日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2012.07.02

世界の鳥の造形大集合~ついばむ鳥たち~ 

日本玩具博物館スタッフは館長以下、鳥好きが揃っているため、「世界の鳥のおもちゃ」をテーマにした特別展を繰り返し開催してきました。世界の人々が、それぞれに鳥を造形するときの視点のユニークさは格別で、形や色の特徴をよくとらえ、また鳥の動作~ついばむ、くるくるまわる、とびうつる、はばたく、つつく、鳴き声をたてる、さえずる、まるくなる~を表現した玩具は、どれもこれも非常に魅力的だからです。

今回の企画展では、四つのゾーンを設けました。<ひとつめ>は、たくさんの鳥の種類の中から、国の枠を取り払って、鶏、アヒル、フクロウ、鳩、孔雀をとりあげ、各地の造形を比較しながらご覧いただきます。<ふたつめ>は、鳥をテーマにした笛をとりあげ、「単音笛」「二音(カッコウ)笛」「オカリナ」「水笛」にわけて鳥の音色についてご紹介しています。<みっつめ>は、アジア・オセアニア、中近東・アフリカ、アメリカ、ヨーロッパの4地域にわけて、各地で愛される鳥の造形をみていきます。そして<よっつめ>は、動く玩具をテーマに、「鳥車」「ついばむ鳥」「鳴く鳥」「はばたく鳥」などのグループで、鳥の玩具の楽しい動きを展示しています。

天井から鳥のモビールが下がる展示室風景

天井からたくさんの鳥のモビールをつるし、観葉植物なども配して、展示室全体、“鳥たちの楽園”をイメージしてみたのですが、―――ここに入ると、色とりどり、楽しい鳥たちの鳴き声が聞こえてきますね。―――来場者からそんな言葉をたくさんいただいて嬉しくなっているところです。

さて、今回は、動く鳥のおもちゃを集めて展示するコーナーから、「ついばむ鳥」のことをご紹介したいと思います。
「ついばむ鳥」の玩具は、台の上に鶏(小鳥、あるいは孔雀)が数羽のっており、台につけられた取っ手を持って、円を描くようにゆらすと、下のオモリの動きにつれて、糸にひっぱられた鶏が頭を順番に上下させ、餌をついばむ仕草を繰り返すものです。さらに、鳥のくちばしが台に当たり、コツコツコツ…と心地よい音が響き、鳥たちのついばむ動きにリアリティが加わります。

この何とも愛らしい動きが世界中の人々の心をとらえたのでしょう。「ついばむ鳥」を収蔵庫の中から取り出してみると、ロシア、ドイツ、イギリス、フランス、スイス、スウェーデン、チェコ、ルーマニア、ハンガリー、ポーランド、ポルトガル、イタリア……とほぼ、ヨーロッパ全域のものが集まってきます。鶏の形や色、台の形、ついばむ音などには、それぞれにユニークな特徴が見られますが、糸とオモリを利用した仕掛け自体、どこのものも全く同じ趣向で、玩具のもつ民族性と普遍性にうなり声をあげずにはいられません。古い資料をたどっていくと、19世紀にドイツのゾンネベルグ、あるいはロシアのセルギーエフで作られたものが起源になって、各国に広まったものではないかと私たちは推測するのですが、確かなことではありません。

世界各地の「ついばむ鳥(鶏)」展示コーナー

驚くことに、「ついばむ鳥」は、ヨーロッパを発して、メキシコやブラジルなどのラテンアメリカの国々でも、タンザニアやケニア、マダガスカルといったアフリカの国々でも、また、インド、スリランカ、中国などのアジアの国々でも、好んで製作されているのです。インド製は、カラフルに彩色された鶏が8羽も一緒になって賑やかにコツコツとついばみますが、インドネシアの素朴な表情の鶏は4羽が大きく首を動かして大胆な動きでコツンコツンと、中国の鶏はたった1羽が頭と尾羽を悠然と動かします。どれもこれも、色や形、全体の風情の中に民族性がよく表現されていて、一堂に集めてみると、本当に楽しくなります。

ブラジルのリオデジャネイロの「ついばむ鶏」は、カーニバルに出場するかのようにカラフな羽根をまとった姿ですが、全体にポルトガルの作品にそっくり! ブラジルにとってポルトガルはかつての宗主国ですから、いつの時代にか、ポルトガルの影響を受けて作られ始めたものとも考えられます。

さて、この「ついばむ鶏」がわが国で作られた形跡はないかと求めていたところ、数年前、偶然にブリキ製の「ついばむ鳩」を入手できました。日本においても、かつて同様の玩具が作られたことを立証する貴重な資料です。

ブリキ製のついばむ鳩

わが国でブリキ印刷の技術が導入されたのは、明治30年以降のこと。絵柄や色彩などから、明治時代末期の作品と考えられます。3羽の鳥が乗った台の絵柄をよく観察すると、「意匠登録・実用新案」の文字が印されています。この時代の日本は、欧米と肩を並べるため、近代日本にふさわしい製造技術を習得することに一生懸命、また近代的な素材、教育的な配慮に基づいて新時代の玩具を作ることに必死になっていました。ドイツやフランスに学んで、子どもの健全な成長に役割を果たす進歩的な玩具の製造を目指していたのです。「ついばむ鳥」も、この時代、ドイツあたりの木製玩具からデザインを学んだものに違いありません。

展示会場では、ロシアと中国の「ついばむ鶏」に触れていただきながら、その仕組みの面白さを体験していただき、展示ケースの中、各地で作られるユニークなついばむ鳥たちの表情をお楽しみ下さい。

(学芸員・尾崎織女)

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