NO. 210
大忙しの春から初夏へ

                                           (2017.4.15  学芸員・尾崎織女) 
暦の春がやってきてもなかなか上がらない気温にぐっとエネルギーをためていた植物が、ここにきて一気に爛漫の季節を歌いはじめました。皆さまには、明るく希望に満ちて新しい年度を迎えられたことでしょう。学芸室では、昨年度末からの大忙し――――デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)での「TOY&DOLL_COLLECTION」展のオープンと
1か月後にさっそく行った春の展示替え、本館の方も6号館の「雛まつり」展と1号館の「なつかしの人形」展の準備、内外の様々な講座の開催、2冊の書籍(『日本と世界おもしろ玩具図鑑』『ちりめん細工の小さな袋と小箱』)の出版準備など――――が続いていたのですが、去る休館日に「端午の節句~江戸から昭和の甲冑飾り~」の展示準備が整い、今、やっとすべての山を越えられたように感じてほっとしています。

今年は、6号館の「雛まつり」展に展示していた40組の雛飾りのうち、西室に展示していた江戸後期から明治前期製の雛人形を収蔵し、半分の展示室に端午の節句飾りをほどこしました。
―――男雛と女雛はそれぞれ別の桐箱に収めてしまうので、向かい合わせ、“しばしの別れ”の儀式をしてから、筆や毛ばたきで埃を払い、紐先や結髪の乱れを直し、形を整えて梱包します。この作業にあたっては、細部まで手を抜くことなく、心をこめて行わないと、人形たちの劣化が進んでしまいます。
―――空になった展示室には緑色の毛氈を敷き、展示台を組んで、爽やかに端午の節句飾りを。昨年の端午の節句展では、明治から昭和初期にかけて京阪地方で人気のあった優美な“武者人形”をご紹介したのですが、今年は “甲冑飾り”をテーマに、幕末期から昭和初期頃までの移り変わりをたどる内容です。現在、百貨店や人形店などに並べられている節句飾りとの違いをみつけていただければと思います。
明治時代の甲冑飾り 大正時代の甲冑飾り

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さて、昨年8月下旬より日本経済新聞の土曜日夕刊・社会面では、コラムとして『モノごころヒト語り』という連載が続いています。暮らしを支えるモノを主題にした随想で、「生活道具」「民具」「福祉用品」「玩具」の4つの項目を4人が分担して執筆するものです。箪笥や洗濯機などの生活道具はTEM研究所の真島麗子さん、火おこし具や蚊やり豚などの民具は武蔵野美大の神野善治先生、バリアフリー・福祉用品は共用品推進機構の星川安之さんがお書きになっています。このような立派な方々の傍らで畏れ多いのですが、「玩具」は尾崎が担当しています。コンセプトはモノの歴史を踏まえて“今”を考え、そこから読み取れる社会変化に着目すること。27年間、日本玩具博物館に身を置かせてもらい、ここに集うモノとヒトの間で右往左往する私は、日々の仕事の中で出あう事柄を折り込んでいけたらと思います。ご報告が遅くなってしまったのですが、お心に留め、お読みいただければ幸いです。



NO. 209
雛人形の春2017~玩具博物館、そしてミナトマチ神戸のTOY &DOLL COLLECTION~

                                           (2017.2.28  学芸員・尾崎織女) 
2月が逃げるようにして去り、いよいよ新暦桃の節句が近づいてきました。皆さまのご家庭ではお雛さまを飾っておられますか。日本玩具博物館の春恒例の特別展「雛まつり」―――今年は“雛と雛道具”がテーマです。昨春、『源氏物語』を題材にした六曲一双屛風を入手いたしましたので、今回、展示ケース3間分にその屛風を立てまわして、江戸時代の雛たちを展示してみました。雛人形のためには雛屛風が用意されるべきところですから、展示台のバランスに苦労しましたが、展示室に雅やかな“面”が生まれ、いつもとは違った風情に仕上がりました。左隻の前には江戸型古今雛三対を、右隻の前には京阪型古今雛三対を展示しておりますので、同時代における両者の様式の違いを比較しながらご覧いただけることと想います。
玩具博物館6号館雛まつり展会場西室奥の展示風景
一方、神戸KIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)の「TOY & DOLL COLLECTION」会場も2つのコーナーの入れ替えを行い、2月22日(水)から春の展示が始まっています。日本の春は人形の季節ですから、世界の玩具コレクションコーナーには「世界の国の人形たち」を、季節のコーナーには「雛飾りと端午の節句飾り」を展示いたしました。
「雛飾りと端午の節句飾り」(―6月11日まで)では、明治末から大正時代にかけて、神戸市内の家々で飾られていた雛人形や甲冑などを広げています。雛飾りについては、造り酒屋だったご家庭から寄贈を受けた明治30年頃の御殿飾りと大正11年の檜皮葺き御殿飾りをご紹介しています。いずれも御殿は幅180㎝、奥行75㎝の大型で、京都の大木平蔵(丸平)によって調えられた名品です。玩具博物館内の展示ケースは小さな玩具を展示するのにふさわしいサイズとして、奥行90㎝しかありませんので、これらの大型御殿飾りを展示するとなると、ぎりぎり一段しか作れず、本来、御殿の前にずらりと並ぶ雛道具が数点しか出せないのですが(その分、人形たちの表情を間近にご覧いただけます)、「TOY & DOLL COLLECTION」会場では、大型御殿飾りに合わせて奥行180㎝のケースを造作していただきましたので、華やかで量感のある御殿飾りの雰囲気を感じていただけると思います。
TOY & DOLL COLLECTION「雛飾りと端午の節句飾り」展示風景
雛飾りについてはもう一組、明治40年代に京都で作られ、神戸市須磨区のご家庭で大切に飾られていた明治40年代製の段飾りをご紹介しています。
1995年春に寄贈を受けた雛人形
日本玩具博物館は、平成7(1995)年の春、阪神淡路大地震で甚大な被害を受けた町々に向けて、家屋の倒壊や転居などによって行き場を失った雛人形や武者人形のお預かりや引き取りの呼びかけをいたしました。そうしたところ、なんと、その1年間に300軒に及ぶお宅から寄贈の申し出がありました。受け取りに伺ったり、お送りいただいたり、中にはトラックで持参下さる方もありました。そのうちの150軒分を収蔵登録させていただき、あとは二次資料として保管したり、当館と交流の深いヨーロッパ各地の玩具博物館や中国やアメリカの民俗博物館、また新しいものは近隣の幼稚園や小学校、福祉施設などへ再寄贈させてもらったりもいたしました。この段飾り雛は、私たちにとってあの地震の年の象徴ともいえる人形です。じっと見つめていると、あのように大変な日々の中でも、人形たちを守ろうとされた方々の、優しい気持ち、暖かい言葉がよみがえってきます。
100年以上前に生まれ、かわいい女の子たちの目を楽しませ、けれども、戦争や水害や大きな地震…と様々なつらい出来事をかいくぐってきたお雛さまたちが久しぶりに神戸の町へと戻ります。懐かしい方々との再会が待っています。
TOY & DOLL COLLECTION「雛飾りと端午の節句飾り」展示風景
2月26日(日)2時から3時には「桃の節句と雛飾り」と題する講座を開催し、雛まつりに歴史にも触れていただきました。今後、3月4日(土)・12日(日)・19日(日)・26日(日)には各日、11時~/14時~の2回、「ギャラリー・トーク」を予定しております。また、折々の佳き時間帯には「貝合わせ体験の会」を開きたいと思っておりますので、(玩具博物館へはもちろん)ミナトマチ神戸のTOY & DOLL COLLECTIONへも時間を合わせてご来場くださいませ。
春の講座の風景

         学芸室2017前期 学芸室2016後期  学芸室2016前期 
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