日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2014.12.23

クリスマス・アドベントの玩具博物館・その2

クリスマス展会場では、今年も、倉主真奈さんをお迎えして、世界のクリスマス絵本の朗読会を開催しました。朗読会にあたって、久しぶりにメキシコ の“ピニャータ”を出しました。このピニャータが登場する絵本を朗読していただこうと思ったからです。

メキシコ伝統のクリスマス行事は“ポサーダ”と呼ばれます。ロバの背に座る身重のマリア(幼子イエスを抱いているマリアもあります)と付き添って歩くヨゼフ、そして見守る天使の人形を台に乗せ、捧げ持った人形を先頭に、人々は行列をつくり、“空いている宿はありませんか?”と、家から家へと訪ね歩きます。どこの宿もいっぱいで泊まるところがなく、馬小屋の片隅にやっと横になる場所をみつけた、というベツレヘムでの故事を再現するものと言われています。

「ポサダ」の人形――マリアと幼子イエス、ヨゼフと天使
(メキシコ・ハリスコ州)

行列が落ち着く“マリアの お宿”では、盛大なクリスマスパーティーが催されます。そのパーティー会場につるされるのがピニャータなのです。ピニャータは、素焼きの壺を中心にすえ、新聞紙やクレープ紙を使って、星や動物や伝説上の人物を張りぼてに作ったもの。壺の中にはキャンディーやチョコレートや小さな玩具、時にはタワシや…、いろんなものが詰め込まれています。ピニャータは、最後に目隠しをした子どもたちによって叩き割られてしまう運命です。中の壺が割れて、床にばらばらと散らばったお菓子を拾い集めて子どもたちは大満足。メキシコの方々のクリスマスの想い出はピニャータにつながる、といわれるぐらい親しまれている習慣です。

玩具博物館が所蔵するピニャータは白馬の形に作られたもので、1980年代前半、メキシコシティーに駐在しておられた方が、当館のために、彼の地からもち帰って下さったものです。

このピニャータが描かれたメキシコの絵本は『クリスマスのつぼ』(ジャック・ケント作/清水真砂子訳/ポプラ社/1977年刊)。ひびの入った素焼きの壺が主人公です。ひびの入った出来そこないの壺は役に立たないので、壺屋さんの庭の片隅に放り出されていたのですが、ある日、女の子がそれをみつけ、ピニャータに使われることになりました。ひびの入った壺は女の子の希望で牛に仕立てられ、華やかに飾ってもらってわくわくいい気分です。そして、ポサーダの日がやってきて、壺はどうなってしまうのでしょう?!―――結末に壺がつぶやく言葉には、人生哲学があふれています。

絵本『クリスマスのつぼ』(ジャック・ケント作/清水真砂子訳/ポプラ社)
絵本朗読会風景

朗読会の午後の部で『クリスマスのつぼ』を朗読していただきました。朗読者の倉主さんの傍、しっとりとした大人のご来場者に囲まれて、目をぱちくりさせる白馬のピニャータ。こわれてしまったピニャータの物語に、意味深長な嘆息がもれました。

クリスマスのヤドリギ

さて、その倉主さんからクリスマス展会場に、と“ヤドリギのオーナメント”をいただきました。透き通った黄色い実がとても綺麗です。ヤドリギは異教時代から神聖視され、その黄色い実は万能薬として重宝されていたといいます。黒ポプラ、リンゴ、アメリカミズキなどに寄生することが多いようですが、カシの木に寄生したヤドリギは特別な霊力をもつものとして珍重されたと聞きます。
中欧や北欧の国々には、クリスマスには、扉の上など人が出入りする場所の高い位置にヤドリギを飾り、そのヤドリギのオーナメントの下に立った人にはキスをしてもよい(しなければならない)という、ちょっとワクワクする習慣が伝わっています。ご来館の方々はヤドリギのオーナメントに気づいて下さるでしょうか?!

『スプーンおばさんのクリスマス』( アルフ・プリョイセン著/ピョーン・ペルイ絵/偕成社)

ヤドリギをめぐる北欧の習慣は、ノルウェーの絵本『スプーンおばさんのクリスマス』(アルプ・プリョイセン作/ビョーン・ベルイ絵/おおつかゆうぞう訳/偕成社/1979年刊)に登場しています。楽しいお話ですので、ご興味のある方はご一読下さい。

こうして、2014年のクリスマス・アドベントも多くのご来館者を迎えて温かい気持ちで過ごさせてもらっています。日本玩具博物館にとって40周年の節目となる一年も皆様に支えられ、無事に暮れていきそうです。いつも私どもの活動を見守って下さりありがとうございます。年が明けると、私たちは、東京目黒雅叙園の「百段ひなまつり~瀬戸内ひな紀行~」の準備で忙しくなります。来年もどうぞよろしくお願い申しあげます。 

 (学芸員・尾崎織女)

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