日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2011.10.30

世界のクリスマス飾り展~描かれたクリスマス・その1~

玩具博物館の庭ではサンザシやサンシュユが赤い実をつけ、いつの間にか秋も深まりを見せ始めました。雨降りの週末、恒例の世界のクリスマス展も始まったわが館へ、今日は多くの家族連れが入館下さり、笑い声の絶えない賑やかな一日となりました。 


今冬は、小倉城庭園博物館からのご依頼によって、もうひとつのクリスマス展を開催する予定で、しばらく、出展作業に忙しくしていていました。準備完了! 北九州市立小倉城庭園博物館企画展「クリスマス~喜びと祈りのかたち~」は11月11日オープンです。11月9日から展示作業に小倉入りし、先方スタッフとともに温かい展示を作りたいと思っています。


さて、わが6号館のクリスマス展、今回は、白のクロスを敷き詰めた展示ケースと黒のクロスを敷き詰めたケースをつくりました。白は、純白の雪をイメージし、黒は、太陽の力が弱くなる冬のさなかの暗い夜をイメージしました。精純な白の中で祝われるクリスマスと、暗さゆえに光や幸福にあこがれるクリスマス。「ヨーロッパのクリスマス風景」は白い雪の上に、「キリスト降誕人形」「キャンドルスタンド」などの展示グループは黒い夜の中に展示しています。
ドイツ・プラウエン地方の木綿レースによる“雪のオーナメント”は、展示ケースの天井枠に積り、やがてその雪は、クルミ割り人形やキャンドルスタンドの上にひらひら舞いおりています。経木細工の“光のオーナメント”が輝く空、夜の中で幼子イエスが誕生する場面がたくさん繰り広げられています。たとえば、そのようなイメージをもって展示していますので、ご覧下さる皆様には、玩具の世界へ入り込んでお楽しみいただければ幸いです。

プラウナーレースのオーナメント・雪の結晶(ドイツ)を展示ケースの上方に
舞い散る雪の結晶のオーナメント
暗い夜のなかのキリスト降誕の場面を

毎年、展示室には、世界各地のクリスマス飾りの背景をより楽しく理解していただこうと、それぞれの展示コーナーに合わせて世界のクリスマス絵本を設置しています。今年は、あらたに5冊、楽しいものを入手いたしました。
 ノルウェーからは、『スプーンおばさんのクリスマス』(アルプ・プリョイセン作/ビョーン・ベルイ絵/おおつかゆうぞう訳/1979年・偕成社刊)
 スウェーデンからは『きつねとトムテ』(フォーシュルンド詩/ウィーベリ絵/やまのうちきよこ訳/1981年・偕成社刊)、それから『ペッテルとロッタのクリスマス』(エルサ・ベスコフ作・絵/ひしきあきらこ訳/2001年・福音館刊)
 フィンランドからは『トントゥ』(マウリ・クンナス作/稲垣美晴訳/1982年・文化出版局刊)
 チェコからは『おじいちゃんとのクリスマス』(リタ・テーンクヴィスト文・マリット・テーンクヴィスト絵/大久保貞子訳/1995年・冨山房刊)
 そして、ナイジェリアからは、『たのしいおまつり』(イフェオマ・オニェフル作・写真/さくまゆみこ訳/2007年・偕成社刊)を。

絵本の世界を楽しんだ後に展示室のクリスマス飾りを見ると、その題材に込められた意味がよくわかります。

たとえば、チェコのツリーに飾られるパン細工のオーナメントには、魚をデザインしたものが見られます。“魚”はキリスト教徒のシンボルだからツリー飾りのデザインに用いられている、ともいえますが、絵本『おじいちゃんとのクリスマス』を読むと、その魚が“鯉”であることがわかります。チェコではクリスマス料理に、七面鳥でもローストチキンでもなく、鯉を食べるのだそうです。フライにしたり、ゼリーで固めたり、ソテーしたものにプルーンのソースをかけたりして。だから、クリスマスのマーケットではたくさんの鯉が売られているのだといいます。

絵本『おじいちゃんとのクリスマス』は、あるとき、作家の母と画家の娘(スウェーデン在住)がチェコの古都・プラハを訪ねた折、ふと耳にしたクリスマスの鯉料理にまつわるお話から誕生したそうです。クリスマスに食べる鯉をマーケットで買ってきたトマス少年は、その鯉に“ベッポ”と名前をつけて可愛がり始めます。おじいちゃんとふたりきりのクリスマス、トマスはその鯉を食べることができるのでしょうか? 繊細で美しい絵と暖かい文章によって、チェコの人々の心が伝わる素敵な絵本です。

展示室をお訪ねの皆様には、せひ、コーナーごとの絵本をご覧いただき、展示ケースの中に、絵本に登場するクリスマス飾りを探していただきたく思います。

(学芸員・尾崎織女)

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