日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2023.07.15

ピニャータ~「メキシコと中南米の民芸玩具展」より

現在、6号館で開催中の「メキシコと中南米の民芸玩具展」――その展示室で「え?この大きな馬は何?」と、張り子の白馬が来館者のまなざしを集めています。高さ82センチ、黒目が愛らしいこの馬の胴部には壺が仕込まれていて、その中にお菓子や果物、玩具などが詰められるように作られています。ケース床面に展示していますが、本来が天井からつるされるもので、「ピニャータ(piñata)」と呼ばれます。ピニャータとは、素焼きの壺の周囲に厚紙や新聞を張り、やわらかなちりめん紙で仕上げた❝くす玉❞のような飾りで、星や動物をかたどったものが多く見られます。

メキシコのクリスマス「ナビダー(navidad)」や子どもたちの誕生日などには、この「ピニャータ」がつきもの。パーティー会場に切り絵の旗・パペルピカド(papel picado)などとともにつるされて、フェスティヴな雰囲気を盛り上げていたピニャータは、パーティーの終盤、目隠しをした子どもたちに叩き割られてしまうのです。壺が割れて床に散らばった菓子や玩具は子どもたちが拾い集めて持ち帰り、友人に配ったりもするので、メキシコの方々にとっては子ども時代の楽しい思い出につながるものに違いありません。

16世紀、聖アウグスチノ修道会の修道士が七つの突起をもつ星形のピニャータを七つの大罪にたとえ、ピニャータを壊す行為を布教活動に用いたことが起源ともいわれています。ピニャータを割ることで悪魔を打ち破り、清らかな心でクリスマスや新たな人生の節目を迎えるというような意味が込められているでしょうか。床に散らばった果物や菓子は、神の恵みの象徴とも解釈されます。『クリスマスのつぼ』(ジャック・ケント作)や『クリスマスまであと九日』(マリー・ホール・エッツ&アウロラ・ラバスティダ作)などの絵本では、このピニャータに託して人生観がほんのりと語られ、メキシコの人々のピニャータへの深い愛着が伝わってきます。

さて、展示ケースに収まった白馬形のピニャータも、天井からつるした星形のピニャータも、1980年代に、メキシコシティーに駐在しておられたSさんご夫妻から寄贈を受けた品々です。白馬のピニャータは、2000年に大福書林から刊行していただいた『世界の民芸ー日本玩具博物館コレクション』に掲載いたしました。写真版では、このピニャータの大きさを感じていただくために、少女にモデルをお願いしたのですが、その少女、Kちゃんは、Sさん御夫妻の孫娘さんに当たります。運搬にも大変なご苦労があったことでしょう。お祖父さまとお祖母さまが三十数年前、当館のためにとメキシコシティーのピニャータ専門店で特別に製作してもらってお持ちくださった品を、時を経て孫娘さんが手にして撮影協力をしてくださったという嬉しいご縁。Kちゃんが身に着けている民族衣装も、1980年代にSさんがメキシコ駐在の記念に取り置かれていたものです。

『世界の民芸玩具—日本玩具博物館コレクション』のための撮影作業(2020年2月29日)——この日は氷雨の降る冷たい日でした。撮影作業中の写真家・高見知香さんとデザイナーの軸原ヨウスケさん

そして出来上がった掲載写真。刺繍が美しいウィルピルをまとった少女は、寒さをものともせず、白馬を愛しむような優しくかわいらしい表情です。少し前の出版物ですが、展示室にはこちらの写真も展示しておりますので、写真と合わせてご覧いただければ幸いです。

  (学芸員・尾崎織女)

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