日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2022年2月

「カーニバルの張子面」

  • 1990年代
  • キューバ・バハナ/紙

キューバはカリブ海に浮かぶ島国。15世紀末から16世紀に入植したスペイン人の文化と、奴隷として連れてこられた西アフリカ各地の人々の伝統文化が混交し、多様な思想に支えられて独自の歩みを続けてきた国です。
民族色豊かな祭りが盛んに行われており、キューバ南東部の都市、サンティアーゴ・デ・クーバや首都ハバナで夏季に開催されるカーニバルには、国内外から多くの人々が集います。ソンやボレロ、マンボ、サルサなど、多彩な音楽パフォーマンスに加え、仮面舞踊も呼び物になっています。

数年前、日本の民俗芸能を上演するため、キューバへ渡航した友人がハバナのカーニバル仮面を持ち帰ってくれました。型紙に反故の紙や新聞紙を幾重にも張って成形されたもので、黄色、草色、黄土色、煉瓦色など、様々な模様の布をパッチワークしたように華やかに彩色され、上塗りのラッカーによってつやつやと輝いています。
さてこれは、いったい何をデザインしたものなのでしょうか? キューバに生息する希少動物ソレノドン――鼻が長く、モグラやネズミに似た小動物――に似ているようにも思えますが、その長い鼻部分を手にとって顔を覆ってみると、ベネチア(イタリア)をはじめ、各地の仮面舞踏会に登場する持ち棒つきのマスクと同じ形態であることに気づきます。比較のため、欧米各地のカーニバル・マスクのデザインを調べてみところ、とてもよく似たマスクが見つかりました。

それは、歴史的にキューバとも関係の深いニューオーリンズ(アメリカ合衆国ルイジアナ州)の謝肉祭・マルディグラに登場する「ハーレクイン」のマスクです。ヨーロッパ生まれのハーレクイン(イタリアではアルレッキーノ、フランスではアルルカン)は、ただ人々を笑わせるピエロではなく、ずる賢く貪欲で、物語をひっかきまわす厄介者。
ハバナの張子面は、欧米で親しまれてきたハーレクインを模したものではないでしょうか。それがキューバの色と装飾的な模様に彩られ、動物を想わせるユニークなデザインへと変化したものと思われます。

 (学芸員・尾崎織女)