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廃絶郷土玩具・継承のかたち~デザイナー・長友真昭さんの「久米土人形」復活への取り組み
●江戸時代後期、あるいは明治初期からの伝統を受け継ぐ郷土玩具の産地が、製作者の逝去と後継者不在によって、次々に廃絶へ向かう流れを止めることができない…と、ただ嘆くばかりの平成時代でしたが、ここにきて、これまでとは異なるかたちで継承が図られ始めたという吉報が届くようになりました。そのなかのひとつが、岡山県津山市宮尾(旧久米郡久米町宮尾)の「久米土人形」です。
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●「久米土人形(地元では「宮尾の人形」)」は、江戸後期・文化年間(1804-18)に松岡林右衛門が京都伏見の土人形をもとに、農業の副業として創始したとされたと伝わります。全盛期は明治時代で、幾軒もの家が製作に従事していましたが、昭和時代に入ると、岸川亀次郎(本家)と岸川武士(分家)の二軒だけとなりました。四代目・亀次郎の逝去によって本家の製作が廃絶してしまったあと、五代目・分家の武士(1901-1986)から、六代目・妻の留代へと受け継がれます。留代(1912-2000)は「岸川工芸社」の名で、懸命に久米土人形の伝統を守っていましたが、平成12(2000)年、彼女の逝去とともに惜しまれつつも廃絶してしまいました。(※久米土人形は、昭和41年、久米町の無形文化財指定)
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●久米の土人形といえば「天神」です。旧久米町を含む作州地方では、旧暦三月三日に男児の初節句を祝って天神人形を贈る風習があり、久米(宮尾)の天神は、この地方で非常に愛されてきたのです。招き猫や鯛のり恵比寿、福助、鯱のり、子持ち布袋、座り狆など、数々の土人形も作られていました。
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●2023年3月10日、郷土玩具を愛するデザイナー・軸原ヨウスケさん(大正末に始まった民藝運動とその周縁を多角的に探究する「アウト・オブ・民藝」の活動でも知られています)から、久米土人形の型と作り方を受け継ぐ岸川家へ、若きデザイナー・長友真昭さんと一緒に出掛けることになっているとご連絡を受け、ご一緒させていただくことになりました。彼らは、それまでに一度訪問して聴き取り調査を済ませ、この日は、かつて岸川留代さんを手伝っておられた産賀久子さんが、長友さんにその作り方を伝授してくださることになっているというのです! ――軸原さんと長友さんのなんと素晴らしい行動力!!
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●岸川家の皆さんは、土を熟泥して待っていてくださいました。その日は、久子さんのご指導で、長友さんは達磨と招き猫と福助を、軸原さんは天神を、私は小鳥を型から抜くところまでお教えいただきました。
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●その後、長友さんは、郷土玩具への愛情と静かな情熱をもって、一週間に一度の割合で岸川家へ通い、久子さんのご指南を受けながら、段階を追って作り方を習得されました。そして、2023年秋には、久子さんとともに作り上げた達磨、天神、福助、招き猫、熊のり金太郎など、久米土人形を見事!復活させ、岡山神社の蚤の市などで販売するところまで、この活動を押し上げてこられたのです。私は、長友さんが達磨の型に向き合う様子に接したときから、彼がもっておられるモノづくりにおける豊かな感性――指先の自然物に感応する力や作り上げるモノの姿を予め見る力――を感じていましたが、短期間でここまで成し遂げられた努力の大きさに感動を覚えます。
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●郷土玩具といえば、曾祖父の代から祖父の代へ、さらに父の代、子の代、孫の代へ…と、家族や親類などの血縁集団、また地縁集団のなかで伝承されていくのが定例ですが、近年、そうした伝承様式を外し、伝承集団外部の郷土玩具を愛する方々によって復活が図られる例が目立ち始めました。日本玩具博物館が応援している「神戸人形」もそうですが、倉吉市がバックアップする「倉吉張り子」や若いデザイナーが復活支援する「土佐張り子」、郷土玩具研究者が再現する「宮島の鹿猿」なども、素晴らしい復活の成果をあげておられます。
●さて、長友真昭さんが産賀久子さんのご助力のもとに継承を果たされた久米土人形を、当館開館50周年にあたる11月10日、コーナーを設けてご紹介いたします。この日、10種類ほどの久米土人形(販売可)とともに長友さんにお越しいただき、型抜きではないのですが、小さな土人形を焼成して絵付けするワークショップをもっていただく予定です。この日はぜひ、新生の久米土人形と長友さんに会いにいらしてください!!
(学芸員・尾崎織女)
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