日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2010.10.26

「世界クリスマス紀行」展オープン!

日本玩具博物館6号館では、恒例の世界のクリスマス展が先週土曜日、無事オープンしました。今回のテーマは「世界クリスマス紀行」。ヨーロッパや南北アメリカ大陸はもちろん、アジアやアフリカのクリスマス飾りも登場して、地域色豊かな会場に仕上がっています。各地域の展示ケースを“木枠のガラス窓”に見立て、窓越しに世界の家庭のクリスマス飾りを観歩く様子をイメージしながら展示を行いました。

たとえば、壁に這わせたモミの木に麦わら細工のツリー飾りを吊るしたり(スウェーデン)、窓枠いっぱいにガラスのオーナメントを飾ったり(オーストリア)……、そうすることで、クリスマスの部屋に奥行と広がりをつくろうと試みました。また、中南米のコーナーでは、天井から切り紙細工の旗を吊るしたり、クリスマス習俗を描いた民画を壁に飾ったりして(メキシコ)、クリスマスのパーティー会場を演出してみました。

会場を開けた日、明るい秋の庭から展示室へと入ってこられた方々から「うわぁ~、綺麗~!」という歓声があがります。何日も深夜作業を続けて、少々疲れた私たちの心に幸せが踊る瞬間です。
 
今回、会場に立っていると、「北欧のクリスマス」と「東欧のクリスマス」に来館者の目が集中しているように思われます。ここでは、深い冬の雪に閉ざされる国々に発達したシンプルかつ繊細な手工芸を、素材や種類ごとに展示しています。麦わら細工、きびがら細工、切り紙細工、レース編み、刺繍、木の実細工、パンや菓子細工……。そこには、商業的な匂いはなく、家庭的な暖かさと民族信仰的な祈りが漂っていて、観る人を穏やかな気分で満たしてくれます。

「世界クリスマス紀行」~北欧・東欧の展示コーナー

今日は、チェコの農村部に伝わる麦わら細工のツリー飾りをご紹介しましょう。麦わらには、その年、畑に麦を実らせた穀物の霊が宿っているといわれ、ヨーロッパ各地のクリスマスには、豊かな収穫の喜びが込められた数々の麦わら細工が登場します。

麦わら細工のオーナメント(チェコ)

チェコのオーナメントは、ライ麦や小麦の麦わらの先端部を使い、一昼夜ほど、水に浸して柔らかくした後、編んだり紐で縛ったりして作られます。ベル型やハート型、球型の他、かご型、白鳥やかたつむりをかたどったものも見られます。球型は太陽や星を、カゴ型は木の実(=冬の栄養)を象徴しています。中でも面白いのは、蹄鉄(ていてつ)型で、ツリー飾りのほか、壁飾りとしても少し大きなものが作られています。「この形にはどんな意味があるのですか?」と、今日も来館者からご質問を受けました。

麦わら細工・馬蹄形のオーナメント

蹄鉄は、主に馬の蹄に装着されるU字型の器具(horseshoe)のこと。馬を守るための蹄鉄がヨーロッパに登場するのは、ギリシャ・ローマの時代ですが、やがて、使用できなくなった古い蹄鉄は、家や家畜小屋の扉のまわりに打ちつけると、住人や家畜を災厄から守ってくれる魔除けの標章ともなっていきました。蹄鉄が「お守り」となった理由について、デズモンド・モリス著『世界お守り大全』(東洋書林)には、いくつかの説が紹介されています。

①蹄鉄に使われる鉄は、古代の貴重品であり、超自然的な霊力をもつと考えられたため。
②蹄鉄の形は“女性”を象徴するもので、建物に置かれた蹄鉄は、悪霊を混乱させるから。
③蹄鉄の形が、守護の力をもつという“新月”を連想させるから。


キリスト教における題材のみならず、民間に伝わる魔除けや招福の造形が、クリスマス・オーナメントに作られることは非常に興味深いことと思います。「世界クリスマス紀行」展では、世界各地に伝わるクリスマス造形の意味についてもご紹介しておりますので、「なぜ、この形が、なぜ、この人形がクリスマスに登場しているのか?」――今、一歩、ガラス窓の中をのぞきこんでご覧いただくと、より面白く、クリスマス行事をとらえていただけることと思います。

(学芸員・尾崎織女)




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