今月のおもちゃ
Toys of this month「マトリョーシカの入れ子人形」
プラトークをまとい、花模様の衣装をつけた黒い瞳の人形、その胴部を開けると、中から第二、第三の人形が現れ、身長の順に5個、10個……と並んだ姿が何とも印象的です。入れ子になったこの人形は、ロシア農村部で広く親しまれた女の子の愛称をもとに「マトリョーシカ」と呼ばれています。最近、このマトリョーシカをデザインした生活雑貨が大変人気で、街角でもよく見かけるようになりました。
旧ソ連時代、観光土産として世界中に羽ばたき、その愛くるしい表情でソビエトの親善大使ともなったマトリョーシカが、実は、日本と深いつながりがあることを知っている人は案外少ないのではないでしょうか。
19世紀末、モスクワ郊外に住む美術工芸の保護者、マモントワ夫人は、日本土産の箱根の七福神の入れ子を手にし、その面白さに惹かれました。同じようなものをロシアでも作れないだろうか……、マモントワ夫人は、入れ子人形にロシア人の誠実さ、信仰深さなどを表現したいと、木製玩具生産の中心地、ザゴルスク(現在のセルギエフパサド)の木地師に形を、画家のマリューチンに上絵を依頼。民族性を象徴するような人形を誕生させたのです。
箱根や小田原の木地師が作る木製玩具は、江戸時代中頃から種類の多さと細工の精緻さで知られていましたが、明治時代に入り、それらが世界に輸出され始めるや、各国の木工芸に影響を与えたと言われています。
マトリョーシカは、ロシアと日本との知られざる民間交流の証ともいえる人形です。写真は、旧ソ連時代にザゴルスクで作られた素朴な作品ですが、常設展示館4号館2階、ロシアの民芸玩具コーナーでは、セミョーノフやキーロフなど、色々な産地で作られた旧ソ連時代のマトリョーシカを展示しています。