「中国の民間玩具」 | 日本玩具博物館

日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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特別展

夏秋の特別展 「中国の民間玩具」

会期
2013年6月22日(土) 2013年10月15日(火)
会場
6号館

後援 中華人民共和国駐日本国大使館文化部・公益社団法人日本中国友好協会

展示風景(西室)

日本玩具博物館は、昨春、中国民間玩具研究家・伊藤三朗さんから、氏が生涯をかけて蒐集されたコレクションの寄贈を受けました。その大半が文化大革命(1966年から約10年間)以降、中国各地で復興を果たした民間の美術工芸的な玩具や人形です。

約850項目、総点数にすると1000点に及ぶ民間玩具(日本でいう「郷土玩具」は、彼の地では「民間玩具」と呼ばれます)について、伊藤さんは、一点一点、すべて撮影して登録カードをお作り下さり、また、中国美術学会民間工芸美術委員会の徐芸乙氏(南京芸術学院教授)の監修を得て、資料名称や産地、またそれぞれの特筆事項を解説してもらわれた上で、私どもにお預け下さったのです。どんなに立派な物であっても、それらについての正しい情報がそなわっていなければ、博物学的価値が高いとは言えません。品物にはその出自来歴を示すデータがあって、博物館の第一次資料となりうるのです。日本玩具博物館は、これまでにこのような大型コレクションをいくつも頂戴してきましたが、コレクション受け入れ時に、もっとも重要でもっとも大変なのが、データづくりの作業です。この骨の折れる仕事を整えられた上で寄贈下さった伊藤さんのコレクションに対する愛情と責任感に敬意を表し、深く感謝申しあげるとともに、この機会に、すばらしき中国の民間玩具の世界を広く皆様にご紹介したいと考え、本展を企画いたしました。

伊藤三朗コレクション受け入れ 資料整理風景

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中国にも、日本と同じように、移り変わる季節ごとに節句や祭礼があり、それにともなって季節感のある造形物や玩具が登場します。また地域ごとに身近な素材を使ってユニークな玩具が作られてきました。こうした玩具は、それぞれの地域の暮らしの中から生まれ育まれてきたことで、人々の生活感情や価値観、美意識などをよく表現しています。手ひねりで造形された動物の土笛があり、健康な子どもの姿をうつした起き上がり小法師があり、繊細なからくり玩具があり、張子の仮面があり、コマがあり、凧があり……。

そのように何世代にもわたって愛されてきた民間玩具も、1966年から約10年間にわたって中国全土を吹き荒れた文化大革命とその後の混乱によって壊滅的な打撃を受けたといいます。けれど、河南省の“泥泥狗”や“泥咕咕”の土俗的な造形、陝西省の泥動物の目のさめるような彩色、甘粛省の端午の香包における古代文明の薫り、山西省や陝西省の“布老虎”の愛らしさ、山東省の“棒棒人”の素朴さ、天津や北京の“紙鳶”の麗しさ…。伊藤コレクションの民間玩具をみると、その文化破壊によって荒廃をきわめた土地に、1980年代、再び、地方文化を育て、花を咲かせた中国の人々の不屈の精神と民間玩具のもつ生命力に圧倒されます。

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日本玩具博物館ではかねてより、歴史が長く広大な中国大陸に伝えられた民間玩具の世界に、深い関心を寄せてきました。中国各地の庶民の間に伝承される玩具そのものに対する興味はいうまでもありませんが、古い時代から文化的に密接な関係をもってきた“隣の庭”を知ることで、わが国の玩具文化に新たな視点を得ることができると考えたからです。

当館には、日中戦争以前に尾崎清次氏が蒐集された古い時代の中国玩具、約300点のコレクションがあり、また、中国民間玩具研究の第一人者・李寸松氏(1927~2011)のご協力を得るなどして、当館が独自に収集した資料の約300点を所蔵しています。これらを合わせて、1996年秋に『中国の伝承玩具』とタイトルした企画展を催したこともありました。

本展では、「戦前のコレクターによる中国東北部(旧満州)の玩具」「節日(祭礼)の玩具」「人形にみる中国の風俗」「芝居の玩具と人形」「コマ・凧・ままごと道具・発音玩具」の5項目によって、中国の伝承玩具の特徴を概観し、「泥玩(土製の民間玩具)」「布玩(布製の民間玩具)」「木玩(木製の民間玩具)」など、素材別の項目によって、地域的なバリエーションの豊かさをご紹介します。また「日中の玩具の共通性」という項目では、両国の玩具文化のつながりについて探りたいと考えています。

美術的にも、玩具の動く工夫や音の出る仕組みについても、何をとっても、他のどこにもないユニークさ。それは、この国の人々にしか作り得ないものです。幸福を願う造形、子どもの健康を祝福する造形、宇宙の色を身の内にすべてとりこんだ造形――それらの中にあふれる民族の風格というものについて、近代化とグローバリゼーションが物づくりの世界から“民族性”を喪失していく今、中国民間玩具の世界を通して、一度、見つめ直してみたいと考えます。

展示総数 約800点

 

戦前のコレクターによる中国東北部(旧満州)の玩具

昭和初期から10年代(1930年代)にかけて、大陸に向けられた時代の関心の中で、戦前の日本の郷土玩具収集家たちは、中国東北部(旧満州)で作られていた土人形や張子などのユニークな世界に興味を示しました。子育ての玩具研究に業績を残された尾崎清次氏(1893~1979)や、虎の玩具蒐集で有名であった長尾善三氏(1902~1974)らも、遼寧省や黒龍江省、山東省などの玩具に民芸的な美しさや大陸的な文化の形を見出し、それぞれの視点で蒐集活動を行いました。ここでは、そうした戦前のコレクターが遺した「泥娃娃」や「不倒娃」などの子宝を表現する愛らしい人形、新生児を祝福して贈られた「不老虎」などをご紹介します。本国では、文化大革命以前の玩具がほとんど遺されていないことを考えると、これらはとても貴重です。

左・中央:不倒娃々/遼寧省/紙・土/1920~30年代  右上:不倒娃/吉林省/紙・土/1920~30年代  右下:不倒娃/黒龍江省/紙・土/1920~30年代
泥娃娃/遼寧省/土/1920~30年代
中国東北部の布老虎/1920~30年代


節句(祭礼)の玩具

 季節の変わり目、心身の健康と暮らしの豊さを願って、祖先を祀り、悪霊や邪気を祓うための祭礼や節句の行事は、中国古代において体系化され、広くアジア全域に影響を与えたものです。そうした行事に登場する民間玩具は、その季節のみに現れる時期性をもち、子どもの健康を祈って、福を招く形や色が選ばれるのが特徴です。

★春節(旧1月1日)………獅子の玩具、爆竹や花火、十二支の動物玩具、棒棒人など。
★元宵節(旧1月15日)………灯籠の玩具、高蹺(仮装竹馬踊り)の人形など。
★清明節(4月上旬)………風筝や紙鳶(凧)
★端午節(旧5月5日)……暑さへと向かう季節の節目、人々を襲う災厄を祓うために行われる行事です。子どもは、強い香りを放つ「香包」(守り袋)を首から下げ、虎の玩具で遊びます。虎は、この時期に発生する五毒(百足・蠍・蜘蛛・蝦蟇・蛇)を平然と踏みつけ、悪霊や疫病を払い除ける霊力をもつものと考えられているからです。
★中秋節(旧8月15日)……月には、その昔、不老長寿の仙薬を盗んで月へと逃げた嫦娥という女神がお供の兎・兎儿爺(兎爺さん)とともに住んでいると信じられています。北京の中秋節には、「兎儿爺」の泥人形を飾り、月餅を供えて月を拝します。

節日(節句と祭礼)の玩具と飾り物
清明節の風筝(肥燕)


人形にみる中国の風俗

 中国の伝承人形は、日本と同じように素材的にも形態的にも地域ごとに特色があり、伝説や信仰を盛り込んで、それぞれの地の風俗を今に伝えています。北京や天津、また江蘇省無錫、山東省高密をはじめとする産地で作られる「泥人」(土人形)の数々、逝江省や山東省の「木人」(木製人形)など、庶民の日常生活の様子が伝える人形の数々を地域ごとにご紹介します。

戦前の花嫁行列(北京/1920~30年代)


芝居の玩具と人形

 棒使いと糸操り、指人形、影絵芝居(皮戯)の人形、仮面などを集めて、中国の芝居に関わる玩具や人形を展示します。京劇の毛人形(鬃人)、京劇の役者を表現する泥人、また地方劇の役者を仮面に表したものなど、芝居に関連する玩具の豊かさは、人々がいかに芸能の世界を愛していたかを知らせるものです。

芝居の玩具と人形展示コーナー
鬃人の孫悟空(毛人形)北京/土・馬のタテガミ/1940年代


コマ・凧・ままごと道具

 コマ(陀螺)、凧(風筝)、ままごと道具は、世界各地どこにも見られる普遍的な玩具の代表選手です。本展では、日本ともつながりの深いコマの形をご覧いただき、また一方で中国独自に発達した凧については、造形美豊かな北京や天津の作品をご紹介します。ままごと道具は竹細工やろくろ挽きの愛らしい資料を展示します。


動く玩具とからくり玩具、音の出る玩具

  ついばむ鳥、竹へび、面冠り、走り亀などは、竹バネや糸とオモリを仕掛けに使った動きの楽しい玩具です。また、蛇腹状の風箱に風を送ることで鳴き声を出す「吠え犬(叫狗)」「鳴き鶏」などの楽しい擬音玩具、子どもの傍から魔を退けるとして愛されたでんでん太鼓、円筒形の木のがらがら(響棒)など、中国で好まれた発音玩具を集めて展示します。


「泥玩」「木玩」「布玩」

 このコーナーでは、素材別に民間玩具を集めて、地域的なバリエーションの豊かさをご紹介します。日本の郷土玩具においては、土人形と並んで、張子や木地玩具が大きな位置を占めることに対して、中国の民間玩具では、土人形や土の動物玩具(泥人・泥玩)や布製玩具(布玩)が豊かな世界を見せてくれます。

 河南省、山東省、江蘇省の各地で作られる野性味にあふれる泥玩や、陝西省やで作られる民族色豊かな泥玩の数々は、その造形と彩色において中国民間玩具の華と呼べるものでしょう。
また、陝西省や甘粛省、江蘇省の各地で作られる布製玩具は、古代から続く民俗信仰の息吹を伝えるユニークな造形が魅力です。

泥々狗(河南省/1980年代)
風俗土人形(山東省/1980年代)
大老虎(陝西省鳳翔/1980年代)
布玩具展示コーナー

日中の玩具に共通する形

  日本の「こけし」と中国の「棒棒人」、日本の「祝い鯛」と中国の一対の「紅魚」、日本の「梯子猿」と中国の「背々喉」、日中の端午の虎……と、形を見るだけで、二国の玩具の間に共通する要素は数多く見出されます。日本の郷土玩具の世界にとどまって解釈されていた玩具の形や色、あるいは模様の意味についても、中国の伝承玩具にルーツを訪ねることで、また違った視点を得ることができます。このコーナーでは、健康や幸福、暮らしの豊かさを願う心が生み出した吉祥の形と心を、二国の玩具を比べながら考えてみたいと思います。

中日の獅子頭の玩具(広東省・福島県)
中日の桃とり猿(陝西省・滋賀県)


<会期中の催事>
解説会
  日時=7月14日(日)・8月11日(日)・9月15日(日)・29日(日) ※各回14:00~
ワークショップ 中国の切紙細工“剪紙”
  日時=8月17日(土) 13:30~
演奏会 中国民族音楽演奏
  日時=9月22日(日) 11:30~/13:30~/15:00~ ※各回15分の演奏


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