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blog「日本の人形遊び展」オープン
*本日は、旧暦端午節。博物館の展示館入口の屋根々々に、“菖蒲葺きをほどこしました。野の蓬を摘み、菖蒲の葉をあちらこちらからいただいてきたものを小分けにして束ねたら、それらを等間隔で瓦屋根に挿したり、置いたりしていきます。日本が中国から節句(節供)の概念を受け入れた奈良時代の頃から、「端午」は、 菖蒲や蓬など、香気の強い植物の霊力によって邪気払いを行う節。『枕草子』に曰く「菖蒲蓬などのかをりあひたる、いみじうをかし。 九重の御殿の上をはじめて、いひしらぬ民のすみかまで、いかで我がもとに しげく葺かむと葺きわたしたる、なおいとめずらし」と。平安の昔から明治時代に至るまで、どれぐらい多くの菖蒲を屋根に葺くかということに、上下貴賎をとわず、日本人は情熱を燃やし続けてきたのでした。この風習、すっかり途絶えてしまったことと思っていたら、昨年、神河町の農村に菖蒲葺きを伝えるお宅があることを知って感激しました。博物館のご来館者にも菖蒲葺きを知っていただきたく思い、今年の旧暦端午節は、菖蒲と蓬が香る玩具博物館です。古い町並で、町をあげて祝われる端午の節句を開催されるなら、このような菖蒲葺きを復元されてはいかがでしょうか?
「日本の人形遊び展」オープン
*さて、1号館の夏の企画展「日本の人形遊び」は、すでに準備が整い、会期開始の6月7日より少し早いのですが、オープンしております。
*展示構成としては、①「姉さま」や「郷土人形」、「市松人形」など、近世(江戸後期)より伝承される人形、②「練り人形」や「さくらビスク」など、明治・大正時代に愛された人形、③「セルロイドのキューピー」や「文化人形」など、昭和時代戦前に愛された人形、④「ミルクのみ人形」など昭和時代戦後に愛された人形、⑤「バービー」や「タミー」(ともにアメリカ製)、「リカちゃん」のように高度経済成長期以降に登場した人形――この五つの項目を立てました。「ジェニー」をはじめ、平成時代の少女たちに愛された人形も顔を連ねていますので、会場は、老若、様々な世代の女性たちの歓声と笑顔があふれています。
「這子(ほうこ)」と「奉公(ほうこう)さん」
*こうして、いつかの時代、少女たちの遊び相手として愛された人形ばかりが並んでいる中、少し性質の異なる人形を展示しています。信仰の領域にあるもので、「天児」と「這子」です。
*天児(あまがつ)は、乳幼児の枕元に置き、ふりかかる凶事をこの人形に移し負わせるものとして、平安時代には貴族社会において用いられていました。『源氏物語』の「薄雲」の帖、明石の君の幼い姫が紫の上の養女として迎えられるくだりに、幼い姫のための“天児”が登場しています。天児は、木の棒をT字型に組んだものに頭部を付け、これに着物を着せて作られます。
*一方、這子(ほうこ)は、這う子をかたどった白絹のぬいぐるみで、“御伽這子(おとぎぼうこ)”とも呼ばれ、もともとの成り立ちは異なりますが、時代が下るにつれ、天児と同じような性質をもつものとなっていきます。長方形の絹布を隣り合う辺を縫い合わせて手足とし、綿をつめて胴部を作ると、別作りした頭部をさして完成させます。貴族社会の天児に対して、庶民社会では這子が一般的であったとも、また天児を男子、這子を女子に見立て、対のものとして嫁入りに持参したとも伝わります。
*庶民社会でも愛された這子は、“負い猿”“お猿っこ”“這子人形”などへと発展し、飛騨高山に伝承される“猿ぼぼ”やちりめん細工の“這子人形袋”とも深い関係をもっています。天児と這子はともに子どもを災厄から守るた めに凶事を肩代わりしてくれる人形――形態的にも性質的にも日本の人形の元祖だと言えます。
*今回の展示では、「這子」と性質的につながりが感じられる郷土人形を紹介しています。それは、香川県高松市に伝承される「奉公さん」と呼ばれる張子人形です。由来書には、長く伏して治らぬ病に苦しむお姫様の病魔をわが身に引き受けて、離れ小島へ流れていった姫様仕えの少女の仁徳を讃えて作られ始めたと語られます。昭和30年代頃までは、子どもが病気になると、この人形を抱かせて川や海へ流す風習が遺されていました。病魔を肩代わりしてくれる人形――「奉公さん(ほうこうさん)」の読みが「這子さん(ほうこさん)」とも近いことにもつながりが感じられます。
* 広島県廿日市には「おぼこ」、鳥取県倉吉市には「はこた人形」の名前で、「奉公さん」によく似た張子人形が伝えられ、いずれの少女の着物にも、病魔除けの赤が塗られていることが印象的です。この展示では、日本人の人形観にもご注目しながら、ご覧いただきたく思っています。
(学芸員・尾崎織女)
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