「雛まつり~お雛さまと子どもの晴れ着~」 | 日本玩具博物館

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特別展

春の特別展 「雛まつり~お雛さまと子どもの晴れ着~」

会期
2025年2月8日(土) 2025年3月31日(月)
会場
6号館

恒例となった春の特別展「雛まつり」は、500組を超える雛人形コレクションの中から、時代の移り変わりや地域の違いなどを切り口に、様々な表情の雛人形をとり出して展示し、雛まつりの多様な世界を紹介する試みです。今春は、江戸時代後期から明治・大正時代に江戸(東京)や京阪(関西)の町家で飾られていた雛飾りとともに華やかな子どもの晴れ着を展示し、子どもたちの健康と幸福を願う造形デザインについてもご案内します。

展示総数 雛飾り:約30組 子どもの晴れ着:30着


<第一章 雛まつり~江戸・明治・大正のお雛さま>

雛人形の起源は遠く平安時代にさかのぼりますが、3月3日の上巳(じょうし)の節供(句)に雛遊びを行ったり、雛人形や雛道具を飾ったりする風習が定着したのは江戸時代に入ってからのことです。
江戸時代前期(17世紀後半)の雛飾りは、数対の立ち雛や座り雛を毛氈の上に並べ、背後に屏風を立てた平面的な形態で、調度類も数少なく簡素かつ自由なものでした。町家の室内で思い思いに雛人形を飾って楽しむ様子が文献の絵図などからも窺えます。雛まつりが盛んになるにつれて、雛人形や添え飾る人形、諸道具の類も賑やかになり、雛段の数も次第に増えていきます。

「源氏十二ヶ月之内弥生」 安政年間ごろ 三代歌川豊国

そうして江戸を中心に「段飾り」が発展する一方、上方では「御殿飾り」が優勢でした。建物の中に内裏雛を置き、側仕えの官女、庭掃除や煮炊きの役目を果たす仕丁(三人上戸)、警護にあたる随身(左大臣・右大臣)などの人形を添え飾るものです。御殿飾りは明治・大正時代を通じて京阪神間で人気があり、戦後には広く西日本一帯で流行しましたが、昭和30年代中頃には百貨店や人形店などが頒布する一式揃えの段飾り雛に押されて姿を消していきました。

第一章では、江戸時代後期から明治・大正時代に都市部で飾られた町雛の名品の数々を、江戸(関東)地方と京阪地方を対照させてご紹介するほか、「屏風飾り」「段飾り」「御殿飾り」「源氏枠飾り」などの雛飾りの様式をご覧いただきます。

 

<第二章 子どもの晴れ着とちりめん細工>

乳幼児の宮参りや節句などの折に縫われた晴れ着の約30着に、明治・大正時代の女性たちが手作りした子どものためのお細工物を添えて、子どもたちの健康と幸福を願う造形デザインについて紹介します。
赤ちゃんが誕生し、無事に生後1ヶ月を迎えたことを産土神(うぶすなのかみ)に感謝して報告をする初宮参りの祝い着、生後100日目に行われる食い初めの儀礼用の祝い着、さらに端午の節句や桃の節句を祝う晴れ着には、魔よけや招福を意味する文様や、四季の花々、子どもたちの好きな玩具や人形があしらわれて、いずれも愛らしく華やかな雰囲気をもっています。明治時代から昭和時代初期までの晴れ着や、子育てのお細工物作品を通して、親たちの子どもの成長と幸福を願う心や、日本の伝統の美意識にも触れていただければと思います。

Ⅰ 初宮参りの祝い着

生後一ヶ月の頃、赤ん坊の誕生を産土神に報告し、正式に氏子となる初宮参りの儀式が行われます。  (多くの地域で男児は31日目、女児は32日目に行われます)。この時に赤ん坊が着用する祝い着には特徴があります。反物のひと幅を身ごろとした「一つ身」を二枚がさねで着用することが一般的とされ、表側になる掛け着には、袖口を縫い合わせない「大名袖」の形式が用いられます。
男児の掛け着は、染め抜きの五つ紋(前身ごろに2ヵ所・後ろ身ごろに1ヵ所・両袖後ろ側にそれぞれ1ヵ所)で、黒羽二重や色羽二重が好まれ、宝文様や甲冑飾りなど勇ましくめでたい図柄が選ばれます。女児の掛け着にも五つ紋が入りますが、縮緬地の裾に、四季の花や宝文様など華麗な図柄を集中させた形式が目立ちます。この祝い着が里方で用意される場合、男児は実父の定紋、女児は実母の定紋を用い、紋を入れないときには、守り縫いが施され、あるいは「背紋飾り」や「背守り」が置かれます。ここでは、初宮参りの折に身に付ける帽子やよだれかけ、守り袋をあわせて展示します。


Ⅱ 儀礼や節句の祝い着

赤ん坊が一生食べ物に困らないようにと、生後100日目頃に行われる「お食い初め」の儀式、11月15日に三歳(髪置の祝い)の女児、五歳(袴着の祝い)の男児、七歳(帯解の祝い)の女児が神社に参拝する「七五三」の儀礼、あるいは端午の節句や桃の節句の祝いなどここでは、初宮参りに続く晴れの場面に登場した華やかな着物を展示します。
薬玉は、薬草を詰めた香袋と芳香の強い四季の花々を丸く束ね、五色の糸(続命縷)を垂らして壁に掛け飾るもので、平安時代の昔から邪気払いの力があるとして、端午の節句に贈答されました。魔除けの力を秘めた薬玉の華やかな造形は、晴れ着の意匠として、古くから好まれてきました。


Ⅲ ちりめん細工と着物のデザイン

子どもたちの着物の絵柄には、生命感あふれる花鳥草木や王朝文化を連想させる雅やかな器物の色々が選ばれています。中でも楽しい玩具文様の数々は子どもたちを喜ばせたことでしょう。 様と花文様を組み合わせたもの、昔話や故事を題材にしたものも見られ、小さな着物の中の大胆なデザイン構成には驚かされます。ここでは、「花鳥草木」「吉祥」「器物」「玩具」の項目で、子どもの祝い着に見られる絵柄と幕末から明治・大正時代に作られたちりめん細工の題材との共通性を紹介します。


●花鳥草木のデザイン●

子どもの着物を飾る絵柄の中で最も多いのは、花や樹木、そして鳥。そこには、四季折々、自然からもたらされる情感を大切にする日本的な感性が表現されていると同時に、季節に応じて輝きをみせる花鳥草木のもつ生命力の強さを子どもの身体に取り込もうという精神が感じられます。
梅、桜、牡丹、菊、椿などの花々や鶴、孔雀、鳳凰、鴛鴦、鶏、鶯などの鳥もまた、ちりめん細工の題材として、古くから愛されてきました。香袋として、あるいは琴爪や薬包などの実用品を収める小袋として使用された明治・大正時代のちりめん細工を紹介します。


●吉祥のデザイン●

七宝、宝珠、小槌、丁子、隠れ蓑、隠れ笠、巻物、蔵の鍵など物心両面の豊かさを象徴する「宝文様」は、子どもの着物のデザインにも欠かせない題材です。咲き乱れる四季の花々に宝文様を組み合わせて、小さな着物の画面からあふれるかりに華やかな絵柄も見られます。



●器物のデザイン●

檜扇や御簾など王朝文化を感じさせる雅やかな器物、琴や笙、笛や小鼓など日本伝統の楽器、それらを四季折々の花々と組み合わせた文様は、子どもの着物を華やかに彩りました。
ここでは、そうした器物がデザインされた愛らしい女児の着物と江戸・明治時代に「きりばめ細工」や「押絵」の技法によって製作された懐中物、小箱を展示します。小箱の蓋や懐中物の小さな画面にも、和歌や古典文芸を連想させる雅やかな器物が描かれています。


●玩具のデザイン● 

でんでん太鼓やがらがら、弥次郎兵衛、達磨、犬張子、御所人形などの伝統的な玩具は、晴れの日の祝い着にも普段着にも非常に好まれました。中には既に廃絶し、文献の中でしか見られなくなった玩具も見られ、おもちゃ絵の着物は、古い時代の玩具の形を知る上でも興味深い資料です。
ここでは、初宮参りに用いられた祝い着や祭礼や節句に身につけた晴れ着に、縮緬小裂で作られた明治・大正時代の優しい手づくり玩具のいろいろを合わせて展示します。