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blog<見学レポート>端午の節句~出石神社の幟まわし
■「学芸室から」のお便りが一箇月以上のご無沙汰となりました。その間、私たちは、今夏、三重県総合博物(MieMu)で開催される第20回企画展「おもちゃ大好き!~郷土玩具とおもちゃの歴史~」に特別協力するため、900点を超える玩具資料の出展作業に没頭しておりました。その様子は次の記事にご報告させていただくとして、ここでは新暦端午に見学に出かけた出石神社の「幟まわし」のことを記しておきたいと思います。
■新暦端午。兵庫県豊岡市出石町の宮内地区では、「幟まわし」という珍しい行事(豊岡市指定無形民俗文化財)が行われています。
正午、出石神社に到着すると、宮内地区の男子中学生、その保護者ら地域住民でつくる「宮内幟まわし保存会」の方々が常磐緑の雑色姿で準備の真っ最中でした。
■「幟まわし」とは、竹法螺吹きを中心に、中学生を含む氏子たちが7メートルに及ぶ武者絵幟の5本を立て、独特の囃子歌を歌いながら、幟をもって時計回りに地突きをする所作をいいます。この所作は出石神社の祭神である天日槍命が円山川河口の瀬戸を切り開いた後、出石に幟を立てて凱旋した故事に基づいているのではないかとも言われていますが、端午の初節句とどのように結びついていったかについては諸説あり、確かなストーリーは今のところ得られていません。
■1時半頃に出石神社を出発した一行は、地区内のいくつかの場所で邪気払いをするように、あるいは地固めをするように幟まわしを行った後、初節句を迎える子どものある家々をめぐります。昨年までは男児だけの祝い事として続けられていたのが、少子化時代に行事を伝承していくため、今年から初節句を迎える女児のためにも幟まわしが行われるようになっています。去年は1軒。今年は4軒の幟まわしがありました。ご自身の初節句にも祝ってもらったお父さんが小さなお子さんを抱き、古い時代の幟まわしを知るお祖父さんたちとともに、晴れがましい笑顔で幟が動く空を見ておられる様子に接し、行事が続いていくすばらしさを想いました。
■鯉のぼりより武者絵の幟が優勢だった戦前、出石では男児が誕生すると、母方の実家から幟が贈られたそうで、古い武者幟を所有しておられる家庭もあるようです。行事に使用する幟は、これまでお隣の旧・日高町(現在は豊岡市)で調製したものだったのが、昨年、新調された折には岐阜製を入手されたと伺いました。賤ケ岳の戦、宇治川の戦、川中島の戦、大阪夏の陣の武将、加藤清正らが五色で鮮やかに描かれています。去年までの資料画像を拝見すると、幟は白地に黒を基調のクラシックなデザインでしたので、新調された武者絵幟のあまりの鮮やかさに驚かされましたが、それらは五月の青空と深緑によく映えて、とても美しい風景でした。
■日本玩具博物館の所蔵品にも各種みられる武者幟が、地方の村や町でどのように扱われ、どのような役割をもっていたのかを知るよい機会をいただけたと思います。5月5日、また来年も色鮮やかで勇壮な幟が出石の端午を彩ることでしょう。地域の宝物として伝えられてきた行事を私たちも大切に見守っていけたらと思います。
(学芸員・尾崎織女)
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