玩具と母子をめぐるお話~日本助産師会の会合に参加して~    | 日本玩具博物館

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学芸室から 2010.11.04

玩具と母子をめぐるお話~日本助産師会の会合に参加して~   

文化の日、日本助産師会兵庫支部の大会が神戸市内のホールで開かれました。助産師会の事務局より「玩具(おもちゃ)と母子にまつわるお話」をするようにとのご依頼を受け、大会に参加させていただきました。戦前は「産婆」、戦後になると「助産婦」、そして2002年以降「助産師」と呼ばれるようになった女性たちは、出産を助けるだけでなく、親となるための準備や新生児の健康相談など、多くの職務をこなし続けておられます。

ホールに入り、演台に立つと、老若50人の助産師さんたちが満面の笑顔で迎えて下さいました。その笑顔は、みな、きりっとしていて、芯の強さと温かさにあふれています。昭和30年代後半生まれの私は、母方の祖母の家でベテランの“助産婦さん”によって誕生し、大きく育つまでの間は何かとお世話になったそうです。会場の皆さんの笑顔に、何かほっと懐かしいようなものを感じたのは、私の助産婦さんを思い出したからでしょうか。ご挨拶をすませた後、以下のような内容でお話をさせていただきました。

這子(ホウコ)
『江都二色』(安永2・1773年)に記された這子


1.明治時代後半になって玩具(おもちゃ)という言葉が共通語として全国各地に定着していったこと。それまで「手遊び」や「手守り」と呼ばれていた玩具には、呪術的な要素がたくさん詰まっていたこと。
2.「天児(アマガツ)」「這子(ホウコ)」「犬筥(イヌバコ)」「犬張子」「でんでん太鼓」など、出産を見守り、子育てにかかわる伝統的な人形や玩具について。
3.赤ん坊を魔物から守るために、衣類にほどこされた魔除けとまじないについて。
4.高松の「ほうこうさん」、東京の「疱瘡よけミミズク」、会津の「赤べこ」、鴻巣の「赤もの玩具」など、病魔を払い、健康を祈る玩具とその物語について。玩具に赤が多いことの意味について。
テーマごと、現在に残される人形や玩具、文献資料をご紹介しながら、全体として、玩具の世界が表現する近世的な自然観や子ども観、人生観などをお伝えしようと試みました。

子どもの晴れ着に施された魔よけの背守り
魔よけと招福の郷土人形(倉吉・廿日市・高松)

助産師の方々からは、「ほっこりとした温かい世界に触れ、気持ちが温かくなりました」、「昔、知らずに行っていた風習に、疱瘡除けの意味があったこと、今初めて知ることができました」、「科学の力一辺倒では子どもは生まれないし育たないこと、おもちゃの世界が教えてくれていたのですね。自分たちの仕事にも誇りがもてます」………というような言葉を次々にかけていただいて、私は嬉しい気持ちでひとときを終えました。

命の誕生にかかわり続けて、20年、30年、40年、50年、60年…の職業婦人の皆さんは、日々、自己研鑽を怠らず、まだまだこれから勉強していきたい、と前向きでいらっしゃいます。「自身の職業に誇りをもち、ぴんと背筋を伸ばして、日々、学んでいくこと」――その姿勢が人間の品格をつくりあげるのだと、人生の先輩方から、素晴らしくパワフルな姿を通して教えていただきました。たとえば、昨日は助産師の皆さんでしたが、日本玩具博物館の玩具たちは、こうして、様々な分野で活躍なさっておられる方々と私たちをつなぎあわせてくれるのです。

(学芸員・尾崎織女)

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