NO. 223
『三月ひなのつき』とカナダから届いたお雛さま
                                  2018.2.11 学芸員・尾崎織女)
児童文学者・石井桃子さんの『三月ひなのつき』という作品をご存知でしょうか。昭和38年に出版されて以来、版を重ね、愛され続けているロングセラーです。少女時代に読んだ本は友人の子どもたちに譲って手元から離れたので、この度、新たに書店で求めたら平成24年版で31刷目となっていました。なぜ、求めたかというと、昨年、カナダのバンクーバーに住んでおられる個人から当館へと寄贈を受けた雛人形に既視感があり、―――数ヶ月過ぎた今、そうだ!『三月ひなのつき』に登場する寧楽雛だ。主人公・よし子ちゃんのお母さんがお祖母さまから贈られた雛人形、お母さんが大切に大切に20年飾り続け、細部まで思い描けるほど愛していた雛人形、それなのに東京大空襲で焼けてしまった雛人形、その大正時代に彫られた寧楽雛(ならびな)の段飾りにそっくりだ!―――そう想い至ったからです。
『三月ひなのつき』と寧楽雛(ならびな)段飾りの挿絵
バンクーバーから届いた雛人形のこと。幅55㎝、奥行40㎝、高さ23㎝の木箱は朱塗で、手前の引き戸を開けると、中にはヒノキ製の雛段や階(きざはし)、垂れた几帳と巻き上げた御簾の向こうに春の野山が描かれた屏風、雛人形や雛道具を収めた小さな6つの木箱が入っています。それらを取り出してくみ上げると、高さ55㎝のコンパクトな段飾り雛が出来上がります。小箱から、内裏雛、三人官女、稚児、五楽人(雅楽を演奏)、随身、仕丁、古式ゆかしい供え物、灯台、桜橘の二樹を取り出して飾り付けていきます。寄贈者からのお便りによると、亡くなられた母君が大事になさっておられた奈良一刀彫の段飾り雛で、大正末から昭和初期にかけての作品。人形底の作者を示す線刻から、彫刻は山田國廣、彩色は松原米山であることがわかります。時代も姿も、まさに、『三月ひなのつき』にお母さんの思い出として語られる寧楽雛そのもの。
挿絵は朝倉摂さんですが、モデルとなった物語や雛人形があったのでしょうか。

『三月ひなのつき』を四十数年ぶりに読み返すと、自分の少女時代への懐かしさとともに、量産された昭和30年代の、一見、きらびやかな段飾り雛をどうしても受け入れられないお母さんの気持ち、娘の周りを満たすモノに対するお母さんの考え方への共感がわきあがってきました。モノの価値はいうまでもなく、外から設定される価格で決められるはずもない。あなたのことを想い、あなたに伝えたいことがあって、それが形になったもの――それこそがこの世でいちばん尊く、大切なもの。なぜなら、想いのこもったモノたちが、その子の感性の基礎を作り、人生を支えていくのだから――。石井桃子さんはそんなふうに語りかけているのだと思いました。
それは、バンクーバー在住の女性が母君の思い出とともに大事に保管してこられたものを、日本の人形を愛する人たちのもとへ贈りたいと海を渡らせて私たちの博物館に届けて下さったお心にも通じるのだと思います。

本年の雛人形展会場では、大型の屏風飾りや段飾り、豪華な御殿飾りの傍にひっそりと奈良一刀彫の段飾り雛を展示しております。もしよろしければ、『三月ひなのつき』と合わせて楽しんでいただけたらと思います。
『折りひな』の本と折りひなたち

ちなみに、よし子ちゃんのお母さんが3月3日、雛人形を持たない娘のために心をこめて折ったお雛さまは、『折りひな』(田中サタ・真田ふさえ・三水 比文著/福音館書店)に紹介されており、こちらも昭和44年以来のロングセラーです。先日、偶然にもこの本が手元に届き、付けられていた近江雁皮の成子紙工房の手漉き白紙と京都永江民芸紙の手染め和紙で折りひなを作ったところでした。雛人形に関わっていると、毎年、このような嬉しい出会いに満たされます。心のこもったモノのもつ力だと思います。





NO. 222
春を寿ぐ展覧会 オープン!!
                                  2018.2.3 学芸員・尾崎織女)
今日は節分。皆様は“鬼は外、福は内”と唱えながら、豆まきをなさったでしょうか。玩具博物館のランプの家には、今年も「柊鰯(ひいらぎ
ランプの家の柊鰯
いわし)」をつけました。焼き鰯を柊の枝に刺したもので、鬼やらいのまじないと伝わります。鬼は柊の葉の棘で目をつかれることを恐れ、また焼き鰯の強い匂いに舌を巻いて逃げ出すのだと明治生まれの祖母たちは言いました。節分を過ぎた後もつけたままにされるため、古い町の軒下に干からびた柊鰯を見かけることがあります。(柊ではなく、兵庫県下には棘のある山椒の枝などが使われている地域もあるようです。)豆まきだけでなく、こうした風習を暮らしにちょっと取り入れてみるのも節分行事を紐解く窓口として楽しいのではないかと思います。

さて、井上館長の「館長室から125」にありますように、たばこと塩の博物館と日本玩具博物館の共催展「ちりめん細工の今昔」が1月23日――寒波到来で東京が20㎝を超える積雪に見舞われた日の翌日――に無事、オープンいたしました。19日より、館長以下、井上伊都子に新人の原田悠里を加え、4人で会場入りし、たばこと塩博の学芸スタッフの方々と綿密に打ち合わせをしながら、展示作業やミュージアムショップ販売準備などを終えました。
浮世絵に見られる童子の守り袋と明治時代の守り袋を合わせて展示
展示は二部構成。第一部が「江戸と明治・大正時代のちりめん細工」、第二部が「平成時代のちりめん細工~再現と広がり~」です。11年ぶりのたばこと塩博でのちりめん細工展――展示総数は1,030点に及びます。
11年前にもご一緒した同館の湯浅淑子学芸員と、展示資料を肴に歳月の積み重なりを語り合いながら、内容の濃い5日間を過ごさせていただきました。同館や個人、そして玩具博物館が所蔵する江戸から明治時代にかけての浮世絵を持ち寄り、いくつかのお細工物作品と対比展示ができたこと、私としては非常にうれしく思っています。オープンからすでに10日を過ぎましたが、寒波到来の厳しい寒さのなかでも、多くの方々が足を運んで下さっている模様です。

展覧会期は、桃の節句を過ぎ、桜が満開を過ぎる春爛漫の4月8日まで(毎週月曜休館)を予定しています。今昔の女性たちの繊細な感性とともに、日本の春夏秋冬の風情と、また伝承されてきた祈りの造形を親しく受け止めていただけたらと思います。会期中にぜひ、お訪ね下さいませ。

展示作業中の風景
展示風景・・・春を寿ぐつるし飾り(平成時代)/用と美の袋物(明治・大正時代)/女学生たちのお細工物(明治・大正時代)
無事に上記の展示オープンを見届けて帰館したあとは慌ただしく、スタッフ揃って6号館の展示替え作業に入りました。丁寧に細やかに、けれどタッタタッタと大急ぎでクリスマス・オーナメントを梱包し、パッキングして収蔵。そのあと、展示ケース内をキュッキュキュッキュと清掃し、緋毛氈を広げて展示台を組み、また丁寧に細やかに、けれどタッタタッタと大急ぎで雛人形や雛道具を展示していきます。展示作業は雛人形の小さなささやき声が聞こえる深夜まで―――。6日間かけて今年の雛まつり展が華やかに完成いたしました。昨年、寄贈を受けた瀬戸内地方の“見栄っ張り雛”や奈良彫の小さな段飾り雛など、新収蔵の資料も登場して、また新鮮な春の展示室が出来上がっています。

     
展示作業中の風景・・・御殿飾りを組み立てています
展示風景・古今雛屏風飾り(江戸末期)/享保雛(江戸後期)/雛の勝手道具(明治末期)/奈良彫雛段飾り(昭和初期)/瀬戸内地方の古今雛(明治末~大正期)

展示をひとつ作り上げるまでにはコンセプト決定から始まり、展示構成を考え、全体のデザインを決め、出品資料を設定し、パネルやキャプション、文字資料や映像資料の作成、広報、関連催事の企画、ミュージアムショップとの連動―――など職人的ともいえる緻密な作業を積み重ねていかなければなりません。果たしてすべてをうまく遣り果せ、皆さんに喜んでいただける内容を作り上げることができるだろうか…と昨年末から妙な動悸が収まらない日々が続いていましたが、今、やっとほっと胸を撫で下ろしているところです。春を寿ぐ二つの展覧会―――力不足で資料を十分に生かせる展示にはなっていないかもしれませんが、隅々まで心を込めてつくっておりますので、願わくば、暖かいまなざしでご覧いただき、あちらこちらで作品たちがよい出会いを果たさんことを。


     学芸室2018前期  学芸室2017後期  学芸室2017前期 学芸室2016後期  学芸室2016前期 
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学芸室2012前期 学芸室2011後期 学芸室2011前期 学芸室2010後期 学芸室2010前期 学芸室2009後期 学芸室2009前期
学芸室2008後期 学芸室2008前期 学芸室2007後期 学芸室2007前期 学芸室2006後期 学芸室2006前期 学芸室2005







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