今月のおもちゃ
Toys of this month「不倒娃々(プータオワーワー)」
昭和初期から10年代にかけて(1930年代)、大陸に向けられた時代の関心の中で、戦前の日本の郷土玩具収集家の幾人かは、中国東北部(当時の満洲)で作られていた土人形や張子などのユニークな世界に興味を示しました。甲斐巳八郎、須知善一、赤羽末吉、古川賢一郎らは「満洲郷土色研究会」を組織して、現在の黒龍江省、吉林省、遼寧省、山東省などに古くから伝承される玩具の作者を訪ね、作り方などを調査し、未知の大陸において、数多くの民間玩具を収集しています。それらは、本土にももたらされて、当時の収集家たちの趣味心をくすぐりました。
戦前のコレクターが熱心に収集した中国民間玩具の中には、「不倒娃々」と呼ばれる起き上がり小法師が数多く含まれます。日本の起き上がり小法師・だるまに相当する言葉は「不倒翁」ですが、「不倒娃」となると、かわいい童子姿の起き上がり小法師を指すのです。「娃」とは、女偏が付いていますが、主に男児を表す言葉。これらは、山東省、遼寧省、吉林省、黒龍江省の農村部の人々によって新春の“廟会(祭礼)”の前に製作され、多くの人々が集うその廟会で売られたものです。
中国の農村部には、「拴娃々」(赤ん坊の人形をくすねる)の風俗がありました。子どもを授かりたいと願う女性は、廟に詣でて焼香をした後、神様の前で赤ん坊の人形を一つくすねて、子どもの誕生を祈願しました。日本のだるまと同じく、倒そうとしてもまた起き上がる「不倒娃々」の姿は、健康な赤ん坊を象徴するものとも考えられました。赤ん坊を授かった女性は、新たな「不倒娃々」を一体、購入して神様へお返しするので子授けに霊験あらたか寺院、道観(道教の寺院)、神祠などには、たくさんの「不倒娃々」が収められていたと言われます。
蓮に抱かれた姿の娃々、子宝の象徴とされる桃やザクロを抱く娃々の姿も見られます。戦前のコレクターは、広い大陸、あちらこちらの廟会を探しまわって、数々の「不倒娃々」を収集し、同好の仲間たちにも頒けていたようです。
1930年代の「不倒娃々」は、中国本国にもほとんど残されておらず、とても貴重です。現在、開催中の特別展「中国の民間玩具」の中でご紹介しています。