「宇和島の祭礼玩具・牛鬼と八ツ鹿」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2020年7月

「宇和島の祭礼玩具・牛鬼と八ツ鹿」

  • 昭和30年代後半
  • 愛媛県宇和島市/紙・竹
宇和島張子・牛鬼(愛媛県宇和島市/昭和30年代後半)

「牛鬼」は、愛媛県南予地方の城下町宇和島周辺の神社の夏祭りや秋祭りに登場する牛鬼を模した張子の玩具です。胴体の部分を子どもの頭にのせ、首に付けられた竹串をもって、牛鬼の顔を動かし、子どもたちは祭りごっこをして遊びました。

祭りに出る本物の牛鬼は、胴が布製で長さは6~8m、頭の高さが3mもあります。牛鬼の胴の中に十数人もが入って練り歩き、町内の各家の軒先に頭を入れて悪魔祓いをするのです。子どもたちは、練り歩く牛鬼を取り囲み、太い竹筒のほらをブーブーと吹き鳴らして祭りを盛り上げます。

この牛鬼と共に、祭りに奉納されるのが八ッ鹿踊りで、鹿の面をかぶり、藍色の着物を着てわらじを履いた子どもたちが、胸に付けた太鼓をたたき、歌いながら踊ります。この八ツ鹿をまねて、張子面や張子のがらがらが作られていました。がらがらになった鹿たちには鈴がついており、振ると優しい音がします。(館長・井上重義)

宇和島張子・八ッ鹿のがらがら(愛媛県宇和島市/昭和30年代後半)

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若き日の井上館長が、宇和島張子の宮川善男さん訪問をかね、宇和津彦神社の秋季祭礼見学に宇和島を訪れたのは昭和39年10月のこと。収集を始めたばかりの頃で、『日本の郷土玩具』(斎藤良輔著/昭和37年・未来社刊)の巻末にリストアップされた作者の住所を手掛かりに、全国各地の郷土玩具の産地を訪ね、現状を調査し、その地に遺された古い玩具も合わせての収集活動に一生懸命になっていたと聞きます。そうして産地を取材した成果を日本郷土玩具の会の会報『竹とんぼ』誌上に精力的に発表していました。

今も、和霊神社では7月に、宇和津彦神社などでは10月に牛鬼が出る祭りが催行され、多くの観光客が訪れていますが、昭和30年代は、祭礼に登場する山車や神輿、屋台などをまねた玩具、また奉納される芸能を題材にした玩具などが観光土産ではなく、地元の子どもたちのハレの日の玩具として生きていた最後の時代です。宇和津彦神社の祭礼に繰り出してくる伝説にみちた大きな牛鬼をまねて、子どもたちが楽しげに遊ぶ風景に心を打たれたと、夏の特別展「日本の祭礼玩具と節句飾り」に牛鬼を展示しながら、当時の感動を話して聞かせてもらいました。

昭和39年の宇和津彦神社の秋季祭礼の様子を井上館長のアルバムよりご紹介します。今回、ご紹介している「牛鬼」と「八ツ鹿のがらがら」は、この訪問時に井上館長が収集したものです。

(学芸員・尾崎織女)

牛鬼を組み立てる様子・子どもたちが曳きまわす牛鬼・大きな牛鬼のつくりものが街を練ります
牛鬼は「ブーヤレ」と呼ばれると文献などにはありますが、昭和39年当時、町の人たちから「ブーヤレ」という言葉は聞かなかったそうです
八ツ鹿踊りを待つ八ツ鹿のかぶりもの
子どもたちが八ツ鹿に扮して街を練ります