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特別展

冬の特別展 「世界のクリスマス~ドイツのクリスマス飾りを中心に~」

会期
2020年11月7日(土) 2021年1月17日(日)
会場
6号館東室
麦わら細工の太陽のオーナメント(ドイツ・ドレスデン)

キリスト教世界の人々にとって、クリスマス(降誕祭)はイースター(復活祭)と並んで一年で最も大きな行事です。12月に入ると、聖バルバラの祝日(4日)、聖ニコラウス祭(6日)、聖ルチア祭(13日)、聖トーマスの祝日(21日)など、キリスト教の聖人を冠した祭礼が続き、各地それぞれに伝統的な行事を重ねながら、クリスマス(25日)を迎えます。家々の窓辺にはキャンドルの灯が揺らめき、伝承のオーナメント(=装飾)が美しく飾られて、町全体でクリスマスを祝う雰囲気を盛り上げていくのです。

古代ヨーロッパでは、太陽が力を失い、地上の生命力が衰えた冬枯れの季節に光の復活を願い、新年の豊作を祈る祭を行っていました。これは冬至祭や収穫祭として各地に伝えられていますが、キリスト降誕を祝うクリスマスは、こうした土着の信仰をとり込むことを通して、大きな行事へと発展していったと考えられます。クリスマス飾りに登場するキャンドルの灯や光を象徴する造形の美しさ、また麦わらや木の実など、実りを表現するオーナメントの多様性からも、クリスマスがもつ奥行の深さをうかがい知ることが出来ます。

恒例となった当館のクリスマス展は、クリスマス飾りを通して世界各地のクリスマス風景を描き、この行事の意味を探る試みです。本年は、モミの木のツリーやクリスマス人形を発達させたドイツのオーナメントを種類ごとにとりあげ、世界に定着したクリスマスイメージの源泉について見つめてみたいと思います。また、「北欧」「中欧」「南欧」「東欧」の四つの地域に分けて、ヨーロッパ各地の特徴あるクリスマスの祝い方を探っていきます。

「世界のクリスマス」展示風景

  展示総数 約600点


<第一節  ドイツのクリスマス(=ヴァイナッハテン)>


ドイツはヨーロッパを代表する「おもちゃの王国」です。ゾンネベルグやニュールンベルグをはじめ、全国に歴史のある玩具博物館が点在し、展示室をめぐると、人々の玩具に対する深い愛情と文化財としての位置づけの高さが感じられます。玩具を子どもの成長発達に大きな役割を果たす道具ととらえる思想が古くからあり、マイスター制度によって玩具製造が専門性を保持してきたことはドイツの玩具を知る上での重要な要素です。
ドイツでは、近世社会が円熟する18世紀後半頃から家内工業が発達し、各地で郷土色豊かな玩具製造が始まりました。ゾンネベルクを中心とするチューリンゲン地方では錫や木、紙を材料に、オーバーアマガウやベルヒテスガーデンをはじめとする南ドイツ地方では森林資源を生かして、チェコと国境を接するエルツゲビルゲ地方では、地域の歴史を刻む木製玩具が数多く生み出されていました。

エルツゲビルゲ地方ザイフェンのマイスター
削りかけの木「シュパーンバウム」を作るマイスター・ライゼンリンク氏
(1994年12月 Osaki撮影)


エルツゲビルゲ地方には今もザイフェンやグリューンハイニヒェンなどのおもちゃ村があり、幾百もの工房がマイスター(熟練工)を中心に伝承の玩具作りに取り組んでいます。クリスマスを彩る「光のピラミッド」や「煙だし人形」のユニークな仕掛けは、今も世界中の人々を魅了し続けています。

光のピラミッド・ザイフェンの教会(ドイツ・エルツゲビルゲ地方ザイフェン)


ここでは、ドイツで発達したクリスマスツリーのオーナメントやキャンドルスタンド、クリスマス人形――クルミ割り人形、聖ニコラウスやヴァイナッハマンの人形、キリスト降誕人形(=クリッペ)、煙出し人形など――を紹介します。

ドイツのクリスマス玩具展示風景


【クリスマスツリーとオーナメント】

アドベントに入ると、ドイツをはじめ、ゲルマン系の国々では、モミの木市が開催されます。一年中緑を絶やさないモミの木は、冬が深くなり、太陽の光が弱まったこの時期に家の中に常緑樹を飾ることで、緑の生命が生き続けていることを祝うという意味が込められています。
モミの木にオーナメントを飾る習慣は、17世紀ころのアルザス地方(当時はドイツ領・現在はフランス)で始まりました。初期のころは、果物やお菓子、木の実や麦わらなど、食物に関するものが多く飾られ、収穫祭との深い結びつきが感じられます。やがて、木工細工やガラス細工、錫細工など、各地の伝統工芸と結びつき、美術的にも優れた品々が作られるようになりました。

ツリー飾り・白い天使と金の星(ドイツ・エルツゲビルゲ地方ザイフェン)

 
【光のピラミッドとキャンドルスタンド】

冬至に向かう暗い日々、窓辺に点されるキャンドルには太陽への憧れが込められ、暗い夜を歩く人々を照らす暖かい光として大切に点されます。18世紀初頭、4本の棒の先を一つに束ねて四角錐を作り、真ん中にキャンドルを1本点して、花や木の実を飾り付けた「ピラミッド型のキャンドルホールダーがドイツ各地のクリスマスに飾られていました。これをもとに、エルツゲビルゲ地方で創作されたのが「光のピラミッド」と呼ばれる燭台です。キャンドルを点すと、上昇気流で上部の羽根が回転し、人形台も一緒にまわる仕掛けです。円錐型、 角錐型、家型など 、様々な形が作られています。

光のピラミッド(ドイツ・エルツゲビルゲ地方 Müller工房)
ドイツのクリスマスの燭台展示風景

「光のピラミッド」と並んで「シュビップボーゲン」もまた、かつて鉱業で栄えたエルツゲビルゲ地方が生んだキャンドルスタンドです。シュビップボーゲンとは、鉱山の坑道入り口を支えるアーチ型の飛梁をさします。クリスマス前後、シュビップボーゲンに灯りを点し、一年の無事に感謝し、来る年の安全を祈る習慣がありました。18世紀前半に金属製のキャンドルスタンド・シュビップボーゲンが作られると、やがて各家庭でも鉱山で働く家族の無事を祈って、趣向を凝らしたアーチ型燭台を窓辺に置き、灯りを点してクリスマスを祝うようになりました。

アーチ型キャンドルスタンド・シュビップボーゲン

【クリスマスに登場する人形たち】
*聖ニコラウスとヴァイナッハマン*
ドイツのクリスマス(ヴァイナッハテン)に贈り物を運んで来るのは聖ニコラウスです。南部山岳地方などでは12月6日の前の夜、天使と鬼を引き連れて家々を巡ります。聖ニコラウスは紀元3世紀に実在した司教で、弱者や子どもを守る聖人として慕われた人物です。一方、12月25日の前の晩には、「ヴァイナッハマン」が訪れ、贈り物を配ります。ヴァイナッハマンの人形は、厳格な司教のイメージを託した聖ニコラウスとは異なり、アメリカ型サンタクロースにも似て、明るく穏やかな表情に形象化されています。

オルゴール・クリスマスツリーと聖ニコラウスと子どもたち

*クルミとプラムの人形「ツッヴェッチゲンメンレ」とクルミ割り人形*
ニュールンベルグをはじめ、ドイツのクリスマスマーケットには「ツッヴェッチゲンメンレ」と呼ばれるクルミとプラムの人形が登場します。冬の栄養源として遠い昔からゲルマンの人々を養 ってきたクルミへの深い愛着が感じられる人形です。一方、クルミ割り人形は、その口にクルミをくわえさせて堅い殻が割る仕掛 け人形。子ども達に親しまれているE.T.Aホフマンの『クルミ割り人形とネズミの王』(1816年)がクリスマスの幻想に満ちた物語であったことで、クリスマスを象徴する玩具のひとつとなりました。

クルミ割り人形(ドイツ・エルツゲビルゲ地方)
ツヴェッチゲンメンレ・聖ニコラウスと天使と鬼(ドイツ・ニュールンベルグ)


*キリスト降誕人形「クリッペ」*
キリスト降誕人形は、中世の宗教熱の中、イタリアで作られ始めた箱庭ふうの人形です。馬小屋の飼葉桶に誕生したイエス、見守るマリアとヨセフ、誕生の知らせを聞いてかけつけた羊飼い、東方から捧げ物を持ってやってきた三人の博士など、キリスト降誕の物語を人形によって表わしていくものです。プロテスタント色の強いドイツですが、「クリッペ」と呼ばれるキリスト降誕人形は広く親しまれています。

*煙出し人形*
パイプをくわえ、丸く開いた人形の口から香(インセンス)の強い匂いをのせて煙が流れ出す仕掛け人形です。人形の胴部が割れて、中に香をたく皿が入っています。19世紀初頭、この地域でパイプ煙草が大流行した折に作られ始めたもので、きこりの夫婦や学校の先生、牧師、玩具職人、料理人、夜警など、庶民たちの姿がモデルです。クリスマスを待つ窓辺で香がたかれるのは、強い匂いによって暗い時節に現れる魔物を追い払う意味が込められています。

煙出し人形・おもちゃ売り、手品師、レープクーヘン売り
ドイツのクリスマス人形展示風景
 オルゴールと煙だし人形・天使と鉱山職人のキャンドルスタンド


<第二節  ヨーロッパのクリスマス>

【北ヨーロッパのクリスマス】………冬の間はほとんど陽がのぼらず、雪や氷に閉ざされる北欧にあっては、太陽の復活を願う古い民俗信仰とキリスト教がとけあった「ユール」と呼ばれる独特のクリスマスが祝われます。暗く厳しい冬、人々は窓辺にキャンドルを点し、清らかな行事の雰囲気を盛り上げて行きます。手工芸が発達した国々とあって、切り紙細工や麦わら細工、また白樺の皮細工などのクリスマス飾りが町中にあふれ、トムテやニッセという名の山羊を連れた妖精が活躍する北欧のユールは、幻想的な雰囲気に満ちています。

ユールのヤギ「ユールボック」(スウェーデン・ストックホルム)
北ヨーロッパのクリスマス展示コーナー
麦わら細工・柳の皮細工・白樺細工のオーナメント、ユールのヤギ、ユールの妖精など


【東ヨーロッパのクリスマス………東欧では冬至祭や穫祭に結びついた民族色豊かなクリマスが祝われます。チェコやスロバキア、ハンガリー、セルビアの麦わらやきびがら、木の実やパン細工のツリー飾りには、収穫祭との深い結びつきが感じられます。ボヘミアグラスのツリー飾りは、伝統工芸の味わいを伝えています。

きびがら細工のキリスト降誕人形・ベトレム(チェコ)
東ヨーロッパのクリスマス展示コーナー
麦わら細工・ジンジャークッキー(ピエルニク)・アイシングクッキーのオーナメント、きびがら細工のキリスト降誕人形など

【中部ヨーロッパのクリスマス】………ドイツ、オーストリアなど中央ヨーロッパにおいても、クリスマス・アドベント(=待降節)の平均日照時間は1~2時間。冬枯れの町にはモミの木の緑とキャンドルの光があふれます。町の広場にはクリスマス飾りを売るマーケットが立ち並び、細工をこらしたオーナメントの数々が人々を温かく出迎えます。輝く麦わらの窓飾りや経木のツリー飾りは 「光」をイメージしたものです。

中央ヨーロッパのクリスマス展示コーナー
蜜蝋細工・硝子細工・陶器・レース・麦わら細工・クルミ殻細工のオーナメント、聖ニコラウス人形、キリスト降誕人形(クリッペ)など

【南ヨーロッパのクリスマス】………イタリアをはじめとする南欧のクリスマスには、サトゥルナーリアと呼ばれる賑やかな収穫祭の薫りが残されているといいます。一方、カトリック信仰が深い南欧はキリスト降誕人形の発祥の地であり、宗教教育的な意味を帯びたクリスマス玩具の色々を見ることができます。もともとクリスマスツリーを飾る風習がない地域だけに、近年のツリー飾りには、硝子や鋼線、針金などの工業材料を利用した工芸的なオーナメントが見られます。

キリスト降誕人形・プレゼピオ(イタリア)
南ヨーロッパのクリスマス展示コーナー
硝子細工・クッキーのオーナメント、キリスト降誕人形(プレゼピオ・べレーン・ナシミエント・クレーシュ)、クリスマスボートなど


<会期中の催事>
展示解説会………ヨーロッパのクリスマスの意味を伝える各地のオーナメントや燭台、クリスマス人形などをとりあげて、それらの歴史についてお話をいたします。下記の日時、6号館展示室へお集まりください。
  日時=12月6日(日)・20日(日) 14:30~ 40分程度
  解説者=当館学芸員・尾崎織女

※近畿圏における新型コロナウィルス感染症の拡大状況にかんがみ、展示解説会を中止させていただきます。ご容赦くださいませ。(12月4日記)

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