開館50周年へのメッセージに添えて自作の贈り物をいただきました! | 日本玩具博物館

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学芸室から 2024.10.07

開館50周年へのメッセージに添えて自作の贈り物をいただきました!

11月10日の開館50周年記念日に合わせて発刊を予定している『日本玩具博物館50周年記念誌ー玩具文化を未来へつなぐー』の編集作業も終盤を迎えました。様々な分野の方々からたくさんのメッセージやお便りを頂戴しており、記念誌にも収録させていただいたのですが、こちら公式webサイト上におきましても、ご許可いただける方々のご寄稿をまとめ、メッセージ集として公開したいと準備を進めています。


先のブログでは、紙芝居&絵本の作家、やべみつのりさんから頂いたたくさん画像や絵やメッセージをご紹介させていただいたのですが、今回は、3年前の春、「きりばめ」細工の古作品を見学するために神奈川県より来館された和裁士の大橋美穂さんが、温かいメッセージに添えて50周年を祝う作品をお贈りくださいました。メッセージ集のweb公開を前にまたまたフライングになりますが、こちらのページでご紹介させていただきます。

当館が所蔵する「きりばめ」細工古作品 ――「きりばめ」とは、「押し絵」や「つまみ」などと同じく、ちりめん細工(裁縫お細工物)のなかの技法のひとつです。「きりばめ」細工は、布地の一部を切り取った後、別裂をその形に切り取ってはめ込んだものをいい、高い技術を要しました。細かな曲線を縫いつないでいくのには、絹糸の縒りをほどいて一本に裂き、摩擦などで糸が毛羽立つのをふせぐため、指に薄いのりをつけてしごき、一針ごとに細かい返し縫いがなされました。江戸時代に完成をみた技法で、ちりめん細工の袋物や袱紗などに多用されていましたし、明治時代に入ると、女学校でも上級者向けとしてこの手法が教授されていました。残念ながら、現在、きりばめの技法を駆使した細工物は一般には知られておらず、当館のちりめん細工の会の皆さまのなかには「きりばめ」を能くされる方もありますが、伝承者は多いとは言えない状況です。

 

後世に伝えたい宝物

 日本玩具博物館さま、開館50周年、まことにおめでとうございます!
 私が日本玩具博物館を訪ねたのは、まだコロナ禍中、2021年初春のことでした。公式webサイトに掲載されていた「きりばめ」細工の精密さが信じられず、いつお伺いしようか迷っている間に展示が終了してしまい、慌ててお電話したところ、快く受け入れてくださいました。蒐集された数々のきりばめ作品を拝見し、お細工物に心を持っていかれました。ひとつひとつ詳しく丁寧に解説してくださり、とても貴重で贅沢で濃密な一日でした。

「きりばめ」細工を熟覧

 数々の圧倒的なお細工物に触れ、中には布としては限界を迎えているものもありながら、それでも当時の女性の想いがダイレクトに伝わってくる、今なお生きいているお細工物の数々、――その細やかさ、ダイナミックさ、緻密さ、そして驚きの発想のなかにも、作り手の心の柔軟さや自由がこれでもか!といわんばかりにあふれています。また完成品だけでなく、作業途中の資料もあり、よくぞこの状態で残っていてくれたと抱きしめたい気持ちになり、これらを守って下さった貴館への感謝の気持ちでいっぱいになりました。

「きりばめ」細工の袋物製作過程(裏と表)

 その日を境に私の中で大きな変化がありました。それは布への愛、飽くなき情熱、人々の思いを伝える技術、妥協しないクオリティ、当時の女性の自尊心、そのようなものがないまぜになり、私の心にストーン!と入り込んできたのです。
 それらは時間が経つにつれ、どんどん大きく鮮やかに力強くなっていきました。ふとした瞬間、当時の女性たちの思い、その技術の高さ深さ幅広さが、私の職人としての心のありように寄り添い、背中を押し、時に叱責し、励ましてくれるのです。

 井上館長の優しい眼差しが名もなき女性の手仕事を見出し、蒐集して残すことにご尽力下さったからこそ、今も存在してくれている、このありがたみ、この先もずっと後世につたえていただきたい宝物の数々です。日本玩具博物館は、すでに私の聖地であり、師匠であり、友人です。

 まだまだ未熟でお恥ずかしい限りですが、丸帯崩しにきりばめ細工を施し、巾着に仕立てました。貴館で全身に浴びたきりばめ作品の数々は、私の中で日々、成長しており、その技術継承の証として、思い出の写真代わりに、自作の巾着をお受け取りいただけましたら幸いです。
 貴館のますますのご発展をお祈り申し上げます。


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大橋さん、お心のこもった素敵な作品を添えて、メッセージをありがとうございます。伊勢の鳴り独楽は、井上館長が大好きな郷土玩具のひとつです。

大橋さんのご寄稿を拝読し、当館のコレクションが来館される方々のお仕事や暮らしに関わり、その行く手を照らしたり、励ましたりする力を持っていることを知らされ、私たちは幸せに思います。日本玩具博物館が大切にしなければならない社会的な役割について、大橋さんのご体験をもとに優しい言葉で綴ってくださったこと、また大切なメッセージを作品に込めてお贈りくださったことに心より感謝申しあげます。

(学芸員・尾崎織女)
 

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