今月のおもちゃ
Toys of this month「文化人形」
2000年代初頭に始まり、現在まで続いている “レトロ・ブーム”は、高度経済成長に突入した頃の日本、つまり昭和30年代から40年代にかけての風俗や風物を懐古するものといわれています。このレトロブームの中で脚光を浴びたものに「文化人形」があります。けれど、実はこの文化人形、大正時代末期の生まれなのです。
レーヨン、メリヤスなどで頭、胴、手足をぬいぐるみにし、中におが屑などを詰めて作られます。キラキラとした大きな目が印象的な愛くるしい表情、赤い帽子を大きなリボンで結びとめ、華やかなワンピースをまとった姿が、異国情緒やハイカラ趣味を好む大正末から昭和初期の時代感覚をうまく取り入れたものだったのでしょう。戦前戦中に少女時代を過ごした方々の多くにとって、文化人形は、忘れえない少女時代の思い出につながる、とっておきの一点だといいます。
戦後、再び復活した文化人形は、その後も長く少女の胸に抱かれ続けて、昭和40年代の始め頃まで人気を博し続けました。20cm程度の小さなものから50cmの大きなものまで様々な種類があり、手足がぶらぶらとしているので、「ぶらぶら人形」も呼ばれました。
ところで、文化人形の「文化」とは、いったい何を表現しているのでしょうか。文化という言葉が流行するのは、関東大震災(大正12・1923年)後のことといわれています。文化センター、文化住宅、文化包丁、文化鍋……。ここでいう「文化」とは「新しく進歩的でハイカラである」というような意味をもっており、文化人形もまた、これらが誕生した時代の憧れを表現したものと考えられます。 現在、1号館で開催中の企画展「日本の人形遊び」では、大正末期から昭和40年代にかけて作られた文化人形をひとつのコーナーにまとめて展示しています。