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学芸室から 2017.11.05

今冬ふたつの「世界のクリスマス展」**神戸KIITOと日本玩具博物館

日本玩具博物館の世界のクリスマス展2017より

11月に入って気温が急降下、ひんやりとした空気の中で、木々の葉が色づきはじめました。
学芸室では「世界のクリスマス展」準備に懸命になって秋の日々を過ごし、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)の「TOY&DOLL COLLECTION」会場では10月18日から、当館6号館では11月3日から、それぞれのクリスマス展を無事オープンいたしました。

KIITOの世界のクリスマス展より


KIITOのクリスマス展

神戸KIITOでは、北欧、中欧、東欧、南欧、北米、中南米、アフリカ、アジア(日本を含む)…と地域に分けて、代表的なオーナメントを紹介しています。日本玩具博物館の「世界のクリスマス展」の  エッセンスを詰め込んだ展示内容です。今回、初めてこのコーナーの中央に高さ3mの日本製クリスマスツリーを立てました。

KIITOヨーロッパのクリスマス
KIITO北米中南米のクリスマス


あまり知られていないことですが、日本のクリスマス産業の発祥地は神戸です。明治30年頃にはすでに、ヒノキなどの経木からクリスマスツリーの飾りが作られていました。丹波地方の春日町は明治後半から昭和初期頃まで経木の製造が盛んに行われ、神戸において、染色や製織が施されて海外へと輸出されていました。それらは「経木モール」とか「筵(むしろ)モール」とかの名で呼ばれたそうですが、今のところ、私たちはその現物を収集出来ていません。

昭和20~30年代、日本のクリスマスツリー


私たちの大型クリスマスツリーは、1990年代に「日本クリスマス工業会」所属の中城産業株式会社より寄贈を受けたもので、そこにドイツ製のオーナメント――1994年にババリア地方ヘロルズベルグのヘルガ・ライニッシュ工房より輸入したもの――をつるし飾っています。パイン材の経木を細工して太陽や星に見立てたオーナメントで、ひょっとしたら、戦前、欧米各国へと輸出されていた日本製の経木オーナメントとつながりがあるのかもしれません。神戸港から輸出されたクリスマス飾りに思いをはせて、美しいドイツのオーナメントをご覧いただければと思います。


日本玩具博物館のクリスマス展2017

そんなわけで日本玩具博物館・世界のクリスマスコレクションのエッセンス組がKIITOへ出張していますので、留守組の資料群によって、6号館には、毎年のクリスマス展とはイメージの異なる展示風景を作ろうと努めたのですが、果たして、皆さまにはどのようにご覧いただけるでしょうか。今冬の秘めたるテーマは、豊かな実りを祝うクリスマス、自然感にあふれるクリスマス――。自然素材のオーナメントを多数出展し、モミの木だけでなく木の枝に麦わら細工やきびがら細工、まつぼっくりやどんぐり、木の実を表わすオーナメントをつるし飾っています。

日本玩具博物館の北欧のクリスマス


数えれば、6号館会場には大小56本のモミの木を表わすツリーが立ちました。モミをクリスマスに飾る習慣は中世にさかのぼります。1521年、クリスマスツリー用に初めてモミの木が飾られたとわかる文書がフランス・アルザス地方の図書館に保存されているそうです。クリスマスイブ、教会にはモミの木が置かれ、ミサの韻文劇「アダムとイヴ」の中で天国にたつ樹木として使われたといいます。その木にはリンゴの実が飾られていたことから、ツリーのオーナメントの始まりのひとつは赤いリンゴだったと考えられています。クリスマスツリーを飾る風習は、アルザスから中欧、やがて東欧、北欧や北米へも広がり、第二次世界大戦後にはアメリカ合衆国経由で南欧にも伝えられます。

今や世界規模で親しまれるクリスマスツリー――その始まりの頃を想い、姫リンゴを飾りたいと考えていたところ、夕べ、いきつけのスーパーマーケットの果物コーナーをのぞいたら、なんと、ひと袋だけ「長野県産・アルプス乙女(JAみなみ信州)」という銘柄の姫リンゴが並んでいました。嬉しくなって、そのひと袋を求め(8個入っていました)、世界のクリスマス展会場入り口に小さなリンゴのツリーを立てました。やがて19世紀、本物のリンゴは吹きガラスの赤いグラスボールへと発展をしていきますが、姫リンゴを飾った小さなツリーは香りが芳しく、豊かな実りへの感謝が溢れているように感じられて本当によいものだと思います。

姫林檎をつるしたクリスマスツリー


今冬は、神戸と香寺――ふたつの会場のクリスマス展を合わせてお楽しみいただければ幸いです。

(学芸員・尾崎織女)

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