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学芸室から 2021.12.04

クリスマスの小鳥~「世界のクリスマス展2021」より

野鳥好きの筆者には鳥の造形を愛する友人も多く、先日も世界のクリスマス展を案内すると、数多あるオーナメントのなかから、ヨーロッパ各地の鳥をみつけて喜んでくれました。鳩(とくに白い鳩)、孔雀、ヨーロッパコマドリ、ベニバラウソなどが、モビールやツリーのオーナメント、アドベントカレンダーの絵などにも繰り返し登場するのです。それらの中からいくつかを取り上げてご紹介します。

鳩のオーナメント

待降節(アドベント)に入った日、アメリカ合衆国のホワイトハウスでは、バイデン大統領夫人によってクリスマスツリーが立てられ、平和を表現する「鳩」のオーナメントがたくさん飾られたというニュースが流れていました。鳩をキリスト教絵画のなかにたずねると、乙女マリアのもとに大天使ガブリエルが現れて、神の御子を宿ることを告げる「受胎告知」の場面にも、イエスが洗礼を受ける場面にも、聖霊の象徴として純白の鳩が描かれていて、宗教上意味の深い題材であることがわかります。
また、一生つがいで過ごす鳩(キジバト)の姿は変わらない愛情や友情のしるしと考えられてきたようです。クリスマス休暇を描いたアメリカのコメディ映画「ホーム・アローン2」に、主人公の少年が、玩具店主からクリスマスツリーに飾られていた一対の鳩(キジバト)のオーナメントをプレゼントされる場面があったことを想い起します。――片方を大切なひとにあげると、遠く離れていても永遠の友情が約束されるのだ―――と。
デンマークの切り紙細工の鳩も、フランス・アルザス地方の硝子細工の鳩も、シンプルなデザインに伝統的な意味が託されていて、他のオーナメントとの組み合わせによって家族や友人にメッセージを伝え、目に見えない存在に祈りを捧げるものなのでしょう。


孔雀とヨーロッパコマドリのオーナメント

2012年のクリスマス、蒐集旅行に出かけた井上館長がベルギーの〈花の都市〉ゲントから持ち帰った硝子細工に、モミの木の枝にクリップでとめる綺麗な小鳥のオーナメントがあります。赤い小鳥は、羽根の色分けは表現されていませんが、ヨーロッパコマドリ(European Robin)ではないかと想われます。伝説によると、ヨーロッパコマドリはもともとの羽色は全体に灰茶色だったところ、十字架にかけられたイエス・キリストのいばらの冠を外そうとして胸部がイエスの赤い血に染まったのだといいます。そして、孔雀は、イエスが十字架刑で亡くなったあと、やがて復活を果たすことを象徴する鳥です。――――いずれにも宗教的な意味が託されていますが、コマドリの胸の赤い色や翼を広げた孔雀の姿が太陽を想わせることから、冬至を過ぎてよみがえる太陽の強い生命力を讃える心情が、合わせて表現されているのかもしれません。


ベニバラウソのオーナメント

北部ヨーロッパで、冬の小鳥といえばベニバラウソ(P. p. cassinii Bullfinch)。画像は、ベニバラウソを題材にしたフィンランドとスウェーデンの印象的なオーナメントです。この鳥はナナカマドの実を好むようで、赤い実をついばむベニバラウソの鮮やかな羽色は、雪に覆われた白い景色の中にひときわ映えることでしょう。冬枯れの季節に生命の輝きと春への希望を感じさせることから、クリスマスの小鳥としても深く愛されています。


扇の鳥(Fan bird)

クリスマスに限らず、平和や幸福をもたらす聖霊の表象として親しまれている伝統的なオーナメントに、「扇の鳥(fan bird)」、あるいは「こけら板の鳥(shingle bird)」と総称される繊細な鳥の造形があります。父親が彫刻したこの鳥を部屋にかかげたことで少年が病気から快復したというロシアの伝説とともに、扇の鳥は、近世の東ヨーロッパや北ヨーロッパへと広がりました。これらの鳥たちは、一つの木片から、あるいは二つの木片を組み合わせて作られています。翼や尾となる木片には木目に沿ってドローナイフで薄い切込みを幾本も作り、背中の中心部を要(かなめ)として、畳んだ扇を広げるように一枚一枚の羽根を曲げ開いて両翼と尾羽を成形していくものです。扇の鳥には、聖霊の象徴として親しまれた「鳩」がイメージされているのかもしれません。
共産化した東ヨーロッパ各国が社会から宗教色を排除したために、聖霊の表象である美しい鳥たちは廃れてしまったのですが、20世紀終わりには造形美に惹かれる人たちの手で復活を果たし、今、またクリスマスや結婚式などに平和や幸福への願いを託して贈答されています。

これらはほんの一例で、小鳥たちのオーナメントの数々がお目見えしていますので、小鳥好きの方もそうでない方も、展示ケースに一歩近づいて愛らしい表情、造形に美しさに目をとめていただければと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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