「鵜飼遊び(浮き鳥)」 | 日本玩具博物館

日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

Language

今月のおもちゃ

Toys of this month
2025年6月

「鵜飼遊び(浮き鳥)」

  • 1920年代(大正~昭和初期)
  • 日本・大阪製/セルロイド

日本の近代玩具の母胎は近世の手遊びのなかにあるといわれます。江戸時代の庶民が育んできた手遊び文化が明治時代以降の遊戯や玩具へと受け継がれたものが多くみられるのです。「鵜飼遊び(浮き鳥)」もそのひとつでしょうか。

江戸時代の終わり、嘉永5(1853)年に刊行された『近世商賈尽狂歌合(きんせいあきないづくしきょうかあわせ)』(考証学者・石塚豊芥子著)には、「水中鵜のはたらき」の名で面白い遊びが掲載されています。――桐の板で水鳥形を作り、その腹の方に細い糸をつけ、その糸の先を小鮒の尾に結び付け、水を入れた桶に放ちます。鮒が泳ぐと糸でつながれた桐製の浮き鳥が水面を動き、また鮒が水深く潜ると、浮き鳥も沈むので、鵜飼いの鵜が活動しているように見えるというものです。現在の私たちには、ちょっとした生き物虐待?!と感じられるかもしれませんが、江戸末期の人たちは楽しくこのような遊びに親しんでいたのですね。

「近世商賈尽狂歌合」より「水中鵜のはたらき」——国立国会図書館デジタルコレクションから画像をお借りしました

そして、当館はこの遊びを踏襲したと思われる近代玩具を所蔵しています。大正時代から昭和初期にかけて、セルロイド(クスノキの油などを原料とする合成樹脂)製玩具の最盛期につくられたもので、パッケージにはセーラー服姿の男の子とハイカラな洋装の女の子が鵜飼遊びに興じている場面が描かれ、英語の文字から輸出玩具としての販売が企図されていたことがわかります。製造は大阪の「KA社」とありますが、調査不足で、現在も存続している会社であるかどうかは不明です。(※ご存知の諸先輩方には、ぜひご教示くださいませ。)

鵜飼い遊びのパッケージとセルロイド製の鵜
セルロイド製のとても軽く小さな鵜(高さ×全長=2.0×3.0㎝)——白い方はカモにも見えます

「鵜飼い遊び」のパッケージに同封された「鵜飼遊び方説明書」

パッケージのなかには「鵜飼遊び方説明書」が入っていて、その文章がなかなかふるっています。わかりやすく書きますと、

夏の水遊び玩具としては数多くありますが、本品は趣味高尚にして老若男女を問わず涼味を感じさせ、家庭円満の種にもなり、また安全な玩具です。
本品を使用して遊ぶには、
1.初め(深さ?)24~30㎝ぐらいの桶に墨を溶かした黒い水をたっぷりと入れ、
2.次に本書に添付したセルロイド製の鵜の首元に細い糸をかけ、9~10㎝ほどの長さを目安に、川魚(鯉・鮒・鱒等ー鮒が最も良いー)の背ビレにも糸を結び付け、
3.そうして糸でつないだ鵜と川魚を桶のなかに入れます。
4.しばらくののち、鵜をつかもうとするような動作で水面に手を近づけると、水中の川魚は手の影に驚いて水底に潜ります。それとともに糸が結ばれたセルロイド製の鵜も水中に頭を沈めます。
5.このようなことを何度か行えば、鵜は浮いたり沈んだりして、ちょうど長良川の鵜飼いを目前に見ているような気分になります。(鵜の後方へ小さい鉛を付ければ尚良いでしょう)。


本品は岐阜長良川の鵜飼を人々に紹介するための玩具であり、趣味高尚で、風流に富む事といったら、他に比べるものがありません。

定価(一組に付)三拾銭(現在価格では、800~1000円程度でしょうか)大阪KA製

目的を長良川の鵜飼を紹介するものであるとし、また趣味高尚にして風流に富むと自ら評しているところなど、大阪の玩具会社が作っていることを考えると、素朴な水遊びに真面目くさった能書きを付けて、人々を笑わそうとする意図があるのかもしれないと感じますが、いかがでしょう? いや、大真面目であったかもしれません。
本品は、2号館の常設展示「日本の近代玩具のあゆみ・1~明治・大正・昭和~」の大正時代の玩具のコーナーに展示しておりますので、ご来館の皆さまにはぜひ近くでご覧ください。小さな鵜がかわいいですよ。

(学芸員・尾崎織女)