、
竹串に少量のだんごを巻き付けた耳を
挿す。
  色付け。
 
岡雅久さんご夫妻の共同作業。
 
帯締めなどで胴部を飾り、つややかなだんご馬を仕上げる。
                      
近い時代で、八朔だんご馬飾りが盛んに行われていたのは昭和40年代から50年代にかけて。7~8人の技術者が3日間ほどの間に1000個を超えるだんご馬を作っておられたといいます。今では4軒の餅屋や菓子屋がだんご馬を受けておられ、岡さんは老人施設や幼稚園、学校などでの実演を含めて、今年は20数体のだんご馬を作られたと伺いました。
八朔の節句前日にだんご馬は母方の実家から届けられ、これを主役に張り子の虎や武者人形、鶴亀、だんごの鯛などが飾られます。だんご馬は、お祝いに集まった親戚縁者に切り分けてふるまわれるそうです。少し口に含ませてもらいましたが、さすがに老舗餅店の蒸したてだんご、とびきりのおいしさでした。

8月下旬から9月にかけて八朔の節句行事を訪ねて瀬戸内沿岸の町々――兵庫県たつの市室津、岡山県瀬戸内市牛窓、広島県福山市鞆の浦、宮島などを訪ねてきましたが、それぞれの町で、地元の行事を心から大切に思われる方々のご努力によって次の世代へとよいものが受け継がれていく場面に接し、その思いの尊さがまた胸に刻まれました。来年の八朔には香川県三豊市仁尾の八朔まつりを見学したいと思っています。

NO. 203
神戸開港150周年記念展「TOY & DOLL COLLECTION」に向けて
                                 (2016.8.29  学芸員・尾崎織女) 
来年は、1月上旬から一年間にわたって神戸の街の一角に“日本玩具博物館”が出張することになりました。2017年が「神戸開港150年」に当たることから、神戸市では多くの市民の皆さんとともにこれを祝い、神戸港のさらなる発展を願うための様々な企画事業が進められています。その中の一つのプロジェクトにデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)での展示事
デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の玄関
 http://kiito.jp/
業があり、神戸市からのご依頼により、そのギャラリースペースに、陳舜臣アジア文藝館、鈴木商店記念館とともに日本玩具博物館が出展する運びとなりました。

会場となるデザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)は、もともと神戸港から輸出する生糸の品質検査を行う施設であり、ゴシックを基調とする昭和初期の建築物です。そこがモダンにリノベーションされ、現在、ステキなギャラリーやホールが設けられて、アートに関する様々な催事が行われる場となっています。
そんな会場にどのような展示室をつくっていくかを神戸市のご担当者、会場造作や広報デザイナーの方々と一緒にイメージを描きながら、今、少しずつ肉付けを行っているところです。
 デザイナーによる会場造作のイメージ図
 


日本玩具博物館が受けもつギャラリーBの「TOY&DOLL COLLECTION」には、メイン・ディスプレイとして「世界の船のおもちゃ」や「神戸人形」を展示するほか、「日本の郷土玩具~北から南へ~」「日本の郷土のコマ・手まり」「日本の近代玩具~明治・大正・昭和~」と題する常設展コーナー、入れ替えながら世界の民芸玩具や人形をご紹介するコーナー、そして4回の企画展として「ちりめん細工」「雛人形と武者人形」「神戸人形」「世界のクリスマス」を考えています。より展示内容に親しんでいただけるようなワークショップなども合わせて準備していきます。
―――そこで、7月、8月は、夏休みのおもちゃ教室や特別講座などの合間を縫って、講座室にKIITOの展示スペースをつくり、コーナーごとに展示シミュレーションを行ってきました。たくさんの方々と展示をつくっていくのはとても楽しく刺激的です。玩具博物館には、「TOY&DOLL COLLECTION」にかけて、博物館大好き!!という若い女性がサポートに加わってくれましたので、センスの若返りを期待しています!今のところ、「日本の郷土玩具~北から南へ~」「日本の郷土のコマ・手まり」「日本の近代玩具~明治・大正・昭和~」についてはほぼ準備が整い、展示品の選定や梱包作業が終わりました。神戸市在住の方々、そして神戸を訪れる方々に喜んでいただけるものになるよう、9月もコーナーごとの展示シミュレーション作業を進めていこうと思っています。来年1月の開催までにはまだ少し時間がありますが、どうぞ皆様、ご期待下さますよう!!!
準備作業の様子を画像でご紹介いたします。

「日本の郷土玩具」のコーナーの展示シミュレーション作業、そして梱包作業風景
「日本の近代玩具」のコーナーの展示シミュレーション作業、広報用写真撮影作業

NO. 202
夏休みの多彩なるお客さま日誌。
                                 (2016.8.5  学芸員・尾崎織女)
昨夏、ちりめん細工研究会の南尚代さんからいただいた梶の苗木が育ち、五裂した綺麗な葉を広げ始めました。今年のひと月遅れ七夕には、その梶の葉をとって古式ゆかしい京都の七夕飾りを…。梶の葉に文字をしたため、千代紙を着せて笹の枝につけます。京都でもすっかり忘れられた江戸時代の七夕飾りですが、歴史も深く、素敵なものなので、京の町家で復活されるといいのに…と思います。

7月30日。小学生たちの夏休みに合わせ、講座室では「夏休みおもちゃ教室」が始まりました。1回目の先生は井上館長で、世界各地に伝承される“体操人形”を作りました。この頃、様々な施設で行われるモノづくりの教室では、参加者が怪我してはいけないからと刃物や工具を使わない向きもあるのですが、玩具博物館館のおもちゃ作りでは、金槌や錐などもきちんと使える者がマンツーマンで子どもに向き合い、できるだけ体験をもってもらおうとしています。体操人形のH型の木枠を金槌で叩きながら、「僕の夢は大工さん! 金槌を持ちたかった!」ととても嬉しげな男の子――なかなかよい手つきです。ちょうど、この日は学校教諭新任者の社会体験研修をお受けしており、若い先生も一緒に取り組みました。小さな大工さんたちはぴゅんぴゅんと元気に鉄棒体操をする楽しいおもちゃを作り上げました。6号館展示室では、世界のからくり玩具を展示中。世界中の体操人形が並んでいます。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ハンガリー、ルーマニア、アルバニア、タイ、ラオス、中国、エクアドル、メキシコ、マダガスカル、ジンバブエ、タンザニア、ケニア、カメルーン、モロッコ、アメリカ・・・! 女の子たちは、展示ケースの前に自作の体操人形をかざして、「世界中に同じおもちゃがあるんだね。私のも一緒に展示してみたいな。」と見入っていました。

新任研修の先生も一緒に……。 金槌で釘を打つ!  「体操人形は世界中で作られているんだね…」
8月2日。今年、「全国高等学校家庭科実践研究会」が兵庫県で開催され、その分科会で50名あまりの家庭科の先生方がご来館下さいました。家庭科は被服の役割や作り方、食品の栄養や調理などを学ぶものとばかり思っており、ご訪問の予約をいただいた当初は、明治末期から昭和初期にかけて、家庭科の教材として盛んにとりあげられた“裁縫お細工物(ちりめん細工)”のことなどをお話するべきじゃないかと井上館長と話し合っていました。ところが、お世話役の先生が「最近は生活文化全般を取り扱い、子育ての道具のことなども大事な教材になっているから、ぜひ、伝承玩具のことをとりあげてほしい」とおっしゃるのです。
―――そこで近世の“手遊び”のお話に切り替え、講話だけでなく、江戸時代の“手遊び”が描かれた絵本『江都二色』を見ていただいたり、“かくれ屏風”などの江戸玩具を製作する時間をもうけたりしました。実践に役立つと喜んで下さり、伝承玩具が家庭科の教材として位置づけをもったことに私たちは驚いてしまいました。被服の学習はぐんと小さくなり、それに替わって、少子高齢化社会における家庭の作り方やマネープランなどが取り上げられると伺いました。社会がぐんぐんと変化している中、家庭科で生徒たちが学ぶことはずいぶん幅広く、指導をされる先生方のご苦労が想われます。博物館に求められていることを知る上でも、児童生徒たちが今、学校で何を学んでいるのか、教科書なども拝見しておきたく思っています。先生方のご訪問は、私たちにとっても、気づきと学びの時間となりました。

研修会の様子 『江都二色』と「かくれ屏風」 伝承玩具をつくってみよう!
8月4日。この日は、「国際パズル会議」で京都に集結しておられたパズルデザイナー、制作者、愛好家など98名の皆さんがエクスカーションで日本玩具博物館をご訪問下さいました。アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、ルクセンブルク、ロシア、イスラエル、ニュージーランド、オーストラリア、中国、台湾……、“パズル”を愛しておられる方々の国際的集団とは素敵です!!
たくさんの展示がある中で、私は、「神戸人形」をゆっくりご覧いただきたく思っていました。なぜなら、明治末期から昭和初期にかけて、ヨーロッパやアメリカからのツーリストが神戸人形を非常に面白がり、日本土産として持ち帰ったという歴史があるからです。今、これらの神戸人形を海外の方々がどんなふうに感じられるかをお尋ねしたかったのです。100年前の小さなからくり人形の奇抜な動きに“Cute!” “Lovely!”と歓声があがり、笑みをたたえた優しい表情で観ておられる方々…。「なぜ、柘植などの白木の肌が綺麗だった神戸人形が黒く塗られていったのですか?」「どうして“お化け”がこの玩具の題材になっているのですか?」――などと、質問もどんどんとあがってきます。参加者の中にカーペンターがおられ、神戸人形に使われた木の種類を次々に当てていかれるのには驚きました。このからくり人形を気に入った方々は、ミュージアムショップに神戸人形が並んでいるのを喜ばれ、ウズモリ屋・吉田太郎さんの「西瓜喰い」が海外へと旅立っていきました。
井上館長による“かくれ屏風”のワークショップも行いました。これと同じ仕組みの玩具はヨーロッパでは“ヤコブの梯子Jacob’s Ladder”と呼ばれて親しまれていますが、模様が出たり消えたりするものは海外では知られていないことから、皆さん、興味津々。98名全員に楽しんでいただこうと汗ぼとぼとになって頑張った館長以下スタッフたちは、3台のバスをお見送りした後、ほっとしてへなへなと座り込んでしまったのでした。様々なお国からの来訪者にとって、何か心に響くものがある時間となっていますように―――。非常に暑かったけれど、とても良い日でした。   (つづく)
6号館で神戸人形を観ていただく 海外へ旅立っていった吉田太郎さん
の神戸人形「西瓜喰い」
日本のおもちゃを紹介する
講座室で「かくれ屏風」づくり。キリスト教文化圏
では「ヤコブのはしご(Jacob’s ladder)」と呼ばれ
ている。そのいくつかを6号館で展示中・・・。

NO. 201
七夕と梶の葉 ~日本玩具博物館ちりめん細工研究会~
                                 (2016.7.10  学芸員・尾崎織女) 
新暦の七夕。お子さんのおられるご家庭では短冊に願いごとを書いて、笹飾りを立てたりなさったでしょうか。日本玩具博物館では、「七夕の乞巧飾り」をテーマにちりめん細工研究会コースを3日連続で開催いたしました。中国から奈良時代の日本に伝わってきた当初より、七夕は「乞巧奠(きっこうてん/でん)」といい、織物や縫物の上達を願う儀礼でしたから、ちりめん細工の会にとっても七夕は重要な節句です。

月々のちりめん細工講座では、受講生の皆さんは10時からお昼を挟んで3時過ぎまで、たっぷり5時間かけてひとつの作品を仕上げてい
課題作品(左)と参考作品(右)
かれます。今回、研究会コースでとりあげる作品は、古の乞巧奠から切り取ってきたような、ゆかしい雰囲気の梶の葉飾りで、ちりめん細工の会会員で講師陣のお一人、南尚代さんの創作です。千葉県在住の南さんは東京都杉並区にある大宮八幡宮の「乞巧奠」(学芸室からNo146参照)を見学されたり、茶事の七夕飾りなどをご覧になられたりして題材を研究され、ちりめん細工研究会のテーマにふさわしい作品をご提示して下さいました。

今回の研究会講座では、3日とも南講師に作り方の指導をお願いしました。研究会の皆さんはそれぞれに慣れた手つきで、着々と作品を仕上げていかれます。そのお昼休みに割り込んで小一時間、“七夕と梶の葉”の歴史についてお話をお聴きいただき、作品の背景を学んでいただくという、詰め詰めなスケジュールだったのですが、果たして、参加の皆さんは、お昼ご飯もそっちのけで、文献の記述などにも熱心に向き合って下さり、七夕らしい研究会コースになりました。
ちりめん細工講座・研究会コース7月の様子
応永29(1442)年の古文献『公事根源』には、奈良時代、天平勝宝7(755)年、孝謙天皇の御世に初めて清涼殿の東庭で乞巧奠が行われたとありますが、その様子は――――庭に長い筵を敷き、机をすえ、その上に香や花を供え、菓子、梨、桃、酒、大豆、茄子、鮑などを揃え、もう一方の机には五色の糸を通した金・銀7本の針を刺した梶の葉を1枚供え、願いが叶うように祈る――――というものでした。中世から続く“和歌の家”・冷泉家が伝承しておられる乞巧奠にも梶の葉が登場します。星を映してみるための水を張った角盥に一枚の梶の葉、脇に置かれた衣桁には五色の布と色、その上に梶の葉が飾られるのです。

天文13(1544)年の『年中恒例記』には、室町時代の七夕、将軍は七夕の歌を七首詠まれ、里芋の露ですった墨で7枚の梶の葉に歌をしたため、それらを梶の皮などで結んで屋根に投げあげたとあります。紙の短冊が一般化する江戸時代後期に至るまで、七夕の歌を梶の葉にしたためて書や和歌の上達を願う様子は、町家の四季折々の暮らしを記した随筆や物語などにも散見されます。カジノキ(梶の木)の樹皮は製紙の繊維原料として使われていたことから、紙を連想する植物であったと思われます。またその樹皮はものを束ね括る糸の役割を果たし、その大きな葉は、カシワの葉などと並んで、神前に供え物をするときの器であったことを考えると、カジノキが七夕儀礼の供えものとしてふさわしい植物と意識された理由がわかるように思われます。
『宝永花洛再見図』(元禄17/1704年・金屋平右衛門
編)―――寺子屋で子どもたちが梶の葉に文字を書く様
子が見える。文机の上には短冊も置かれ、供え物の笹に
短冊がつるされている。
「五節句之内文月」(明治27/1894年・河
鍋暁翠画)三枚続きの錦絵のうちの一枚――
――墨をすって短冊に文字を書く女性、短冊
などがつるされた笹飾り。
江戸時代後期ともなれば、七夕の前には机や硯を洗って、清新な気持ちで墨をすり(里芋の葉や稲の露によって)、紙の短冊に詩や文字を書いて、笹竹につるす風習が庶民の暮らしの中にも浸透していきます。紙の普及もあって古式ゆかしい梶の葉は忘れられていきますが、歳時記や俳句の季語、茶道などの中にも初秋を表現するものとして大切に伝えられています。今夏は、南講師のおかげで、ちりめん細工研究会の皆さんと一緒に梶の葉に注目することが出来、私どもにとっても意味深い七夕となりました。心より感謝申し上げます。



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