NO. 233
おもちゃ館の夏休みその2の1
“経木モール”を探せ!
                                  2018.9.2 学芸員・原田悠里)
 夏休み終わりですね。。。おもちゃ館では、秋冬の企画展「世界の伝承玩具」(9/15~2019/2/19)と今年で34回目を迎える冬の特別展「世界のクリスマス」(10/20~2019/1/20)の準備で季節を先取りしております。
日本製クリスマス飾り“経木モール”を探せ!
 この酷暑にクリスマス??と、お思いかもしれませんが、博物館の重要なお仕事のひとつ、資料調査のお話です。当館恒例の冬の特別展「世界のクリスマス」では本場ヨーロッパを中心に主に世界各地のクリスマスの習俗をご紹介してきましたが、改めて日本でのクリスマスにも目をむけて、その広がりを探るべく、この夏、日本のクリスマス産業の歴史について尾崎学芸員とともに聞き取り調査を開始いたしました。
実は兵庫県は戦前から戦後を通して、神戸を中心にクリスマス産業が発展してきた土地。明治40年代ごろから多くの日本製のクリスマス製品が北米を中心にヨーロッパ各国にも輸出され、居留地の外国人商人とも取引を行っていたようです。
 その日本製クリスマス製品の原点を探っていると、“経木モール”というものにたどりつきます。経木は、桧材や松材を紙のように
経木のオーナメント(ドイツ)
薄く削ったもの。よくたこ焼きの容器になっている薄い舟状の板を想像していただけたらわかっていただけるのではないでしょうか^^経木のオーナメント、と言うと、ドイツにも光のモチーフにしたオーナメントがありますが、これはモールとは言いづらいもの・・・
 木材が豊富な日本、経木製品自体は明治から昭和初期にかけて全国各地で作られ、織物や笠などの民芸品や食品の容器、包装材料として身近に使われてきました。
 そんな経木製品の一つにクリスマスツリーに飾るガーランド、“経木モール”がありました。明治から昭和初期にかけて経木製品を盛んに作っていた兵庫県柏原(かいばら)町の『柏原町志』(1955)によると、明治40年頃、岸本幸三は外国向けの装飾品として経木モールを製作したところ、外商の好評を得て海外からの多量の発注が来たということが書かれています。柏原の経木を神戸で染色、加工して“経木モール”“莚モール”をクリスマス飾りとして輸出していたというような資料もあります。
こうなると気になるのはこの経木モール、実物はどのようなものだったのでしょうか。実は経木モールは、これです!と言える写真や図など、その造形を示す資料をわたしたちの館では見つけられておりません。博物館としては、やはり、実物資料を収集しておきたいところです。神戸市内のクリスマス飾り製作や柏原町における経木モール製作については、昨秋、神戸芸術工科大学の相澤孝司先生から非常に興味深い情報を頂戴しました。相澤先生からご教示いただいたお話を参考にさせていただきながら、経木モール調査の旅へ――――そのお話は次回につづきます。

NO. 232
おもちゃ館の夏休みその1     
                                  2018.8.27 学芸員・原田悠里)
年々暑さが増す中で、とくに記録的な酷暑、各地に甚大な被害をもたらした豪雨に相次ぐ台風とあまりに過酷な2018年の夏ですが、立秋が過ぎ、香寺町の空は少し高くなりはじめました。当館の周辺には赤とんぼが飛び回っています。

夏休みおもちゃづくり教室
夏休みおもちゃづくり教室にご参加くださったみなさま、どうもありがとうございました。6号館2階のオールマイティ部屋(ワークショップをしたり、講座をしたり、展示準備をしたりなんでも)には、子どもたちとそのご家族で、回によっては、満席状態になりながらも、みなさん真剣に楽しくおもちゃづくりに熱中してくださいました^^
カラフルな風車が風を受けて勢いよく回転する様子は、とっても華やかで涼しげ!
水車ボートの装飾はみなさん凝りだしたら止まらず、豪華な帆船や、海賊船、かわいいクルーザーなどいろんな船が完成しました。「夏休みの宿題にするねん!」と言いながらも、お母さんやおじいちゃんが必死に切ったり貼ったりしている姿も(笑)完成した船はどうやったら進むのか実験です!
館長考案の牛乳パックの風車小屋は、偶然にも16世紀、ブリューゲルによって描かれた『子供の遊戯』に登場する「くるみ風車」と同じ仕組み。色とりどりの羽根が、からから~と糸を巻き上げながら回転する感覚は大人でもやみつきになってしまいます。

「日中架け橋の会」から中国人留学生のみなさんがご来館
夏の一ヶ月の間、神戸で日本語を学ぶ約200名の中国人留学生(四川省や江蘇省など中国各地からのようです)のみなさんが4日にわかれて、当館を訪れてくださり、館内の見学とかくれ屏風のおもちゃ作りを体験してくださいました。広く日本文化にも興味をもってくれていて、日本の玩具のお話にも熱心に耳を傾けてくれていて、こま遊びにも熱中!日本語のレベルもそれぞれなので、お互いに通訳をしながら学生さん同士が感心する微笑ましい様子も見受けられました。

かくれ屏風づくりは、やはりしかけに興味津々!館長が見本をみせると「おー!なんで!?」と歓声があがり、館長指導のもと、実際に自分たちで作ってもらうと何度も試して楽しんでくれていました。みなさんとても丁寧に糊付けをしたり、千代紙を切って作っている様子が印象的でした。色紙は赤が人気で、最初に選んだ色も赤色と取り替えたりする人がいて、中国では赤色はおめでたい色であり、厄除けの色であり、様々な習俗で赤色が取り入れられていますが、若い世代でも赤を選ぶ人が多いんだなと興味深かったです。
短い時間ではありましたが、日本での思い出の1つとなってまた、日本に遊びに来てくれると嬉しいなと思います^^

NO. 231
三重県総合博物館(MieMu)「おもちゃ大好き!」展オープン!
                                  2018.7.9 学芸員・原田悠里)

この度の記録的な豪雨の被害には言葉が見つかりません。被災されたみなさまに心よりお見舞い申しあげます。
 当館は、すぐそばを流れる市川の水位があがり、不安な夜をすごしましたが、なんとか氾濫をまぬがれ、資料と館内、スタッフもおかげさまでみな無事でした。
 暑さも厳しくなってきている中で、被災地のみなさまの心身の疲労を思うと胸が痛みます。一日も早くみなさまが元の生活に戻れますようにと念じ祈るばかりです。

5月より貸出準備をすすめておりました、三重県総合博物館(MieMu)での、企画展「おもちゃ大好き!郷土玩具とおもちゃの歴史」展(会期7/7(土)~9/2(日))がはじまりました。ポスターデザインに合わせたおもちゃがいっぱいのわくわくするメインゲートをくぐり、まずは考古資料に
企画展示室入口
遠く古代の人々との遊びの共通点や大陸との交流に思いめぐらせていると、見えてくるのは地元三重県のお土産文化の源流。伊勢の賽木や笙の笛、竹の鳴りごま、おぼこ人形に導かれて、近世江戸時代に花開いた日本全国の郷土玩具の世界が広がります。そして明治、大正、昭和平成へと時代を反映しながら移り変わっていく近代玩具は、メンコやおまけ、ままごと道具の変化に注目して見ることでより時代のエッセンスを知っていただけることと思います。最後には津市内で営まれているおもちゃ屋さんの声とともにこれからのおもちゃへのメッセージが伝えられています。見応えたっぷりの展示です。

当館からは特別協力として約1000種類の玩具資料を貸し出していることもあり、展示作業(6/29~7/3)にもしっかりと加わらせていただきました!MieMuの担当学芸員U氏とMieMuの学芸員の方々、そして博物館展示専門の日通さんとともに進めていきました。
 事前に展示シミュレーションは行っていますが、さまざまな大きさと形をもつ玩具の展示には、現場での細やかで微妙な調整が必要となります。
とくにMieMuの巨大な展示ケースは横が開くスタイルとなっています。そのため、横から資料を持ち込んで入り、展示をしては一旦外に出て、キャプションやパネル、高い壁面とも調整しながら全体のバランスを確認する、ということを繰り返しながら、ひとつひとつのコーナーを作り上げていきます。さらに展示台と展示台の間、展示台と壁面の間が30cmほど(!)、その隙間で資料を展示し、キャプションを付けたりするのはなかなか神経をつかいます^^;小柄で柔軟な身体が向いています(笑)
 展示作業の様子
また今回は展示専門の日通さんが入ってくださっていたので、壁面の双六やパネルは最新の赤外線レーダーを使って高さが正確にビシッとそろっています。また郷土玩具のコーナーではMieMuの広くて高~い展示室に郷土の凧を舞い上がらせてくださいました。
各地の楽しい凧がダイナミックに揚がっている展示空間は、きっと来館者のみなさまにも強い印象をもっていただけるのではないでしょうか。
展示風景
古代から現代へとおもちゃ文化の歴史をたどりながら、こまや双六、ブロックや木製玩具で遊ぶことができるコーナーもあり、大人も子どもも楽しめる展示になっています。今年の夏はぜひMieMuでおもちゃ文化の歴史に触れてみてください。

さて、当館の夏は今年も恒例の“夏休みおもちゃ教室”を開催いたします!
5日間で4つのおもちゃづくりを企画しています。①少しの風でもとてもよく回る「4枚ばねの風ぐるま」、②きれいな千代紙が消えたり現れたりする「かくれ屏風」、③ゴムの動力ですいすいと水面を進む「水車ボート」、糸をひくと羽根が回転し、④糸を自動でまきとる「風車小屋」です。どれも身近な材料で作ることができて、楽しいおもちゃです。からくりや動力を観察する夏休みの自由研究にもいいかもしれませんよ^^♪
以下の日時に行いますので、参加ご希望の方は、FAX(079-232-7174)かお電話(079-232-4388)でお申し込みください。
・7月28日(土)11:00~12:30 4枚ばねの風ぐるま 参加費300円
(要予約)
・7月29日(日)11:00~12:00 かくれ屏風 参加費300円
・8月_5日(日)10:00~12:00 牛乳パックの水車ボート 参加費400円
(要予約)
・8月11日(土)10:00~12:00 牛乳パックの風車小屋 参加費400円
(要予約)
・8月25日(土)11:00~12:00 かくれ屏風 参加費300円



NO. 230
三重県総合博物館(MieMu)での「おもちゃ大好き!」展、出展準備完了
                                  2018.6.11 学芸員・尾崎織女)
三重県総合博物館(MieMu)の外観
今夏は三重県総合博物館(MieMu)で第20回企画展「おもちゃ大好き!」(会期=2018年7月7日~9月2日)が開催されます。日本玩具博物館は、この展示に特別協力して総数900点を超える玩具資料を出品することとなり、GWの頃よりその準備作業を進めてきました。MieMuの企画展示室は、面積912平方メートル。恐竜も展示できる超大型の展示ケースを備えた空間には、展示を中心に、プレイコーナーやワークショップコーナーも設置され、静と動が混じり合う楽しい催事が計画されています。
             
展示構成はプロローグとエピローグをもつ7章だてです。考古資料なども登場する「第1章・おもちゃ昔むかし」、次に、近世のおもちゃの世界を「第2章・三重の郷土玩具」と「第3章・郷土玩具北から南から」でご紹介し、明治時代以降の近代玩具の歴史を「第4章・近代日本とおもちゃ」「第5章・戦争とおもちゃ」「第6章・おもちゃの大変革期」「第7章・テレビとおもちゃ」…と時代を追って展観するものです。MieMuの企画担当者U氏は、おもちゃの歴史を振り返り、未来に伝えていきたい玩具文化について、来館者の皆さんと一緒に考えていく内容に仕上げたいと話しておられます。私たちは、その趣旨に賛同し、第3章から7章までの展示にご協力することとなりましたので、いつものように、展示スペースと同等の場所を作業場にシミュレーションし、そこに玩具を展示していく形で、出品資料選定と梱包作業を進めていきました。
出展作業の様子
作業は、あちらこちらに収蔵している郷土玩具や近代玩具の梱包箱を井上館長の車で、6号館2階のフリースペースに運び入れるところから。200梱包を超える段ボール箱に収蔵している玩具を、時代を追って開梱し、その中から趣旨にあうものを選定して展示していきます。展示スペースに陳列台なども組み上げて、バランスを見ながら実際に展示してみて、その後に一点一点の情報を確認しながら出品目録として記載していきます。記載が終わると、一点一点を梱包し、展示グループごとの梱包ケースに収めていきます。そうした作業は、新人学芸員の原田ともども、日々、深夜までに及びましたが、一箇月半をかけてすべての作業を終え、それらは大小72個の梱包箱に収納できました。
郷土玩具も近代玩具も合わせて900点を超える資料を出品します
一方、MieMuからは、展示内容の打ち合わせはもちろん、ポスターや図録のための資料撮影や仕掛けの楽しい玩具の動画撮影に担当学芸員U氏とT氏が度々来館されました。小さな玩具の造形が我々の生活史や時代精神を体現していることの面白さ、興味深さを話し合い、また展示をつくりあげていくことへの期待と不安を共有して、心を通い合わせる日々を過ごしています。
MieMuの担当学芸員氏による資料撮影風景です
MieMuの前身である三重県立博物館は、日本の博物館施設といえば、私立博物館が優勢であった昭和20年代、他の県に先がけてオープンを果たした公立博物館の老舗です。県立博物館の先達となり、モデルともなって歴史を刻んできた館ですが、場所を移転新築して再開館した2014年以降も、館の使命に照らしたユニークな活動を積み上げておられます。そのような花も実もある立派な博物館とご一緒させていただく今回の仕事は、日本玩具博物館にとって大きな糧となるに違いありません。図録やパネル、キャプション等の製作や実際の展示作業にもご協力致しますので、オープンまで気の抜けない日々が続きますが、三重県にお住まいの方々をはじめ、多くの地域、幅広い世代に楽しんいただける内容になるよう、私たちも精一杯努めたいと思っています。MieMuの「おもちゃ大好き!」展―――どうぞご期待下さいませ。
http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/




NO. 229
端午の節句~出石神社の幟まわし見学~
                                  2018.6.5 学芸員・尾崎織女)
「学芸室から」のお便りが一箇月以上のご無沙汰となりました。その間、私たちは、今夏、三重県総合博物(MieMu)で開催される第20回企画展「おもちゃ大好き!~郷土玩具とおもちゃの歴史から」に特別協力するため、900点を超える玩具資料の出展作業に没頭しておりました。その様子は次の記事にご報告させていただくとして、ここでは新暦端午に見学に出かけた出石神社の「幟まわし」のことを記しておきたいと思います。

新暦端午。兵庫県豊岡市出石町の宮内地区では、「幟まわし」という珍しい行事(豊岡市指定無形民俗文化財)が行われています。
正午、出石神社に到着すると、宮内地区の男子中学生、その保護者ら地域住民でつくる「宮内幟まわし保存会」の方々が常磐緑の雑色姿で準備の真っ最中でした。「幟まわし」とは、竹法螺吹きを中心に、中学生を含む氏子たちが7メートルに及ぶ武者絵幟の5本を立て、独特の囃子歌を歌いながら、幟をもって時計回りに地突きをする所作をいいます。この所作は出石神社の祭神である天日槍命が円山川河口の瀬戸を切り開いた後、出石に幟を立てて凱旋した故事に基づいているのではないかとも言われていますが、端午の初節句とどのように結びついていったかについては諸説あり、確かなストーリーは今のところ得られていません。
出石神社境内より出発前に息を合わせる幟まわし一行 竹法螺
1時半頃に出石神社を出発した一行は、地区内のいくつかの場所で邪気払いをするように、あるいは地固めをするように幟まわしを行った後、初節句を迎える子どものある家々をめぐります。昨年までは男児だけの祝い事として続けられていたのが、少子化時代に行事を伝承していくため、今年から初節句を迎える女児のためにも幟まわしが行われるようになっています。去年は1軒。今年は4軒の幟まわしがありました。ご自身の初節句にも祝ってもらったお父さんが小さなお子さんを抱き、古い時代の幟まわしを知るお祖父さんたちとともに、晴れがましい笑顔で幟が動く空を見ておられる様子に接し、行事が続いていくすばらしさを想いました。
初節句を迎える女児のために囃子歌を唱えながら幟をまわす一行 家庭に伝わる古い幟(戦前のもの)が飾られる
鯉のぼりより武者絵の幟が優勢だった戦前、出石では男児が誕生すると、母方の実家から幟が贈られたそうで、古い武者幟を所有しておられる家庭もあるようです。行事に使用する幟は、これまでお隣の旧・日高町(現在は豊岡市)で調製したものだったのが、昨年、新調された折には岐阜製を入手されたと伺いました。賤ケ岳の戦、宇治川の戦、川中島の戦、大阪夏の陣の武将、加藤清正らが五色で鮮やかに描かれています。去年までの資料画像を拝見すると、幟は白地に黒を基調のクラシックなデザインでしたので、新調された武者絵幟のあまりの鮮やかさに驚かされましたが、それらは五月の青空と深緑によく映えて、とても美しい風景でした。

品格のある出石の町を幟が行く 初節句を迎える男児のために囃子歌を唱えながら幟をまわす一行 
玩具博物館の所蔵品にも各種みられる武者幟が、地方の村や町でどのように扱われ、どのような役割をもっていたのかを知るよい機会をいただけたと思います。5月5日、また来年も色鮮やかで勇壮な幟が出石の端午を彩ることでしょう。地域の宝物として伝えられてきた行事を私たちも大切に見守っていけたらと思います。
出石神社に戻ってきた5旗の幟 

NO. 228
ちりめん細工の今昔展、再び
                                  2018.4.27 学芸員・尾崎織女)
東京が記録的な積雪に見舞われた大寒のさなかにオープンしたたばこと塩の博物館での「ちりめん細工の今昔」展は、多くの方々に愛していただき、去る4月8日、無事に会期を終えました。来館者数は66日間に2万2千人を超え、嬉しいことに2回、3回と繰り返し来場される方の感動の声が、電話やメールを通して私どもにも届けられました。ご来場下さいました皆様からのお便りからは、今昔の女性たちの自然に接する繊細な感性や、婚礼や出産、子育てなどの場面に登場するお細工物に込められた祈りの心を受けとめていただけたことがよく感じられ、本当に嬉しく思っております。
終了後は、たばこと塩の博物館の学芸スタッフの方々とともに数日間かけて梱包、撤収作業に精を出し、117ヶ口の梱包物の搬出を行いました。4月上旬の東京は、桜に若葉が萌え、紅白の躑躅が街路に咲き乱れ、アメリカハナミズキがビルの空を押し上げる明るい初夏――思いをかけて懸命につくり、そこに人々が集って何かが生まれ、やがて時満ちて形を解かれていく様は、どこか劇場的だと、真っ白の空間に戻っていく広い展示室を眺めてしみじみいたしました。
撤収作業風景   117ヶ口に及んだ梱包物 真っ白な空間に戻った展示室
さて、東京から無事に戻ってきた1000点をこえる展示品をまた開梱し、4月17日から一週間ほど深夜仕事を続けて、当館の6号館と3号館に、再び「ちりめん細工の今昔」展を準備いたしました。たばこと塩の博物館において、総延長75メートルの展示ケースに目いっぱい収まっていた展示品の約9割が、総延長43メートルの我が館に展示できてしまう不思議……。展示グループを組み替え、平成のちりめん細工を展示するゾーンには、今春、日本ヴォーグ社より刊行された『季節のつるし飾りとちりめん細工』の掲載作品を新たに合わせましたので、また違った雰囲気で作品を味わっていただけるのではないかと思います。
展示風景・・・バラ色の解説パネルは原田学芸員がデザインしてくれました。展示空間が華やかに見えます。
展示準備を行っている最中、日本玩具博物館のちりめん細工展のためにと、幸便に託して素晴らしい贈り物が届きました。それは――たばこと塩の博物館の湯浅淑子主任学芸員がちりめん細工展に合わせて個人的に収集しておられた浮世絵で、幕末から明治時代の女性たちとお細工物との関わりがよく示された資料です。十年越しの企画展がよいものになるよう長い期間心にとめて準備して下さった、湯浅学芸員のお気持ちを非常に嬉しく思っておりましたのに、さらに大事な資料を私どもにお預け下さるご厚意と信頼、友情に感激しています。心より御礼申し上げます。
いただいた3枚の浮世絵は、歌川国芳の「大願成就有ケ瀧縞(鳴神)」(天保14~弘化4/1843~47年頃)、豊原国周の「当世見立 十六むさし 楊枝差し」(明治4/1871年)、三代歌川国貞の「俤げんじ五十四帖 四十二 匂宮」(慶応元/1865年)です。この度の当館の企画展には、【江戸文化の薫りを伝えるちりめん細工】のコーナーに2枚をご紹介いたしました。誰袖がデザインされた楊枝差しや花独楽などと合わせてご覧いただくと、150年ほど前の時代を生きた女性たちの息吹を身近に感じていただけるものと想います。退色の恐れがある資料ですので、展示期間は5月31日までと、会期終了前の9月11日から10月8日までとさせていただきます。
 
 【江戸文化の薫りを伝えるちりめん細工】のコーナー   歌川国芳の「大願成就有ケ瀧縞(鳴神)」のお細工をする女性(左)と
  豊原国周「当世見立 十六むさし」の楊枝差しをもつ女性(右)

                       
市川の堤に雉が鳴き、牡丹の花が豪華に開花する美しい季節――初夏の風情に合わせて、ちりめん細工の世界の花鳥風月をお楽しみいただけたら幸いです。
   
  雉(オス)と雉袋(平成20年代) 
   
 牡丹の花と牡丹の花袋(平成20年代) 


NO. 227
おもちゃ学事始め
                                  2018.4.17 学芸員・原田悠里)
学芸室からこんにちは。昨年の神戸・KIITOでの館外展を経て、今年から姫路の本館でお世話になることになりました、原田悠里(はらだゆり)です。新人学芸員として、日々奮闘しております。そんな学芸員の仕事の様子もちょくちょくとみなさまにお伝えしてゆけたらと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

さて、4月です。春爛漫の館に京都光華女子大学こども教育学部、79名の新入生のみなさんがお越しくださいました。学部のオリエンテーションの一環ということもあり、事前に先生方とも打ち合わせをさせていただき、玩具博物館では、自由見学とともに子ども教育学の視点も入れた、おもちゃの世界へのご案内を提案させていただきました。
まず、79名の大人数なので、①1号館、2号館、3号館の見学、②4号館、6号館の見学、③「館長のおもちゃづくり講座」と3つのグループに分かれて、順次交代しながら、館内を見学。その際①、②の見学では、少しお話をしながら「おもちゃ学事始め」と題したワークシートに5つの問いを用意しました。例えば、問1は、「車輪のついたおもちゃには、押して遊ぶものと引っ張って遊ぶものがありますが、それぞれの特徴からあなたならどちらを小さな子どもに選びますか」、と現在1号館で開催している世界の乗り物玩具の中から実際に玩具を取り出しながら尋ね、問3では、プレイコーナーで遊びながら、「2歳から5歳ぐらいの子どもたちが遊び始めたら止まらない、鉄琴がついたドイツのクーゲルバーン(玉転がし)の魅力は何でしょうか」と考えていただきました。
「ハイハイの子には押す方がいいけど、立つようになったら引っ張る方がいい」、「引っ張る方が一緒に歩いている気持ちになる」、「玉を穴に入れるのが楽しい」、「音が聴きたくて何度も遊ぶのかな」などと思い思いに答えてくれました。
これらにはいずれにも正しい答えはありません。「おもちゃ」を身近な視点(子ども教育)から新たに捉えてもらえたらという想いと、必ずしも決まった答えにたどり着く必要がない学びを大学では大事にしてほしいという考えから、尾崎学芸員とともにこのようなワークシートを作成しました。

館長のおもちゃづくり講座 2号館でいろいろなこままわし。どのこまがいい?
大学に入学して10日ちょっと。大学生活への期待に胸膨らませている学生さん、まだまだふわふわと心が浮き立っている学生さん、子どものようにおもちゃではしゃぐ学生さん、と、いろいろな表情が見えましたが、答えのない問いに接し、一瞬目を見開いた彼女たちに、少しばかり人生の先輩として、大学生活の中で、またそこでは見つからなかったならさらに、社会に出た時にでもそれぞれに答えを出していただけたらとお伝えました。

さぁ!わたしも日本玩具博物館に来て、今年から本格的なおもちゃ学事始めです。どんな視点からおもちゃをのぞいてみようかしらん。

見開き2ページの「おもちゃ学事始め」表紙と裏表紙 5つの問いを用意しました。


NO. 226
新しい季節~世界の乗り物玩具展より~  
                                  2018.3.18 学芸員・尾崎織女)


館の庭には空に山茱萸、土佐水木、杏、馬酔木が満開。地には菫や水仙の花盛り。その間を様々な種 類の椿が華やかで、絵の具をひろげたパレットのよう…。
―――燕の訪れより早く黄水仙の咲き出でて、三月の風をとりこにする(ウィリアム・シェイクスピア)
―――今日は、そんな詩がふいに想い起されるような甘い風のなかで黄水仙が揺れていました。
「世界の乗り物玩具展」展示風景

3月3日にオープンした「世界の乗り物玩具展~陸海空の楽しい乗り物~」は、船、馬車や牛車、機関車、ヘリコプターや飛行機、乗用車、トラックやトレーラー、消防自動車など、陸海空の代表的な乗り物玩具を一堂に集め、「A・船の玩具」「B・古い時代の乗り物玩具」「C・レールを走る車」「D・空を飛ぶ大きな翼」「E・道路を走る車」「F・働く車」の6つのグループに分けて展示しています。乗り物玩具が行進しているような展示風景は、小さい子どもたちだけでなく、大人の方々にも楽しんでいただけてい様子です。民族的な造形表現が面白かったり、インテリアとして身近に置きたいようなデザイン玩具があったりするのですから! 
展示には、小さな子どもたちにも親しんでもらえるようにと、列車の玩具の下に色画用紙の線路を敷いたり、自動車が走る道路に見立てて横断歩道を作ったり、工事現場の風景を模したり、ちりめんの反物を雲に見立てて展示ケースの天井から垂らしてみたり……と遊び心を盛り込んでいます。今日も展示室では、乗り物大好き!という男の子がお母さんと一緒に「わぁ~!このおもちゃで遊びたい~!」とスウェーデンのレールセットをキラ
キラした目でみつめる素敵なシーンに出あい、嬉しくなりました。


 レールセットをみつめる男の子とお母さん
楽しいデザインの展示解説パネルです!
また今回は、やわらかい展示をつくりたいと新人学芸員の原田悠里にパネル&キャプションのデザインを任せました。果たして、クレヨンで自由に描いたような、乗り物たちが口々にしゃべりだしそうな、生き生きしたパネル&キャプションが出来上がりました! 写真ではわかりにくいのですが、展示品とよくマッチしてとても楽しく、ご来館の皆様には、微笑みながらパネルの細部にもよく目をとめて下さっています。
原田学芸員です。どうぞよろしく!

原田学芸員は、昨年一年間、神戸開港150年記念展として神戸市とのコラボレーションで実現した「TOY_&_DOLL_COLLECTION」展会場(デザイン・クリエイティブセンター神戸)の学芸業務を一生懸命勤めてくれましたので、神戸の展示会場へお越しくださった方々にはすでにお馴染みのことと思います。博物館資料に接する視点も素晴らしく、日本玩具博物館に若々しいセンスとこれまでとは違った新たな彩りを加えていってくれることでしょう。企画をまわしていくためには、9万点の所蔵資料と仲良しにならなくてはなりませんので、常設展のケース内の資料整理もかね、今、勉強しながらキャプション作成などの仕事に向かってもらっている最中です。今後、「学芸室から」のページにも、彼女からの便りをどんどん掲載していきますので、皆様、どうぞよろしくお願いいたします。



NO. 225
ひなまつりの春~丹波篠山ひなまつりに出かける~ 
                                  2018.3.14 学芸員・尾崎織女)


風はまだ冷たいもののやわらかな陽ざしが野山にあふれるころとなりました。玩具博物館の庭に満開となった梅を鮮やかな羽根をひらめかせてつがいのメジロが飛びまわっています。

先週末から日曜日にかけて、「丹波篠山ひなまつり」実行委員会からお招きを受け、春が満ち始めた篠山の町々へお邪魔しておりました。丹波篠山は、近世のたたずまいを遺す城下町。京へ上る街道沿いにあたり、また周辺には自然豊かな農村と日本六古窯のひとつ丹波焼の里を抱いています。
そのように生活文化が多様な丹波篠山の7つの会場(城下町の河原町地区と西町地区、丸山、雲部、チルドレンズミュージアム、市野々、福住、日置、今田)が連動して、今春もひなまつりが開催されています(3月10日から18日まで)。
 http://www.hinamatsuri.org/

丹波篠山・西町のギャラリー・陶々菴の雛飾り
さて、現在ではよく耳にするようになった春のひなまつり催事ですが、ふり返れば、ちょっとした歴史があります。1980年代後半頃より、まずは旧家や博物館施設が春の企画展として雛人形を取りあげて人気を博し、やがて全国的に盛んになると、1990年代には雛めぐりブームが起きました。90年代後半に入ると、町並保存事業の一環として、また観光振興の施策として、公共施設や商店街、家庭の雛飾りを一斉に公開する、町をあげてのひなまつりが始まり、それが2000年代には全国へと広がりを見せました。私たちも、1990年代から2000年代には、シーズンになると、休館日を利用して、近畿圏ばかりか、東海地方へ、また中国四国、九州地方へと、スタッフ揃って雛めぐりに繰り出していました。それは、江戸時代後期から現代にかけて、どの地域でどのような雛人形が飾られていたのかを見聞する機会となり、毎春、大量の雛飾りと対峙することで、雛人形のもつ美術工芸的な価値、歴史的な価値、民俗的な価値、そして個人にとっての価値を探るための視座をいただけたと思います。現在、どんどんと回を重ね、季節行事として定着させた町もあり、一方、それぞれの事情によって休止(中止)しておられる町もあります。2010年代に実行委員会を組織した「丹波篠山ひなまつり」は、そうした他の町のひなまつり行事に学びながら、同時に連携の「輪」をつくりながら、何より、主体となる町の方々が行事を楽しみながら、いま、着実な歩みを続けておられます。核となる実行委員会の情熱と才知、“つなぐ力”には感動を覚えます。

11日には、その「丹波篠山ひなまつり」の福住会場と城下町の西町会場で「雛まつりの歴史と文化」にまつわるお話をさせていただきました
丹波篠山・福住会場での「雛学さんぽ」風景
。熱心にメモを取りながらお聴きくださる皆さまの、身近な節句文化についての関心の高さと雛人形へのあたたかなまなざしを感じて、喜びに満たされました。

西町会場にあるギャラリー・陶々菴では、思いがけず「玉翁」の古今雛との出あいもありました。玉翁は、幕末から明治時代にかけて活躍した名工の一人で、江戸の「古今雛」における玉眼(仏像のように硝子の目を入れる手法)の様式を京へ伝えた人形師とされています。玩具博物館は、収納用の木箱に明治12年と明治20年の墨書がある玉翁の古今雛を所蔵しているのですが、瞑想するような切れ長の半眼と厳かな表情に独特の静けさがあります。陶々菴の床の間に平置きで京風に飾られた古今雛をひと目みて、同じ雰囲気を感じました。菴主にご許可をいただいて、古いおばあさまのものだったというその雛の頭を抜いて拝見しましたら、花押入りで「玉翁」の署名がありました。玩具博物館にも今春、二対を展示しているのですが、同じ署名のある明治前期の美しい古今雛と、また篠山で出会えたことをとても幸せに感じています。
左側=日本玩具博物館
の古今雛(頭・玉翁/明治20年)
右側=陶々菴の古今雛
  (頭・玉翁/明治前期)
数日かけて丹波篠山の7つの会場をまわらせていただきました。雛人形愛好者には、京文化の影響を受けた衣装雛と地域独自の土雛――つまりマチの雛とムラの雛、その両方を見せていただけることが魅力でしょうし、旅行者には、雛人形がよく似合う穏やかでほっこりとするこの町の風景や人情との出あいが楽しみでしょう。今週末には多くのイベントやスタンプラリーも用意されていることですから、どうぞ、マップ片手に丹波路の雛めぐりにお出かけください。そして、篠山からは車で1時間。中国自動車道経由で日本玩具博物館のかわいい雛たちにも会いにいらしてくださいね。



NO. 224
たばこと塩の博物館「ちりめん細工の今昔展」より
                                  2018.3.5 学芸員・尾崎織女)


新暦桃の節句も過ぎ、ひと雨ごとに春らしさを増す昨今です。
講演会の会場風景

さて、1月23日にオープンしたたばこと塩の博物館「ちりめん細工の今昔展」(東京都墨田区)には、手芸愛好者だけでなく、造形文化に興味をもつ多くの方がお越しになり、百年前、百五十年前に作られた細工物の繊細さや美意識の高さに感嘆の声をあげ、目を細めてご観覧下さっています。
去る2月24日は「ちりめん細工(裁縫お細工物)の歴史をたどる」と題して、講演会をもたせていただきました。―――あんなこともこんなことも…と欲張ったせいか、まとまらないお話になってしまいましたが、歴代の女性の思いがこもった造形を囲み、温かなひとときを過ごさせていただきました。ご参加下さった皆様には本当にありがとうございました。定員の倍近いご来場者があったため、会場へお入りいただけなかった方には本当に申し訳なく思っております。

展示風景~江戸文化の薫りを
 伝えるちりめん細工~
講演会では、江戸後期に武家や町家などで愛された誰袖 (たがそで) 形のお細工物や花形の独楽、三
『用捨箱』(天保12年)に記された
誰袖形の細工物

角形の浮世袋のお話から始めました。―――天保12(1841)年、柳亭種彦が著した『用捨箱』には、①衣服の袖の形に作った袋を二つ紐で結び、たもと落とし(ひもの両端に一つずつ結びつ け、左右のたもとに落としておくもの)のようにして携帯する誰袖形の袋物や、②花をかたどった袋、また③三角形に縫い、中に綿を入れて上の角に飾り糸をつけた浮世袋が登場します。以前は、香類を入れ、匂い袋として使用されていたのが、やがて、誰袖袋は楊枝さしに変わり、花袋は花独楽になり、浮世袋はただ三角の、なんとも名付けがたいお細工物になっていると記されています。その理由として、柳亭種彦は、これらを作るのは女子が針の業を習練するためだから、費用のかかる香類を入れなくなり、袋をもたない造形に変化したと推測していますが、いずれにしろ、当時、武家や町家の女性たちの間で細工物が盛んに行われていたことがわかります。実際、当時の浮世絵にも、コテを手に誰袖形の楊枝さしや花独楽の部品と思われるものを作っている女性が描かれています。

たばこと塩の博物館の展示室では、江戸後期の手芸文化の薫りを伝える作品に幾枚かの当時の浮世絵を合わせてご紹介しています。
それらの浮世絵は、たばこと塩の博物館の所蔵品であり、また今回の企画展をご担当いただいた湯浅淑子学芸員が収集された資料です。会場で作品と合わせて、当時の女性たち息遣いを感じていただけたらと思います。
誰袖形の楊枝さしと小箱
紅白の花独楽
浮世絵「大願成就有ヶ瀧縞」(朝桜楼国芳/
 弘化年間)より、細工物をする武家の女性
     <たばこと塩の博物館・個人蔵>
今後は、ちりめん細工研究会の皆さんと一緒に、誰袖袋や楊枝さし、浮世袋などの復刻に取り組んでいくのも素敵な試みではないかと思います。

――――色よりも香こそあはれと思ほゆれ 誰が袖ふれし宿の梅ぞも(古今集・春上)
東京から戻ってきましたら、玩具博物館の庭に乙女色の梅がほころび、あはれなる香を漂わせていました。いよいよ春ですね。






NO. 223
『三月ひなのつき』とカナダから届いたお雛さま
                                  2018.2.11 学芸員・尾崎織女)
児童文学者・石井桃子さんの『三月ひなのつき』という作品をご存知でしょうか。昭和38年に出版されて以来、版を重ね、愛され続けているロングセラーです。少女時代に読んだ本は友人の子どもたちに譲って手元から離れたので、この度、新たに書店で求めたら平成24年版で31刷目となっていました。なぜ、求めたかというと、昨年、カナダのバンクーバーに住んでおられる個人から当館へと寄贈を受けた雛人形に既視感があり、―――数ヶ月過ぎた今、そうだ!『三月ひなのつき』に登場する寧楽雛だ。主人公・よし子ちゃんのお母さんがお祖母さまから贈られた雛人形、お母さんが大切に大切に20年飾り続け、細部まで思い描けるほど愛していた雛人形、それなのに東京大空襲で焼けてしまった雛人形、その大正時代に彫られた寧楽雛(ならびな)の段飾りにそっくりだ!―――そう想い至ったからです。
『三月ひなのつき』と寧楽雛(ならびな)段飾りの挿絵
バンクーバーから届いた雛人形のこと。幅55㎝、奥行40㎝、高さ23㎝の木箱は朱塗で、手前の引き戸を開けると、中にはヒノキ製の雛段や階(きざはし)、垂れた几帳と巻き上げた御簾の向こうに春の野山が描かれた屏風、雛人形や雛道具を収めた小さな6つの木箱が入っています。それらを取り出してくみ上げると、高さ55㎝のコンパクトな段飾り雛が出来上がります。小箱から、内裏雛、三人官女、稚児、五楽人(雅楽を演奏)、随身、仕丁、古式ゆかしい供え物、灯台、桜橘の二樹を取り出して飾り付けていきます。寄贈者からのお便りによると、亡くなられた母君が大事になさっておられた奈良一刀彫の段飾り雛で、大正末から昭和初期にかけての作品。人形底の作者を示す線刻から、彫刻は山田國廣、彩色は松原米山であることがわかります。時代も姿も、まさに、『三月ひなのつき』にお母さんの思い出として語られる寧楽雛そのもの。
挿絵は朝倉摂さんですが、モデルとなった物語や雛人形があったのでしょうか。

『三月ひなのつき』を四十数年ぶりに読み返すと、自分の少女時代への懐かしさとともに、量産された昭和30年代の、一見、きらびやかな段飾り雛をどうしても受け入れられないお母さんの気持ち、娘の周りを満たすモノに対するお母さんの考え方への共感がわきあがってきました。モノの価値はいうまでもなく、外から設定される価格で決められるはずもない。あなたのことを想い、あなたに伝えたいことがあって、それが形になったもの――それこそがこの世でいちばん尊く、大切なもの。なぜなら、想いのこもったモノたちが、その子の感性の基礎を作り、人生を支えていくのだから――。石井桃子さんはそんなふうに語りかけているのだと思いました。
それは、バンクーバー在住の女性が母君の思い出とともに大事に保管してこられたものを、日本の人形を愛する人たちのもとへ贈りたいと海を渡らせて私たちの博物館に届けて下さったお心にも通じるのだと思います。

本年の雛人形展会場では、大型の屏風飾りや段飾り、豪華な御殿飾りの傍にひっそりと奈良一刀彫の段飾り雛を展示しております。もしよろしければ、『三月ひなのつき』と合わせて楽しんでいただけたらと思います。
『折りひな』の本と折りひなたち

ちなみに、よし子ちゃんのお母さんが3月3日、雛人形を持たない娘のために心をこめて折ったお雛さまは、『折りひな』(田中サタ・真田ふさえ・三水 比文著/福音館書店)に紹介されており、こちらも昭和44年以来のロングセラーです。先日、偶然にもこの本が手元に届き、付けられていた近江雁皮の成子紙工房の手漉き白紙と京都永江民芸紙の手染め和紙で折りひなを作ったところでした。雛人形に関わっていると、毎年、このような嬉しい出会いに満たされます。心のこもったモノのもつ力だと思います。





NO. 222
春を寿ぐ展覧会 オープン!!
                                  2018.2.3 学芸員・尾崎織女)
今日は節分。皆様は“鬼は外、福は内”と唱えながら、豆まきをなさったでしょうか。玩具博物館のランプの家には、今年も「柊鰯(ひいらぎ
ランプの家の柊鰯
いわし)」をつけました。焼き鰯を柊の枝に刺したもので、鬼やらいのまじないと伝わります。鬼は柊の葉の棘で目をつかれることを恐れ、また焼き鰯の強い匂いに舌を巻いて逃げ出すのだと明治生まれの祖母たちは言いました。節分を過ぎた後もつけたままにされるため、古い町の軒下に干からびた柊鰯を見かけることがあります。(柊ではなく、兵庫県下には棘のある山椒の枝などが使われている地域もあるようです。)豆まきだけでなく、こうした風習を暮らしにちょっと取り入れてみるのも節分行事を紐解く窓口として楽しいのではないかと思います。

さて、井上館長の「館長室から125」にありますように、たばこと塩の博物館と日本玩具博物館の共催展「ちりめん細工の今昔」が1月23日――寒波到来で東京が20㎝を超える積雪に見舞われた日の翌日――に無事、オープンいたしました。19日より、館長以下、井上伊都子に新人の原田悠里を加え、4人で会場入りし、たばこと塩博の学芸スタッフの方々と綿密に打ち合わせをしながら、展示作業やミュージアムショップ販売準備などを終えました。
浮世絵に見られる童子の守り袋と明治時代の守り袋を合わせて展示
展示は二部構成。第一部が「江戸と明治・大正時代のちりめん細工」、第二部が「平成時代のちりめん細工~再現と広がり~」です。11年ぶりのたばこと塩博でのちりめん細工展――展示総数は1,030点に及びます。
11年前にもご一緒した同館の湯浅淑子学芸員と、展示資料を肴に歳月の積み重なりを語り合いながら、内容の濃い5日間を過ごさせていただきました。同館や個人、そして玩具博物館が所蔵する江戸から明治時代にかけての浮世絵を持ち寄り、いくつかのお細工物作品と対比展示ができたこと、私としては非常にうれしく思っています。オープンからすでに10日を過ぎましたが、寒波到来の厳しい寒さのなかでも、多くの方々が足を運んで下さっている模様です。

展覧会期は、桃の節句を過ぎ、桜が満開を過ぎる春爛漫の4月8日まで(毎週月曜休館)を予定しています。今昔の女性たちの繊細な感性とともに、日本の春夏秋冬の風情と、また伝承されてきた祈りの造形を親しく受け止めていただけたらと思います。会期中にぜひ、お訪ね下さいませ。

展示作業中の風景
展示風景・・・春を寿ぐつるし飾り(平成時代)/用と美の袋物(明治・大正時代)/女学生たちのお細工物(明治・大正時代)
無事に上記の展示オープンを見届けて帰館したあとは慌ただしく、スタッフ揃って6号館の展示替え作業に入りました。丁寧に細やかに、けれどタッタタッタと大急ぎでクリスマス・オーナメントを梱包し、パッキングして収蔵。そのあと、展示ケース内をキュッキュキュッキュと清掃し、緋毛氈を広げて展示台を組み、また丁寧に細やかに、けれどタッタタッタと大急ぎで雛人形や雛道具を展示していきます。展示作業は雛人形の小さなささやき声が聞こえる深夜まで―――。6日間かけて今年の雛まつり展が華やかに完成いたしました。昨年、寄贈を受けた瀬戸内地方の“見栄っ張り雛”や奈良彫の小さな段飾り雛など、新収蔵の資料も登場して、また新鮮な春の展示室が出来上がっています。

     
展示作業中の風景・・・御殿飾りを組み立てています
展示風景・古今雛屏風飾り(江戸末期)/享保雛(江戸後期)/雛の勝手道具(明治末期)/奈良彫雛段飾り(昭和初期)/瀬戸内地方の古今雛(明治末~大正期)

展示をひとつ作り上げるまでにはコンセプト決定から始まり、展示構成を考え、全体のデザインを決め、出品資料を設定し、パネルやキャプション、文字資料や映像資料の作成、広報、関連催事の企画、ミュージアムショップとの連動―――など職人的ともいえる緻密な作業を積み重ねていかなければなりません。果たしてすべてをうまく遣り果せ、皆さんに喜んでいただける内容を作り上げることができるだろうか…と昨年末から妙な動悸が収まらない日々が続いていましたが、今、やっとほっと胸を撫で下ろしているところです。春を寿ぐ二つの展覧会―――力不足で資料を十分に生かせる展示にはなっていないかもしれませんが、隅々まで心を込めてつくっておりますので、願わくば、暖かいまなざしでご覧いただき、あちらこちらで作品たちがよい出会いを果たさんことを。


NO. 221
神戸開港150年記念「TOY&DOLL COLLECTION」閉幕
                                  2018.1.5 学芸員・尾崎織女)
謹賀新年。新しい年をお健やかにお迎えになられたこととお慶び申し上げます。
昨年、年明け早々に設営を行い、1月25日にオープンしたTOY&DOLL_COLLECTIONを含む「開港150年記念・神戸港と神戸文化の企画展―神戸・みなと・時空ー」は、昨年末の12月28日をもちまして、惜しまれつつ閉幕いたしました。
おもちゃたちは、多くの方々と様々な出会いを積み重ねて、春夏秋冬、よい日々を過ごさせていただきました。何度も繰り返し会場をご訪問下さった方々、35回を重ねたギャラリートークにご参加下さった皆さま、四季折々の講演会やおもちゃ教室、様々なワークショップを楽しん下さった方々、ワークシートを片手に昔のおもちゃを一生懸命学んでいった子どもたち、一年間に亘って見守って下さった皆さまに深甚の感謝をささげます。
12月には神戸市内の小学校から600人を超える子どもたちが校外学習に訪れてくれました
何もない白いギャラリーの床より立ち上がった展示場が温かな空間へと少しずつ変わっていった一年でした。モノとヒトとが出あい、ふれあい、そこから育っていく目に見えないものこそが博物館活動の意味だと思います。博物館にとって一年というのは、そうした価値を育てていくにはあまりに短い歳月ですが、一年かけて伸びた小さな芽を大きく育てていけるよう、日々、地道に・・・。閉幕した今も、そのように考えています。
おもちゃの壁(オープンの頃) おもちゃの壁(夏)…来場者の皆様に「おもちゃの気持ちになって
ひと言」つぶやいていただき、どんどんにぎやかになりました。
人気を博した夏の展示「神戸人形」
私どもにお声がけ下さった主催・神戸市みなと総局の皆さま、三館合同という晴れがましい企画をご一緒して下さった鈴木商店記念館と陳舜臣アジア文藝館の皆さま、展示場の設営や展示替え等で共に汗を流した造作スタッフの皆さま、現場で日々、来場者との温かいコミュニケーションをつくりあげて下さったレセプションスタッフの皆さま、そして、日本玩具博物館のおもちゃたちと“神戸”をしっかりと結び合わせて下さった平成の神戸人形作家・ウズモリ屋吉田太郎さん、日本玩具博物館の歴史に意味を与える一年をともに過ごして下さり、ありがとうございました。

本日より4日間ほどかけて梱包撤収作業を行い、すべての玩具資料を本館へと持
「ちりめん細工の今昔展」ポスター
ち帰ります。そのあと、会場のKIITO・ギャラリーBはすべての造作を外し、もとの何もない真っ白の展示室へと戻る予定です。展示を立ち上げていくときは希望と不安が交錯し、緊張感をもって準備するのですが、畳むときには何とも言えない寂しさを伴うものですね…。

撤収が完了いたしましたら、次に、たばこと塩の博物館(東京都墨田区)での特別展「ちりめん細工の今昔」の準備が控えています(1月23日オープン)。11年ぶりとなる同館でのちりめん細工展――大きな期待がかかっている分、また格別な緊張感に満たされる学芸室ですが、ちりめん細工復興活動三十有余年の総仕上げのつもりで取り組みたいと思っています。またこちらのページでご報告させていただきます。本年もどうか変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。

展示準備風景・・・・展示室と同じ空間をつくって展示のシミュレーションしているところ



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