暮らしを豊かに——「+α」としての玩具づくり | 日本玩具博物館

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学芸室から 2026.05.15

暮らしを豊かに——「+α」としての玩具づくり

先日は「奈良の張子鹿」の製作に取り組んでおられる横田百合さんをお迎えしていました。戦前戦後、奈良のお土産として、木彫、張子、竹細工、硝子細工、手捻りのミニチュア……などなど、様々な素材を用いて鹿の玩具が作られ、小さな鹿たちが奈良への旅の思い出をのせて、全国各地へと連れ帰られていました。中でも張子鹿には、銀鼠色の戦前型や栗色の戦後萩森型をはじめ、少しずつ造形の異なるものが見られました。

4号館常設展示「奈良県の郷土玩具」コーナー、戦前戦後の張子鹿、五色鹿など

横田さんはデザインのお仕事のかたわら、亡きお父さまの郷土玩具コレクションのなかから、テーマを選んで、繰り返し展示会を開催されるなど、郷土玩具愛の深い方です。材料や道具や塗料を吟味し、型を作り、彼女が試みに製作された奈良張子の鹿には、初めて見せていただいた瞬間、井上館長が「うわぁ、すごい!!奈良の鹿や!」と驚くほど、かつての作品に共通する味わいがありました。完成度をあげていかれる度に、お住まいの奈良から玩具博までお持ちくださるのですが、ほっこりとした可愛らしさがどんどんと増していくようです。

横田百合さんが再現された張子鹿

試みておられた型のなかから、まずは郷玩文化研究会の北村英三さんの蒐集品を再現された銀鼠色の張子鹿と、それよりひと回り小さい栗色の張子鹿を販売できるまでに仕上げておられます。パッケージも用意されて、とてもいい感じ。奈良市内の陶器や郷土玩具を扱うお店にも並び始めました。すでに古作を再現製作されている方がありますが、昭和時代には様々な大きさ、色、姿かたちの張子鹿が見られたことを思えば、もう一人の令和の作者として横田さんが加わっていかれるというのは素晴らしいことと思います。

横田百合さんとホリバご夫妻と語らうひととき

同じ日、「こっぱ人形」作りに取り組んでおられるホリバエイジさんと奥さまもご来館下さったので、横田さんや井上館長も交え、ホリバさんのこっぱ人形をめぐるユニークな取り組みについてお話を伺ったりしながら、刺激的なひとときを過ごさせていただきました。
「こっぱ(木っ端)人形」は、大正時代、版画家・洋画家であり教育者でもあった山本鼎(かなえ)が主導した「農民美術運動」のなかで、長野県上田市に産声をあげた創造的郷土玩具です。「農民美術運動」は、農業に携わる人々が楽しみながら造形活動に親しむこと、製作した品々の販売を通して農家の副収入を確保することなどを眼目とし、農民生活の文化的質をあげていこうとする近代的社会運動のひとつでしたが、こっぱ人形の愛らしさに惹かれたホリバさんは、本業のかたわら、復学して農民美術運動のことや郷土玩具の歴史を研究し、また、こっぱ人形を今に受け継ぐ長野県上田の作者に弟子入りをして技を磨き、自ら製作を始められたと伺いしました。

ホリバエイジ作こっぱ人形 左の作品はご夫妻と飼っておられる犬を題材にしたもの

「本業+α」という暮らし方が提示されて久しい昨今、横田さんもホリバご夫妻も、その「+α」を充実させておられて素敵です。伝統は守るものと考えがちですが、その実、つくられていくものでもあると思います。我らが玩具博物館は、事業承継についての模索が続き、行ったり来たりしている身ではありますが、郷土玩具文化の次代への継承と令和的再生、あるいは創生の流れを博物館らしく丁寧に情報収集し、応援していければ!と。

(学芸員・尾崎織女)

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