日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2010.09.04

じっくり見るということ 

雨のない日々です。しおれてしまいそうな草木が可哀想だと、毎朝のようにスタッフのK子さんがたくさんの水を撒き、玩具館の庭には、いっとき涼風が立ちこめます。今朝は、庭の石畳の道に出来た水溜りにアゲハチョウやアオスジアゲハが集まり、羽根をひらひらさせて水を飲む様子が綺麗でした。真夏以上に激しく照りつける太陽は、あっという間に石畳を乾かしてしまいますが……。
酷暑の九月をいかがお過ごしでしょうか。お見舞い申しあげます。

夏休みが終わって初めての週末。熱い夏を過ごして真っ黒に日焼けした小学3年生の男の子たちが、遊びのコーナーでビー玉レースに歓声をあげています。遊んでばかりで時間を過ごす子どもたちに、「何に興味があるか?」と尋ねると、意外にも「コマ!」と答える子があったので、4号館の世界の民芸玩具コーナーへ誘いました。

「このお部屋には世界の国々のおもちゃを展示しています。コマはコマでも、糸ひきゴマ、投げゴマ、ひねりゴマ、もみゴマ……形も回し方も違います。いろんな国のコマを全部探して、いくつあったか答えて下さい」と展示ケースの中を覗き込むよう促しました。

3人の男の子たちは探し始めました。やがて、「ねぇ、トルコっていう国の“これ”もコマ?!ヘンな形している。」と驚いたような声があがります。「いっぱいある。あり過ぎる…。手分けして探そう!」

中国、韓国、タイ、インド、ラオス、パキスタン、トルコ、チュニジア、ブラジル、メキシコ、イタリア、ギリシャ、ドイツ、イギリス、フランス、スイス・・・・・・。
答えは、58個。
「みんな回してみたいな。」
「僕は、ブラジルのコマが好き。」
「僕は、スイスの茶色のコマがかっこいいと思う。」
「こんないろいろあるって知らんかった。」
「日本のコマは、どこの国のコマともかたちが違う。」
………そんなふうにして、どんどん興味の窓を開いていく子どもたち。


先日、博物館学芸員実習で一週間ほど受け入れた学生さんが、実習日記に書いておられた言葉が印象に残っています。「私は実習を通して、資料をじっくり見ることが出来るようになったと思います。じっくり見られるようになると、他の資料と見比べたり、ユニークさがわかったりして、様々な発見がありました。また、よく見られるようになると、博物館の面白さがぐんと増していきました。」と。

博物館学芸員実習生…資料の梱包実習中
博物館学芸員実習生…展示替えの実習中

与えられる情報に受け身でいることばかりに慣れてしまうと、自分から一歩近づいて「じっくり見る」ということをしなくなってしまうのかもしれません。形、色、素材、模様、どんな音がするのか、どんな匂いがするのか、どんな意味があって、どんな人が作り、どんな人が使ったのか……。見ることで、物の持っている情報をキャッチし、多くのことを理解し、想像できる力というのは、経験や学習によって養われていくものですが、けれど、一歩踏み込み、対象をじっと見つめている時間の濃密さによっても培われていくものだと思います。

1990年代以降、触ったり、聞いたり、味わったり……、日本の博物館施設は、展示にかけて、見る以外のことをプラスしようと頑張ってきました。しかし、ちょっとした動機づけひとつ、何でもないクイズひとつで、ケースの中、触れられない展示品を、しっかり見ようと一歩も二歩も近づいていく子どもたちのまなざしに接するにつけても、私たちは「物をしっかり見る」という行為をもっと大事にするべきなのではないか、そのための努力と工夫こそ博物館の基本として大切なことなのではないかと、あらためて思う今日この頃です。(尾崎織女)

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