NO. 216
当館らんぷの家の七夕と三芳町立歴史民俗資料館・旧池上家(埼玉県)の七夕
                                         (2017.8.5  学芸員・尾崎織女)

はや立秋が近づき、ひと月遅れの8月7日に七夕を祝う地域や家庭では笹飾りの準備をなさっておられることでしょう。典型的な播磨地方
播磨地方の七夕――2本の笹飾りの間に竹を渡して
 一段目には対にした野菜をいろいろ、二段目には
 “七夕さんの着物”を並べ飾りました。
の七夕は、2本の笹飾りの間に1本の女竹を渡し、そこに、色づき始めたホオズキ、やっと穂が出始めたイネ、初生りのカキ、クリ、イチジク、そしてナスやキュウリやトマトなど、畑の野菜をそれぞれ一対にして吊るすものです。「七夕さんはハツモン喰いやから…」と明治時代生まれの古老たちがよく話しておられました。それは、天の七夕の二星に捧げるものであり、秋の豊作祈願でもあり、また、江戸後期の文献の絵図と見比べてみると、かつての盆棚のしつらえによく似ていることから、祖霊迎えとの関わりも深いと考えられます。
実りはじめた畑の野菜をとり、棕櫚の葉を
 裂いたものやカラムシの茎からとった

 繊維で一対に組み合わせます。
そうした野菜をつるす七夕飾りに、塩田で栄えた播磨灘沿岸地帯、また銀山で栄えた生野町にのみ伝わる“七夕さんの着物”の飾りを加えて、今年もランプの家の縁側に七夕飾りを行いました。野菜と着物の合体した七夕飾りは、昭和30年代頃までは市川沿いの町々に点在してみられました
来館者は、「子ども時代に見た縁側の風景、風や匂い、家族の顔・・・それらが今、ふっとよみがえりました」と懐かしい目をして話されます。自然環境、住環境が変わってしまい、なかなか触れ合える機会のないものとなってしまいましたが、子ども時代に初めて出会った風景が家庭や社会の温かさとともにいつまでも心に残されていくことを思えば、季節感あふれる伝承の風景を毎年、つくり続けたいと思うのです。


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昨年のひと月遅れの七夕は、さいたま市の大宮地区子ども会連合会からのお招きを受け、「江戸時代のおもちゃのワークショップ」に出かけたのですが、その明くる
三芳町立歴史民俗資料館・旧池上家の
 七夕 “ホシイワイ”のマコモ馬
日、ご縁あってマコモ馬が飾られる七夕風景に出合うことが出来ました。
埼玉県入間郡三芳町立歴史民俗資料館が管理される旧池上家は幕末期に栄えた豊かな農家。美しい茅葺き屋根の旧池上家では、この地域に伝えられてきた四季折々の生活文化が動態展示されています。資料館の解説によると―――かつて、この地方の七夕は“ホシイワイ”と呼ばれていました。8月7日に笹飾りが立てられ、軒先には近くの水辺から刈り取ったマコモ(真菰)で作った一対
マコモ(真菰)を束ねたリ編んだりして作られた
  マコモ馬(向かって右が牡馬・左が雌馬)
の馬が飾られました。マコモは庭先に10日間ほど干したものが使われます。頭をもたげた牡馬と首を低くのばした雌馬の一対を天の二星に捧げます。七夕が終わると、子ども達がしばらく遊んだあと、天の川に届くようにと祈りながら、屋根の上に投げ上げてそのまま置かれたそうです。縁側には畑で採れるナスやキュウリ、西瓜、トマトなどの野菜を箕に入れて、小麦饅頭とともに供え、作物の豊作が願われました。 “七夕は朝まんじゅうに昼うどん” といわれ、七夕の日は、身体の疲れをのぞき、しっかりと休息をとる農休日でもあったということです。
                    
20数年前、横浜市の根岸競馬記念公苑・馬の博物館の特別展『わらうま―その民俗と造形―』(昭和63年)の図録の中に旧池上家の七夕飾りをみた時から訪ねたく思っていました。今では、資料が把握されている限りにおいて、マコマ馬を飾って七夕を祝う家庭は残っていないそうです。けれど度々、ワークショップが計画され、次代への伝承が図られていますので、町内に分け入ってみると、習い覚えた方々がマコモ馬を飾って七夕の夜を過ごしておられるかもしれません。時代が移り変わっても、ぶれることなく博物館活動を続けておられる三芳町立歴史民俗資料館の存在をうれしく思ったことです。今年も三芳町を訪ねれば
カンカン照りの空の下、茅葺き屋根の軒深く、涼しげな“ホシイワイ”の風景に出合えることでしょう。


NO. 215
楽器の音・おもちゃの音
                              (2017.7.16  学芸員・尾崎織女)
大暑を前に、蒸し暑く過ごしにくい日々が続いていますが、皆様にはお元気でいらっしゃいますか。
日本玩具博物館でも、またKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)の方でも子どもたちの夏休みを迎える準備が少しずつ整い、どんな出会いが待っているか、わくわく感が高まる今日この頃です。

6号館の「世界の民族楽器と音のでるおもちゃ展」会場では、展示室に設置した楽器や玩具を手にとって、誰かがナイジェリアの“パームナッツのジングル”を鳴らせば、誰かがベトナムの木魚を打ち鳴らし、小さな子がインドネシアのでんでん太鼓をバタバタと振れば、別の誰かがチリのレインスティックで応じます。やがてなんとなくリズムが合ってきて、セッションとなっていく様子はなんとも前衛的で、リオデジャネイロの町の喫茶店にいるかのような楽しさです。

先日は、法螺貝を抱えた男性がこの特別展を目指して来館されました。「ちょっと、この法螺貝を吹きましょうか?!」というお申し出をありがたくお受けして、即席のミニライブ“法螺貝と尺八の音色”――何千回の修業を重ねて出るようになったという石鎚立螺の様々な音色を、居合わせた方々と一緒に聴きました。魔を払うという渦巻くような深い音にしばし暑さも遠のきました。この展示期間には、こんなふうに楽器を携えた方々がお越しになり、即興演奏&即席ライブとなる楽しみがあります。楽器好きの方にはぜひ愛器ご持参でご来館下さいませ。
1号館の夏の囲炉裏端で法螺貝の演奏を/法螺貝を吹かせてもらう男の子/尺八の二重奏も。
KIITO会場の方へは先日、神戸市立盲学校の高等部の皆さんがご来館下さいました。それぞれの展示コーナーから、玩具を取り出してそっと触れていただきながら、郷土玩具から近代玩具への移り変わりを「素材」「動力」をテーマにご覧いただき、原田学芸員と一緒にお話をしながら会場を巡りました。また紙コップに凧紐を通して「鳴くニワトリ」の玩具を作り、フリクション・ドラムの楽しさを味わっていただいた後、郷土玩具のフクロウ笛や鳩笛、カッコウ笛、バードコール、鳥の水笛、尾舞鳥などをそれぞれの手に渡して、発音玩具による即席演奏会を行いました。
フクロウ笛が鳴く夜の静けさから夜明け、バードコールの雀がさえずり、紙コップの鶏が一斉にコッコッコッコ、コケコッコーと時の声を作ります。鳩笛、小鳩笛、カッコウ笛などが鳴き合わせをしながら、鳥の玩具による大合唱で盛り上がり、また順番に静かになって夜のフクロウ笛がホウホウと鳴いて終わる演奏会です。郷土玩具の音色をこうして盲学校の皆さんと楽しめたことが非常にうれしく、私たちにとって深く胸にしみる体験でした。
郷土玩具の鳥たち
神戸市立盲学校高等部の皆さんご来館の様子
日時を決めて開催している展示解説会では、ぶんぶんゴマやラトルウォッチ、ローカストシンガーなど、「鳴り物~noisemaker~」として分類される資料を鳴らしながら、その歴史や文化性についてご紹介するところから始めるのですが、それらの音は解説会に参加下さる皆さんの目を輝かせ、たちまち笑顔に変える力があると感じます。博物館資料ですから、展示品は遊ぶ(=使用する)ためにあるのではなく、保存を目的としたものですが、今も作られている郷土玩具や民芸玩具については、音や手触り、温度や重さなどを五感で知っていただき、現代の暮らしにも取り入れていただく、そのきっかけがつくられたら――と思うのです。



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