玩具博物館の七夕まつり2025 | 日本玩具博物館

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学芸室から 2025.08.05

玩具博物館の七夕まつり2025

特別展会場の七夕*ランプの家の七夕
月遅れの七夕が近づきました。8月6日から7日にかけて七夕の行事をもたれる地域やご家庭では準備を始められたころでしょうか。当館では、6号館の特別展「日本の節句飾り」の七夕コーナーに、かつて塩業で栄えた播磨灘東岸域(姫路市・高砂市)や日本有数の銀山を有する生野町(朝来市)に伝わる七夕飾りを展示していますが、加えて、特別陳列「子どもの晴れ着」の中央ケースに、七夕人形のメッカといわれる長野県松本市に伝わる様々な七夕人形や富山県黒部市の尾山地区で行われる七夕流しの姉様人形、また宮城県仙台市の七夕まつりに登場する紙衣なども加わりました。

ランプの家では姫路市の港町、飾磨に伝わる七夕船、千葉県や茨城県の七夕馬や牛、また岐阜県高山市の松之木地区に伝わる「七夕綱」を展示し、合わせて華やかな江戸切子灯籠や秋の七草を配した子どもの晴れ着をご覧いただいています。



さらにランプの家の縁側には、今年も館長と一緒に近くの藪へ笹を切りに出かけ、畑の野菜を用意して、市川沿いに点在する七夕飾りを立てました。

ランプの家の縁側に立てた七夕飾り—銀の馬車道沿いに点在して伝承された構図です

典型的な播磨の七夕棚は、2本の笹飾りの間に女竹を渡し、そこに、穂が出始めた稲や初生りの柿、栗、無花果、そして茄子や胡瓜、大角豆、ホオズキなど、畑の野菜をそれぞれ一対にして吊るすものです。「七夕さんはハツモン喰いやから、ぎょうさん供えたら七夕さんが喜んでくれてや」と明治生まれの古老たちは言いました。秋の豊作祈願でもあり、また、江戸時代の文献に照らし合わせてみるとき、この形態はかつての盆棚の名残りとも考えられます。

畑の野菜などを対につないで振り分けにつるされます。野菜や木の実はスタッフやご近所さんからのいただきものです。

そうした野菜をつるす七夕飾りに加えて、塩田で栄えた播磨灘沿岸地帯&銀山で栄えた生野町に伝わる紙衣❝七夕さんの着物❞もプラス! 野菜と紙衣、その両方が並べつるされる合体型七夕は、市川沿いの町々、つまり、市川の流れと並行して北から南へとのびる銀の馬車道(朝来市生野町の銀山で採掘された鉱石を姫路市の飾磨港へと運んだ旧街道)沿いに点在してみられたものです。この七夕飾りは8月8日までご覧いただけます。
ご来館の皆さまに願い事を短冊に書いていただき、また、ワークショップで皆さんと作った切り紙細工の七夕船をつるして、2本の笹飾りがどんどん賑やかになっていきます。近年、雨に負けない人工素材の飾りものが優勢ですが、当館のこだわりは和紙や植物素材だけを用いることです。戦前の笹飾りに近く、より爽やかな印象の七夕まつりを楽しみたいと思うからです。



七夕の贈り物*根知谷の七夕人形
ランプの家の縁側に七夕飾りを準備してい8月3日、郷土玩具文化研究会の笹部いく子さんからの寄贈品、新潟県糸魚川市の根知谷に伝わる「七夕の綱飾り」が届きました。

寄贈を受けた「お七夕」の七夕綱飾り

日本海にそそぐ姫川に、JR大糸線・根知付近で根知川が合流する地点から上流に向かって根知谷が広がり、糸魚川から松本へと「塩の道(千国街道)」が続きます。その根知谷のいくつかの地区に藁綱を道路の両側に立つ電柱と電柱と綱で結び、そこに花嫁行列を表す人形や輪つなぎ、「ヒョーチュー」と呼ばれる綿入れの三角形をつないだものなどを並べつるす「お七夕」の綱飾りが伝えられています。

郷土玩具文化研究会の石沢誠司先生のご案内で、笹部さんたちご一行がこの七夕の綱飾りを見学されたのは平成11年のこと。合計7地区の綱飾りをご覧になられ、地元の方々への聞き取り調査などもなさっておられます。7月7日から一ヶ月に亘って行われる綱飾りは、かつては中学生や高等科の子どもの指導や仕切りによって、男子と女子それぞれの役割を分担しながら作るものだったそうです。8月7日にはすべてを下ろし、「オタナバタサマィーノー マタライネンゴザイノー カイモチカッテゴザイノ ゴザイノー」と歌いながら根知川へと流されるということです。根知谷の七夕行事について、石沢誠司先生の著書『七夕の紙衣と人形』(ナカニシヤ出版・2004刊)で詳しく解説がなされていますので、ご興味をおもちの方はぜひ。

笹部さんからお贈りいただいた七夕の綱飾りは、山口地区の女性4名が研究会からの見学者のために作られた10組のうちのひとつで、素朴で温かい雰囲気をもつヨメサンとムコサン、コシモト、見物人を表す人形と三角をつないだ「ヒョーチュー」、輪つなぎがさがっています。

七夕綱飾りにつるされた腰元・花嫁・花婿・見物人・輪つなぎ・ヒョーチュー

この珍しい根知谷の七夕綱飾りは、8月31日までランプの家でご覧いただけます。笹部さんは寄贈されるに当たって、「多くの方々にご覧いただいて、日本各地に根付く七夕行事の奥行の深さを知ってもらいたい」との思いを話されています。そのお心に心より感謝申します。今年の猛暑は格別ですが、皆さま、どうか爽やかに涼やかによい七夕をお過ごしくださいませ。

(学芸員・尾崎織女)

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