「ちりめん細工の今昔」 | 日本玩具博物館

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特別展

初夏の特別展 「ちりめん細工の今昔」

会期
2015年4月25日(土) 2015年6月30日(火)
会場
6号館

「ちりめん細工」は江戸時代からの歴史をもつ伝統手芸です。ちりめん(縮緬)は細やかな「しぼ」をもつ優しい絹織物で、江戸時代から現在に至るまで、日本の着物の材料として愛好されてきました。

そのちりめんの残り布を利用して作られたお細工物をちりめん細工と呼んでいます。江戸時代の後半、御殿女中や武家や商家など、裕福な家庭の女性達によって、美しく小さな袋物や小箱が生み出されました。ちりめん細工は小さな布裂も大切にする心、美的感覚、手先の器用さを身につける手芸で日本女性の教養のひとつでもありました。モチーフとして選ばれる花や動物、また器物の形には、日本人が伝えてきた吉祥や魔よけの文様が見出されます。 

明治時代に入ると、ちりめん細工は女学生の教材として取り上げられ、女学生達は伝承に基づき、意匠をこらした佳品作りを競い合いました。『裁縫おさいくもの(明治42年)』『続裁縫おさいくもの (明治45年)』『裁縫おもちゃ集(大正6年)』〈いずれも大倉書店〉などは、女学校の教科書として書かれたちりめん細工の手引書として有名です。花や動物の袋物は香入れや琴爪入れとして、玩具や人形の袋物は子どもの御守りとして使用されたようです。中部東海地方には、ちりめんの袋物を嫁入り箪笥の上にのせて持参する風習もみられました。花嫁の幸福を予祝する縁起物であると同時に、裁縫の腕前を婚家に披露するという意味もあったのでしょう。

こうして江戸時代から明治、大正、昭和と作り伝えられてきたちりめん細工ですが、戦争による世の中の混乱や生活様式の変化の中で、いつしか忘れられた存在になりました。日本玩具博物館は、ちりめん細工の伝える世界の素晴らしさに気付き、40年前より古作品や文献資料の収集を行うと共に、1986年より博物館活動の一つとして展示や講習会を行い、復興と普及に努めてきました。継続した博物館活動と愛好者の熱心な取り組みによって、ちりめん細工は日本手芸の一分野として広く認知されるまでに発展しました。

押絵・きりばめの手法を用いた三十六歌仙の香箱

本展の第一部では、江戸時代から明治・大正時代にかけての古作品を一同に集め、6つの項目によって、ちりめん細工という伝統手芸の特徴をご紹介します。第二部では、日本玩具博物館の復興活動を通して今によみがえった平成のちりめん細工を、季節や種類にわけて展示します。また、ちりめん細工を飾る楽しみや贈る喜びを表現する「つるし飾り」や「傘飾り」などを華やかに展示します。

日本玩具博物館が所蔵するちりめん細工コレクションの全貌をご紹介する初めての展覧会―――手芸愛好家のみなさまだけでなく、多くの方々に日本女性が育み伝えてきた美意識や針仕事の楽しみをお伝えしたいと思っています。

    

第一部 江戸と明治のちりめん細工

 第一部では、幕末から明治時代に製作されたちりめん細工をお楽しみ下さい。
「江戸文化の薫りを伝えるお細工物」「女学生たちのお細工物」「ちりめん細工の世界~用と美の袋物、魔よけと招福の巾着、花鳥風月を楽しむ小袋、人形と守り袋、ちりめん玩具の世界、押絵ときりばめの小箱、遊び心の懐中物~」「お細工物の技法」の項目によって、日本女性の手の技と物づくりの心をご紹介します。

江戸文化の薫りを伝えるお細工物

 ここでは、幕末期に作られた花や動物、袋物、巾着、人形、玩具、小箱など、代表的な作品を紹介します。これらは、武家や商家などの裕福な家庭の女性達によって作られ、香袋として、御守りとして、小さな宝物入れとして、あるいは琴爪入れとして使用されていました。

江戸文化の薫りを伝える懐中物のいろいろ

女学生たちのお細工物

 明治時代に入ると、ちりめん細工は女学校の教材として取り上げられ、女学生たちは、伝承に基づきながら、意匠をこらした作品づくりを競い合いました。『裁縫おさいくもの(明治42年刊)』『続・裁縫おさいくもの(明治45年刊)』『裁縫おもちゃ集(大正5年刊)』などは、ちりめん細工に特化した教科書として有名です。

 お細工物は女学校だけでなく、裁縫塾などにおいても、高等な技術を要するものとして、盛んに取り上げたれていたようです。日本玩具博物館へ寄贈されたお細工物の中には、ご本人が女学生時代、あるいは裁縫塾での修行時代に精魂込めて製作されたもの、また、母親や祖母の形見の品として大切に保管されてきた作品が何種類もあります。ここではこれらを取り上げ、若い女性たちの手によるちりめん細工について紹介します。

明治時代の女学校の教科書とお細工もの
女学生たちのお細工もの

ちりめん細工の世界

 江戸末期から明治・大正時代に作られたお細工物を集め、題材、製作方法、使用目的などに照らして一点一点の作品を見ていくと、ちりめん細工には、いくつかの要素が組み合わされていることに気付きます。色あわせを考え、精緻に縫い接がれたちりめん細工は、実用的な美をもっていること、日常生活の中に季節の風情を取り入れる心情が感じられること、作品の題材には魔を除け、福を招く意匠が選ばれたこと、子どもや家族のために製作されるものが多かったこと、作品の裏側や底、見えない部分にも工夫をこらし、作り手の遊び心があふれていることなどです。こうしたちりめん細工の性格について、「用と美の袋物」「魔よけと招福の巾着」「花鳥風月を楽しむ小袋」「人形と守り袋」「ちりめん細工の玩具」「遊び心の小箱と懐中物」の六つの項目を通して探ってみたいと思います。

その1・用と美の袋物

 明治42年刊『裁縫おさいくもの』の趣旨をみると、ちりめん細工を女学校の教材に採用する目的として、手指の技術の向上、美的鑑識力の発達、ものを大切にする心の養成をあげています。小さな残り布も無駄にせず、配色や形の美しさに配慮する感覚、それらを暮らしに生かす知恵と技を育てようとしたのです。ここでは、つまみ細工、きりばめ細工、押絵などの手法を駆使して作られた袋物をご紹介します。

押絵の型紙と押絵の巾着(明治中期)

その2・魔よけと招福の巾着

 長い尾房をもつ蓑亀や鶴、宝船の袋物、隠れ蓑に隠れ笠などを立体化した巾着、青海波、四海波、亀甲文、菱文などをつないで作る袋物など、ちりめん細工に表現される題材の多くは、私たちの祖先が、魔を除け、幸福を招く力があると考えてきた伝統文様です。魔よけや吉祥の意味をもった細工物を製作し、贈り物にしたり、身につけたりすることの中には、近世社会における健康や幸福の願い方の一端が示されています。ここでは、長寿、夫婦円満、豊穣、厄除け、病魔除けなどを意味するちりめん細工の数々を展示します。

その3・花鳥風月を楽しむ小袋

 ちりめん細工には、季節感のある作品が目立ちます。中でも四季を映す花や実、鳥や蝶、流水や魚を題材にした作品は、江戸時代からくり返し製作されてきました。ここでは、自然を暮らしに取り込む作品の数々を展示します。中世・近世の貴族社会において、正月、上巳、端午、七夕、重陽などの節句にしつらえる飾り物の中には、魔よけに効果があるとして香りの強い花や実を飾ったり、辟邪の力をもつ香木を袋物に入れて懸け飾ったりする風習が見られました。花や樹木、実などを題材にしたちりめん細工の中には、上流社会の風習の一端が伝えられているのかもしれません。

端午の薬玉飾り

その4・人形と守り袋

 人形が人の身にふりかかる禍(わざわい)から持ち主を守ってくれるという日本古来の信仰は、「這い子人形」の中にも継承されています。関西地方では、嫁入の時に這い子袋の中に、臍の緒を入れていくと、子宝にめぐまれると伝えられる家庭もありました。守り袋は、宮参りに晴れ着の紐に結び付けて使用されるもので、明治・大正時代、関西地方では動物や人形、花などの押絵をほどこしたものに縁飾りつけた巾着が流行しました。『女学裁縫教授書』(明治27年)は、本来、守り袋は、その中に守護札、あるいは薬などを入れ、持ち主の小児が道に迷ったり、不慮の事故に巻き込まれたりした折に用を為す必需品であったと解説しています。ここでは、江戸から昭和初期にかけて、女性たちが子どもや家族の守りとして製作していた人形袋、守り袋を集めて展示します。

ちりめん細工の人形たち
子育てのお細工もの

その5・ちりめん細工のおもちゃ

 大正5年には、「子どもにとって安全で教育上価値のある玩具を布で製作する方法を明らかにする」趣旨で『裁縫おもちゃ集』が刊行され、女学校の教科書に採用されましたが、ヨーヨーや独楽、犬張り子等、当時、日本各地で遊ばれていた郷土玩具を題材にしたかわいいおもちゃの数々が掲載されています。女学生たちは将来、母となる心構えも一緒に学んでいったことでしょう。

その6・遊び心の小箱と懐中物

  ここでは、櫛入れや楊枝入れなどの懐中物、また小物を収納する小箱の色々を展示します。見えないところにも趣向をこらし、蓋を開けた時の意表をつく造形に、人々は手芸の技を注ぎ込みました。ちりめんの小裂を縫いあわせて絵を描く「きりばめ細工」や、布片に綿を含ませてアップリケのように絵を浮き立たせる「押絵」などの手法が応用されています。作り手の技術の確かさと美意識の高さ、そして、豊かな遊び心を感じさせる作品の数々です。

押絵の祝い熨斗/写真立てなど


第二部 よみがえったちりめん細工

 第二部では、日本玩具博物館に集い、長年にわたって研鑽を積んできた「ちりめん細工の会」のメンバーが復元・創作した作品を一堂に集めました。「ちりめん細工の袋物」「ちりめんで作るおもちゃの色々」「ちりめん細工で綴る日本の四季」「暮らしを彩るちりめん細工」の項目によって、現在によみがえったちりめん細工の世界をご紹介します。

ちりめん細工の袋物

 四角形や六角形などの、色とりどりの小裂を縫い合わせて外袋を形づくり、中に内袋を仕込んで仕上げます。小裂の接ぎ方や取り合わせ方によって、同じ文様の袋物でも、様々な表情を見せてくれます。日本に古くから伝わるパッチワークといえるでしょう。ここでご紹介する市松文様、亀甲文様、菱文様、桧垣文様、七宝文様、蜀江文様、立涌文様などの袋物は、江戸時代後期、あるいは、それ以前から伝えられたものを参考に、現代的な色彩感覚をもり込んで製作されたものです。小さな子どもの手提げ袋として、また旅で活躍する小物入れや裁縫袋としての実用性をもった楽しい作品の数々です。

ちりめんで作るおもちゃ

 大正時代には女学校の教科書として、「子どもにとって安全で教育上価値のある玩具を布で製作する方法を明らかにする」という趣旨で『裁縫おもちゃ集(大正5年・大倉書店刊)』が書かれ、でんでん太鼓や風車、犬張り子などの郷土玩具の形を取り入れたちりめん細工の玩具が数多く誕生しました。こうした流れを受けて復元・創作されたちりめん細工の玩具を集めてご紹介します。犬張り子、人形や動物のお手玉、傘独楽、串馬、とんだりはねたり、桃とり猿、花独楽などの伝統玩具が、やさしい風合いをもつちりめん素材によってよみがえりました。

ちりめん細工のおもちゃ

ちりめん細工で綴る日本の四季

 ちりめん細工の世界では、花鳥風月や四季の風物詩をおり込んだ作品群が大きな領域をしめています。このゾーンでは、季節感あふれる作品群によって、春夏秋冬の風情をたどります。桜花、朝顔、菊花、水仙の花をモチーフにして製作された季節のつるし飾り、季節感のあるちりめん細工を小さく作り、壁面にさげ飾れるように工夫を加えた四季の吊るし飾りなどもあわせて展示し、近代的な住環境の中でも自然を感じ、「和」の伝統の楽しみ方をご紹介します。

春のちりめん細工
ちりめん細工のさげ飾り


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