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学芸室から 2009.02.20

84歳のお雛さま~雛遊びの世界展より~

🌸昨日、春の特別展「雛遊びの世界」の会場へ懐かしい方々の訪問をお受けしておりました。1995年、阪神淡路大震災の年に「源氏枠飾り雛」一式を寄贈下さった小林嘉子さんとその妹君の黒田純子さん、そして「御殿飾り雛」を寄贈下さった明松マサ子さんです。

懐かしい女雛と再会された小林さんと黒田さん

🌸家の倒壊や転居によって行き場を失った雛人形が当館の収蔵庫に眠っていることは折にふれてご紹介してきましたが、150組を超える雛飾りのそれぞれには持ち主の人生の歩みと愛着が込められ、モノには、金銭的な価値や美術工芸的価値とはまた違った次元の価値が存在することを私たちに教えてくれます。

🌸小林嘉子さんと明松マサ子さんはともに大正14年生まれ。1995年春、尼崎市と神戸市垂水区でそれぞれ被災された小林さんと明松さんは、少女時代の思い出が詰まった雛飾りを手元に保管することが出来なくなり、私たちの博物館へとお預け下さいました。

🌸どちらも経年劣化と震災時の傷みが見られましたが、少々修理の手を加えて、1996年春の特別展「被災地からきた雛たち」に展示させていただいたところ、展示品のキャプション(品名や製作年代、寄贈者などを明記した題箋)をご覧になることで、お二人は互いに女学校の同級生であることに気付かれたのでした。卒業以来、一度も会っていなかったというお二人の交流は、お隣に並べられた雛人形がとりもつご縁によって再開したのです。

🌸以来13年――、節句が近づくと、ご自身の雛飾りが展示される時もされない時も、お二人揃って何度となく当館をお訪ね下さり、私たちの博物館で雛祭りを楽しんでいらっしゃいました。

🌸昨日は、会場にNHK神戸放送局のカメラが入っており、雛人形と持ち主との再会についての取材がありました。

TV取材を受ける明松さんと小林さん

🌸「女雛さまには母のおもかげがあるんです」と明松さんがお話しになれば、小林さんや黒田さんも「おっとりとして穏やかな美しさが母を思わせるお雛さま」と笑みを浮かべておっしゃいます。

お母さまの面影があるという小林さんと黒田さん(姉妹)の源氏枠飾り雛(部分)
明松さんの御殿飾り雛

🌸太平洋戦争、大水害、そして震災…。雛人形とともにあった時代のことをあれこれ伺いながら、大正14年生まれの雛人形とその主人たちがともに生きてこられた84年の歳月に想いをはせてみました。すると、雛人形の上に、作り手が、求め手が、使い手が、心を込めて関わり続けた、それぞれにとって特別な歩みがゆらめいて感じられたのです。
🌸「物の中に潜む大切なものは目に見えない」――サンテグジュペリの『星の王子さま』のメッセージが想い起こされたことでした。

(学芸員・尾崎織女)




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