「マヨリカ島の土笛・シウレル」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2021年4月

「マヨリカ島の土笛・シウレル」

  • 1980年代
  • スペイン・マヨリカ島/土

カタルーニャ語で「シウレル(Siurell)」と呼ばれる土笛は、100年以上前から、地中海西部のバレアレス海に浮かぶマヨリカ島の女性たちによって焼かれています。題材となっているのは、神話や伝説の人物や悪魔、動物、クリスマスのキリスト降誕風景など。手のひらにのる小さなサイズが一般的ですが、高さ1メートルを超える巨大な作品も作られてきました。いずれも、白地に緑と赤の自由な線模様が面白く、のびやかな手捻りの感覚はどこかプリミティブです。

カタルーニャ地方出身の巨匠、ジョアン・ミロはシウレルの愛好家として知られています。ミロは、❝100個生産されたら、そのひとつひとつに個性がある。祭礼の日にわずか数ペセタで売られ、子どもたちの間でとても人気がある。私にとってこれらの人形はとても重要で、顔の表情や姿態の表現力に注目している”と語り、彼の作品に霊感を与える造形として手元に置いていたと伝えられています。(こちら参照) 

マヨリカ島の人々は、満月の夜にシウレルを吹けば幸運が訪れると言います。小さな吹き口に強く息を送ると、ピーと高く響きます。


人形たちの手や肩に薔薇の花があしらわれた作品も多いのは、カタルーニャ地方の守護聖人サン・ジョルディのこんな伝説と関係がありそうです。―――遠い昔、獰猛なドラゴンの怒りを静めるため、人々は生贄として人間を差し出していたのですが、ある日、お姫様にその順番が回ってきました。お姫様がドラゴンの餌食になろうとしたその瞬間、白馬に乗ったジョルディが現れ、ドラゴンを剣で退治したのです。ドラゴンから血が流れ出し、それは真っ赤なバラの花へと変わりました。白馬にのった人物の土笛はサン・ジョルディ、薔薇の花を抱く女性はお姫様と想われます。

4月23日はサン・ジョルディの祝日。カタルーニャ地方では「バラの日(El dia de la Rosa)」と呼ばれ、男女が赤いバラを贈り合う習慣があります。またこの日は、小説『ドン・キホーテ』の作者・セルバンテスの命日であり、シェイクスピアの伝説上の誕生日でもあることから、「本の日(El dia del Llibre)」としてもよく親しまれています。近年は、男性は女性に赤いバラを贈り、女性は男性に本を贈る習慣も盛んなのだそうです。

(学芸員・尾崎織女)