「兎の郷土玩具」 | 日本玩具博物館

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企画展

新春の特別陳列 「兎の郷土玩具」

会期
2022年11月12日(土) 2023年7月31日(月)
会場
2号館特別陳列コーナー

干支(エト)の動物をテーマにしたお正月の展示も恒例となりました。「十二支」は、中国で後漢時代に誕生した暦法で、十二宮それぞれに十二の動物を当て、時刻や方角の名を表わしました。この中国における「十二生肖」が日本に伝えられたのは応神天皇のころ。時代を経て江戸時代には既に、生まれ年に当たる動物の性質がその人の性質や運勢などに関係するという俗信、自分の生まれ年にちなんだ動物を守りにする習俗などが盛んになっていたようです。十二支の郷土玩具はこうした民間信仰を母体にして生まれた庶民的な造形物です。

2023年の干支は癸卯(=兎)。兎は、❝因幡の白兎❞(『古事記』)をはじめ、物語や伝説によって古来、日本人に親しまれてきました。また唱歌「ふるさと」に歌われるように、日本の故郷を象徴する動物でもあります。さらに、兎の姿形の可愛らしさとユニークさから、絵画や工芸の意匠としても愛され、また江戸後期には、郷土玩具の題材としても人気がありました。

小幡土人形・兎のり大国(滋賀県東近江市/昭和40年代)

江戸時代の終わり、庶民階級が経済力を持ち、農村部にも商品経済が浸透していくころになると、土や木や紙など身近にある材料を使って、専門的に、また農閑期を利用して季節的に素朴な玩具が作られるようになります。これらは祭礼などと結びついて発展し、郷土という範囲で流通したものが多いことから、今日、「郷土玩具」の名で知られています。人々の生活の中から生まれ、愛されてきた郷土玩具は、子どもを喜ばせる玩具にとどまらず、郷土の信仰や伝説、美意識や幸福感を表現した小さな文化財といえます。

本展では、兎の郷土玩具を取り上げ、「兎~豊かさと吉祥のシンボル~」「兎と伝説」「動く兎の玩具」などの項目で、造形のおもしろさを紹介するとともに、私たちの祖先が兎という動物に何を感じ、何を想い、どんな願いを託してきたのかをみつめたいと思います。

展示総数 150点

「兎の郷土玩具」展示風景

<兎~豊穣(ほうじょう)・吉祥のシンボル~>
日本には、北海道のユキウサギとエゾナキウサギ、本州・四国・九州のノウサギ、奄美大島と徳之島のアマミノクロウサギの4種類が生息しています。里山を駆けまわる野兎は、農作物を荒らすものとして駆除の対象とされ、また、兎肉は、牛馬の肉食をタブーとする日本人にとって、大切な蛋白源でもありました。こうした理由もあってか、兎は豊かさのシンボルとも考えられてきたようです。
また、兎は体毛が白いということで「瑞兆(ずいちょう=良いことがおこる前兆)」を運ぶ動物と考えられてきました。謡曲「竹生島」では「月海上に浮かんでは、兎も波を走るか、面白の島の景色や」と謡われますが、波の上を跳ねる白兎の姿「波兎」は、吉祥のシンボルであり、郷土玩具の題材としても登場します。

三春張子・玉兎(福島県郡山市)/伏見土人形・玉兎(京都府京都市)/月山の玉兎(山形県山形市)いずれも昭和中~後期

<月と兎>
「月には兎が住んでいる」という伝説をもつ国は日本だけではありません。中国では、不死の仙薬を西王母から盗んで月へと逃げた「嫦娥(じょうが)」という仙女に仕えて、兎が仙薬を搗いていると信じられています。中国の仙薬を搗く兎が日本では、餅搗き兎に変化したのでしょうか。
丸い「玉兎」は、月そのものを表し、満ち欠けを繰り返す月の姿は、女性の象徴でもありました。東京の郷土玩具、今戸焼の「月見兎」は、女性の“月のモノ”が正常でありますようにと願いをかけて、持ち主の傍に置かれました。月と兎と女性性との関係の深さが見える郷土玩具のひとつです。

今戸土人形・月見兎(東京都台東区/戦前)

<兎と伝説>
兎の郷土玩具の中には、伝説や物語を題材にしたものが目立ちます。「因幡の白兎」「足柄山の金太郎」「カチカチ山」など、子どもたちに親しまれている昔話の数々を集めてみると、兎は弱い動物でありながら狡猾な面があり、未来を予言する能力をもっていると考えられていたことがわかります。

大阪張子・カチカチ山(大阪府大阪市/昭和40年代)/大阪張子・杵つき兎(大阪府大阪市/戦前)
稲畑土人形・兎おさえ金時(兵庫県丹波市/昭和後期)

<動く兎の玩具>
首をゆらゆら動かす張子、丸く、倒してもまた起き上がる玩具、体の両側や底面に車がつけられ、転がして遊ぶ玩具などが見られます。また、杵つきの動作を表した糸仕掛けの木製玩具も各地で作られ、それらは繊細にくるくると姿態を変える兎の動作をよくとらえています。

那珂湊張子・首ふり兎(茨城県那珂湊市/昭和30年代)/浜松張子・兎ころがし(静岡県浜松市/昭和後期)/金沢張子・兎車(石川県金沢市/戦前)
笹野彫り・杵つき兎(山形県米沢市)/杵つき兎(石川県金沢市)昭和30~40年代)



<戦前趣味人の昭和2年・14年の年賀状~村松百兎庵氏の年賀状交換帖より~>
日本玩具博物館は、戦前、郷土玩具、特に兎の玩具収集家として有名であった村松百兎庵(1891~1971)が、自身のもとに届いた年賀状を整理した「年賀状交換帖」を所蔵しています。交換帖は11冊あり、百兎庵氏だけに❝真向い兎❞の文様裂で装丁されています。そこには、大正末期から昭和初期にかけて活躍した郷土玩具収集家をはじめ、百兎庵氏と親交のあった趣味人(文芸などに熟達した人々)たちの名前が数多く見えます。また、年賀状は、川崎巨泉氏をはじめ、江戸文化を受け継ぐ浮世絵師たちがデザインしたもので、当時の豊かで上質な美意識が伺えます。
この中から、昭和2(丁卯)年の年賀状を紹介します。

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