初夏の香り | 日本玩具博物館

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学芸室から 2015.05.05

初夏の香り

コラムとしてご紹介する草花遊びの原稿に載せたい画像があって、一昨日は故郷の広峰山まで出掛けました。山の蕗をとって「蕗の葉の柄杓(ひしゃく)」を作りたかったのです。姫路市街の北方に座す広峰山から増位山は、私の子ども時代の遊び場でしたから、クヌギのどんぐりはどこに落ちているか、シイの実ならどこか、クワガタムシはどこにいるか、クマザサはどこに生えているか、そして蕗はどこに群生しているか……、その地図が頭の中にあるのです。

蕗(フキ)の葉の柄杓

まだ少し小ぶりでしたが、蕗の群生をみつけて、「蕗の葉の柄杓」を作りました。作り方は簡単です。葉先をたくるようにしてつぼめ、茎に結びとめるのですが、この時、茎の皮をすう~と薄く剥いて、その皮を使います。
山川の冷たい水をすくって飲めば、蕗のツンとして爽やかな香りがして美味しいのです。子どもの頃は、この柄杓でメダカやオタマジャクシをすくって遊びました。明治生まれの私の祖父母の世代は、山仕事の途中、蕗の柄杓を作ってわき水を飲み、その水飲み場には次に来て飲む人のために、そのまま柄杓を置いていったりしたそうです。優しさにあふれた手作りの柄杓です。
野山へのハイキングの途中、蕗に出合われたら、ぜひ作ってみて下さい。

新暦端午の節句の「菖蒲葺き」

さて、今日は新暦の端午節です。一昨日、広峰から増位山へ足をのばしたとき、沼に葉菖蒲の群生を見つけたのが嬉しく、数株をいただいてきました。その葉菖蒲と今朝摘んだ蓬と合わせて、玩具博物館の玄関口の屋根に「菖蒲葺き」をほどこしました。葉菖蒲と花菖蒲はまったく違う種類で、沼に生える葉菖蒲を根から抜くと、果物を切ったときのような香りが立ちます。最近読んだ『堤中納言物語』には、端午節の“根合わせ”として、二方に分かれて菖蒲の根の長さを競うという、雅なのか素朴なのかわからない、楽しいシーンが描かれています。葉菖蒲の形が剣にも似ていることから、またその根に薬効があることから、一千年以上前から、端午節の中心的な役割を担ってきたものと思われます。

………節は五月にしく月はなし 菖蒲 蓬などのかをりあひたる いみじうをかし 九重御殿の上をはじめて 言ひ知らぬ民の住家まで いかでわがもとに繁く葺かむと葺きわたした 猶いとめづらし (『枕草子・36段』)

平安時代にはすでにこの「菖蒲葺き」が京都あたりでは庶民の間でも親しまれていたことがわかります。――屋根に菖蒲を葺く風習は今ではすっかり見られなくなりましたが、平安の昔から江戸時代を経て明治・大正の頃までは、どれぐらい多くの菖蒲を屋根に葺くかということに、私たちの祖先は上下貴賎を問わず、結構、情熱をもやしていたようです。

菖蒲葺きを珍しがられる来館者

ご年輩のご来館者には懐かしげに、お若い世代には端午の魔よけと知るととても珍しげにご覧になられ、お写真を撮っていかれます。風が吹くと、屋根のもと、ふっと初夏らしい香りが漂ってきます。古式ゆかしい風習―――古い町並を残す街々で復活が果たされると素晴しいと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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