日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2016.08.28

夏休みの多彩なるお客様日誌。

昨夏、ちりめん細工研究会の南尚代さんからいただいた梶の苗木が育ち、五裂した綺麗な葉を広げ始めました。今年のひと月遅れ七夕には、その梶の葉をとって古式ゆかしい京都の七夕飾りを…。梶の葉に文字をしたため、千代紙を着せて笹の枝につけます。京都でもすっかり忘れられた江戸時代の七夕飾りですが、歴史も深く、素敵なものなので、京の町家で復活されるといいのに…と思います。


夏休みおもちゃ教室

7月30日。小学生たちの夏休みに合わせ、講座室では「夏休みおもちゃ教室」が始まりました。1回目の先生は井上館長で、世界各地に伝承される“体操人形”を作りました。この頃、様々な施設で行われるモノづくりの教室では、参加者が怪我してはいけないからと刃物や工具を使わない向きもあるのですが、玩具博物館館のおもちゃ作りでは、金槌や錐などもきちんと使える者がマンツーマンで子どもに向き合い、できるだけ体験をもってもらおうとしています。体操人形のH型の木枠を金槌で叩きながら、「僕の夢は大工さん! 金槌を持ちたかった!」ととても嬉しげな男の子――なかなかよい手つきです。

ちょうど、この日は学校教諭新任者の社会体験研修をお受けしており、若い先生も一緒に取り組みました。小さな大工さんたちはぴゅんぴゅんと元気に鉄棒体操をする楽しいおもちゃを作り上げました。6号館展示室では、世界のからくり玩具を展示中。世界中の体操人形が並んでいます。イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ハンガリー、ルーマニア、アルバニア、タイ、ラオス、中国、エクアドル、メキシコ、マダガスカル、ジンバブエ、タンザニア、ケニア、カメルーン、モロッコ、アメリカ・・・! 女の子たちは、展示ケースの前に自作の体操人形をかざして、「世界中に同じおもちゃがあるんだね。私のも一緒に展示してみたいな。」と見入っていました。 

社会体験研修に来られた新任の先生も加わって…
「体操人形」は世界中にあるんだね!


全国高等学校家庭科実践研究会のご訪問

8月2日。今年、「全国高等学校家庭科実践研究会」が兵庫県で開催され、その分科会で50名あまりの家庭科の先生方がご来館下さいました。
家庭科は被服の役割や作り方、食品の栄養や調理などを学ぶものとばかり思っており、ご訪問の予約をいただいた当初は、明治末期から昭和初期にかけて、家庭科の教材として盛んにとりあげられた“裁縫お細工物(ちりめん細工)”のことなどをお話するべきじゃないかと井上館長と話し合っていました。ところが、お世話役の先生が「最近は生活文化全般を取り扱い、子育ての道具のことなども大事な教材になっているから、ぜひ、伝承玩具のことをとりあげてほしい」とおっしゃるのです。
―――そこで近世の“手遊び”のお話に切り替え、講話だけでなく、江戸時代の“手遊び”が描かれた絵本『江都二色』を見ていただいたり、“かくれ屏風”などの江戸玩具を製作する時間をもうけたりしました。実践に役立つと喜んで下さり、伝承玩具が家庭科の教材として位置づけをもったことに私たちは驚いてしまいました。
被服の学習はぐんと小さくなり、それに替わって、少子高齢化社会における家庭の作り方やマネープランなどが取り上げられると伺いました。社会がぐんぐんと変化している中、家庭科で生徒たちが学ぶことはずいぶん幅広く、指導をされる先生方のご苦労が想われます。博物館に求められていることを知る上でも、児童生徒たちが今、学校で何を学んでいるのか、教科書なども拝見しておきたく思っています。先生方のご訪問は、私たちにとっても、気づきと学びの時間となりました。

家庭科の先生方に近世のおもちゃのお話を・・・。


「国際パズル会議」からのご来館

8月4日。この日は、「国際パズル会議」で京都に集結しておられたパズルデザイナー、制作者、愛好家など98名の皆さんがエクスカーションで日本玩具博物館をご訪問下さいました。アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、オランダ、ルクセンブルク、ロシア、イスラエル、ニュージーランド、オーストラリア、中国、台湾……、“パズル”を愛しておられる方々の国際的集団とは素敵です!!

たくさんの展示がある中で、私は、「神戸人形」をゆっくりご覧いただきたく思っていました。なぜなら、明治末期から昭和初期にかけて、ヨーロッパやアメリカからのツーリストが神戸人形を非常に面白がり、日本土産として持ち帰ったという歴史があるからです。今、これらの神戸人形を海外の方々がどんなふうに感じられるかをお尋ねしたかったのです。
100年前の小さなからくり人形の奇抜な動きに“Cute!” “Lovely!”と歓声があがり、笑みをたたえた優しい表情で観ておられる方々…。「なぜ、柘植などの白木の肌が綺麗だった神戸人形が黒く塗られていったのですか?」「どうして“お化け”がこの玩具の題材になっているのですか?」――などと、質問もどんどんとあがってきます。参加者の中にカーペンターがおられ、神戸人形に使われた木の種類を次々に当てていかれるのには驚きました。このからくり人形を気に入った方々は、ミュージアムショップに神戸人形が並んでいるのを喜ばれ、ウズモリ屋・吉田太郎さんの「西瓜喰い」が海外へと旅立っていきました。

井上館長による“かくれ屏風”のワークショップも行いました。これと同じ仕組みの玩具はヨーロッパでは“ヤコブの梯子Jacob’s Ladder”と呼ばれて親しまれていますが、模様が出たり消えたりするものは海外では知られていないことから、皆さん、興味津々。98名全員に楽しんでいただこうと汗ぼとぼとになって頑張った館長以下スタッフたちは、3台のバスをお見送りした後、ほっとしてへなへなと座り込んでしまったのでした。様々なお国からの来訪者にとって、何か心に響くものがある時間となっていますように―――。
非常に暑かったけれど、とても良い日でした。

(学芸員・尾崎織女) 

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