日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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展示・イベント案内 exhibition

企画展

冬の企画展 「猿のおもちゃ」

会期
2015年11月21日(土) 2016年2月16日(火)
会場
1号館
大阪の千匹猿(昭和初期)

十二支は、日本人の暮らしに深く浸透した民間信仰です。例えば、生まれ年にあたる動物の性質がその人の性格や運勢などに関係するという信仰、自分の生まれ年に因んだ動物をお守りにする習俗などがあります。

平成28(2016)年は丙申(ひのえさる)。十二支の動物の中には造形物として人気のあるものとそうでないものがあるのですが、「申(=猿)」は、「午(=馬)」「丑(=牛)」「寅(=虎)」と並んで多彩な造形が残されています。江戸時代の終わり頃から明治時代にかけて全国各地で作られ始めた「郷土玩具」の中には、猿を題材にした土人形や張り子、練り物などが数多く伝えられ、熊本県玉東町の「木の葉猿」や静岡県浜松市の「柿のり猿」、岐阜県高山の「猿ぼぼ」などのように、今も、郷土の人々によく親しまれているものもあります。

日本において猿は、古代より厄除け、魔除けの信仰を受け、農業の守護神として敬われてきた動物です。魔を弾き「去る」とか、厄を「去る」とかの言葉と「猿」をかけて、厄病除けの願いを込めた郷土玩具も目立ちます。また、庚申信仰から出た「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿も、郷土玩具のテーマとして親しまれてきました。

本展では、日本の郷土玩具の猿、約300点を一堂に集め、北から南へ地域ごとに展示します。また、その中から、猿に対する民俗信仰を表現する郷土玩具のいくつかを取り上げ、「庚申信仰と猿」「桃猿」「身代わり猿と厄除け猿」などの項目で、造形の中に託された人々の願いを探ります。これらにあわせ、シンバル・モンキーやポーター・モンキーなど、ブリキやセルロイドなどで作られた猿をテーマにした近代玩具、約30点を展示し、玩具化された猿のおもしろい動きと愛らしさをご紹介します。玩具の猿のユニークな造形をお楽しみいただくと同時に、玩具の世界を通して、猿という動物と私たちとの長く深い関わりの一端に触れていただければ幸いです。

猿の郷土玩具いろいろ

展示総数  約350点(絵図を含む)

  

郷土玩具の猿~北から南へ~

江戸時代の終わり、庶民階級が経済力を持ち、農村部にも商品経済が広がっていく頃になると、土や木や紙など身近にある材料を使って、専門的に、また農閑期を利用して季節的に素朴な玩具が作られるようになります。これらは“郷土”と言われる狭い範囲で流通したものが多く、今日、郷土玩具の名で知られています。人々の生活の中から生まれ、愛されてきた郷土玩具は、子どもたちを喜ばせるおもちゃというに留まらず、郷土の信仰や伝説、美意識や幸福感を表現した小さな造形といえます。猿は、この郷土玩具の題材としてよく取り上げられた動物です。子ども達を病魔から守り、人々の厄を去り、長寿を願うものとして、猿の土人形や張り子、などが贈答されました。このコーナーでは、北から南へ、郷土玩具が伝える猿の玩具をご紹介します。

猿の郷土玩具~北から南へ 展示風景

猿の造形~猿の郷土玩具の性格~

日本において猿は、神の使い、また魔よけや厄除けの霊力をもつ動物とされてきました。各地で作られてきた郷土玩具の色や形、数や組み合わせの中には、身近にいる猿に対する日本人の敬愛の念が表現されています。このコーナーでは、「庚申信仰と猿」「桃と猿」「身代わり猿と厄除け猿」「組み猿と親子猿」「馬と猿」「人と猿」などの造形的な特徴によって分類して展示し、猿の玩具に託された人々の願いを探ります。

庚申信仰と猿~見ざる・言わざる・聞かざる~

庚申信仰とは、中国の道教の説で、一年に六度ある庚申(かのえさる)の夜、人間の体内にいる三尸(さんし)という虫が、その人の眠っている間に身体から抜け出して、その人の冒した罪を天上の帝釈天に告げに行き、告げられた人は帝釈天の判定により寿命が短くなるというので、庚申の夜は眠らずに身を慎み、招福延命を祈って夜を明かします。この信仰の中心には猿田彦や帝釈天が祀られ、使いの者として「見ざる・言わざる・聞かざる」の三猿が登場します。庚申信仰は転じて、三猿に、農村部では五穀豊穣を、漁村では大漁や安全航海を、また無病息災や病気平癒を願いました。

小幡の三猿(滋賀県東近江市)・伏見の三猿(京都府京都市)・大阪張子の三猿(大阪府大阪市)・木の葉の三猿(熊本県玉東町)

桃と猿~長寿と子授け~

桃と猿の組み合わせは中国から伝わったもので、郷土玩具の世界でも古くから親しまれてきました。京都府伏見や滋賀県東近江市の「桃とり猿」や和歌山市の「桃もち瓦猿」などが有名です。桃は豊潤な果肉と薬効がある種をもつことから、永遠の命を得る果物とされ、中国では、仙境に生えている桃を食すると永遠の命を得ると伝えられます。厄を去る猿が桃をもつ姿は長寿を象徴しています。また、熊本県玉名の「木の葉猿」のように、安産や子授けの願いが込められたものも見られます。

那覇張子の桃もち猿(沖縄県那覇市)・小幡の桃とり猿(滋賀県東近江市)

身代わり猿と厄除け猿~健康を祈る玩具~

柴又の弾き猿

赤い布で作られた猿は日本古来のぬいぐるみ「這子(ほうこ)」という身代わり人形に通じており、民間でも古くから、身の守りを念じ、赤い布で素朴な猿のぬいぐるみが作られてきました。奈良や京都の「くくり猿」は、軒下に吊り下げて家の守りとし、自家製の小さなくくり猿は、子どもの着物の背に結び付けて、災厄よけとしました。竹の弾力を利用して小さな赤い猿を弾く「弾き猿」もまた、厄病除けを願った玩具です。



御幣猿と猿の三番叟~山神の使い~

全国に広がる山王信仰。猿は、その山王の使いとして信仰を受けてきました。郷土玩具の中にも、幣帛(御幣)をもった猿が数多く見られますが、山王信仰とつながりのある造形といわれています。小さな御幣猿には厄除けや火ぶせが願われました。三番叟は、古くは猿楽、やがて歌舞伎において、祝賀の催しの始まりに演じられる老人の舞。尉の面をつけて舞う三番叟は、悪霊をはらい、場を清める役割を担っています。厄を去る猿に三番叟の衣装をつけたものは、おめでたい造形。烏帽子姿に神道鈴を持って、どれも愛らしい表情です。

萩日吉神社の猿(埼玉県比企郡)と描かれた猿(昭和10年代)
金沢張子の猿の三番叟(石川県金沢市)・伏見の猿の三番叟(京都府京都市)・平戸の舌出し猿(長崎県平戸市)

組み猿と親子猿~子孫繁栄を願う造形~

親子の猿が群れる造形、母猿が仔猿を抱く造形、夫婦の猿が睦みあう造形には、子授けや子孫繁栄の願いが託されました。長崎県古賀の「親子猿」は、赤を抱く姿が疱瘡除けのまじないにもなっています。また、厄除けのまじないとされる大阪の「組み猿」や「日和見猿」、ピラミッドのように50匹以上もの猿が積み重なった「千匹猿」は、他に例を見ないユニークな造形です。

組み猿・親子猿の展示コーナー

猿と馬~組み合わせに託するもの~

中国では「馬上封侯」 (すぐに官僚の職を得る)という言葉があり、「侯」の音が「猴(=猿)」と同じであることから、「馬のり猿」の図像は、立身出世のシンボルとされてきました。これに影響を受けた馬のり猿の造形は日本でも数多く見られます。郷土玩具の世界では、男児の立身出世を願う青森市の「馬のり猿」や悪病除けの力をもつ猿を馬にのせて、馬の健康を願う長崎県古賀の「馬のり猿」などがあります。

猿と人~親しきもの~

家族で睦みあう様子、表情にあらわれる喜怒哀楽、賢明さと素朴、崇高さ・・・身近に居る猿の様子に、私たちは親しみを抱いてきました。ここでは江戸時代から全国各地で人気のあった「猿まわし」の人形をはじめ、人と猿が組み合わされた作品のいくつかをご紹介します。福岡県古博多などで作られる猿を連れた「笹野才蔵」の人形は、疱瘡除けのまじない。笹野才蔵は、豊臣秀次に仕えた武勇の士で、親戚で疱瘡にかかった子どもを救けるため、疱瘡の厄鬼を斬り、子どもの病気を全快させたという故事で知られています。猿を組み合わせることで、厄病除けの力を強調したものでしょう。

猿と馬・猿と人を組み合わせた郷土玩具展示コーナー

江戸時代の猿の玩具

ここでは、安永2(1773)年、北尾重政によって描かれた『江都二色』より、猿の玩具を抜き出してご紹介します。この小さな絵本には、当時、江戸市中で人気のあった玩具の中から88種類が紹介されています。その中に、張り子製の「お釜抱き猿」、やじろべえの土台の猿、「猿のぼり」、蛇腹を押すとぷーぷー鳴る「屁っぴり猿」、杵をとって米をつく「米つき猿」などが描かれていますが、すでに廃絶してしまい、見ることの出来ないものばかりです。

風車とのぼり猿『江都二色』より

明治・大正時代の猿の玩具

明治から昭和初期にかけて各地で作られていた猿の玩具をご紹介します。昭4~5(1929~30)年、神戸の小児科医で、児童文化の研究者でもあった故・尾崎清次氏は『育児上の縁喜(ママ)に関する図譜(全三巻)』として、自らの収集品を描き、それらにどのような子育て上の願いが込められているかを詳しく解説した図譜を限定出版しました。これらの中から猿の玩具に関するものを抜き出して紹介します。その他、このコーナーでは、郷土玩具の収集家として有名な故・村松百兎庵のもとに届いた年賀状が整理された冊子より、大正から昭和初期にかけて活躍した郷土玩具収集家や彼と親交のあった文人たちの年賀状を展示し、彼らによって描かれた郷土玩具の猿たちをご紹介します。

近代玩具の猿

明治時代以降、玩具が工場で量産される時代になっても、猿は玩具の題材として人気を博します。シンバルを叩いたり、靴磨きをしたり、でんぐり返りをしたり、荷物を運んだり・・・猿の愛嬌のある動きが強調された仕掛け玩具は、日本だけではなく、輸出用として様々なバリエーションが製作されました。このコーナーでは、1950~70年代の猿の近代玩具を紹介します。


<会期中の催事>
ワークショップ 「弾き猿」を作ろう!
    日時=1月11日(月/祝)・17日(日)・31日(日)
       ※各日 ①13:30~/②15:00~