日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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展示・イベント案内

exhibition
特別展

開館50周年特別陳列 「日本のままごと道具~明治・大正・昭和」

会期
2024年2月10日(土) 2024年10月20日(日)
会場
6号館東室

今春の特別展「雛まつりとままごと遊び」においては、6号館の西室に江戸後期から明治・大正時代に都市部の町家で飾られた雛人形の名品を展示し、東室には「ハレの日のままごと道具」として愛された雛道具—白木の勝手(台所)道具—を時代を追って紹介しました。明治・大正・昭和時代の日常生活を彩った普段使いのままごと道具を合わせ、雛まつりのなかの“ままごと遊び”の要素に注目しました。
春の特別展は終了しましたが、大好評につき、6号館東室の「日本のままごと遊び~雛道具とままごと道具」は一部資料を入れ替え、「日本のままごと道具~明治・大正・昭和」と題して展観いたします。ままごと道具を通して、日本のままごと遊びの姿と生活文化の移り変わりをご覧ください。

展示総数 200組

京阪地方の「雛の勝手道具」
昭和時代中ごろまでの京阪から近畿地方一帯において、大名道具を小さく作ったような黒漆塗り金蒔絵の諸道具に加え、白木の勝手道具やかまどなど、日常の暮らしを映した雛道具が、御殿飾りや段飾りの下段に置かれていました。それらは雛飾りであると同時に、ハレの日だけのままごと道具でもありました。
江戸時代後期に喜田川守貞が著した『守貞謾稿』(嘉永6・1853年序文)には、京阪地方の雛道具について、興味深いことが記されています。

 「京阪の雛遊び・・・・・(中略)・・・・・調度の類は箪笥(たんす)長持(ながもち)、多くは庖厨(=台所)の諸具をまね、江戸より粗で野卑に似たりといえども、児に倹を教え、家事を習わしむるの意に叶えり・・・」

江戸時代後期、京阪地方では身近な台所道具が雛飾りに用いられ、女児の家庭教育の道具としての位置づけを持っていたと考えられます。神棚のある台所(=勝手)、井戸、かまど(=くど)などが当時そのままの姿で小さく作られた雛道具は、京阪地方の町家を中心に明治・大正を通じて人気を博し、昭和初期の頃まで雛段の下部に置かれました。「黒漆塗りの雛道具はお雛さまのためのもの、白木の勝手道具は女児たちのためのもの」――そのようにも言われて親しまれ続けました。

また、桃の節句には子どもたちは友人を招いてミニチュアの食器で雛料理を楽しみました。明治・大正・昭和時代、京阪地方の雛まつりを彩った勝手道具やかまど、雛料理の小さな器を紹介します。

明治末期 京阪地方の雛飾りに添えて飾られた勝手道具

上の画像は、明治時代の台所をそのまま小さくしたような雛道具です。台所には、流し台と調理場、食器の数々、車井戸、そして竈(かまど)が設置されています。竈のことを、京都では「おくどさん」、大阪では「へっつい(さん)」と呼びました。京都の古い台所には“荒神棚”がもうけられ、そこには火伏(火除け)の“布袋さん”(伏見の土人形)を並べる風習がありますので、展示品は京都の台所の姿を映したものといえそうです。
勝手道具一式をみると、味噌樽(みそだる)、醤油樽(しょうゆだる)、石臼(いしうす)、焙烙(ほうろく)、七輪(しちりん)、鰹節削り器(かつおぶしけずりき)、・・・・鼠捕り器(ねずみとりき)までセットされ、当時の勝手道具の姿を忠実に映しています。

明治末期 雛の勝手道具
雛の勝手道具展示風景


ままごと道具の移り変わり~明治・大正・昭和~
「雛の勝手道具」がハレの日のままごと道具であるとすると、日常のままごと道具はどのようなものだったのでしょうか。このコーナーでは、明治・大正・昭和の各時代、日常のままごと遊びに用いられたままごと道具を展示し、私たちの生活文化の移り変わりを追います。
子どもの世界は、最新の家庭用品を取り入れることに敏感です。水道、冷蔵庫、ガスレンジ、オーブン……ままごと道具の台所は時代を映しながら発展していきます。また、木や土、紙を使ったものから、セルロイド、アルミ、ブリキ、プラスチック…と、その素材にも変化が見られます。

明治~大正時代……陶器や木で作られた茶道具や台所道具のいろいろを。百年前の少女たちも、ままごと道具で母親の真似ごとをして遊びながら、将来、良き主婦になるための所作を身につけていったのでしょう。近代化が進むにつれ、日常の遊びのためのままごと道具が数多く製作されるようになります。ブリキをはじめとする金属製の道具も登場し、最新の素材に子どもたちの注目が集まりました。

明治末~大正時代 ちゃぶ台のあるままごと道具セット

昭和初期~10年代……暮らしの中に西洋文化の影響が現れた大正から昭和初期には、洋風食器や調理道具を真似たままごと道具が都市部で人気を集めます。ところが、太平洋戦争が激しくなる昭和10年代後半になると、材料統制を受けて金属製の玩具の製造が禁止され、ブリキ製に続いて、昭和18年にはアルミ製のままごと道具も作れなくなってしまいます。

昭和20年代……戦後復興期に入ると、ブリキやアルミなど、金属製のままごと道具がまた盛んに作られ始めます。まな板に包丁、コンロ、釜や鍋…とセットされる内容は戦前と変わりありませんが、フライパンやナイフ、スプーン、フォークなども目だってきます。昭和27~28年頃、プラスチック製のままごと道具が登場し、時代の人気をさらいました。

昭和20~30年代のままごと道具展示風景
昭和20年代 ブリキと木のままごと道具セット

昭和30年代……ブリキ製のままごと道具とともに「さびない、燃えない、壊れない」をうたうプラスチック製が一般化する時代です。さらに高度経済成長期に入り、システム・キッチンや最新式の電気ガマなどが登場して、ままごと道具の世界も近代化していきます。

 昭和40年代……リカちゃん人形に代表されるファッション・ドールが人気を博した時代、人気キャラクターもままごと道具に影響を与えます。また、日本人の暮らし向きが西洋化するのに呼応して、ままごとの世界も、ちゃぶ台文化からダイニングテーブル文化へと一挙に変貌をとげます。この頃に登場した“ママレンジ”は、家庭用電源を使って本物のケーキを焼けるもので、少女たちの憧れの的となりました。

昭和40年代 「リカちゃん」のダイニングテーブル ®タカラトミー
昭和30~40年代のままごと道具展示風景

昭和後期~平成時代……プラスチック製ままごと道具の全盛時代です。小さなまな板の上で包丁をトントンたたくまねごと遊びに、マジックテープでとめた野菜や果物をナイフでグジャリと切り落とす遊びが加わりました。一方、平成後期には本格的な料理が作れる「クッキング・トーイ」が玩具のジャンルとして定着し、子どもたちが家族と一緒になって料理に親しむ商品が人気を博します。

こうして移り変わりをみてくると、生活文化の変化や教育玩具に対する新しい考え方などに影響を受け、ままごと道具はずいぶん様変わりしたように見えます。けれど、昔も今も、家事をまねることに夢中になる子どもの心は変わらないものなのでしょう。

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同時開催展 → 初夏の特別展*2024「端午の節句~武者人形と鯉のぼり」
次の特別展 → 開館50周年記念「世界のクリスマス~祈りと喜びの造形」