NO. 254
4号館常設展示室、四季折々のスポットライト
                                              (2019年11月7日 学芸員・尾崎織女)
色づき始めた庭にツワブキやノコンギクが静かに開花し、秋も深まりを見せ始めました。11月に入り、ご遠方から「世界のクリスマス展」を訪ねてこられる方々が増え、またキリスト教系のこども園からは、クリスマス文化に触れ合いたいと、たくさんの可愛いお客さまをお迎えしています。クリスマスアドベント(待降節)に向かうこの季節は、展示品と来館者の距離がぐんと縮まっていくようで、展示室にいると私たちスタッフも幸せに満たされます。

さて、この「学芸室から」のお便りで、原田学芸員が折々ご紹介しておりますように、本年度より4号館1階の「日本の郷土玩具」の常設展示室に、季節の移り変わりに合わせていくつかの郷土玩具にスポットライトを当てる小コーナーを設けました。4月から5月には「郷土の金太郎たち」を展示し、6月から7月は「市川流域の七夕飾り」を、8月は夏の夜を彩る「灯籠玩具」、9月は中秋節にちなんで「兎の郷土玩具」、10月は「播州の祭礼玩具」をとりあげました。テーマに沿ってすくいあげた郷土玩具の数点をじっくりみていただこうという企画です。
  *9月「中秋の兎のおもちゃ」 *10月「播州のおもちゃ」

11月は、東京都荒川区で桐塑製の「犬張子」を作り続けてこられた田中作典さんとその作品を展示しています。82歳になる田中作典さんは犬張子を作って65年(荒川区指定無形文化財保持者)。田中さんの犬張子とそのお人柄を愛して、長く交流を続けてこられた山口裕美子さん(私の畏友)から、ぜひとも!とお誘いを受け、去る9月20日、原田学芸員とともに田中さんの工房を訪問いたしました。
田中さんの作品はどの大きさも本当に愛らしい姿です。明治25年頃に、雛人形のまち・埼玉県岩槻にほど近い町で犬を作り始められたお祖父さまから数えて三代目にあたる作典さんは、東京都荒川区で桐塑生地の型抜きによる成形、三度にわたる胡粉塗り、湿らせた布による磨き上げ、そして彩色・・・といういわゆる「張子」とは異なる手法を受け継いでこられました。飾り布を貼る奥さまと向かい合い、来る日も来る日も、一つ一つを丁寧に愛しむように、作り続けてこられた田中さん。ご夫婦の温かさに包まれ、材料について、製作手順について、デザインの始まりについて、種類や注文主や販売先や最盛期や・・・お仕事についてあれこれとお話を伺い、それは本当に得難い時間でした。
 *田中作典さんの工房訪問の様子 (2019年9月20日)
 
今年度で廃業を予定されていると伺い、非常に残念です。お手元で大事になさってこられた抜き型を当館へ寄贈いただきました。この貴重な資料を永く保存し、後世に伝えたいと思っております。ご来館の方々には、4号館常設展示室でスポットライトを浴びる古い桐塑の抜型をぜひ、ご覧くださいませ。木製の枠のなか、黒々と陶器のような犬の型は松脂(まつやに)で成形されたものです。昭和中期の頃より日々、犬の形を生み出し続けてきた抜型の味わい深さにぜひ、目をお留めいただきたいと思います。



NO. 253
*世界のクリスマス「クリスマス・カレンダー」と「ヨーロッパクリスマス紀行」始まりました*
                                       (2019年10月27日 学芸員・原田 悠里)
この度の台風や大雨で被災されたみなさまに心よりお見舞い申しあげます。被災地のみなさまの心身の疲労を思うと言葉になりません。甲信越、関東、東北地方はこれから寒さも厳しくなる中で、一日も早くみなさまが元の生活に戻れますように願っております。

★館の庭の木々も色づき文化の秋も深まる行楽シーズン、当館も観光やツアー、校外学習などありがたいことに多くの来館者をお迎えしています。そんな中、6号館の世界のままごと展を撤収し、連日連夜1週間かけて、世界のクリスマス展が完成しました。今年で35回目となる世界のクリスマス展。世界のクリスマス展は、クリスマス飾りを通じて世界各地のクリスマス風景を描き、クリスマスを彩る造形からこの行事の意味を探る展覧会です。当館ではドイツを中心にヨーロッパ各地、アジア、アフリカ、中南米と世界各地のクリスマス資料約3000点を収蔵しています。


今年は、初めて「クリスマス・カレンダー」というコンセプトで西側の展示室を設えました。クリスマスシーズンはクリスマスの4つ前の日曜日、アドベント(待降節)から始まります。クリスマスシーズン中にはキリスト教の聖人にまつわる祝日がたくさんありますが、ヨーロッパの子どもたちがとくに待ちわびるのは、12月6日の聖ニコラウスの祝日。ドキドキしながら聖ニコラウスからのプレゼントに期待をこめます。北半球ではだんだんと夜が長くなる中、22日の冬至にむかう太陽を、古代から人々はキャンドルや光のモチーフで元気づけてきました。いよいよクリスマスが近づき、冬枯れの中で生命力を湛える常緑のツリーには、今年の恵みへの感謝や祈りをこめたオーナメントを飾り、クリスマス当日を待ちます。25日、クリスマスを迎え、世界各地のキリスト降誕人形の中央には、飼い葉桶に眠るイエスの人形が置かれます。そしてこの日はサンタさんや各地の贈り物配達人からのプレゼントの楽しみもかかせません。25日を過ぎると、日本ではがらっとお正月の準備になりますが、クリスマスシーズンは新年を祝い、三人の博士がイエスのもとを訪れた日とされる1月6日のエピファニー(公現節)まで続きます。
また、今年はアドベントが始まる前、万聖節、万霊節にかかわる、メキシコの死者の日の祭礼もご紹介しています。
クリスマス・カレンダーを追っていく中で、古代の冬至祭や収穫祭につながる祈りとクリスマスを待ちわびる気持ちが込められた造形や風習の数々が各地で見られます。西室のクリスマス・カレンダーの様子は、クリスマスに向けて少しずつご紹介させていただきたいと思います。
東室は「ヨーロッパのクリスマス紀行」として南欧、東欧、ドイツ、中欧、北欧の地域色溢れるクリスマス風景をご紹介しています。ぜひ秋冬の特別展「世界のクリスマス」へお越しください。
 
12月6日の聖ニコラウスの祝日 冬至に向かう太陽の復活を願うモチーフ 12月25日キリスト降誕 25日の贈り物配達人の姿は各地で様々
★そして今年もクリスマス展に合わせて、解説会、絵本朗読会、ワークショップ行います。
解説会・・・・・・・・・11月24日(日)・12月1日(日)・8日(日)・15日(日)・24日(火)  各回14時半~50分程度
 代表的なクリスマス飾りについて展示室を回りながら、学芸員がご案内します。光のピラミッドや、煙出し人形など、実演を交えた解説会です。
絵本朗読会・・・・・12月22日(日) ①13時30分~ ②15時~
   クリスマス飾りや人形が登場するクリスマス絵本の世界を絵本を倉主真奈さんの朗読によってご案内します。
ワークショップ「卵のサンタクロース」 (要予約)  参加費300円
アメリカの卵型のサンタクロース、ハイチの卵のオーナメントを参考に、展示品の中からお気に入りの贈り物配達人を選んで卵の殻に絵の具で描きます。日本玩具博物館までお電話かFAXにてお申込みください。
日時・・・・・・・・・12月1日(日) 13時~ 20名程度
           12月7日(土) ①11時~②14時~各8名

みなさまのご参加ぜひお待ちしております*^^*

NO. 252
クッキング・トイ ~「遊戯料理」の文化~
                                       (2019年9月27日 学芸員・尾崎織女)
6号館のままごと道具展もいよいよ終盤を迎えました。展示品の前でじっくりと対話しておられる来館者があり、また一方で、子ども時代の
ママ・レンジ(アサヒ玩具製・昭和43年頃)
思い出話に花を咲かせる方々もあって、日々、生き生きとした展示室です。先日も50代の来館者たちが「ママ・レンジ」の前で足をとめ、少女時代に戻ったような笑顔で当時のママ・レンジのCMソングを合唱しておられました。
ママ・レンジは、昭和40年代に玩具会社と食品会社がタイアップして発売した小さなレンジで、
昭和40~50年代の電化ままごと道具展示コーナー
家庭用電源にプラグを差し込むと、電熱器の熱で小さなホットケーキが焼けました。本物の材料で調理し、しかも食べられるという画期的なままごと道具に当時の子どもたちは心を奪われました。ママ・レンジのヒットをを受け、昭和50年代に入っても、ケーキやクッキー、ポップコーンやジュースなどを作れる子どもサイズの電化玩具がママ・シリーズとしてもてはやされましたが、他方で、戦前戦中に子ども時代を過ごした親世代からは、飽食時代の贅沢な玩具だと非難の声も聞こえていました。

今もまた、パンやアイスクリーム、鯛焼きや海苔巻など、菓子や料理をリアルに作れる玩具は「クッキング・トイ」の総称で様々なタイプが
平成20年代のアイスクリームが作れる
       クッキング・トイ
販売されています。オーブンや電子レンジ、冷蔵庫など、家電製品を活用して料理し、家族そろって楽しく賞味できるとあって、子育て世代の家庭で歓迎を受けているのです。

遊ぶことと食べること。子どもにとって魅力的な二つの行為が合体しているのだから、人気があるのは当然なのですが、草花などを食材に見立てて遊ぶ中で想像力を育てるのがままごと本来の良さではないのかと考え込む向きもあるでしょう。
 

ところで、歴史をさかのぼると、江戸時代にはすでに「遊戯料理」という文化がありました。炭火を備えた屋台のもと、米粉に鶏卵などを合わせた生地を熱い石板の上にたらして、子どもたちが菓子を焼くのです。文字を書くように焼くので「文字焼き」といい、「もんじゃ焼き」の前身として知られています。大森貝塚を発見したエドワード・モースも随筆の中で、明治前期の子どもたちが仲良く菓子を焼く屋台を「戸外パン焼き場」と呼んでスケッチとともに書きとめています。

『世渡風俗圖會』(清水晴風著)」
に掲載された文字焼屋台
「子供達はこの上もなく幸福そうに、仮小屋から仮小屋へ飛び廻り、美しい品々を見ては、
モースがスケッチした遊戯料理の屋台
彼らの持つ僅かなお小遣を何に使おうかと、決めていた。一人の老人が箱に似たストーヴを持っていたが、その上の表面は石で、その下には炭火がある。横手には米の粉、鶏卵、砂糖の混合物を入れた大きな壺が置いてあった。老人はこれをコップに入れて子供達に売り、小さなブリキの匙を貸す。子供達はそれを少しずつストーヴの上に広げて料理し、出来上ると掻き取って自分が食べたり、小さな友人達にやったり、背中にくっついている赤ん坊に食わせたりする。
台所に入り込んで、生姜パンかお菓子をつくった後の容器から、ナイフで生地の幾滴かをすくいだし、それを熱いストーヴの上に押し付けて、小さなお菓子をつくることの愉快さを想いだす人は、日本人の子供達のよろこびようを心から理解することが出来るであろう。」
                          (『日本その日その日』 エドワード・モース著・石川欣一訳より)
一方、ままごとの起こりについて、民俗学者の柳田國男(1875~1962)は、小正月の「カマクラ」や桃の節句の「カラゴト」や「オヒナガユ」、お盆の「精霊飯(ショウリョウメシ)」や「餓鬼飯(ガキメシ)」など、四季折々の儀式の中にあると考えました。
「カラゴト」や「オヒナガユ」は、旧暦3月3日の雛まつりに、少女が河原に集まって、火を起こし、お粥やご飯を作って遊ぶもので、福井県や
小豆島で今も行われている盆の「餓鬼飯」
群馬県に伝わります。そして、「精霊飯」や「餓鬼飯」は、旧暦7月15日、村の辻や河原に台所を特設して、少女たちが食事を準備するもので、瀬戸内海の島々や浜名湖周辺の村々にみられました。先祖の霊や無縁仏がこの世に戻ってくるお盆―――そんな特別な日には、家の中にあるカマドに火を入れることも、大人が普段どおりの調理を行うこともよくないとされていました。けれど神や精霊をもてなし供養する必要があるため、大人たちは、子どもに戸外で煮炊きをさせたのでした。
「食べ物を野天でこしらえるということは、大人でも興味を持つほどの珍しい事件なのに、ましてやこれに携わった者がいつの世からともなく女の童であった。どうしてこういうことをするのかは彼らにはわからぬ。ただその面白さを忘れることができなくて、折さえあればその形を繰り返して、おいおいと一つの遊びを発達せしめたのである。」
                          (『こども風土記』柳田國男著・昭和16/1941年刊より)

本物の料理を自分たちで作る――それが宗教的なコトであれ、遊戯であれ、子どもたちにとってはわくわくする特別な行為であることに変わりはないはずです。戸外のかまどや鉄板から家庭内の電化製品へと調理の設備は移り変わっても、クッキング・トイは、かつての遊戯料理の流れを汲む現代玩具であり、ままごと遊びの根源にかかわる性質を秘めているのかもしれません。

「日本と世界のままごと道具展」は10月14日まで。祭り太鼓の響き始めた香寺町へぜひお運びください。



NO. 251 かわいくて素敵な感想をいただきました

                                       (2019年9月12日 学芸員・原田悠里)
 8月の終わりに一度涼しくなったと思ったものの、また真夏に逆戻りしたような暑い日がつづいていますが、みなさまには、お変わりありませんでしょうか。玩具博物館は賑やかな夏休みが終わり、館内は少し落ち着きを取り戻しています。夏休みのおもちゃづくり教室の様子や、スティールパン演奏会当日の様子など別途イベント案内にてご紹介していますので、よろしければご覧ください。

 さて、6号館横のテラス(おしゃれに呼んでいますが、休憩コーナーです^^;)に、置いている感想ノートに、夏休み中に来館くださった、小学校1年生の女の子からままごと展への嬉しい感想とご質問をいただきましたのでご紹介したいと思います。かわいくて元気そうな女の子の絵と丁寧な文字でしっかりと書いてくれていますが、画像だと文字が小さいかもしれませんので、以下そのまま書き起こしてみますね。


かんちょうさんへ
はくぶつかんのむかしのままごとセット、それにせかいのままごとがほんとうにおもしろかったよ。

ぎもん
Q.なんでだいしょうじだいのままごとセットは、こまかくじょうずにできてるの?
Q. おんなのこだけでなくおとこのこもあそんでいましたか?
Q. どうやってここまでのあいた(間?)ままごとのしんかをつげてきたんですか?
Q. いろいろなくにのままごとをどうやってあつめたのですか?
かんちょうさん。おしえてくださいっ!!

大正時代の雛の節句の勝手道具の細やかさや、ままごと道具の変遷など、資料をしっかりと観察してくれているからこそ湧き上がる質問と、疑問を伝えてくれていて嬉しいです。
小学校の名前と学年、名前も書いてくださっているので、答えをお手紙にしてお送りしたいと思っていますが、同じ疑問をもってくださる方もいらっしゃるかもしれませんので、ここでもお答えさせていただきます。

Q. なんでだいしょうじだいのままごとセットは、こまかくじょうずにできてるの?
A. たいしょうじだいのままごとセットをつくった人は、どんな人だったのでしょうか?
むかしはおうちのだいどころどうぐは、木やきんぞくのしょくにんさんがつくっていました。そのしょくにんさんが、こどもようにちいさいサイズでひとつひとつつくったので、こまかくてじょうずなままごとどうぐになったのだとおもいます。
ざんねんながらつくったひとのなまえや、なんにんの人でつくったのか、わからないことがまだまだたくさんあります。またあらしいことがわかったらはくぶつかんのホームページでもしょうかいしますね。

Q.おんなのこだけでなくおとこのこもあそんでいましたか?
A.きっとおんなのこも、おとこのこもいっしょにあそんでいたとおもいます。
ままごとあそびでは、おかあさんやくやおとうさんやく、こどものやく、おきゃくさんのやくなど、いろんなやくになりきってあそんだりするとおもいます。としのちがうおともだちや、おとこのこもいっしょにあそんでいたのではないでしょうか。むかしのえほんやままごとセットのはこにも、おとこのことおんなこがいっしょにままごとあそびをしているようすが、かかれていますので、よかったらまたはくぶつかんにみにきてみてください。

Q.どうやってここまでのあいた(間?)、ままごとのしんかをつ(と)げてきたんですか?
てんじをよくみてくれて、ままごとどうぐがどんどんしんかしてきたことをはっけんしてくれてとてもうれしいです。
ままごとセットは、ほんもののだいどころがモデルです。だいどころのどうぐに、あたらしいどうぐがとうじょうしたり、でんきをつかうようになったりすると、ままごとどうぐにもほんものそっくりのものや、おなじうごきをするものがくわわっていきます。
もしまた、おもちゃはくぶつかんきてくれたときには、ざいりょうのしんかもみてください。木や土でできたままごとセットから、ブリキやアルミというきんぞくのざいりょうになって、プラスチックというざいりょうがつかわれるようになって、いろもかたちもかわっていきます。

Q. いろいろなくにのままごとをどうやってあつめたのですか?
ちょくせつがいこくにいって、あつめました。そのときは、どんなまちでつくられたのか、どんなふうにあそぶのか、そのくにのひとにおしえてもらいます。
また、がいこくのはくぶつかんにおねがいして、にほんのままごとセットとこうかんしてもらったり、がいこくのおもちゃをうるおみせのひとに、おねがいして、かってきてもらったこともあります。

もしほかにも、ままごとのぎもんやおもちゃについて、きになることがあったら、ぜひまたがんぐはくぶつかんにきてください。
おまちしています^^

 秋は小学校の校外学習で、多くの小学生が訪れてくれるので、子どもたちがもともと持っている好奇心によりそうようなご案内ができるようにしなければなと、あらためて思わせてくれた感想ページでした。


NO. 250
日本と世界のままごと道具―おろしてひいて薬味と香辛料はかかせない!
                                       (2019年7月25日 学芸員・原田悠里)
◎7月13日より6号館にて夏の特別展「日本と世界のままごと道具」が始まりました。
 まねごと遊びの代表のひとつであるままごと遊びの世界を広げるままごと道具は、当館のコレクションの中でも一ジャンルを形成するほどの資料数があるのですが、意外にも6号館全てでままごと展をするのは初めてです。広い展示空間に人形サイズや子どもサイズで種類も多いままごと道具をどのように展示するかな?ということで、日本のままごとコーナーでは、雛まつりに登場する小さな台所道具やお茶道具を取り上げ、ハレの日のままごと遊びについて紹介する一方、明治・大正・昭和・平成、と時代を追ってままごと道具の移り変わりをたどります。そして世界のままごとコーナーでは、約40の国と地域の民俗色あるままごと道具を、アジア、ヨーロッパ、北米•中南米、中近東•アフリカと地域ごとに集めました。
日本のままごと道具 雛の勝手道具と昭和40年代のままごと道具(ママ・レンジをはじめ、ママシリーズもご紹介しています。)
   
   世界のままごと道具 ヨーロッパコーナー 
◎さて、その展示作業中、頭の片すみで気になっていたことがありました。それは、明治末から昭和30年代ごろまでの日本のままごと道具の多くに、“おろし金”があるということです。調理器具や台所用品が詳細に再現されている雛の勝手道具にはもちろんのこと、昭和初期から30年代の陶器製、ブリキ製ステンレス製のままごとセットにも、選ばれし調理器具のようにおろし金があります。
大正時代の雛の勝手道具。よ~く見ると必ずあります。銅製のおろし金!
昭和10年代、20年代、30年代、40年代ごろのままごと道具セットにも、陶器製、ブリキ製、ステンレス製のおろし金!
 わたし自身、夏は冷しゃぶやうどんに大根おろしとおろしショウガ、おそばにはわさびを、秋は秋刀魚におろしポン酢、冬はみぞれ鍋、風邪をひけばしょうがやりんごもすりおろしたり、おろし器も3つ持っているおろし好きなのですが、日本ではすでに奈良時代から生姜やわさびは食用と薬用として親しまれ、小泉和子氏の著書『台所道具いまむかし』(平凡社/1994)によると、陶器製のおろし器やすり鉢が10世紀以降の各地の遺跡から出土しているそう。包丁、しゃもじ、おたま、それらに比べると限定的な調理器具だと思うのですが、古くから日本の食文化に必要不可欠な道具だったことがわかります。また、江戸時代中期に編纂された百科辞典『和漢三才図会』には、「薑擦(わさびをろし)」という名前で、ままごとセットの中に見られるものと同じ、持ち手がついた台形型の両面使いのおろし器が描かれています。細かい目の表側ではワサビやショウガをおろして、裏側の粗い目では大根をおろす、と説明されています。おろし器は少なくとも1000年近く形が変わらず、脈々と料理に使われ続けてきた薬味は、世界中の料理も身近になり、食事や調理も多様化した現在も、日本人の舌が求める味なのでしょうね。
そう考えてみるとすりおろすというのは、海外の料理ではあまりお目にかからないなと思いながら、世界のままごと道具を見渡すと気になるのが、香辛料にまつわる調理道具です。
◎今回展示している国の中では、中国、タイ、インド、メキシコ、チュニジア、タンザニアのままごと道具の中に香辛料を挽いたり、潰すための道具が見受けられます。さまざまな香草や香辛料を使う中国各地の料理やタイ料理やインド料理、その土地のままごと道具には、皿型や臼、すり鉢状の深い道具と砕くための棒やな、香辛料に合わせた調理器具が必ずあります。スペインの色彩に影響を受けたメキシコのカラフルな食器類の中に置かれた、存在感のある石製のメタテ(すり皿)とモルカヘーテ(すり鉢)は、中米の先住民が作り続けてきたメキシコ料理、トルティーヤの生地になるとうもろこしの粉やナツメグを挽いたりつぶしたりするためにはかかせません。ブリキや陶器で作られたままごとセットでも、メタテとモルカヘーテは今も使われている石製に忠実に作られています。チュニジア料理は地中海沿岸のヨーロッパの食文化に影響をうけつつ、香辛料をふんだんに使った刺激が強い料理が特徴です。コーヒーと紅茶の産地、タンザニアでは日常的に木の実をすりつぶしたティータイムを楽しむそうです。また、各国のままごと道具によく見られる壺類は、香辛料を保存するためにも使われているそうです。
インドのままごと道具 香辛料を挽いたり砕いたりするさまざまな道具が見られます。 タイの調理器具
メキシコのままごと道具には黒い石で作られたメタテとモルカヘーテが見られます。  タンザニアとチュニジアの香辛料つぶしは
それぞれ伝統工芸の黒檀彫と真鍮製です。
 子どもたちにとっても食べること、食卓、台所、食材は身近な風景、ままごと道具の中には、子どもの世界で日常を再現するために必要な道具が揃えられているように感じます。そして素材の味を生かす和食にかかせない薬味をおろすおろし金、味の決め手となる香辛料づくりにかかせないスパイスミル(香辛料を挽く道具)、それぞれのお国の食文化も背景に見えるままごと道具展、ぜひお越しくださいませ。

◎さて夏休みも始まりました。毎夏恒例の夏休みおもちゃづくり教室、今年も開催します。今年は江戸時代から親しまれてきた日本の伝承玩具から“からくり”をテーマに「かくれ屏風(びょうぶ)」(7月28日(日)/8月14日(水)/8月15日(木))「木びき人形」(8月3日(土))「ご来迎(らいごう)」(8月11日(日))「鯉の滝のぼり」(8月17日(土))「剣術人形」(8月24日(土))を手作りします。江戸玩具とからくりおもちゃなんていう自由研究もいいかもしれませんよ〜。子どもたちにはこの夏に行きたいところ、やりたいことがたくさんあると思いますが、もしおもちゃの歴史や、からくりおもちゃを作ってみたいと思ったらぜひ玩具博物館に来てみてくださいね。



NO. 249
新暦七夕のプチコーナーと織姫はヤバい女の子?
                                       (2019年7月7日 学芸員・原田悠里)
 季節の変化を告げる梅雨が、近年は災害をもたらすような豪雨や大雨ともなり、心配もしてしまいますが、新暦七夕を迎えた姫路は梅雨の晴れ間の夏空が広がっています。夜も星の見える空が広がるといいのですが明日からまた雨の予報、どうでしょうか。
 当館では毎年旧暦の七夕に合わせて5号館らんぷの家で播磨地方の七夕飾りをご覧いただいていますが、今年は4号館1階の郷土玩具コーナーに設けた、横90㎝奥行30cm高さ120㎝ほどのプチ展示コーナーにも七夕飾りを施しました。
 古く中国から伝わった七夕の風習は千年の歴史の中で、夏祭りや盆行事、豊作祈願とも結びついたと考えられます。
 各地の郷土玩具にも七夕にまつわる造形が残されていますが、4号館の小さな展示コーナーには、やはり地元のものをと思い、姫路市内で「七夕さんの着物」、朝来市生野町で「七夕さん」と呼ばれ親しまれてきた七夕の紙衣(かみごろも)をご紹介しています。姫路市内では市川が播磨灘に注ぐ地方に「七夕さんの着物」という男女一対の素朴な紙人形が伝わっています。竹ざおを人形の袖に通して、飾られ、子どもたちが着物に不自由しないようにと願われました。銀山の町生野町の中心部でも二本の笹竹飾りの間に芋がらを渡して一対から数対の「七夕さん」を吊るし飾られてきました。姫路では大塩や東山の昭和30年代~平成期の七夕さんの着物を、生野町は大正時代に作られた七夕さんを展示しています。

郷土玩具に残される七夕の造形(松本の七夕人形/上総地方の七夕馬/仙台七夕の七つ道具/高山の七夕馬と糸車)

 七夕といえば、無意識に夜空を気にしてしまうほど織姫と彦星の年一回の逢瀬に思いを寄せてしまいます。そんな七夕伝説にちなんで、昨年出版された、はらだ有彩さんの著書『日本のヤバい女の子』(柏書房)を面白く拝読しました。書店でも話題になっていたので、ご存じの方も多いかもしれません。日本の民話や古典文学に登場する「女の子」の背景や心情を、著者のはらだ有彩さんが想像(妄想)しながら現代的に解釈し、考察を掘り下げているエッセイのような内容です。タイトルの「ヤバい」は、トンでもない昔話に身をおきながらも受け入れた、彼女たちの生き方を尊重した、どちらかというとポジティブな意味で使われているように思います。
 この本の中で『天稚彦草子(あめのわかひこぞうし)』と七夕伝説をもとにした少女(織姫)がとり上げられています。著者は、大蛇との結婚や瓢(ひさご)で空まで登るという厳しい決断を繰り返し、鬼舅とのはげしい闘いに身を置いたことで、とても魅力的になった人間の少女(織姫)にとって、そもそも離ればなれにならないことは、愛の必要条件になるのだろうかと問いかけ、鬼舅に突き付けられた「月に一度」を少女はわざと「年に一度」と聞き間違えたのではないかと想像します。そして少女(織姫)を距離と会う日数にとらわれず、日々の生活を楽しみながらも離れた天稚彦に変わらぬ愛を持って生きている自立した女性として考察しています。
 他にも乙姫や八尾比丘尼、播州皿屋敷のお菊たちの語られてこなかった思いや考えを探るのは新鮮でした。はらださんと同世代ということもあるのか(苗字が同じというのもあるのか笑)、想像や考察に感覚に共感する部分も多く、また 昔話を“今”を起点にして身近な価値観に一度寄せてから当時の価値観を考えるということはわたし自身の博物館資料との向き合い方にも共通するところがあり興味深かったです。
 各お話に描かれるはらださんのイラストも素敵です。わし座を眺めながら、キラキラでファンキーな宇宙スーツを着こなして仕事の合間にアルタイル(彦星)に「ハロー」と電話をするシティガールな織姫のイラストもいい意味でヤバいですよ^^もし興味のある方はお手にとってみていただけたらと思います。



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