今月のおもちゃ
Toys of this month「四日市祭・大入道の玩具」
日本玩具博物館のある播州には秋祭の季節が到来しました。かつて、祭日の露店では、山車、屋台、神輿(みこし)、獅子頭、天狗やおかめ・火男(ひょっとこ)の面など、地域の祭礼にちなんだ玩具が売られました。それらを買ってもらった子どもたちは、祭が終わった後も、その様子をまねて遊び、夢の余韻を楽しみました。1号館では現在、『おもちゃで綴る日本の祭』と題する企画展を開催中です。展示品の中に、四日市の「大入道」という素朴な祭礼玩具があり、来館者の目を引いているものがあるのでご紹介しましょう。
三重県の四日市祭(8月第一土曜)には、地面から9mもある「大入道」の人形山車が登場します。大入道は、舌を出して目をむき、眉毛を動かしながら、町を練る日本の最大のからくり人形で、明治3(1870)年に鯨の髭を使った仕掛けによって、ぐーんと首が伸びるようになったそうです。起源をたどると、江戸時代後期、村々に狸の怪異があって、狸除けに作られたものといい、文化2(1805)年に名古屋在住の人形師竹田寿三郎、藤吉父子の手になるものと伝わっています。第二次世界大戦によって町は焼失しましたが、山車部分以外の大入道は疎開していたために、戦火をまぬがれ、昭和26年に復活、今に続いています。
写真は、その大入道の仕掛けを玩具化したものです。紙製石版刷りで、2本の胴串がついています。1本を持って、片方の串を上下に動かすと、坊主頭の大入道の目が黒目から赤目、青目(金目)と変わり、舌を出したりひっこめたり、首が伸びたり縮んだり・・・、素朴ながらに、山車の特徴をよくとらえた玩具です。服部家が今も製作を続けており、四日市市のじばさんビル内の土産物店などで手に入ります。
この玩具を見ると、筆者などは、子ども時代に読んだ『べろ出しチョンマ』(斉藤隆介作)の主人公を思いおこします。父親が年貢軽減を幕府に願い出た罰として、一家全員が磔刑に処されてしまいます。12歳の長松は3歳の妹を怖がらせまいと自分の眉を八の字に下げ、舌を出しておかしな顔をつくり、笑わせると、そのまま、槍で突かれて死しんでしまうという哀しい物語です。狸の怪異を払い除けようとした大入道とはかけ離れたお話ですが、この玩具の可笑しみの中に漂うやさしさと斉藤氏の描く長松の心はある意味、通じているのかもしれないと思ったりします。