今月のおもちゃ
Toys of this month「葛畑土人形の雛飾り」
3月3日を過ぎると、人形店や百貨店の店頭から雛人形は姿を消し、雛祭りは終わった印象が強いのですが、当地をはじめ、全国の広範は地域では、旧暦の季節感を重視して、今もひと月遅い4月3日に雛祭りが営まれています。
江戸時代中期、都市部で興隆しはじめた雛祭りは、やがて日本全国に伝播し、江戸時代の終わりには地方の町々や農村部などでも桃の節句を祝うようになっていきました。ところが、地方の庶民には、豪華な衣装の雛人形など簡単に入手することはできません。そこで登場したのが土製の雛人形です。粘土を型で抜き、素焼きをした後、彩色して仕上げるもので、身近な材料で量産でき、安価なことから、全国で作られるようになります。
兵庫県内にも産地がいくつか生まれました。丹波は氷上町の稲畑土人形、但馬は関宮町の葛畑土人形、播磨では上月町の早瀬土人形です。江戸末期から製作され、明治時代の終わりから大正時代にかけて最盛期を迎えますが、稲畑土人形以外はすでに廃絶してしまいました。
写真は、昭和40年代前半に関宮町の個人宅で撮影した葛畑土人形の飾り付けの情景を、今、6号館で開催中の「雛の世界」展で再現しているものです。黒い布の上に、地元で「つちびいな」と呼ばれる内裏雛を飾り、八重垣姫、舞い娘などの女物の人形と、神功皇后と武内宿禰、力士などの男物の人形が添えられています。
ここでは雛祭りは女児だけでなく、男児のための祭りでもあったのです。しかし、年中行事が画一化され、同じ様式の雛人形が全国に流通し始める高度経済成長期を境に、このような個性的な雛祭りは行われなくなってしまいました。