日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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館長室から 2010.11.03

文化の日に 博物館の現場から・・・春は来るのだろうか。 

博物館冬の時代といわれるようになってから十数年の歳月が流れました。しかし春は遠く、厳冬期が続いています。博物館にとって一番の使命は失われる文化遺産(モノ)を蒐集保存し後世に伝えることにあり、その資料に精通して活用することができる学芸員(ヒト)が大切なのに、博物館界ではモノもヒトもが厳しい状況下におかれ、明るい兆しが見えません。

本来、博物館は守るべき文化遺産があり、それを守るために造られた施設である筈です。しかし公立施設の多くは資料よりも箱が優先しました。さらに近年、人集めのための企画展などには大きな経費が費やされるのに資料収集に予算が付かない状況は、博物館の将来にとっても決してよいとは思えないのです。イベント中心の活動は開催中は来館者で賑わいますがそれが終われば来館者の足は遠のきます。本来、博物館はいつ訪ねても、そこには魅力的で個性的な資料が展示され、来館者を感動させ満足いただくことが大切です。それには館自身のコレクションの充実を図ることが大切なのに、人集めにはお金をかけるが資料収集には予算がない現状は、結果として博物館の魅力を減退させ、博物館離れにつながりかねません。

上山信一慶應義塾大学教授の『ミュージアムが都市を再生する』(2003年刊)は私の愛読書のひとつですが「社会や政府もミュージアムの新たな役割に気付いていない。目先のサービスの充実や、赤字の解消といったビジネスモデルの導入にのみ奔走し、本質を見失いつつある。ミュージアムは学校や病院と同様、地域と社会を支える公共インフラだ。たとえば、単体での収支均衡はありえないというのは世界の常識である。ところがわが国では国公立ミュージアムが率先して安易な増収策やビジネスモデルを追及しつつある。このような行政主導の安易な改革路線は取り返しの付かない事態を招きかねない」と指摘されています。その流れは今も変わらず、続いているのではないでしょうか。

兵庫県内では公立館に先駆けて、個人や企業などの民間が貴重な文化遺産を蒐集し、いくつもの博物館や美術館を設立しました。しかし残念ながら、行政との連携や支援がないなかで多くの施設が閉館の道をたどり貴重な資料が散逸しました。公立館は巨費をかけて建物を造り、膨大な経費をかけて運営されていますが、その費用の数パーセントでよいのですから、頑張っている民間博物館の支援に廻すことは不可能なのでしょうか。例えば、兵庫県も姫路市もその他の多くの行政が近年、子どもの入館料無料化を進めています。文部科学省から博物館としての認定を受け、一定基準をクリアして公立館となんら変わらぬ活動をしている民間施設に対しては公立館と同様に子どもの入館料を無料にして、その保障をするなどの対応策はなぜ取れないのでしょうか。

博物館には所蔵資料に精通し、それを研究する学芸員の存在が不可欠です。しかし兵庫県内では現在、県立の施設と神戸市立博物館を除けば、指定管理者の導入や異動などにより歴史系博物館で長年にわたりキャリアを積んだ学芸員は本当に少数になりました。さらに館長や同等職にも学芸員などで博物館で長年経験を積んだ人は少数で事務方出身者が多いのです。博物館本来の使命やあるべき姿にこだわるよりも、人集めが最大の課題になる現状はそんな点も要因のひとつかも知れません。

当館は今月10日で開館満36年を迎えます。私が開館以来こだわってきたのはモノとヒトです。モノは開館当時の5000点が8万点を超えて9万点近くになりました。コレクションも国内第1のコレクション群をいくつも築き上げました。ちりめん細工約3000点、神戸人形約600点、虎の玩具約1000点、沖縄の玩具約200点、御殿飾り約50組、世界150カ国の玩具約30000点など、切り口によっては他にも国内第1級のものがいくつもあり、昨年暮れには世界のクリスマスコレクションがNHK教育TVの「美の壷」に取り上げられました。

内容を検証していただければ国内の博物館施設では例がないだけでなく、恐らく世界でも第1級の玩具博物館として認められると思います。コレクションの形成は、その方針と長い歳月の積み重ねとタイミングが必要で、それに恵まれたのです。これまで当館が収集してきた資料は文化財として公的に認定されたものではなく、当館が蒐集していなければ後世に遺ることなく散逸していたものばかりです。当館が蒐集した資料は1点だけでは価値評価が低くても、群としてまとまれば高い評価がなされる資料です。いつの日か当館の資料内容が検証され、社会が守らなければならない文化遺産として認知される日の来ることを夢見て頑張っていますが、そんな日は来るのでしょうか。
当館はヒトにも恵まれ、学芸チームのリーダーである尾崎学芸員は当館で20年のキャリア。展示構成の素晴らしさは衆人の認めるところですが、それをサポートする学芸員も熱心です。それが当館の価値評価を高め、今日に繋がっています。

財団法人化の問題や後継者の問題など、課題は他にも山積していますが、なんと言っても最大の課題は、当館のこの膨大な資料が「社会にとって必要で守り伝えなければならない文化遺産」として認知されることにあります。
博物館を取り巻く環境は厳しく、冬の時代の真っ只中ですが、幸いにも当館はモノにもヒトにも恵まれています。それを生かして、冬の時代脱却に知恵を絞っています。

(館長・井上重義)

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