日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

展示・イベント案内

exhibition
特別展

冬の特別展 「世界のクリスマス~北欧のクリスマス飾りを中心に~」

会期
2021年11月6日(土) 2022年1月23日(日)
会場
6号館東室

キリスト教世界では、アドベント(=待降節/聖アンデレの日・11月30日に最も近い日曜日からクリスマスイブまでの4週間をさす)に入ると、家々の窓辺にはキャンドルの灯が揺らめき、伝承のオーナメント(=装飾)が美しく飾られて、町全体でクリスマス(=キリスト降誕節)を待ち望む雰囲気を盛り上げていきます。聖バルバラの祝日(4日)、聖ニコラウス祭(6日)、聖ルチア祭(13日)、聖トーマスの祝日(21日)など、キリスト教の聖人を冠した祭礼が続き、地域それぞれに伝統行事を重ねながら、クリスマス当日を迎えます。その後もボクシング・デー(26日)、シルヴェスター(31日)、ニューイヤーと祝日が続き、東方の三博士がベツレヘムのイエスのもとを訪ねたとされるエピファニー(=公現節・1月6日)までがクリスマスです。

壁飾り・麦わら細工の太陽(スウェーデン)


こうしたキリスト降誕祭としてのクリスマスが普及する以前の古代ヨーロッパでは、太陽が力を失い、地上の生命力が衰えた冬枯れの季節に光の復活を願い、新年の豊作を祈る祭を行っていました。これは冬至祭や収穫祭として各地に伝えられていますが、キリスト降誕を祝うクリスマスは、土着の信仰をとり込むことを通して、大きな行事へと発展していったと考えられます。クリスマス飾りに登場するキャンドルの灯や光を象徴する造形の美しさ、また麦わらや木の実など、実りを表現するオーナメントの多様性からも、クリスマスがもつ奥行の深さをうかがい知ることが出来ます。


当館のクリスマス展は、クリスマス飾りを通して世界各地のクリスマス風景を描き、玩具や人形文化の母体ともなった冬の祝祭の意味を探る試みです。本年は、収穫を感謝し、太陽の復活を願う冬至の祭礼とキリスト降誕祭が融合した北欧(フィンランド・スウェーデン・ノルウェー・デンマークとバルト三国)のクリスマス❝ユール(Jul)❞に登場する伝承のオーナメントを中心に展示します。また、「中欧」「東欧」「南欧」のクリスマス飾りを合わせてご紹介し、本場ヨーロッパの多様なクリスマスの祝い方を探ります。

北欧のクリスマス風景

  展示総数 約600点

第一節北欧のクリスマスユール

冬の間はほとんど陽がのぼらず、雪や氷に閉ざされる北欧にあっては、太陽の復活を願う民俗信仰が根深く生き続けてきました。太陽が死に向かっていく季節には、地下に眠る死者の霊や悪霊、魔女などが大挙してこの世に現われてくると考えられていました。人々は、それらの霊をもてなすために特別な食べ物を準備し、また、古くから伝わる神話の神々、なかでもオーディンの神に豚や猪などを捧げて新たな年の豊かであることを願いました。一年で日照時間のもっとも短い冬至は、一度没した太陽が再び力強い生命力を得る起点でもあり、祭事を盛んに行うことで、よみがえった太陽を元気づけ、来たる一年の豊穣を願ったのです。この祝祭は「ユール(jul)」と呼ばれましたが、13世紀ころには、キリストの降誕祭と結びつき、ユールはクリスマスの行事全体を表す言葉となりました。

暗く厳しい北欧の冬、人々は、太陽の暖かな光を象徴するキャンドルを窓辺に点し、清らかな行事の雰囲気を盛り上げて行きます。室内で過ごす時間の長さから、木工芸や手芸が発達し、クリスマス飾りの中にも、切り紙細工や麦わら細工、白樺の皮細工、柳の皮細工などが数多く見られます。また、家の守り神として親しまれているトムテ(スウェーデン)やトントゥ(フィンランド)たちが愛らしい人形として登場し、ユール・ボックなどと呼ばれるヤギが麦わらで細工されて町中を彩ります。

北欧のクリスマス風景


キャンドルスタンドと光の造形~再生する太陽を讃えて
冬至に向かって太陽の光は弱くなり、この日を過ぎると、春に向かって日照時間はどんどんのびていきます。この世に光をもたらす救世主と信じられるキリストの誕生日は、冬至を過ぎて再生した太陽を祝い、春への期待をふくらませる祝日でもあったわけです。ここでは、北欧のクリスマス飾りの中には太陽の光を象徴するオーナメントや、光を美しく暖かく見せるキャンドルスタンドを展示します。


ユール・ボック/ヨウル・プッギ/ユール・ゴート~豊穣を祈る造形
冬至が近づくと、ユール・ボック(julbok)、ヨウル・プッキ(joulupukki)などと呼ばれる大小の麦わら細工のヤギが登場します。ユールのヤギの起源は、北欧の国々で信仰を受けてきた雷神トールの戦車を曳くヤギにあるという説、また古代スラブ神話に語られる太陽と雨の神が白いヤギの姿で表されていたことに関係があるとする説もあります。収穫時、麦畑の最後のひと束は、穀物霊が宿る神聖なものとされ、冬が来るまで大切に保管されていました。その麦束でヤギを作り、太陽の復活と豊作を願って神に捧げたことがユールボックの始まりではないでしょうか。20世紀前半頃は、麦わら細工のヤギ仮面をつけた人物が子どもたちに贈り物を届ける村々もありました。

ユール・トムテ/ヨウル・トントゥ/ユール・ニッセ~守り神たちの姿
北欧では、各農家の家畜小屋の屋根裏に、何百年も生きて家を守り続けている小さな妖精(小人)が住んでいると信じられていました。デンマークやノルウェーではニッセ(yule nisse)、スウェーデンではトムテ(jul tomte)、フィンランドではトントゥ(joulu tonttu)、エストニアではパカピック(päkapikk)と呼ばれています。彼らは赤い帽子と木靴を身に着けているといわれますが、人間は彼らを見ることはできません。
家畜たちの世話をし、家の子どもたちの成長を見守ってくれる彼らに、ユールがめぐってくると、人々は一年の感謝を込めて、ひと皿のミルク粥を捧げます。家人の感謝の心に接した彼らは、クリスマスの朝、森の林檎や木の実を家の戸口にコトンと落としていくと言われます。
この妖精たちは、キリスト教が北欧に伝わる以前から、冬至の日に贈り物を届けてくれる存在として親しまれてきました。―――今ではサンタクロースの物語と溶け合い、サンタクロースの助手となって絵本や童話に登場しています。彼らを題材にした人形やオーナメントは、北欧のクリスマスに欠かせないものとなっています。

ヒンメリ/ソダス/プズリス~祝祭の麦わら細工
ユールなどの祝祭のために家族で手作りし、家庭に飾られる麦わら細工のモビールがあります。フィンランドではヒンメリ(Himmeli)、リトアニアではソダス(Sodas)、ラトビアではプズリス(Puzuris)と呼ばれて、今も人々に親しまれています。これらは、幾何学的立体の組み合わせ方が非常にモダンで、近年に始まったフォークアートのようにも思えますが、いずれも中世からの伝統をもち、風格に満ちあふれた室内装飾です。
フィンランドではヨウルを待つ季節、家族で麦わらを切り、針に糸を通して大小の幾何学的な形をつなぐと、それらを組み合わせて壮麗な作品を仕上げていきます。ゆらゆら揺れる麦わらのモビールには、天空からもたらされる風の精霊が宿り、飾られる空間を清らかな空気で満たすものとされています。
リトアニアのソダス(「庭」を意味する言葉)は、天使や鳥や星などの具象的な造形がプラスされ、温かな雰囲気をもっています。新婚家庭の幸せを願って贈られたり、今ではクリスマスやイースターをはじめ、宗教的な祝日にも登場するオーナメントです。ラトビアのプズリスも穏やかで平和な暮らしを守り、空間に特別な霊力を与えるものと考えられているようです。


第二節ヨーロッパのクリスマス東欧中欧南欧

【東ヨーロッパのクリスマス】
東欧では冬至祭や収穫祭に結びついた民族色豊かなクリマスが祝われます。チェコやスロバキア、ハンガリー、セルビアの麦わらやきびがら、木の実やパン細工のツリー飾りには、収穫祭との深い結びつきが感じられます。ボヘミアグラスのツリー飾りは、チェコガラス工芸の繊細さと美しさの一端を伝えています。
チェコやスロバキアの贈り物配達人は、聖ミクラーシュ、ポーランドは聖ミコワイ、ロシアやウクライナではジェッド・マロースが一般的です。聖ミクラーシュは鬼や天使を従え、ジェッド・マロースは雪娘スニエグーラチカを連れてきます。  
                                              

【中部ヨーロッパのクリスマス】
ドイツ、オーストリアなど中央ヨーロッパにおいても、アドベント(=待降節)の平均日照時間は1~2時間。冬枯れの町にはモミの木の緑と光があふれます。町の広場にはクリスマス飾りを売るマーケットが立ち並び、細工をこらしたオーナメントの数々が人々を温かく出迎えます。輝く 麦わらの窓飾りや経木のツリー飾りは 「光」をイメージしたものです。特にドイツは、クリスマスツリーの本場とあって、さまざまな素材のオーナメントが見られます。また、クルミ割り人形や煙だし人形、❝光のピラミッド❞の名で親しまれるユニークなキャンドルスタンド、キリスト降誕人形❝クリッペ❞など、「おもちゃの国」ならではのクリスマス飾りが楽しめます。
ドイツやスイス、オーストリアのクリスマスにプレゼントを運ぶのは、聖ニコラウスが一般的ですが、ヴァイナッハマンやクリスト・キント、ループレヒトなど地域によって異なり、時には鬼を従えてやってきます。

【南ヨーロッパのクリスマス】
イタリアをはじめとする南欧のクリスマスには、サトゥルナーリアと呼ばれる賑やかな収穫祭の薫りが残されているといいます。 一方で、カトリック信仰が深い南欧はキリスト降誕人形(イタリアやポルトガルではプレゼピオ、スペインではナシミエント、ベレン、フランスではクレーシュ)の発祥の地であり、宗教教育的な意味を帯びたクリスマスオーナメントを見ることができます。もともとクリスマスツリーを飾る風習がない地域だけに、近年のツリー飾りには、硝子や鋼線、針金などの工業材料を利用した工芸的なオーナメントも見られます。


<会期中の催し>
恒例の展示解説会、クリスマス絵本の朗読会、ワークショップにつきましては、追ってご案内いたします。

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