今月のおもちゃ
Toys of this month
2006年4月
ちりめん細工「唐子袋」
幕末から明治時代にかけてのちりめん細工には、「唐子」あるいは「唐人」と呼ばれる作品が目につきます。これらは、襟や袖にフリルの付いた異国風の衣装を身にまとい、時にはつば広の帽子をかぶっていることもあります。
ちりめん細工が誕生した江戸時代、「唐(から)」は朝鮮半島も含めた大陸の呼称で、唐子、唐人とは大陸の人を表わしたのです。丸々と太った中国の子どもたちが果物や玩具を抱いて楽しげに遊ぶ図像は、豊かさの象徴として古くから愛されてきましたが、朝鮮半島の風俗もまた、日本の絵画や工芸に大きな影響を与えたといわれています。
徳川幕府と朝鮮半島の李朝は、12回に及ぶ通信使節を送り交わしています。李朝からは王の文書を携えた外交官が、儒学者、僧侶、文人や楽人を従え、1回平均500名の一団を組んで来日しました。福岡から瀬戸内海を経て江戸へと向かう使節のもとには、好奇心に目を輝かせた人々が毎日のようにつめかけたといいます。異国の洗練された文化に魅せられた人々の間で李朝風俗を表わす造形が流行し、やがては庶民のものである京人形や郷土玩具の題材の中にも、そうしたモチーフが取り込まれ、人気を博するようになるのです。
ちりめん細工に登場する唐子は、朝鮮半島と中国の意匠が溶け合い、異国趣味が強調されています。写真は、手に風車や芭蕉形の扇を持った高さ12cm前後の人形で、明治前期頃に作られたもの。全体が小袋に仕立てられており、季節に合わせて香などをしのばせたものと思われます。現在1号館で開催中の「ちりめん細工の美」において展示しています。