日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2011.09.05

<見学レポート>宮島の八朔行事「たのもさん」

皆様が住まわれる地域では「八朔(はっさく=八月朔日、つまり八月一日)」の節句を祝われますか? 日本各地、特に瀬戸内海沿岸地方では、“たのもの節句”と呼ばれる八朔行事が古くから行われてきました。“たのも”とは、「田の面」「田の実」とも綴り、旧暦八朔は、田に実りゆく稲の健やかなことに感謝を捧げる節句として知られています。

郷土玩具の世界には、この節句に、子どもの誕生を祝い、元気な成長を祈って贈答される玩具や人形が数々残されており、広島県尾道の「田面船(たのもぶね)」、福岡県甘木の「八朔雛」、福岡県芦屋の「八朔馬と団子雛(だんごびーな)」、長崎県壱岐の「八朔雛」などが有名です。その他にも、明治時代から大正時代にかけての郷土玩具画集『うなゐのとも・全十編』(清水晴風・西沢笛畝著)には、八朔に登場する“シンコ(新粉)細工”の人形がいくつか描かれていますが、このような童心あふれる人形を通しても、かつて地方ごとに豊かな“たのもの節句”が祝われていたことが想われます。“シンコ(新粉)細工”とは、米の粉を蒸して餅状にしたものを細工することをいいます。田の実りに感謝する初秋の節句にふさわしい素材として、小麦粉でも粘土でもなく、新粉が使用されたのでしょう。


兵庫県では、たつの市の港町・室津に“八朔の雛”の風習が伝わっており、現在は街をあげて夏の雛まつりを行っておられますが、ここでも、雛人形には、シンコ細工の鯛が捧げられます。


さて、そのような八朔の催しが広島県宮島で行われていることを、当館友の会の笹部いく子さんとそのご友人で菓子文化の研究者でいらっしゃる溝口政子さんから教えていただいたので、ぜひ、見学させていただこうと、2011年旧暦八朔(8月29日)に合わせて、宮島へ出かけてまいりました。予想以上に素晴らしい夜の行事、その一端をここでご紹介したいと思います。こちらは、社団法人宮島観光協会が案内しておられる「たのもさん」についてのページです。
↓ http://www.miyajima.or.jp/event/event_tanomosan.html

厳島神社をいただく神さまの島・宮島では、遠い昔から田畑を耕せない土地柄ですが、それゆえ宮島に暮らす人々にとって、体を養ってくれる農作物への感謝の念は、どこよりも強かったと島の方々は語られます。旧暦八朔が近づくと、商工会によって配られた全長60cmほどの木船に、思い思いの帆を張り、提灯を吊るし、ユニークな飾り付けをほどこして「たのもさんの船」が準備されます。その船には、シンコ(新粉)で作られた家族分の“団子人形と犬”が乗せられます。
夕方6時、四宮神社への上り口へ、あっちからこっちから「たのもさんの船」が集まってきます。誕生した赤ちゃんの名前が書かれたり、子どもたちが好きな絵を描いたりしてどれこれも賑やか。中には転覆防止の副船を両側につけた豪華なものも見られます。数え上げると今年は42艘ありました。日が落ちて、各船の提灯に火が灯されると、賑やかさの中に厳かさが加わりました。

船の中をのぞき込むと……愛らしい団子人形と犬が、どの船にも乗せられているのがわかります。先にご案内したサイトによると、シンコ細工の団子人形について、「人形は、三角錐の団子(高さ2cm位)をつくり、頭部には正方形の色紙を折り曲げ、斜めに貼り、深編笠をかぶせます。また肩から腋下に細長い色紙を貼り“たすき”としたり、長方形の色紙を縦長に張って“前かけ”として、素朴でかわいい踊り子姿の人形とします。細長い板の上に並べる人形は、家族や親戚の数とし、その左右に団子の犬や胴長の太鼓を置いたり、大吉と書いた幟を立てたりします。」とありますが、そのスタンダードをくつがえし、布製や粘土製の現代的な人形たちも見られました。

8時、四宮神社の神職さんのお祓いを済ませた「たのもさんの船」は、厳島神社の海を目指して坂を下りて行きます。9時、満潮に近い海へ小さな船を浮かべると、それぞれの船は、厳島神社の大鳥居に吸い寄せられるように、潮の流れを逆にたどって対岸を目指します。月のない朔の夜、真っ暗な海に人形を乗せて流れゆく「たのもさんの船」は、灯りを湛えて美しく、おとぎ話の国に迷い込んだような夢見心地で船の行方を見つめ続けて夜が更けていきます。
かつて、“たのもさんの船”は対岸の大野町の漁船や農家の方々に拾い上げられ、五穀豊穣や大漁の縁起物として田畑の畦などに供え、農作物の豊作や大漁祈願が行われていたそうですが、現在は、翌朝にも漁協の船が回収するのだと聞きました。

日本各地には、まだまだ情緒豊かな節句の行事が残されています。シンコ細工の団子人形をどんなに楽しく一所懸命に作ったかを話してくれる女の子に接するにつけても、大切に守っていきたいものについて深く考えさせられました。(尾崎織女)

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