「世界のクリスマス*祈りと喜びの造形」 | 日本玩具博物館

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特別展

日本玩具博物館50周年記念*冬の特別展 「世界のクリスマス*祈りと喜びの造形」

会期
2024年11月2日(土) 2025年1月26日(日)
会場
6号館
クリスマスツリー飾り・リンゴをかたどった硝子ボール(フランス・アルザス地方)

キリスト教世界の人々にとって、クリスマス(降誕祭)はイースター(復活祭)と並んで一年で最も大きな行事です。12月に入ると、聖バルバラの祝日(4日)、聖ニコラウス祭(6日)、聖ルチア祭(13日)、聖トーマスの祝日(21日)など、キリスト教の聖人を冠した祭礼が続き、各地それぞれに伝統的な行事を重ねながら、クリスマス(25日)を迎えます。家々の窓辺にはキャンドルの灯が揺らめき、伝承のオーナメント(=装飾)が美しく飾られて、町全体でクリスマスを祝う雰囲気を盛り上げていくのです。

古代ヨーロッパでは、太陽が力を失い、地上の生命力が衰えた冬枯れの季節に光の復活を願い、新年の豊作を祈る祭を行っていました。キリストの降誕を祝うクリスマスは、冬至祭や収穫祭など、土着の信仰をとり込むことを通して、大きな行事へと発展していったと考えられます。クリスマスに登場するキャンドルの温かな灯や光を象徴する造形の美しさ、また麦わらやきびが(トウモロコシの皮)、カシの枝や丸太、木の実など、作物や森の実りを表現するオーナメントの多様性からも、クリスマスがもつ奥行の深さをうかがい知ることが出来ます。

きびがら細工のキリスト降誕人形「べレーン」(チェコ)

恒例となった当館のクリスマス展は、クリスマスオーナメントや人形、玩具を通して世界各地のクリスマス風景を描き、この行事の意味を探る試みです。本年はテーマを二つ設けました一つ目目の【クリスマス・祈りの造形】では、「待降節のカレンダー」「キャンドスタンドと光の造形」「キリスト降誕人形」「サンタクロースと冬の贈り物配達人」「クリスマス菓子とオーナメント」「自然素材のオーナメント」の6つの項目でクリスマス造形の意味とデザイン様式を探ります。そして、二つ目の【ヨーロッパ・クリスマス紀行】では、北欧、中欧、南欧、東欧の4つの地域に分けて展示し、各地のクリスマス飾りの特徴を紹介します。

本場ヨーロッパの伝統的なオーナメントはもちろん、アフリカやアジアの民芸的な造形も見どころです。世界各地の民族色豊かなクリスマス飾りが一堂に―――。人々の喜びと祈りが込められた造形文化に、あたたかなまなざしを注いでいただければ幸いです。

展示総数 世界55ヶ国より約1,000点


<クリスマス*祈りの造形>
待降節のカレンダー~喜びの日を待つ楽しみ~ 
 クリスマス(降誕節)を迎える準備期間を「待降節(アドベント)」と呼びます。キリスト教国では、待降節が巡ってくると、緑の葉で輪を作り、等間隔に4本のキャンドルを立てた「アドベント・クランツ」や「アドベント・キャンドル」が家庭に登場します。クリスマスを待つ4週間を表し、日曜日ごとに1本ずつ灯を増やし、その灯の下で家族揃ってキャロルを歌って祝います。ドイツやデンマークでは、12月になると、子ども部屋に「アドベント・カレンダー」が飾られます。クリスマスの風景が描かれた絵の中に、1から24までの数字がついた窓があり、12月1日から毎朝、窓を開けていきます。めくる窓ごとに楽しい絵が描かれていて、クリスマスを待つ気持ちを高めてくれます。

麦わら細工・アドベントクランツ(ハンガリー)


光の造形~太陽の復活を願って~ 
 北半球では、アドベント(待降節=降誕節「クリスマス」を待つ時節)に入ると、冬至に向かって力を弱めていく太陽を元気づけようと、薪(ユール・ログ/ビュッシュ・ド・ノエル)に火が放たれ、キャンドルに火がともされます。とくに日照時間の短い北部ヨーロッパや中部ヨーロッパのクリスマスには、太陽の光を象徴する造形の数々が登場します。

 スウェーデンでは、12月13日、「聖ルチア」に扮した少女たちが、生命の源を表わすキャンドルを点した王冠を被り、手にもキャンドルをいただいて行進する「聖ルチア祭」が行われます。
 点された火を赤く暖かく見せるための工夫がなされたキャンドルホルダーや、火の熱によって、プロペラを回転させ、季節のめぐりに力を与えようとするピラミッド型のキャンドルスタンドなどにも、太陽の復活への願いが込められているようです。

ピラミッド型キャンドルスタンド(ドイツ・エルツゲビルゲ地方)

 また、クリスマスツリーのオーナメントや窓飾りなどに、麦わらや硝子などで細工された光のオーナメントがくり返し見られるのは、キリスト教が信仰される以前、冬至を過ぎて蘇る太陽の復活祭が行われていたことを伝えるものでしょう。
 中米に位置するメキシコの「生命の樹」のキャンドルスタンドには、先住民の太陽信仰と、大航海時代を経て中米を支配したスペイン文化が溶け合ったユニークな造形感覚が表れていて、「信仰の融合」を感じさせます。


クリスマスの贈り物配達人~新年の豊穣と幸福を運ぶ~ 
 12月6日は、「聖ニコラウス」の祝日。ヨーロッパの多くの地域では、この日の前夜、子どもたちは、聖ニコラウスからプレゼントをもらいます。聖ニコラウス――ドイツやオーストリアではザンクト・ニコラウス、英語圏ではセント・ニコラウス、フランスではサン・二コラ、チェコやスロバキアではスェティ・ミクラーシュ、ポーランドではシウェンティ・ミコワイ、オランダではシンタ・クラース――は、紀元後3世紀、ミュラ(現在のトルコ)の司教として尊崇を集めた聖人です。情け深く、子どもや貧しい人々のために、贈り物や金貨を授けるなど、聖ニコラウスには、数々の伝説があります。ニコラウスが没したとされる12月6日、心優しい聖ニコラウスの故事に、古代の冬至祭に新年の豊穣を願って人々が贈り物を交換していた習慣が溶け合って、贈り物配達人の物語が誕生しました。
 聖ニコラウスには、子どもたちを叱って行いを改めさせる厳格な司教のイメージもあり、また地域によっては異教時代の風習も合わさって、鬼と天使を連れ、お仕置き用のムチとプレゼントの両方を手にする聖ニコラウスも見られます。

きびがら細工 クリスマスの鬼・チェルト(チェコ)と聖ミクラ―シュ(スロバキア)


 ニコラウス以外にも、クリスマスから新年にかけて、北欧のトムテやニッセ、ヨウルプッキ、ウクライナのジェッド・マロース、イタリアのベファーナおばさん・・・など、国や地域によって様々な成り立ちをもつ贈り物配達人たちが活躍しています。


 聖ニコラウスが贈り物を運ぶヨーロッパの風習を発展させたのが、アメリカ合衆国の「サンタ・クロース」です。――オランダ語の「シンタ・クラース」が名前の由来とされ、トナカイのひく橇にのって空をかけてくるサンタクロースのイメージが形成されたのは、19世紀のこと。今では、世界中の空をサンタさんが走り回っています。


クリスマスツリー~永遠の緑を讃えて~ 
 アドベント(待降節)に入ると、ドイツをはじめ、ゲルマン系の国々では、街の広場などで「モミの木市」が開催されます。森の木々が裸になり、太陽の光が弱まった冬枯れの季節、一年中緑を絶やさないモミの木を家の中へ持ち込むことで、生命が生き続けていることを祝い、讃えるという意味をもっています。
 モミの木にオーナメントを飾る習慣は、16世紀ころのアルザス地方(現在はフランス/当時はドイツ)で始まりました。初期のころは果物や木の実など、豊かな実りを象徴する素材が多く見られ、収穫祭との結びつきも感じられます。やがて木工細工や切り紙細工、硝子細工、錫細工など、各地の手工芸と結びつき、美術的に優れた品々も誕生していきます。
 ところで、クリスマスに飾られるオーナメントの中には、ドイツの「レープクーヘン」や「シュプリンゲルレ」、中欧や東欧の「スペキュラティウス」、欧米の国々の「ジンジャークッキー」のように数多くの菓子が登場します。クリスマスの菓子には、生命を支える小麦粉やライ麦粉、ハチミツなどはもちろん、薬効性のあるスパイスや木の実がふんだんに使われています。それらは、私たちが必要とする冬の栄養を考慮した食べ物であると同時に、あの世から戻ってくる祖霊や土地に眠る霊への供物でもありました。
 クリスマスツリーを飾る習慣は、森の民・ゲルマン系の人々が暮らす中部ヨーロッパからイギリスへ、北部ヨーロッパへ、新大陸アメリカへ・・・と拡がっていきましたが、カトリック色の強いイタリアなど南欧の国々でクリスマスツリーが飾られるようになるのは、第二次世界大戦後のことと言われています。

クリスマスツリー飾り 聖ニコラウスのシュペクラティウス・シュプリンゲルレ・麦わら細工(ドイツ)


自然素材のオーナメント 
 クリスマスには、スウェーデンやフィンランド、ドイツ、スイスなどの麦わら細工の飾り、ハンガリーやスロバキアなどのきびがら(トウモロコシの皮)細工の飾りなど、収穫された穀物を象徴する造形がくり返し登場します。また、林檎や胡桃などの木の実をテーマにしたもの、木の実を生み出す木々の“丸太”を象徴するオーナメントも各地で作られています。これらには、実りをもたらす穀物霊や森の樹木に感謝を捧げ、新年の豊穣を願う心が込められたものと考えられます。


<ヨーロッパ*クリスマス紀行> 
北ヨーロッパのクリスマス 
 冬の間はほとんど陽がのぼらず、雪や氷に閉ざされる北欧の国々にあっては、太陽の復活を願う民俗信仰が根深く生き続けてきました。太陽が死に向かっていく季節に大挙して現れる死者の霊をなぐさめるために、人々は特別な食物を準備し、神話の神々、なかでもオーディンの神に豚や猪などを捧げて新年の豊穣を願いました。太陽の再生を願う冬至の祭礼は“ユール”と呼ばれ、13世紀ごろにはキリスト降誕祭と結びついて、クリスマスの行事を表わす言葉となりました。暗く厳しい北欧の冬、人々は、太陽を象徴するキャンドルを窓辺に点し、清らかな行事の雰囲気を盛り上げて行きます。
 室内で過ごす時間の長さから、手工芸が発達し、クリスマス飾りにも、切り紙細工や麦わら細工、白樺の皮細工、柳の皮細工などが数多く見られます。家の守り神として親しまれているトムテ(スウェーデン)やトントゥ(フィンランド)たちが愛らしい人形として登場し、麦わらで細工された大小のヤギが町中を彩ります。


中部ヨーロッパのクリスマス
 ドイツ、オーストリアなど中部ヨーロッパにおいても、待降節の平均日照時間は1~2時間。冬枯れの町には寂しさを払うようにモミの木の緑とキャンドルの光が溢れます。町々の広場にはクリスマス飾りを売るマーケットがたち並び、細工を凝らしたオーナメントの数々が人々を温かく出迎えます。きらきら輝く麦わらの窓飾りや経木のツリー飾りも「光」を表現したものです。
ドイツのクリスマス
 ドイツのクリスマスにプレゼントを運ぶのは、聖ニコラウスやヴァイナッハマンと呼ばれる聖人ですが、地域によっては鬼を従えてやってきます。クリスマスツリーの本場とあって、豊富な造形が見られる地域です。また、クルミ割り人形や煙だし人形、「光のピラミッド」の名で親しまれるユニークなキャンドルスタンド、キリスト降誕人形「クリッペ」など、“おもちゃの国”ならではのクリスマス飾りを一堂に紹介します。


東ヨーロッパのクリスマス  
 東欧では、冬至祭や収穫祭に結びついた民族色豊かなクリマスが祝われています。チェコやスロバキア、ハンガリー、セルビアの麦わらやきびがら(トウモロコシの皮)、木の実細工のツリー飾りには収穫祭との深い結びつきが感じられます。パン生地を細工し、焼き締めて作られるチェコのオーナメントや日本の正月の注連飾りを想わせるセルビアの麦わらとオークの枝を束ねたオーナメント「パドニャック」などには、キリスト教が根付く以前からの民間信仰が表現されているようです。
 また、木綿レースや硝子細工のツリー飾りは、東欧伝統工芸の素朴さと繊細さを伝えています。

クリスマスツリー飾り パン細工のオーナメント(チェコ)


南ヨーロッパのクリスマス 
 イタリアをはじめとする南欧のクリスマスには、“サトゥルナーリア” と呼ばれる賑やかな収穫祭の薫りが残されているといいます。また、カトリック信仰が篤いイタリアは、キリスト降誕人形の発祥した地であり、大小様々な降誕風景の箱庭を見ることができます。イタリアやポルトガルからは「プレゼピオ」、スペインから「べレーン」「ナシミエント」、フランスからは「クレーシュ」と呼ばれる降誕人形を展示します。

キリスト降誕人形・クレーシュ(フランス・プロヴァンス地方)


<会期中の催事>
展示解説会  自由参加制(入館料が必要)
 恒例の展示解説会では、世界各地のクリスマス飾りの特徴について、当館学芸員が展示品を取り出してご案内いたします。ドイツをはじめ、各国のキャンドルに火を点します。
日時=11月24日(日)・12月1日(日)・8日(日)・15日(日) ・22日(日)   各回14時30分~

クリスマスワークショップ・麦穂の天使のオーナメント
申し込み制(定員15名)
麦穂にはその年の麦を実らせた穀物霊が宿るとされる伝承がヨーロッパ各地にあり、クリスマスに登場する麦わら細工には新たな年の豊かな実りへの願いが込められるといわれます。ドイツやスイス、スウェーデンなどの伝統的なオーナメントを参考に麦穂の天使を作り、皆でクリスマスツリーに飾り付けます。作品はお持ち帰りください。

日時=12月7日(土) 13:30~15:30 
会場=6号館2階講座室
指導=当館学芸員
参加費=400円(館内見学には、別途入館料が必要です)

恒例のクリスマス絵本の朗読会や演奏会などを計画中です。詳細は決まり次第、お知らせいたします。