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学芸室から 2012.07.09

京都の七夕紙衣

京都の七夕行事を見学した後、京都文化博物館へ立ち寄り、1階に設けられた“ろうじ店舗”の中にある和紙の店で、京の紙衣「七夕さん」の刷り物をいくつか求めてきました。
戦前には既に廃れていたため、広くは知られていないことですが、京都では、江戸時代の終わりから明治時代の中ごろまで、七夕がやってくると、女の子が、20cm四方ぐらいの大きさの、かわいらしい紙衣を縫う習俗がありました。「七夕さん」と呼ばれるその紙衣には、振袖、小袖、襦袢、羽織……などの種類があり、本物の着物の雛形と考えられます。一枚の和紙に木版刷りされた身ごろ、おくみ、袖、衿を切り抜き、本物の着物を作る練習をするように、針で縫って仕上げます。七夕が近づくと、その木版刷りの和紙が寺子屋などで売り出され、女の子はそれを縫うことで、裁縫の上達を願ったそうです。自分で縫った紙衣を“箪笥に入れておくと着物が増える”という言い伝えがあり、また、時には、笹飾りにつるされたりもしたようです。
七夕は、中国から貴族社会に伝わった頃、「乞巧奠(きっこうてん)」といって、手芸の上達を願い、色糸や反物を天の二星にささげる儀礼でしたが、近世にいたると、本物の着物を供える風習も生まれました。京の町家に伝えられる紙衣は、その流れをくむものと考えられています。

『案内者』(中川喜雲著/寛文2・1662年)に記された乞巧奠の様子 

2000年、京都文化博物館で『京の五節句』という特別展が開催された折、町家に伝わる紙衣を調査され、その習俗について明らかにされた石沢誠司先生(当時、同館の学芸係長)は、すばらしいことに、古い資料から、紙衣を縫うための木版刷りを復元されたのです。今も、この時期になると、京都文化博物館“ろうじ店舗”内の「楽紙舘」でその復元版を扱っておられます。

楽紙館で販売されている京の七夕紙衣

求めてきた紙衣の、色とりどりの刷りものをしばらくながめては楽しんでいたのですが、差し上げたい方があって先日、夜なべに小さな紙衣をつくりました。和紙を縫う作業は簡単そうに思えて、紙は布のように柔らかくないので、返って扱いが難しかったりもしますが、山吹色の女の子の着物と群青色の男の子の着物が無事、出来あがりました。いかがでしょう?! 京都文化博物館に所蔵されている資料を真似て、衣の袖や衿を五色の糸で飾ると、さらに、愛らしい「七夕さん」になります。さすが京の都、鄙とは違うな、と感じる紙衣です。多くの方々に知られるところとなり、特に京都の若い方々にはどんどん親しんでいただきたいものと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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