日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2011.09.30

中南米のアルマジロ~世界の動物造形展より~ 

http://www.japan-toy-museum.org/gakugei11201.jpg

萩や彼岸花、紅白の水引草が揺れる館の庭には、爽やかな風にのって金木犀の香りが漂い始めました。玩具博物館では、地元周辺の小学校から校外学習の小学生たちをお迎えする季節です。子どもたちは、ややもすると、玩具に触れて遊べる二か所の“プレイコーナー”に集中してしまいがちになるので、展示物を観る視点をもってもらおうと、クイズ形式のワークシートをお渡したり、その答え合わせをしながら問題になった玩具や人形のお話をしたり、企画展や特別展の見どころを解説したり、好きな展示品をひとつだけスケッチしてもらったり、またご要望によっては玩具づくり教室などを行ったりもしています。

昨日は、訪問を受けた小学2年生の子どもたちに、6号館の特別展「世界の動物造形」をご案内し、いろいろ質問を投げかけてみました。たとえば……
  「どれぐらい昔から動物のおもちゃが作られていると思いますか?」
  「世界の国々では様々な動物がおもちゃのモデルになっていますが、一番人気のある動物は何でしょうか?」
 展示物をよくみると答えられることばかりだとわかると、質問を投げかける度に、みんな展示ケースにかじりついて熱心に観察し、「分かった!馬が多い。ロシアの馬、めっちゃかっこいい!」「馬が多いで!よその国の人も馬が好きなんや!」などと、嬉しそうに回答してくれるのです。

「さて、ここに4つの虎のおもちゃを取り出しました。一番右側の紙で出来た首ふりの虎、その次は華やかに飾りたてた布製の虎、三番目は台車の上にのった木彫りの虎、最後は背中に迷路みたいな模様のある土製の虎、さて、この中で日本の虎のおもちゃはどれでしょうか?」
  「一番右の虎です! おばあちゃんの家でそんな虎を見たように思う。きっとそうや。」
  「私も一番右と思う。顔が日本らしいもん。」
  「ぼくな、そのとなりは中国の虎やと思う。なんとなくそう思う…。」
当たりです!
小学校2年生にして、自分たちの民族の造形表現をぴったりと言い当てる子どもたちに出会う度に思います。小さな玩具だけれど、その色や形、製法のどこからか、“日本らしさ”というものが漂っていて、この環境で育つものには、それがわかるということなのですね。当たり前のようで、すごいことだと思います。

そんな小学2年生が口々に質問してきました。
「なんで、世界の国にはアルマジロのおもちゃがたくさんあるんですか?!」
そうなのです。メキシコ、ペルー、ブラジル、パラグアイ、チリ……といった中南米の国々では、アルマジロを題材にした玩具や造形物がたくさん作られているのです。
アルマジロはもともと中南米の動物。メキシコやチリ、パラグアイなどでは「アルマディージョ」、ブラジルでは「タトゥー」、ペルーでは「キルキンチョ」と呼ばれて古くから親しまれています。アルマジロは、肉が食用にされる他、硬い甲羅の部分を共鳴器に使って弦楽器(チャランゴ)や打楽器(マトラカ)などが作られます。
1995年、ブラジルへ日本の郷土玩具の展覧会をもっていったことがありました。「動物園に行けばタトゥー(アルマジロ)がみられますか?」と地元の方に訊ねたところ、「あら、動物園に行かなくても、そこいらにいるわよ。ちょっと郊外に行けば、草むらや畑の隅っこからひょっこり顔を出すから…。」と言われました。確かに数週間の滞在中、私は2回、タトゥーを見かけました。それは野猫のようにそこいらにおり、リオデジャネイロ郊外の子どもたちはタトゥーをボールのようにまるめて転がしたり、頭を撫でたりして親しそうに遊んでいるです。
そのように身近に生息する動物だからでしょう。玩具や貯金箱や仮面や……造形物になったアルマジロは、デフォルメされ、ポップに彩色されても、アルマジロらしい特徴をそれぞれが供えていて、どれもこれも、なんとユニークで、なんと愛らしいのでしょうか。
中南米の人たちのアルマジロに注ぐ暖かいまなざしが感じられる作品、画像で少しお目にかけたいと思います。

世界の動物造形展」(10月11日まで)では、「アジア」「オセアニア」「中近東・アフリカ」「北米」「中南米」「ヨーロッパ」の6地域にわけて、動物の玩具や造形物を展示しています。中南米のアルマジロのように、中国のパンダやオーストラリアのコアラのように、それぞれの地域で特に親しまれている動物があります。そのことを玩具の世界は如実に伝えてくれますので、展示室では、ぜひ、ご確認いただきながら、それらの造形表現の面白さをご堪能いただきたいと思います。「これはアートだ!」と感じられる作品にもたくさん出合っていただけることと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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