NO. 250
日本と世界のままごと道具―おろしてひいて薬味と香辛料はかかせない!
                                       (2019年7月25日 学芸員・原田悠里)
◎7月13日より6号館にて夏の特別展「日本と世界のままごと道具」が始まりました。
 まねごと遊びの代表のひとつであるままごと遊びの世界を広げるままごと道具は、当館のコレクションの中でも一ジャンルを形成するほどの資料数があるのですが、意外にも6号館全てでままごと展をするのは初めてです。広い展示空間に人形サイズや子どもサイズで種類も多いままごと道具をどのように展示するかな?ということで、日本のままごとコーナーでは、雛まつりに登場する小さな台所道具やお茶道具を取り上げ、ハレの日のままごと遊びについて紹介する一方、明治・大正・昭和・平成、と時代を追ってままごと道具の移り変わりをたどります。そして世界のままごとコーナーでは、約40の国と地域の民俗色あるままごと道具を、アジア、ヨーロッパ、北米•中南米、中近東•アフリカと地域ごとに集めました。
日本のままごと道具 雛の勝手道具と昭和40年代のままごと道具(ママ・レンジをはじめ、ママシリーズもご紹介しています。)
   
   世界のままごと道具 ヨーロッパコーナー 
◎さて、その展示作業中、頭の片すみで気になっていたことがありました。それは、明治末から昭和30年代ごろまでの日本のままごと道具の多くに、“おろし金”があるということです。調理器具や台所用品が詳細に再現されている雛の勝手道具にはもちろんのこと、昭和初期から30年代の陶器製、ブリキ製ステンレス製のままごとセットにも、選ばれし調理器具のようにおろし金があります。
大正時代の雛の勝手道具。よ~く見ると必ずあります。銅製のおろし金!
昭和10年代、20年代、30年代、40年代ごろのままごと道具セットにも、陶器製、ブリキ製、ステンレス製のおろし金!
 わたし自身、夏は冷しゃぶやうどんに大根おろしとおろしショウガ、おそばにはわさびを、秋は秋刀魚におろしポン酢、冬はみぞれ鍋、風邪をひけばしょうがやりんごもすりおろしたり、おろし器も3つ持っているおろし好きなのですが、日本ではすでに奈良時代から生姜やわさびは食用と薬用として親しまれ、小泉和子氏の著書『台所道具いまむかし』(平凡社/1994)によると、陶器製のおろし器やすり鉢が10世紀以降の各地の遺跡から出土しているそう。包丁、しゃもじ、おたま、それらに比べると限定的な調理器具だと思うのですが、古くから日本の食文化に必要不可欠な道具だったことがわかります。また、江戸時代中期に編纂された百科辞典『和漢三才図会』には、「薑擦(わさびをろし)」という名前で、ままごとセットの中に見られるものと同じ、持ち手がついた台形型の両面使いのおろし器が描かれています。細かい目の表側ではワサビやショウガをおろして、裏側の粗い目では大根をおろす、と説明されています。おろし器は少なくとも1000年近く形が変わらず、脈々と料理に使われ続けてきた薬味は、世界中の料理も身近になり、食事や調理も多様化した現在も、日本人の舌が求める味なのでしょうね。
そう考えてみるとすりおろすというのは、海外の料理ではあまりお目にかからないなと思いながら、世界のままごと道具を見渡すと気になるのが、香辛料にまつわる調理道具です。
◎今回展示している国の中では、中国、タイ、インド、メキシコ、チュニジア、タンザニアのままごと道具の中に香辛料を挽いたり、潰すための道具が見受けられます。さまざまな香草や香辛料を使う中国各地の料理やタイ料理やインド料理、その土地のままごと道具には、皿型や臼、すり鉢状の深い道具と砕くための棒やな、香辛料に合わせた調理器具が必ずあります。スペインの色彩に影響を受けたメキシコのカラフルな食器類の中に置かれた、存在感のある石製のメタテ(すり皿)とモルカヘーテ(すり鉢)は、中米の先住民が作り続けてきたメキシコ料理、トルティーヤの生地になるとうもろこしの粉やナツメグを挽いたりつぶしたりするためにはかかせません。ブリキや陶器で作られたままごとセットでも、メタテとモルカヘーテは今も使われている石製に忠実に作られています。チュニジア料理は地中海沿岸のヨーロッパの食文化に影響をうけつつ、香辛料をふんだんに使った刺激が強い料理が特徴です。コーヒーと紅茶の産地、タンザニアでは日常的に木の実をすりつぶしたティータイムを楽しむそうです。また、各国のままごと道具によく見られる壺類は、香辛料を保存するためにも使われているそうです。
インドのままごと道具 香辛料を挽いたり砕いたりするさまざまな道具が見られます。 タイの調理器具
メキシコのままごと道具には黒い石で作られたメタテとモルカヘーテが見られます。  タンザニアとチュニジアの香辛料つぶしは
それぞれ伝統工芸の黒檀彫と真鍮製です。
 子どもたちにとっても食べること、食卓、台所、食材は身近な風景、ままごと道具の中には、子どもの世界で日常を再現するために必要な道具が揃えられているように感じます。そして素材の味を生かす和食にかかせない薬味をおろすおろし金、味の決め手となる香辛料づくりにかかせないスパイスミル(香辛料を挽く道具)、それぞれのお国の食文化も背景に見えるままごと道具展、ぜひお越しくださいませ。

◎さて夏休みも始まりました。毎夏恒例の夏休みおもちゃづくり教室、今年も開催します。今年は江戸時代から親しまれてきた日本の伝承玩具から“からくり”をテーマに「かくれ屏風(びょうぶ)」(7月28日(日)/8月14日(水)/8月15日(木))「木びき人形」(8月3日(土))「ご来迎(らいごう)」(8月11日(日))「鯉の滝のぼり」(8月17日(土))「剣術人形」(8月24日(土))を手作りします。江戸玩具とからくりおもちゃなんていう自由研究もいいかもしれませんよ〜。子どもたちにはこの夏に行きたいところ、やりたいことがたくさんあると思いますが、もしおもちゃの歴史や、からくりおもちゃを作ってみたいと思ったらぜひ玩具博物館に来てみてくださいね。



NO. 249
新暦七夕のプチコーナーと織姫はヤバい女の子?
                                       (2019年7月7日 学芸員・原田悠里)
 季節の変化を告げる梅雨が、近年は災害をもたらすような豪雨や大雨ともなり、心配もしてしまいますが、新暦七夕を迎えた姫路は梅雨の晴れ間の夏空が広がっています。夜も星の見える空が広がるといいのですが明日からまた雨の予報、どうでしょうか。
 当館では毎年旧暦の七夕に合わせて5号館らんぷの家で播磨地方の七夕飾りをご覧いただいていますが、今年は4号館1階の郷土玩具コーナーに設けた、横90㎝奥行30cm高さ120㎝ほどのプチ展示コーナーにも七夕飾りを施しました。
 古く中国から伝わった七夕の風習は千年の歴史の中で、夏祭りや盆行事、豊作祈願とも結びついたと考えられます。
 各地の郷土玩具にも七夕にまつわる造形が残されていますが、4号館の小さな展示コーナーには、やはり地元のものをと思い、姫路市内で「七夕さんの着物」、朝来市生野町で「七夕さん」と呼ばれ親しまれてきた七夕の紙衣(かみごろも)をご紹介しています。姫路市内では市川が播磨灘に注ぐ地方に「七夕さんの着物」という男女一対の素朴な紙人形が伝わっています。竹ざおを人形の袖に通して、飾られ、子どもたちが着物に不自由しないようにと願われました。銀山の町生野町の中心部でも二本の笹竹飾りの間に芋がらを渡して一対から数対の「七夕さん」を吊るし飾られてきました。姫路では大塩や東山の昭和30年代~平成期の七夕さんの着物を、生野町は大正時代に作られた七夕さんを展示しています。

郷土玩具に残される七夕の造形(松本の七夕人形/上総地方の七夕馬/仙台七夕の七つ道具/高山の七夕馬と糸車)

 七夕といえば、無意識に夜空を気にしてしまうほど織姫と彦星の年一回の逢瀬に思いを寄せてしまいます。そんな七夕伝説にちなんで、昨年出版された、はらだ有彩さんの著書『日本のヤバい女の子』(柏書房)を面白く拝読しました。書店でも話題になっていたので、ご存じの方も多いかもしれません。日本の民話や古典文学に登場する「女の子」の背景や心情を、著者のはらだ有彩さんが想像(妄想)しながら現代的に解釈し、考察を掘り下げているエッセイのような内容です。タイトルの「ヤバい」は、トンでもない昔話に身をおきながらも受け入れた、彼女たちの生き方を尊重した、どちらかというとポジティブな意味で使われているように思います。
 この本の中で『天稚彦草子(あめのわかひこぞうし)』と七夕伝説をもとにした少女(織姫)がとり上げられています。著者は、大蛇との結婚や瓢(ひさご)で空まで登るという厳しい決断を繰り返し、鬼舅とのはげしい闘いに身を置いたことで、とても魅力的になった人間の少女(織姫)にとって、そもそも離ればなれにならないことは、愛の必要条件になるのだろうかと問いかけ、鬼舅に突き付けられた「月に一度」を少女はわざと「年に一度」と聞き間違えたのではないかと想像します。そして少女(織姫)を距離と会う日数にとらわれず、日々の生活を楽しみながらも離れた天稚彦に変わらぬ愛を持って生きている自立した女性として考察しています。
 他にも乙姫や八尾比丘尼、播州皿屋敷のお菊たちの語られてこなかった思いや考えを探るのは新鮮でした。はらださんと同世代ということもあるのか(苗字が同じというのもあるのか笑)、想像や考察に感覚に共感する部分も多く、また 昔話を“今”を起点にして身近な価値観に一度寄せてから当時の価値観を考えるということはわたし自身の博物館資料との向き合い方にも共通するところがあり興味深かったです。
 各お話に描かれるはらださんのイラストも素敵です。わし座を眺めながら、キラキラでファンキーな宇宙スーツを着こなして仕事の合間にアルタイル(彦星)に「ハロー」と電話をするシティガールな織姫のイラストもいい意味でヤバいですよ^^もし興味のある方はお手にとってみていただけたらと思います。

学芸室2019前期  学芸室2018後期  学芸室2018前期  学芸室2017後期  学芸室2017前期 学芸室2016後期  学芸室2016前期 
学芸室2015後期 学芸室2015前期 学芸室2014後期 学芸室2014前期 学芸室2013後期 学芸室2013前期 学芸室2012後期
学芸室2012前期 学芸室2011後期 学芸室2011前期 学芸室2010後期 学芸室2010前期 学芸室2009後期 学芸室2009前期
学芸室2008後期 学芸室2008前期 学芸室2007後期 学芸室2007前期 学芸室2006後期 学芸室2006前期 学芸室2005







Mail:info@japan-toy-museum.org


〒679-2143
兵庫県姫路市香寺町中仁野671-3

TEL: 079-232-4388
FAX: 079-232-7174