日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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企画展

新春の特別陳列 「十二支の動物造形~辰*龍を中心に」

会期
2023年11月3日(金) 2024年3月31日(日)
会場
2号館 特別陳列コーナー

「十二支」は、中国で後漢時代に誕生した暦法で、十二宮のそれぞれに十二の動物をあて、子、牛、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥を時刻および方角の名としたものです。この中国における「十二生肖」が日本に伝えられたのは古墳時代のころといわれ、日本でも非常に古い伝統を持っています。江戸時代には既に、生まれ年にあたる動物の性質がその人の性格や運勢などに関係するという信仰、自分の生まれ年に因んだ動物をお守りにする習俗などが見られ、日本の郷土玩具はこうした民間信仰を母体に誕生しました。
この十二支の中でも、特に日本人に親しまれて人気のあるものとそうでないものがあります。馬、牛、猿、鶏、鼠、兎などは、古くから縁起が良い動物と考えられて、おめでたい造形物や玩具にも数多く用いられてきました。それに対して龍、羊などは、日本の風土に馴染が薄いせいもあり、玩具の題材としては比較的少ないといえます。

近代の浮世絵師・川崎巨泉が描いた十二支の郷土玩具(昭和初期)

令和6(2024)年の干支は甲辰。本展では、日本の郷土玩具の中から龍にまつわる玩具を集め、あわせて他の十二支に関わる玩具や縁起物を、干支の順を追って数点ずつ展示します。また、それぞれの造形を通して人々が十二の動物に託した願いについてもご紹介します。

小幡土人形・玉取り姫(滋賀県東近江市/昭和中期),三春張り子・辰車(福島県郡山市/昭和中期),甲府の福龍(山梨県甲府市/昭和後期)

展示総数 約120点

<辰龍の郷土玩具>
江戸時代の終わり、庶民階級が経済力を持ち、農村部にも商品経済が広がっていくころになると、土や木や紙など身近にある材料を使って専門的に、また農閑期を利用して季節的に素朴な玩具が作られるようになります。これらは郷土という範囲で流通したものが多く、今日、「郷土玩具」の名で知られています。人々の生活の中から生まれ、愛されてきた郷土玩具は、子どもを喜ばせる玩具にとどまらず、郷土の信仰や伝説、美意識や自然観を表現した小さな造形といえます。
干支(=十干十二支の略)の動物を題材にした玩具は、郷土玩具や郷土人形の産地で作られてきました。また、各地の寺社では、明治時代に入ると十二支の動物を土鈴に仕立てて“お守り”として授与することが行われるようになります。それらをコレクションする愛好家も誕生しました。

辰・龍の郷土玩具展示風景

雲龍・波龍・玉取龍~天空と地、海を結ぶ霊獣~
中国の伝説では、龍は普段は海中に棲み、必要とあらば天空に飛翔できると考えられていました。人間の力が及ばない天空を自由に翔ける龍は、皇帝の象徴でもありました。日本に渡ってきた龍は雷の姿で表わされ、雨を自在に降らせる雨神と結びついて稲作の守りともなります。「波龍」「雲龍(くもんりゅう)」のデザインは工芸品のなかに繰り返し用いられ、郷土玩具のモチーフとしても親しまれてきました。
さらに龍は、願いを意の如く叶えてくれるという玉(=如意宝珠)を抱くことから、豊穣や富貴、長寿を表す霊獣です。玉をもつ龍の郷土玩具もまた、各地で造形されています。

上段左から、出雲張り子・龍(島根県出雲市/昭和中期),伏見土人形・波龍(京都府京都市/昭和後期),宮島張り子・龍(広島県廿日市市/平成20年代)
下段左から、中湯川土人形・鯰乗り龍(福島県会津若松市/平成20年代),住吉土人形・龍のリ玉取り海女(大阪府大阪市/昭和初期),津屋崎土人形・龍笛(福岡県福津市/昭和後期)

玉取り海女・玉取り姫~伝説と郷土人形~
香川県さぬき市志度に伝わる伝説です。藤原不比等(ふじわらのふひと)は、志度の海で龍神に奪われた“面高不背(めんこうふはい)の玉”をとり戻そうと身分を隠して志度へ。そこに暮らす海女と不比等は契りを交わし、海女は赤ん坊(藤原房前)を産みます。不比等から玉の奪還を頼まれた海女は、“房前を藤原家の跡取りにすること”を条件に龍宮へと赴き、玉を奪い返します。けれど、龍神に追われて海女は手足を食いちぎられ、十文字に切れた乳房の下に玉だけが隠されていました。
“玉とり姫”“玉とり海女”は、郷土人形のテーマとなり、各地で製作されています。


<十二支の郷土玩具>
子(ねずみ)…… 鼠は、繁殖力の強さから繁栄のシンボルとして愛されてきました。大黒天や米俵との組み合わせも多く、農村では豊作をもたらすマスコットと考えられてきました。

丑(うし)……かつて牛は農耕には欠かせない動物でした。牛には、もくもくと働き、穏やかで力強いイメージがあります。ともに農耕に恵みをもたらす存在として、天神との組み合わせもよく知られています。

寅(とら)……勇猛果敢な虎の姿が男の子の理想と考えられ、端午の節句飾りに花を添えてきました。「端午の虎、五毒を踏みしめる」という言葉が中国にありますが、虎が辟邪の霊力を持つという庶民信仰は、中国文化の影響です。

卯(うさぎ)……今日、優しくかわいいイメージで子どもに人気のある兎も、かつては豊かさの象徴として造形されていました。昔話や伝説に登場する兎を形象化した玩具も多く、月との深いつながりから女性の守りとする庶民信仰もありました。

巳(へび)……龍と同様、水神のイメージをもっています。蛇の郷土玩具は、水あたりや虫害を防いだりするまじないとされた例もみられます。

午(うま)……日本人と馬との関わりの強さを表して、馬の郷土玩具はもっとも多彩です。愛馬の守りとして、また神社への捧げものとして、馬は日本各地で愛されてきました。

未(ひつじ)……羊という動物が日本人にとってあまり馴染みがなかったせいか、玩具化するにも苦心のあとがうかがえますが、どれも優しいイメージでとらえられています。

申(さる)……厄病や悪霊をとり去る(=サル)動物として、猿の郷土玩具は子どもの疱瘡よけのまじないなどに古くから親しまれてきました。素朴で童心にあふれています。

酉(とり)……日本人にとって鶏は大切で愛すべき家禽です。夜のとばりを破り、朝の光を招く希望のイメージにより、魔よけや幸福をもたらす鶏の玩具が盛んに作られてきました。

戌(いぬ)……犬は昔々から人間とともにあって、夜の外敵や悪霊を追い払い、子どもを守る力があると信じられてきました。その力強さを子どもに移し、また犬の霊力で子どもの健康や幸福を守ろうという願いから、人々は犬の玩具を子どもに与えてきました。

亥(いのしし)……気迫、力強さを表す動物として玩具化されてきましたが、十二支の動物の中では、やや目立たぬ存在です。


年賀状の中の干支デザイン
このコーナーには、郷土玩具収集家として著名な故・村松百兎庵氏のもとに届いた年賀状の整理帖11冊の中から、昭和3(1928)年、庚辰歳の1冊を展示します。兎玩具の収集で知られた百兎庵氏だけに、冊子は「真向い兎」の文様裂で装丁されています。
そこには、大正末期から昭和初期にかけて活躍した郷土玩具収集家をはじめ、村松と親交のあった趣味人(文芸などに熟達した人々)たちの名前が数多く見えます。またこれらの年賀状には、川崎巨泉や長谷川小信らの江戸文化を受け継ぐ浮世絵師たちの手によるもの、渋谷修ら前衛派の画家たちがデザインしたものが含まれ、当時の豊かで上質な美意識が伺えます。


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